03.悲しみと引換の活路
「……なるほど、どうやら彼を連れて行くのは難しいようですね」むせび泣くユノと臨戦態勢のティーダ達を見て、シーモアはやれやれと首を振った。
「そうですか……では、交渉決裂ということで」
シーモアが手を上げると、控えていた兵たちが一斉に銃を構えた。
さきほどキノックを殺した凶器が、今度はユノに集中する。
それを見て、涙と嗚咽が瞬時に引っ込んだ。
「────っ!!」
「ユノ!」
「てめえ、汚ねえぞ!!」
「戦術の一つですよ。さて、彼の命と己の命……あなた方はどちらを取りますか?」
「……グアドの族長ともあろう男が、無抵抗のか弱い召喚士を人質に取るとはな」
「それで手も足も出なくなっている状態で言われても、負け惜しみにしか聞こえません。 ──さあ、選びなさい」
頭に押し当てられる銃口の冷たさに、どれだけ我慢しようとしても体が震えだす。
それを見たティーダとアーロンは真っ先に武器を捨てた。ユウナ、リュックとそれに続く。
駄目だ。そう言いたいのに、歯はガチガチと音を立てるだけでろくに言葉も作れない。
打開策を必死に考えるが、思考回路は全く機能してはくれなかった。
このままじゃ皆殺される。
それに自分も、どうせ皆が死んだあとに殺される。
なんとかしなければ。自分が、自分のせいでこんなことになっているんだ。いつもいつも、いつも自分のせいで皆が迷惑する。
このまま動かなくても死ぬ、もし助かる方法があっても自分はこの旅の終わりに……ならばもう、あとはそれが早いか遅いかの違いだけ。
どうせ死ぬ、自分は、どうあがいても死ぬんだ。
ユノはそう己に言い聞かせて、恐怖と悲しみで再び溢れてきた涙を飲み下した。
そう ならばせめて 恩を返して死のう
「なっ……!?」
「ユノ!?」
「動くな!」
ユノは自分に当てられた銃口を払って、一か八かで皆の元へ駆け出す。
アーロンは手を伸ばしたが、その指先に触れる前に、ユノの体は地面に倒れた。
後ろでは数人の兵士の銃口から煙と薬莢が吐き出されて、ティーダ達の声がピッタリと重なってユノの名を叫ぶ。
床に叩きつけられた体が1バウンドして落ち着く。体中が熱くて痛くて手で押さえると、流れる血が塞き止められて腕を伝った。
撃たれた衝撃で涙は止まったのに、だんだん視界が霞んでいく。
音のなくなった真っ暗な世界で、ユノは声も出せずに呟いた。
ああ、やっぱり、死ぬのは……いやだよ。
「……っ!! ユノ!!」
掴むことのできなかった相手の体は、速度を無くしてあっけなく倒れる。
アーロンは血だらけの体を抱き起こすが、ボロボロになった青年は何の反応も示さなかった。
「ユノ、ユノ!! いやだよ、お願い、死なないで……っ!」
ユウナが泣きながら治癒を行い、リュックとティーダがその体を何度も揺さぶるが、もともと白かったその肌は更に色を失っていく。
泣きはらした目蓋は硬く閉ざされていた。
「おいユノ! しっかりしろよ! 聞こえてるんだろ! 返事しろよ!!」
「またへたくそな芝居なんでしょ!? 面白くないからやめてよ!!」
他の3人はその惨状に言葉を失っていた。
ルールーは見ていられないと視線を逸らし、キマリは目を伏せ、ワッカはボールを床に叩きつける。
「ユノ! ユノ……! お願い、ねえ、お願いだから、目を開けて……!」
「悲しむことはありません、彼は永遠の安息を手に入れたのです。死は甘き眠り。ありとあらゆる苦しみを優しく拭い去り……癒す。ならば全ての命が滅びれば、全ての苦痛もまた……癒える。そう思うだろう?」
顔色も変えずに夢見心地に語るシーモアに、アーロンは力のない青年の手を強く握った。
そしてゆっくりと地面に下ろす。
「だからこそ、あなたが必要なのだ。彼が亡き者となった今、それを果たせるのは貴女しかいない……さあユウナ殿、共にザナルカンドへ。最果ての死者の都へ。死の力を持ってスピラを救う、そのために。あなたの力と命を借りて私は新たなシンとなり……スピラを滅ぼし、そして救う」
ユノの体の傷を全て取り払ったユウナは、それでも目覚めてはくれない相手に泣きながら立ち上がった。
潤んだ瞳で、きつくシーモアを睨みつける。
「私は……私は! 貴方を絶対に許しません!!」
「……どうしても、私と行く気はないようだな。宜しい、ならば私の手で、あなたを救ってさしあげよう!」
シーモア異形の姿となり、その周囲に幻光虫が舞った。
ユノの血で染まった手袋でアーロンが武器を掴む。
「……楽に逝けると思うなよ」
「ぜってぇ……ぶっ倒す!!」
ユウナ、アーロン、ティーダの3人は、その怒りと悲しみの全てを目の前の仇にぶつけた。