02.温情の雪は水に溶ける
放心状態のまま森を抜けて、視界が一変、銀世界へと変わる。遠くにはようやく目的地も見えて、その方角からトワメルが走ってきた。
「ユウナ様、お迎えに参上いたしました。こんなに早くお返事をいただけるとは……まったくもって予想外の出来事。何も告げずに留守にしたこと、シーモア様に成り代わり……」
「それはいいんです。……あの、ひとつ聞きたいことが」
「なんなりと」
「私、結婚しても旅を続けたいんです。シーモア老師は許してくださるでしょうか?」
「それはもう……シーモア様もそのつもりでいらっしゃいます。──さて、グアドのしきたりがありましてな。皆様はもう少しだけ、ここでお待ち下さい。ほどなく迎えを寄越します故」
「行ってきます。あの……」
「ガードはいつでも召喚士の味方だ、好きなようにやってみろ」
何かを言い渋るユウナにアーロンが告げて、ユウナが威勢良く「はい!」と答える。
トワメルと一緒に去っていくユウナにティーダが指笛を吹いて、ユウナは遠くから「了解っす!」と返した。
「なになに? 2人だけの合図?」
「まあ、そんな感じ」
「ところでさー、ユノいつまでこうなの? しっかりしろーっ」
ペチペチと頬を叩かれて、「しっかりしてるよ」と口だけは取り繕う。
けれどあまりに感情のこもっていないそれにリュックは「どこがだーっ!」と更に叩いてくる。
「あ〜っ!!」
「わかった、わかったから」
「違う、あれ!」
無理やり顔を横に動かされて、視界にユウナとトワメルが映った。
その周りを誰かが包囲しており、ワッカがその正体に気付いて叫んだ。
「アルベド族だ!」
緊急事態だと慌てて皆はユウナの元に向かう。
トワメルとユウナは先に行かせようとしたが、自分達を置いて行きたくないのか、ユウナは連れて行こうとするトワメルの手を振り払って戻ってきた。
アルベドは大きな機械兵器を持ち出し、搭乗している男が叫ぶ。
「リューック! ギャヤヌウハナ、ヨミユダワミセガ! マホウコショウカンジュウコ、ケフギヨレセタウゲ!」
「え〜っ!?」
「通訳!」
「魔法と召喚獣を封印しちゃうって!」
リュックがアルベド族の言葉を理解していることも驚きだったが、ユノにとってはそれ以上に内容のインパクトのほうがデカかった。
魔法と召喚獣を封じられてしまえば自分はただの役立たずではないか。
「直接攻撃だけじゃキツいって!」
「きっとアレが邪魔してるんだよ、アレ先に壊して!」
巨大な機械の隣を浮遊する小型の装置にティーダ達が狙いを定める。
リュックの読み通り、それを破壊すると魔法が発動した。
「よっしゃあ!」
「一気にいくぞ!」
前衛の猛攻とルールーの魔法攻撃によって機械は壊れ爆発する。
機械から脱出したモヒカン頭のアルベド族は丘の上で叫んだ。
「リューック! トタギシミミユテウアナハ!」
「ワサキ、ユウナオガードシハッサアナ! ユウナマガミギョブズ! インハベヤコウアナガミギョブズ!」
「ゴフハッセコ、キナメネアナハ!」
モヒカン頭はリュックとアルベド語で何かを言い合うと、丘の向こうに消えていった。
トワメルとユウナも寺院に向けて歩いていく。
「あはははは……ガードになったって言っちゃった。うーん、仕方ないよね」
「なんでアルベド族の言葉、知ってんだ? なあ」
困ったように呟くリュックにワッカが問う。
ティーダ達にも聞くが、皆知らない、というより答えられないといった顔で黙ったので、リュックが答える。
「あたし、アルベド族だから。アレあたしのアニキ」
「……知ってたのか」
今までにないような無表情で言うワッカにユノは首を振ったが、他の面々は頷いた。
「なんで黙ってた」
「あんた、怒るでしょ」
「最悪だぜ……反エボンのアルベド族と一緒だなんてよ」
「あたしたちは、エボンに反対なんかしてないよ」
「お前ら禁じられた機械を平気で使ってんじゃねえか! 分かってんのか? シンが生まれたのは人間が機械に甘えたせいだろうがよ!」
「しょーこは? しょーこ見せてよ!」
「エボンの教えだ! 教訓も沢山ある!」
「答えになってな〜い! 教え教えってさあ! もっと自分のアタマで考えなよ!」
どんどん険悪になっていく会話に、止めたほうがいいのではないかとユノはアーロンに視線を送ったが、相手はやめておけと首を振った。
そして彼は一人アルベド族が捨て置いていった乗り物を物色し始める。
「じゃあ教えてくれ! な、どうしてシンは生まれたんだ?」
「それは……分からないよ」
「けっ! エボンの教えをバカにして結局それかよ」
「でも! 教えだからって何にも考えなかったらこのままだよ! いつまでたっても何も変わんないよ!」
「変わんなくていいんだよ!」
「シンが復活し続けてもいいの。もしかしたら、それ止められるかもしれないんだよ」
「オレたちが罪を償いきれば、シンは復活しない」
「どうやって償うのさ!」
「教えに従って暮らしてれば、いつかは償えるんだよ!」
「なんか……ハナシにならないね」
「リュック! これは動くのか」
ワッカと言い争うのをやめて、リュックがアーロンの元へ駆ける。
ワッカはまだ怒りがおさまらないのか、仏頂面でそれを見ていた。
なんとなくその場の空気に堪えられなくなって、ユノも逃げるようにリュックを追う。
「これがエンジンで、こっちで速度の調節。ブレーキはここ。そんなに難しくないから運転できるはずだよ」
「すごい……ってアーロンさん、これ乗るん、ですか?」
「ああ、お前も乗せるがな」
「えっ」
「置いていってもいいというのなら別だが?」
それは困る、でもこんな未知の機械に乗って大丈夫なのだろうか。
さっきのアルベド族の乗りこなしをみる限りかなりスピードの出るもののようだったが。
恐怖に身を震わせる自分の隣で、機械を弄っていたリュックが手を止める。
「……ユノにも隠しててごめん。あたしのこと嫌いになった?」
悲しそうに言うリュックに、ユノはハッとしてふるふると頭を左右に振った。
「……えっと、ワッカさんが怒ってるのは、リュックにじゃなくて、その、たぶん、色々あったからだと思うから……えと、俺は、リュックのこと、好きだよ」
簡単に元気出してとは言えないが、精一杯励まそうと言葉を選ぶこちらに、リュックは「ありがと」とはにかんだ。