04.それは絶望にも勝る

「……でも、これで、良かったのかな」

「……お前はどう思う」

「……キーリカで、ガードをやってくれてた皆が居なくなった時に、俺、なんで、なんでこんなことやってるんだろうって、思って。友達、亡くしてまで、やんなきゃいけないのかなって……」

「……そうだな」

「でも、他に、他に俺が、必要とされることなんて、ないから、やめれなくて、それで、今まで。でも……」

そこで言葉を切って、一度大きく呼吸する。
胸のあたりが苦しいのは、うまく息が届いていないから?

「……きょ、今日、ああいうことがあって、ほんとに、死ぬかもしれないって、思って。撃たれた時に、目の前が、真っ暗になって、痛くて、寒くて、怖くて……目開けたときに、みんなが、傍に居てくれて、泣いてくれて、喜んでくれて。良かったって言ってくれて、嬉しくて……」

ぽたり、と水滴が手の内のスフィアに落ちる。
体中が痛いのは、撃たれたダメージが残っているから?

「だけど……っ、分かるんです。ザナルカンドに着いて、シンと戦うことになって、その時に……その時に、ユウナと、俺と、どちらかが、死ななきゃいけないことになったら、きっと、ぜったい……っ、いらないって言われるのは、俺のほうなんです……!」


旅の終わりを、何度もイメージする。

シンを倒して、平和になった世を。

その度に浮かぶのは、ユウナと、仲間の姿。


そこに自分の姿はない。


「皆優しいけど、大事にしてくれるけど、でも、ユウナか俺かなんて、そんなの、考えなくても、分かるんです……! 出会ったばっかりの自分より、何年も、一緒に生きてきたユウナのほうが、大事なのも、それが当たり前なのも、分かるんです!! だからっ、仕方ないってことも、分かってて、ちゃんと、ちゃんと覚悟も、覚悟も出来てたはずなのに……!!」

究極召喚と引換に、自分の命を差し出すことになっても。
大丈夫、怖くなんてない。そう言い聞かせてやってきたというのに。

漠然としたイメージでしかなかった死の恐怖を今日味わったせいで、その時が来るのが、とてつもなく恐ろしくなった。

「皆は優しいからきっと、その時になっても、俺のこと見捨てるなんて言わない……でも、でも俺がっ、俺がもしやるって言ったら、きっと、誰も、止めてなんてくれない……! やらなくていいからって、引き止めてはくれないんです……! きっと悲しそうな、申し訳なさそうな顔をして、でも黙って、見送るんです! 俺は、俺はそれが怖いんです……!」

いつも助けてくれるティーダも
支えてくれるルールーさんも
笑わせてくれるワッカさんも
元気付けてくれるリュックも
頼らせてくれるキマリさんも

みんな優しくて、大好きで。
いつだって一緒にいてくれて。


でもそれは旅が終わるまで。

この旅が終わるまで。


その時≠ノ皆が、自分と繋いでいるこの手を離して去っていくのが──


死んでくれ≠ニ、態度で示される時がくることが──


怖い。


「ほんとはっ、本当は、死にたくなんてないんです……! でも召喚士じゃなくなったら、だれも、だれも俺のこと必要としてくれない……シンを倒さなきゃ、必要として貰えない……!」

召喚士≠ナいれば、皆が自分を必要としてくれる。
けれどそれは、死ななければ価値がないのと同じ。

死ぬことでしか、必要とされない命。
1人では何も出来ない自分に、母親にすら愛してもらえなかった命に、それ以外の価値なんてない。

死にたくない。
でも、独りにもなりたくない。

誰かの一番になりたい、愛してもらいたい。
死ななくてもいいと、ただここに居るだけでいいのだと、誰かが言ってくれたなら。

何度心の中で、そんなことを願っただろう。
期待すればするほど、そんな相手など居ない現実に、打ちのめされるだけ。

「アーロンさん……!」

嗚咽交じりに吐き出した声は、どうやっても縋る声にしかならなかった。
スフィアを持っていた手は無意識のうちに相手の服を掴んでいる。

頭の中の冷静な部分が、惨めな自分を笑った。
それでも目の前にいる相手に助けを求めることをやめられなかった。

助けて、死にたくない、お願い、見棄てないで。

口から出てくるのは情けない言葉ばかりで、相手を困らせるだけだと分かっていても、恐怖に支配された体は止まらない。

服を掴んでいた手を背中に回して、ユノはその温かさから離されない様にとしがみついた。

反応を返してくれない相手に不安は高まって、顔を上げる勇気も出せずにただ泣きじゃくる。

ただ、目の前の仲間を引き止めるのに必死だった。
一向に泣き止まないユノに、アーロンがようやく口を開く。

「ユノ」

その大きな手が髪を割いて頬に触れて、ユノは誘われるように顔を上げる。
涙を溢し続ける瞳は滲んでいて、相手の顔がよく見えなかった。
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