03.悲しみと引換の活路

「どっちかは死んじゃうんだよ!? キミ知ってるよね? 召喚士は究極召喚を求めて旅してるって! ユウナから聞いたよね!? 究極召喚ならシンに勝てるよ? だけど……だけど! あれ使ったら召喚士は死んじゃうんだよ! シンを倒しても、一緒に2人も死んじゃうんだよ!!」

リュックの言葉に、ティーダが言葉を失う。

やがて仲間の方を向いて、震える声で尋ねた。

「知らなかったの……オレだけか?」

相変わらず答えてはくれない仲間に、ティーダはリュックの両肩を掴んで、何度も揺さぶった。

「知らなかったのオレだけかよ! オレだけか! 何で隠してたんだよ!」

「……隠してたんじゃねえ」

「言葉にするのが……恐くてね」

「……っ!!」

悲痛な声で呟く2人に、ティーダは拳を地面に打ち付けた。
やり場のない気持ちが溢れて止まらない。

「ルールー、ユウナのこと、ユウナのこと妹みたいに思ってたんじゃないのかよ! ワッカもそうだよな! どうして止めないんだ!」

「止めなかったと思うの!? ユウナの……意思なのよ」

「あいつは、みんな承知の上で召喚士の道を選んだんだ。シンと戦って死ぬ道をよ!」

「そんなの絶対おかしいよ! みんなの幸せのためだからって……召喚士だけが犠牲になるなんて!」

誰も彼も皆悲しい気持ちは同じだった。
辛さを言葉に変えて、お互いを傷つけ合うことしか出来ない。

「犠牲とは心外だな」

「あなただってシンの恐怖は知っているでしょう」

「シンのいない世界。それこそが全てのエボンの民の夢。たとえそれが僕の命と引き換えでも、迷いはしないさ!」

異界送りが間に合わなかった死者の念が魔物と化して、召喚士2人に襲い掛かる。
戦うために呼び出された召喚獣にティーダはしがみついた。

それはユウナと、ユノが使役していたヴァルファーレ。

「オレ……オレ、ユウナに言っちゃったぞ! 早くザナルカンド行こうって! シンを倒そう……っ! 倒した後のこともいっぱい、いっぱい! ──ユノだって! あのまま、オレが声かけなかったら普通に、召喚士なんかやめて普通に暮らせたかもしれないのに……っ! 一緒に行こうって! オレが言ったんだ! あいつらの気持ち何も知らないでさあ!!」

ティーダの指から力が抜ける。
その心が伝わっているのか、ヴァルファーレは静かに彼を見下ろす。

「なのに……ユウナも、ユノも、あいつら……笑ってた」

ルカでユウナと指笛の練習をした。
街道で燃える夕日を見た。
幻光河でもう一度来ようと約束をした。
異界でユウナの両親とユノの友人に会った。
マカラーニャ寺院でスノーバイクに乗った。
湖の下でたわいもない話をした。

何を思い出しても、どうしても、2人が今から死ににいくような覚悟をしている風には見えなくて。弱音を一度だって聞いた覚えがなくて。
旅に対する愚痴を、何一つ漏らすこともなく、やめるとも言わずに、助けてとも言わずに。

「私、シンを倒します。必ず倒します」

「俺がそっちに行くはずだったのに、ほんとに、本当に……ごめん……」

記憶の中の2人の言葉の意味を、今更理解する。
あんなに細い体で、ずっと堪えてきたのか。

「2人に謝らなくちゃ……」

地面に崩れ落ちていたティーダは、嘆くのをやめて立ち上がった。

「助けるんだ!」






「ギアンダメネ! ラッラソマッキンキノ!」

「ワソ3フンガ!」

「コサコサヌウンギャメネ! 1プンベタエ!」

唯一被害のない機械室で、アルベド族の2人の切羽詰った声が飛び交う。
駆け込んできたティーダが、そのうちの1人、シドに掴みかかった。

「ユウナとユノはどこだ!!」

「ハアヤマゲンミンオッサア?」

「ミチオヨニマゲンミン!」

「どこだって聞いてんだよ! 答えろ! 2人はどこだ!!」

「2人を見つけてどうするんだ」

静かに返されて、勢いの殺がれたティーダは手を離して俯く。

「オレ……何も知らないで、勝手なことばっか言ってた。あいつらを追いつめて、悲しい思いさせて……だから謝るんだ。謝らなきゃいけないんだ」

「なんでえ、謝ってそれでおしめぇか! その後また旅に引っ張り出してシンと戦わせるってか! 召喚士に全部おっかぶせて、1人で死なせる気だろうが!」

怒鳴り散らしながらシドはティーダを投げ飛ばした。
それでもティーダは立ち上がり向かっていく。

「違うっ! 2人は……絶対に死なせない!」

「へッ! 口だけなら何とでも言えんだよ!」

「死なせねえって言ってんだろうが!!」

「……小僧、その言葉、ウソはねえんだな。なら、口だけのガキじゃねえって証明してみろ」

「おう!」

シドはニッと笑って、機械に視線を戻した。青白く光る画面を見てティーダが身を乗り出す。

「居場所、知ってんのか!?」

「分かりゃしねえよ! だから探すんだ、この飛空挺でな!」

「ひ……飛空挺ぃ!?」

ワッカの素っ頓狂な声と共に、室内がガタガタと震えだす。
薄暗かった部屋のあちこちに光が灯り始めた。

「トタギ! マッキンギュンヂアンニョフガ!」

「モッキャワ! 1000ネンズニオクナミソガ!」

知らぬ間に地下に潜っていたらしく、頭上にあった砂地が割れてこの部屋の、つまり飛空挺の両側に流れ落ちていく。

「ヌデネ! フゾミセウ!」

「ハ? ブサルヒフッセイウコンガノ?」

飛空挺はどんどん上昇し、ついに陸の上へと顔を出す。
より高度を増して、じきにホームのてっぺんを越えた。

「ヲデネ! ソンベウ!」

「ユジマ……ワエユアフボ」

「……キアサハミモハ」

さっきまでのテンションはどこへやら、急に暗くなったかと思えば、操縦士は涙声で祈り子の歌を奏で始める。
やがてシドや他の乗員を歌い始めて、飛空挺は歌で満ちた。

「何が始まるんだ?」

「……ホームを、爆破するんだよ」

「どうやって?」

「禁じられた機械ってやつでな。──トッキ! マッキャ!」

シドが指示を出すと、飛空挺左右の発射口からミサイルが放たれた。
2つは空を突っ切って、アルベドのホームに直撃する。

空気を焼く大爆炎による風圧に背を圧されて、飛空挺は加速する。
木っ端微塵になる第二の故郷を、リュックは窓からじっと眺めていた。
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