03.悲しみと引換の活路

「だ、出してください! 出して! お願いします! もー、この、えっと、出せ――――っ!!」

ダンダンダンダンダン!
ドア一枚を隔てて、部屋と廊下に打撃音と青年の声が響く。

ユノは頑丈なその扉を必死に叩き続けていたが、ビクともしないそれと何の反応も返してくれない見張りに、へたりと座り込んだ。

アルベドのホームからここまで連行され、到着するなり早々にユウナと引き離された為、今この場に居るのはユノ1人だ。

牢屋というにはあまりにも豪華すぎるその部屋は、どちらかと言えば客室だろうか。
かといって丁重に扱われたのかといえば全くそんなことはなく、ユウナを助け出そうとしたユノはそれなりにお仕置きを受けた。

ユウナが止めてくれなければ今頃骨の数本は折れていただろうと、あちこちに出来た痣に顔をしかめる。

部屋は完全に密室状態だった。扉には鍵がかけられ、外には見張りも居る。
外に面した窓には全て鉄格子がはめられており、その隙間からはせいぜい腕が出るくらい。
助けを呼ぼうにもここは敵の本拠地のようなもの、味方など居るはずがない。完全にお手上げだった。

ユウナは無事だろうか、皆は無事だろうか。
為す術なく、広い室内から青い空を眺める。

そもそも自分は何のために連れてこられたのだろう、召喚士ならば誰でもいいのか?
召喚士を攫って何がしたいんだ。保護……というのは、現在の自分の状況からしてまずないだろう。

自分はどうなってしまうんだろう、まさか殺されたりしないだろうか。
そう考えるといても立ってもいられずになんとかして脱出できないかと部屋の中を調べまわる。

自分が死にそうになった時、みんなは助けに来てくれるだろうか。
そう少しだけ期待して、すぐに考えるのをやめた。

(……あれ、何の音だろ……?)

ゴーン、ゴーンと鐘の音が聞こえて、ユノは窓の外を見る。
上には外にむき出しになった通路があり、たくさんの警備兵が待機していた。

何か始まるのか、よく見えないなあと頭を動かしつつ人の合間から状況を窺っていると、ウエディングドレスを身に纏ったユウナと正装のシーモアが見えた。

(ユウナ、無事だったんだ! 無事……だよね? これは)

階段をゆっくりと上っていく2人を穴を開ける勢いで凝視する。
シーモアは満足気に笑んでいたが、ユウナは冷めた表情のまま淡々と上っていた。

ユウナ綺麗だなあ、とその姿に見惚れていたが、それどころではないと鉄格子を揺する。
ドア連打にも再チャレンジしてみたが、「静かにしろ!」と一喝されただけだった。

どうしよう。まあ、身の安全は自分よりは保障されていそうだが、別の意味で危ない。

ティーダ早く、早く来て! と願っていると、いきなり警備兵が空に向かって銃を撃ち出した。
魔物でも出たのだろうかと、皆の向いている方角が見える窓にへばりつく。

見えたのは魔物ではなく、巨大な飛空挺だった。
船体から2本のアンカーが撃ち出されてベベルの敷地に突き刺さる。

もしかしてと、確信に近い眼差しで、ユノは食い入るように飛空挺を見た。
止まぬ鉛玉の雨の中、アンカーに繋がれたロープを伝って人影が滑り降りてくる。

颯爽と登場した見慣れた仲間たちに、ユノはその大きな瞳を輝かせた。






「ユウナ!」

ベベル宮に降り立ったティーダ達は、道の先に花嫁の姿を見つけて走り出した。
邪魔をするベベル兵をなぎ倒して、ひたすら通路を駆け抜ける。

だがいよいよ声の届きそうな距離にまでやって来たところで、銃を構えたキノックに止められた。
我が身など知ったことかと前進しようとするティーダをアーロンが制する。

「茶番は終わりだ」

「……もう1人はどうした」

「もう1人? ああ、あの召喚士か。……悪いが教えるつもりはない」

四方を銃口に囲まれた仲間を見て、ユウナは杖を携えシーモアの前に飛び出した。

「……ユノはどこですか」

「偽りの花嫁を演じてまで私を異界へ送りたいと? 強情な方だ。それでこそ我が花嫁に相応しい」

「ユノはどこですか! 教えていただけないのなら……」

「やめい! この者どもの命、惜しくはないのか」

異界送りを始めたユウナをマイカが脅す。
ティーダ達に向けられた銃の引き金は今にも引かれそうだ。

「そちの選択が仲間の命運を決める。受け入れるか、見捨てるか、どちらを選ぶのだ?」

杖を持つユウナの手がゆっくりと下がり、支えを無くした杖は地面に転がり落ちた。階段を転げ落ち、ティーダの足元で止まる。

「それでいい」

シーモアはユウナの体を引き寄せ、そっと顔を近づけた。
ワッカやルールー、リュックは見ていられないと目を背ける。

触れ合う2人の唇、巻き起こる拍手と鳴り響く鐘の音。
白い手袋をはめたユウナの手は、強く握り締められて震えていた。

呆然としていたティーダの表情が徐々に怒りに変わる。
長い口付けのあと、シーモアは勝ち誇った顔で言い放った。

「──殺せ」






「ティーダ!!」

ユウナの唇を卑劣なやり方で奪ったシーモアに怒り狂っていたユノは、ユウナを連れて退場したシーモアを追おうとして、銃口を向けられるティーダを見て青ざめた。

ティーダとキノックの間にアーロンが割って入り、標的が彼へと移る。
声は届かないと理解しながらもその名前を叫んで、自分を部屋に閉じ込めている鉄の棒を叩く。

不意に慌しかった兵が静かになり、仲間たちと揃って上を見上げた。

ここからでは彼らの視線の先までは見えなかったが、何かを叫んでティーダ達が視界から消える。
アーロンに銃を向けていたキノックも、相手を忌々しげに見ながら武器を下ろした。

なんだろうかと思いつつ、落ち着きなく皆の姿を追って窓から窓へ移動する。
部屋の反対側に移動してみると、ふと目の前を何かが落下していった。ユノはその正体を視認してぎょっとする。

「──ユウナ!?」

白いドレスをはためかせて、ユウナは地上へ真っ逆さまに落ちていた。
パニックになって窓ガラスを突き破ると、音に反応して部屋に入ってきた兵に取り押さえられる。

「ユウナ! ユウナが!! はなっ、離して下さい!!」

鉄格子を掴んで引き剥がそうとする力に必死に抗ってユウナを見る。

彼女が手を上空に伸ばすと、地上との間に魔方陣が現れ、ヴァルファーレの鳴き声が聞こえた。
ヴァルファーレは真っ直ぐに彼女の元へ向かい、その背で見事キャッチする。

「…………!」

悠々と大空を舞う相手を見て、ユノは安堵の息を吐き、大人しく窓から離れた。
目次へ戻る | TOPへ戻る