04.それは絶望にも勝る
「お二人とも、お久しゅう」山頂付近まで来たところで、現れたのはシーモアだった。
まだこの世に留まっていたのか。異界送りすべく杖を構えるユノとユウナに、シーモアが笑う。
「その前に、ロンゾの生き残りに伝えたいことがある。実に……実に勇敢な一族だった。私の行く手を阻もうと捨て身で挑みかかり……ひとり、またひとり」
シーモアが手を上げて、空気を握りつぶすように掴む。
その仕草で、彼が同胞を殺したのだと理解したキマリは愕然とする。
「馬鹿な……」
「キマリさん……」
「そのロンゾの悲しみ、癒してやりたくはないか?」
「……何を言いたいのです」
「彼を死なせてやればいい。悲しみは露と消える。スピラ……死の螺旋に囚われた、悲しみと苦しみの大地。全てを滅ぼして癒すために、私はシンとなる。そう、あなたたちの力によって。……私と共に来るがいい。私が新たなシンとなれば──」
シーモアの視線が、召喚士の2人からティーダへと移る。
「お前の父も救われるのだ」
「お前に何がわかるってんだ!」
ティーダの父? ジェクトさん?
理解できない一行を背に庇うように、ティーダが前に出る。
「哀れなものだな。だが、その絶望もここで消える。全ての嘆きを断ち切ってやろう」
機械兵器と融合したシーモアが、攻撃を繰り出す。一行はそれに全力で対抗した。
苛烈な戦いの末に勝利を掴み、谷底に消えたシーモアにティーダが叫ぶ。
「もう邪魔すんなよ!」
笑って歩き出したティーダ。
ユウナは立ち尽くしたまま、シーモアの言葉を反芻する。
「私の力でシンになる……」
「たわ言だ、忘れろ」
「彼がシンになれば、ジェクトさんが救われる……?」
「行くぞ」
「何か知っているなら教えてください!」
あくまで白を切ろうとするアーロンに、ユウナが負けじと食い下がる。
口を開こうとしないアーロンの代わりに、ユウナはティーダを見た。
「教えて」
皆も、ティーダを見た。
青年は、言い辛そうに答える。
「シン……親父なんだ」
「何だそりゃ?」
「シンは俺の親父だ。親父がシンになったんだ。理屈とか、そういうのはよく分からない。でもオレ……感じた。シンの中には、親父がいる。親父がスピラを苦しめてるんだ。……ごめん」
俯くティーダに、ユウナも顔を伏せる。
「……ごめん、たとえシンがジェクトさんでも……シンがシンである限り、私……」
「分かってる、倒そう。親父もそれを望んでる」
「父親と……戦える?」
「大丈夫。やるよ、オレ」
「なあ、その話よぉ……シンの毒気にやられて夢を見た……わけじゃねえよな」
「おう」
「んじゃ、チャップは……」
ワッカは、その先を声には出さなかった。
ワッカにとってのシンは、かつて共に居た弟を殺した憎い仇。
「……わりぃけどよ、俺、何も聞いてねえことにしとくわ。──アタマこんがらがってきたぞ? 何でまたそんなことになっちまったんだ」
「行けば分かる、もうすぐだ」
だから、どうしてそんなに強いんだ。
ユウナも、ティーダも。
自分の父親と戦うなんて辛いに決まってるのに。
そんなの絶対に嫌なはずなのに、どうして逃げ出さずに居られる?
「あっ!?」
ガガゼトの山頂には、奇妙な光景が広がっていた。
岩肌に大勢の人間が封じ込められ、そこからあふれ出す力の奔流が、大きな渦を巻いて天に吸い込まれている。
「何だこれ!?」
「……祈り子様」
「召喚されてる……何かを召喚してる……この祈り子様たちから力を引き出してる」
「こんなにいっぱい?」
「並外れた力ね。いったい誰が……何を?」
「ねえ、何か知ってるんでしょ? 教えてよ!」
「他人の知識などアテにするな。何のための旅だ」
「ユウナとユノの命がかかってるんだよ!」
「いや……アーロンの言うとおりだ」
「へ?」
同意したティーダに、リュックが目を丸くする。
「これはオレたち……オレの物語なんだから」
そう言って、ティーダは1人岩壁に近づいて手を伸ばす。
が、触れた瞬間に、彼は意識を失って倒れた。
「ティーダ!? えっ、えっと、回復……?」
息はしている。怪我もしていない。
だが、ユノがぺちぺちと頬を叩いても反応はない。
「どうしちまったんだよ、おい!?」
「ねえ、起きてってば〜!」
ユウナは治癒を始めるが、それも効果を発揮しなかった。
平静を保っていたユウナの表情に、不安と焦りが出始める。
「お願い、目を開けて……!」
そんなユウナを見て、ユノは、こんな時に何だが、ほっとしてしまった。
やっぱり、恐いんだよね、ユウナも。
別に彼女が特別強いわけじゃない。
平気そうにしていたって、いつだって。
シンと戦うのも、死ぬのも、きっと――――
ティーダが目を覚ますと、安心したのかすぐにいつもの顔に戻ったが、ユノは今さっきのユウナの顔を忘れないようにと、記憶に焼き付けた。