03.悲しみと引換の活路

シーモアを倒し、更なる追手から逃れるためにベベルを脱出した一行は、マカラーニャの森でその足を止めた。

空には月が浮かび星が光り、周囲の木から生える結晶も青く光り輝いていた。
自分達以外には誰も、魔物すらいないその静かな森に、ユウナの小さな声が響く。

「……ユノは、私を護ろうとしてくれたんだ。私が連れて行かれそうになった時……ユノ、すごい怖がってて、泣きそうな顔して震えてて……それなのに、私のために戦ってくれた」

ユウナの膝の上には、眠っているかのようなユノの頭が乗せられていた。
夜の闇にまぎれてしまいそうなその黒い髪を梳くように撫でる。

「それだけじゃないの。砂漠で一緒に歩いてた時……私、歩きなれてなくて……すぐ疲れちゃって……ユノだって疲れてるはずなのに、召喚獣に乗せてくれた。きっとしんどかったのに、大丈夫って笑って……っ」

「ユウナ……」

「……っごめん、ちょっと、顔洗ってくるね」

立ち上がって、おぼつかない足取りで湖の方へと向かう。
それをじっと見つめていたティーダにアーロンが「行ってやれ」と促すと、彼もすぐに駆け出した。

「……ユノ、もう、だめなの? 起きてくれないの……?」

「……かもな」

「だって、怪我、治ったんだよ? ユウナが綺麗に治したじゃん。なのになんで──なんで起きないのさ!!」

「リュック!」

ドンドンとユノの胸を叩くリュックをルールーが止める。
リュックは泣きながら喚いた。

「なんで!? なんでユノが死ななくちゃいけないの!? いい子だったじゃん、頑張ってたじゃん! 弱くて、怖がりで、頼りなくて、それでも必死にやってたじゃん!! なんでユノが死ななきゃいけないの……!」

「……リュック」

「こんなの……こんなのおかしいよ……! 目ぇ覚ましてよ……もっと、いっぱい、話したいことあるんだよ……! まだ全然、ユノのことなんにも知らないのに……!」

「……そうね。別れるにはあまりにも……あまりにも、早すぎたわね……」

すがりつくようにその体に伏せて泣きじゃくるリュックの背をルールーが撫でる。

その時、トクン、とリュックの腕に震動が伝わった。
リュックはピタリと泣き止んで、がばっと顔を起こす。

「おわっ!? なんだ、どうした!?」

「……生きてる……」

「は?」

リュックはもう一度、今度は胸のあたりに耳を押し当てる。
するとトクン、トクンと確かに心臓が脈打つ音が聞こえた。

涙でぐしょぐしょになったリュックの顔が、少しずつ明るくなっていく。

「生きてる……生きてるよ!!」

「生きて──ほ、ほんとか!?」

「聞こえたもん、ユノの心臓の音!」

ぐいっと体を引っ張られて、ワッカもその音を確かめさせられる。
たしかに聞こえた規則正しい音に、ワッカが呆けた顔のまま言った。

「生きてる……ああ、こいつは生きてる!!」

「助かったんだよ! ユノ、助かったんだ! やった〜!!」

「…………っ」

「……! 待って、今何か……」

はしゃぐ2人に、ルールーはユノを注視する。
涙痕の残る青年の目蓋がうっすらと開き、顔にかかっていた前髪がすべり落ちた。

「……ユノ?」

「…………ルールー……さん……?」

「……!!」

確かにこちらを見て名を呼んだユノに、ルールーが皆を呼ぶ。
ゆっくりと開閉される目蓋はしっかりと自分達を捉えていて、リュックはスピラ語でもアルベド語でもない謎の叫びを上げながら抱きついた。

「ユノ! ユノ!! 〜っばか! すっごい心配したんだからね! ユノのばか! ドジ! へたれ!! ……よかったよぉ〜!!」

「リュッ、ク……? なに……どしたの……っていうか、酷い……」

「この大馬鹿やろう! 心配かけやがって〜っ! もう駄目かと思っちまっただろうが! あ!? 俺のこの悲しみをどーしてくれんだっ!!」

「いたっ、いたたたたたた、痛い、です!」

ぐりぐりと頭を両側から圧迫されて、ぺしぺしとワッカの腕を叩く。
すると後頭部にもルールーからの軽いチョップを喰らった。

「あいたっ! ……あの、俺……どうなったん、ですか?」

「ベベルで兵に撃たれて、今まで気を失ってたのよ。身体の傷はユウナが癒してくれたわ」

「そう、ですか……」

「とにかく謝れーっ! あたしの涙を返せーっ!!」

またユウナにお世話になってしまったなぁと苦笑する身体を抱きしめて、未だその両目から涙を流し続けているリュックにごめんと謝る。
ワッカは「一番泣いてたもんなぁ!」と笑い、ルールーも笑った。

静かだった森の中に喜びと笑いの声が響き、1人早々に輪から外れて離れた場所の木に寄りかかっていたアーロンの耳にもそれは届く。

アーロンも皆と同じように笑った。
彼の死に誰よりも動揺して、それでも、取り乱す皆を自分が引っ張っていかなければと、気丈に振舞っていた自分がアホらしいと手で顔を覆う。

その両目から流れている涙は無視して、彼は気が済むまで笑い続けた。
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