02.温情の雪は水に溶ける

「そういや、お前は結婚はしねーのか?」

平原を抜けて今度はマカラーニャ寺院へ続く森へと入ったところで、唐突になされた質問にユノは目をしばたかせた。

「俺、ですか?」

「お前なら引く手数多だろ」

「い、いえ、そんな……」

「そーだよねぇ、ユノかわいいもんねぇ」

「かわ……」

それはいまいち嬉しくない。
全力でそう表情に出したユノに、リュックが「あっ」と何かを思い出したように手を叩く。

「そっか、ユノって男の子なんだっけ」

「ああ、そうか。忘れてた」

「えっ」

「ふふっ」

真顔で言う二人と微かに笑うルールーに、怒りより先に悲しみがやって来た。
落ち込んでのろのろと歩くユノを元気付けようと、2人が両側からまくし立てる。

「いやでもよ! 男でも顔立ちはいいってことだろ、どっちにしろモテるんじゃねえか?」

「美人だし、優しいし、さっきの雷平原では珍しくカッコよかったよ〜!」

「バカ、珍しくは余計だ! もしかしてもうそういう人が居んのか?」

「えー見たい見たい!」

「居たら旅はしてないです……」

「じゃあさー、この中でだと誰がいい?」

「この中で……って」

この中ですか。
前を行くユウナとそのガード達を見て、いやいや自分は選べるような身分ではないですと首を振る。

だがリュックは誰も怒らないからさぁとしつこく食い下がってきた。

「むむ無理だよ、選べない」

「うーん、じゃああたしは?」

「え」

「あ、嫌なんだー」

「違うよ! そんなこと言ってない。そうじゃなくて……」

「じゃあユウナは?」

「だから選べないんだってば……」

「じゃあルールー」

「お願い聞いて……」

「じゃあワッカ!?」

最早適当になっているリュックの質問に、ああでもないこうでもないを繰り返す。
順番に読み上げられる名前に適当に生返事を返していると、最悪のタイミングで一番聞かれたくない人に聞かれてしまった。

「じゃーおっちゃん!」

「冗談でもアーロンさんの名前をこういう話で出すのはやめ──」

「何の話だ」

「ひっ!?」

いつの間にそこに、という油断と話題が話題なだけあっていつも以上に驚き萎縮してしまったユノを見て、アーロンがリュックとワッカに目で尋ねる。

すかさず2人は逃げようとしたが、成功したのはワッカのみで、リュックは襟首を掴まれた。

「何の話だ」

「ただの雑談だよ」

「ならどうしてこいつがこんなに脅えている?」

「知らないよ〜、おっちゃんが怖いからじゃない?」

何故今火に油を注ぐような事を。いや確かに恐縮してはいるけど、これはそもそもリュックとワッカさんが変な話をしたからで。

白を切るリュックを問いただすのは諦めて、アーロンの標的はユノに移った。

「何の話だ」

「っごごごめんなさいすみません申し訳ありませんですます」

「謝らなければいけないような内容だったと?」

「それは、それはその、あの、えっと、ええと……」

何といえばいいかわからず目を泳がせていると、いつかのように頭に手が置かれた。

「怯え過ぎだ」

「えっ、ごめ、ごめんなさい」

「……今のは謝るところか?」

わしゃわしゃと髪をかき乱されて、これは怒っているのか面白がられているのかと思考しながらも抵抗できず、ユノはされるがままになる。

それを遠くから見ていたリュックがぼそりと呟いた。

「……美女と野獣ってカンジ?」

「美女ってお前……またアイツが泣くぞ」

「というより、小動物と百獣の王、じゃないかしら」

「あーわかるッス、なんかユノって子犬みたいだよな」

盛り上がる前方集団の声は2人には届かず、その2人がやってくると同時に口裏を合わせていたかのように3人は押し黙ったので、結局ユノとアーロンは自分たちが言いたい放題言われていたことには気付けなかった。






「ちょっと待て。確か……この辺りだ」

森の一角でアーロンがふいに立ち止まり、見せたいものがあると言って木をなぎ倒し始めた。
無理やり切り開かれたその道の先には、湖が広がっている。

「ここって……普通の水じゃないのか?」

「スフィアの原料となる水だ。人の想いを封じ、溜める力がある」

大きな木とそれを囲むようにしてある泉、森の奥から流れてくる水がそこに注がれていた。
静かで清らかなそれをティーダが覗いていると、突如水面が泡立ち始める。

「何だあ!?」

「想いが集まる場所は魔物が生まれやすい」

水を割って、泉の底から巨大な粘塊生物が出現した。
一行は距離を取ってそれと戦闘に入るが、物理攻撃は効かず、ルールーが放つ魔法攻撃も効いたかと思えば吸収されたりと苦戦を強いられる。

「どうやら弱点が変化していく様だな」

「めんどくせえええ!」

「色々試していくしかないわね……」

「……あの、えと、ちょっといいですか?」

後ろに控えていたユノはルールーの服をくいくいと引っ張って、少しの間だけ交代してくれないかと頼んだ。

「危ないわよ?」

「大丈夫、です。すぐ退きます」

前衛と後衛を入れ替わって、ユノがティーダ達に並ぶ。
自分が前に出てきたことに驚く青年の隣で、ユノは杖を構えた。

弧を描くように腕を回すと、足元と頭上に魔方陣が浮かび上がる。
陣の四方から放たれた光が上空の雲を割いて、そこから巨大な鳥型の召喚獣が姿を現した。

「あれってユウナも前に喚んでた……」

「ヴァルファーレ、だね」

ヴァルファーレは自分の前に静かに降り立ち、クルルルと喉を鳴らす。
翼が巻き起こす風に吹き飛ばされないようにと杖で体を支え、宜しくお願いしますと頭を下げて敵に向く。

「……今は炎です」

「え?」

「その、弱点が。炎が効きます」

「分かるんスか?」

「えっと、こうすると……」

ユノがヴァルファーレに何かを指示すると、皆がハッとして目を見張った。

「……今は氷だな」

「おおっ!? なんだこれ!?」

「皆さん見えますか?」

「ええ、見えてるわ」

皆の瞳には敵の周囲に淡く浮かび上がる文字が映っていた。
そこには弱点から生態、力の強さや体力まで全てが記されている。

弱点を見破ったことによって攻撃が入りやすくなり、前衛がどんどん攻めていく。
後衛はそれを援護して、なんとか水の塊を打ち倒した。
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