03.悲しみと引換の活路
水の通路と魔物だらけの通路をティーダ達はそれぞれを突破し、終点で無事に再会することが出来た。ティーダ、ワッカと共に水路を通ってきたリュックは、そこに居たユウナの姿を見て思わず抱きつく。
「ユウナ〜! よかった〜! ほんっとよかった、心配してたんだよ〜!」
「うん……ありがと」
「ユウナ、ユノが匿われている場所に心当たりは無いか?」
喜ぶリュックを落ち着かせて、ユウナが辛そうに首を振る。
「ごめんなさい。私、一緒に居たのに……」
「ユウナは何も悪くないッスよ」
「でも、結局これじゃあどうやって見つけりゃいいんだ?」
「ここに長く留まるのは危険だわ。もたもたしていると私たちも……」
「待て……誰か来る」
自分達が抜けてきた通路とは反対方向の整備された道から、数人の足音が聞こえてくる。
その姿を捉えた瞬間、皆が目を見開いた。
「──ユノ!!」
やって来たのはシーモアと、いつもの白い肌に無数の痣を浮かべたユノ。
「ユノ……!」
「シーモア、てめえ……!」
「皆さんお揃いのようで、何よりです」
「ふざけんな! ユノを離せ!」
「離す? そういう台詞は、現状をよく観察してから口にしていただきたい。私は彼を拘束などしていませんよ。彼は自分の意思で、今ここに居るのです」
「全く笑えん冗談だな」
「私の言葉を嘘と仰るなら、ご本人の口から聞くといたしましょう」
トントンと背中を叩かれ、ユノの体がビクリと跳ねる。
促されるがまま、その口は考えてきた言葉を話す。
「……その、俺は、シーモア……老師と、一緒に行きます。もともと俺は、皆さんの仲間じゃ、ない……ですし。このままずっと……お世話になるのも、悪いと、思うので……」
「……ふざけんなよ、なんだよそれ!」
ティーダに怒鳴られて、それでも口を動かし続けた。
皆の顔など見ることも出来なくて、視線はずっと何もない床に向いている。
「シーモア老師が、それなら、私が共にと、仰ってくれた、ので。俺は、俺にとっても……皆に、とっても、それが……最善のことだと、思うん、です」
声が震える。演技だと気付かれてはいけない、何も悟られてはいけない。
全ては皆を護るためだと、ユノは己を奮い立たせ顔を上げた。
「……俺は、シーモア老師と行きます」
「……嘘、ユノ、うそだよね? ユノは私たちの仲間だよね?」
「リュック……ごめん」
「なんでだよ! お前あんな楽しそうに笑ってたのに、なんでそんな奴について行くなんて言うんだよ!」
「……ごめん」
「ごめんじゃなくてさぁ! なぁユノ! どうせシーモアに脅されてんだろ? こんな奴の言いなりになんかならなくていいって!」
「ちがう、言いなりになってなんかない。俺が考えて、俺が、決めたよ」
「そんなの絶対認めねぇ! そんなの……」
「もういい!」
叫ぶティーダを、アーロンがいつもより強い声で押し込める。
皆が混乱している中で、アーロンが一歩前に出た。
「本当に、自分で決めたんだな」
「……はい」
「後悔はないのか」
「……は、い」
「……そうか。ならば好きにしろ」
「……アーロンさん、いままで、あり、ありがとうございまし……」
「フッ」
フッフッフ、フハハハ、アーハッハと、突然アーロンが笑い出す。
周囲は珍しく本気で笑っている男に唖然としていた。
そしてそれが止むと、アーロンの眼光が鋭くユノを貫く。
「──ふざけるなよ」
笑顔を無理に取り繕おうとしたユノに、アーロンが抜き身の大剣を向けた。
いつも魔物に向けられている切っ先が自分の眼前で煌いて、ユノは用意されていた台詞を最後まで言い切れずに固まる。
「アーロンさん!?」
「そんな猿芝居で騙せると思ったか? 随分と甘く見られたものだな。お前の考えていることなど筒抜けだ」
泣き出していたリュックが、すんすんと鼻をすすりながら「へ?」と漏らす。
ティーダは突然アーロンに止められたせいで、怒鳴り散らしていた時の妙なポーズのままだった。
「お前に護られるほど落ちぶれたつもりはない。……何度も言わせるなよ。今のお前のガードは、俺だ。お前を護ることが俺の務めだ。お前は俺に、ただ黙ってついて来ればいい」
「……そん」
「お前の意見は聞いていないとも最初に言っておいた筈だが?」
アーロンは切っ先をシーモアに向けた。
口調が怒気を含んだものに変わる。
「そういう訳だ、返してもらおう」
「……ユノは私たちの大切な仲間。貴方には、渡しません!」
「ああ! 無理だってんなら、力ずくでも取り返す!」
「そーだよ! あんたなんかに取られてたまるかっつーの!」
「今更居なくなったら、淋しいものね」
「華も減るしな!」
「ユウナ、ユノ、護る。ならキマリも、ユノ、護る!」
自分は、みんなは、どうしていつもこうなんだろう。
シーモアに対峙する仲間たちに、ユノはぼろぼろと涙を零す。
恩返しが出来ると思ったんだ。
何の関係もなかった俺をここまで連れてきてくれて、仲間だと言って笑ってくれて、笑うことを思い出させてくれて。
なのに自分はここまで何一つ返せなくて、それがどうしても申し訳なくて。
やっと自分が皆を助ける番だと思ったのに、やっぱり上手くは行かない。
それでも、
「……ごめんなさい、ごめ、ごめんなさい……!」
それでも、申し訳なさよりもずっと、嬉しさの方が勝ってしまう自分は、どうしようもなく愚かで、幸せ者なのだろう。