03.悲しみと引換の活路
ユウナが無事助かったのを見届けて、ティーダ達もその後を追うべく通路を走っていた。追ってくる兵士を振り切って、ベベル宮の内部へ侵入する。
「ユウナ、どこ行ったんだろ〜!?」
「ベベル宮は寺院、ユウナが目指す場所はひとつ!」
「──祈り子の部屋か!」
「ユノはどうすんだ?」
「敵の拠点を闇雲に探すのは無謀だ。ユウナならば心当たりがあるかもしれん」
下へ下へと進んでいくと、螺旋状の階段に出くわした。だが、その階段は途中で切れている。
何か仕掛けがあるのだろうと推測したリュックが、傍らの機械装置に気付いて弄り始めた。
「なんで寺院に機械があんだよ……?」
「だって、便利だし」
「そういう問題じゃねえ! 教えはどうなってんだ、教えは!」
「あたしに言われても困るよ!」
機械仕掛けの階段を、ワッカは愚痴りながらも下っていく。
すると今度は機械仕掛けの扉が現れた。
「まぁた機械かよ……」
「これがエボンの本質だ。自らの教えを影で裏切っている」
「人をコケにしやがって……」
仕掛けを解いて更に進むと、いつも通り試練の間が現れる。
「ここが試練の入り口ね」
「ユウナ、ほんとに居るのかな」
「行きゃあ分かる!」
「行きましょう!」
いつも以上に手間のかかる試練に先を急ぐ一行の苛立ちは募っていく。
だが腹を立てたところで解けるものでもなく、失敗を繰り返しながらも進んでいった。
「やっと抜けたわね」
「これ、こんなに面倒だったんだな……誰だよ考えたヤツ」
「いつもはユノがちょちょいってやってくれるもんね」
「今、ユノの話は厳禁ッス」
耳打ちするティーダがリュックを肘でつついて、前を行く男を指す。
一向に姿を見せない召喚士に、アーロンは誰が見ても分かるほど殺気を醸し出していた。
もちろんそれはユノにではなく、彼を隠している者達に対してなのだが。
「ユウナは!?」
「たぶん中だ!」
「たぶんじゃなくて、確かめろよ!」
祈り子の部屋へ続く扉の前で立ち止まっているワッカに怒りつつ、ティーダは硬く閉ざされた扉をこじ開ける。
「お、おい……」
「今さら掟も何もないだろ!」
キマリもティーダに加勢して、ゆっくりと音を立てて扉がズレていく。
1人が通れる分だけ開くと、ティーダは中に滑り込んだ。
「何なんだ……?」
「祈り子だ」
黙して祈りを捧げているユウナ、その前には、ザナルカンドで見た謎の少年が浮かんでいる。
続いて入ってきたアーロンが、その疑問に答えを返した。
「召喚士の心と重なり、召喚獣の力を授ける。エボンの秘術で取り出され、像に封じられた人間の魂……あれもまた、哀れな死者だ」
「ユウナ!」
祈り子がすっとユウナの体に入り込み、ユウナが意識を失う。
ティーダはその体を抱えて、呼吸を確かめてから外へ出た。
「待って! 出てきちゃダメー!」
外からリュックの声が聞こえたが、その時には既に遅く、ティーダはその言葉の意味をすぐに理解した。
自分達の前を、キノック達が包囲している。
「一網打尽。おまえたちには裁判を受けてもらう」
「公平な裁きを期待したいものだな」
「せいぜい祈れ」
この数、まして気絶したユウナを護りながら勝てる相手ではなく、ティーダ達はどうせ元より裁きを受けるつもりだったんだしと諦めて抵抗をやめた。
ノックもなしに部屋の戸が開かれ、さっきの窓ガラス騒動のせいで手足を縛られていたユノは顔を上げた。
「ご容態はいかがですか?」
白々しく尋ねてくるシーモアに、そんなことよりユウナや仲間はどうなったんだと聞く。
「彼らは現在、ベベル宮の法廷で裁判を受けています。じきに判決が言い渡されるでしょう」
「……無事って、こと、ですか?」
「ええ。ですがそれも束の間のこと……ユウナ殿は私の花嫁、せめて安らかに逝かせてあげて欲しいものです」
言葉に含まれた意味を理解して、ユノは法で裁かれ屍となる皆を想像し絶望した。
「や……やめて、下さい。お願いします。皆に、酷いことしないで下さい……!」
「……では、慈悲を与えましょう」
縄を解かれて、自由になったユノの手をシーモアが握る。
「貴方が私に忠誠を誓い、私の言うとおりにするというのなら、彼らは見逃しましょう」
「……え」
「何も不安に思うことはありません。貴方はただ今までどおり旅を続ければいい。ただし、彼らとではなく、私とです」
シーモアと旅? 意味がわからない。
そんなことをして何になるのか、シーモアが身の危険に晒されるだけではないのか。
首を傾げるユノに、相手は気持ち悪いほどに優しく微笑む。
「悪い条件ではないと思いますが。ただそれだけで、貴方のお仲間は助かるのです。私としても、ユウナ殿のような方を亡くすのは惜しい」
「……で、でも、それは……一体、何の意味があるん、ですか?」
「意味合いなど貴方は考えなくて構いません。ただ私の言うとおりに動いていただければよいのです」
「あの、でも、皆を危ないような目に遭わせるご命令なら、きけません」
「そのような指示は出しません。先も言った通り、貴方はただ普通に、召喚士としての務めを果たしてくれればよいのです」
「……ほんと、ですか?」
「ええ、エボンの名の元に誓いましょう」
危ぶまなくても、どうせ自分に利用価値などない。
本当にただそれだけで、皆が救えるのなら。
ユノは決心して、こくりと頷いた。
手を引かれて椅子から立ち上がる。
「では、お仲間の皆さんにそう伝えてあげて下さい」
数時間ぶりの部屋の外。
けれども隣に立つ男のせいで、開放感など全く感じなかった。
けれどこれでティーダ達は助かり自分の身の安全も保障される。これでよかったんだと、ユノは自分に言い聞かせた。