04.それは絶望にも勝る
「……えと、なんで?」「ほら、一緒に行こうって誘ったの俺だし」
そういえば、そうだったっけ?
出会った頃の記憶が既に曖昧で、ユノは首を捻る。
「もしそうなら、謝っときたくて」
「?」
「俺、こんな旅だって知らなかったからさ。その……嫌だったかなって」
「……そんなことないよ。ティーダに誘われなくても、旅は、続けるつもりだったから……。もしあの時誘ってくれなかったら、俺はきっと、魔物に殺されて、今生きてないよ。……だから、有難う」
この言葉は、気持ちは、本当。
だって本当に、あの時差し伸べられた手に、俺は救われたんだ。
ティーダは「ならよかった」と安心したように笑った。
「……ティーダ、ユウナのこと好きだよね?」
「……うん」
「なら、絶対死なせちゃだめだよ」
1人立ち上がって、ティーダに、自分に、言い聞かせるように続ける。
「何があっても絶対に、守らなきゃだめだよ」
「了解ッス!!」
しっかりと応えたティーダに、少しだけ切なさを感じながらも微笑んで、ユノは立ち去った。
ユウナはと言えば、少し高い場所から、エボン・ドームを眺めていた。
手招きされて、同じ場所に腰を下ろす。
「……もうすぐだね」
「……うん」
ユウナはきっと、自分がシンを倒すつもりで居るのだろう。
彼女は自分以外の誰かを犠牲にするようなことは、考えすらしない。
「……ユウナ」
だから、その問答はしない。
代わりに、聞いておきたかったことを口に出す。
「なに?」
「自分のこと、好き?」
唐突な質問に、ユウナは真剣に考えて、考えて、考えてから頷いた。
「嫌になっちゃうときもあるけど……皆がここまで育ててくれた自分を、嫌いだなんて思いたくないな。そう思えるようにしてくれた皆のためにも、私は、私に出来ることをしたい。少しでもその恩を返せるように」
凛とした声で、そう語るユウナ。
自分の考えを持っていて、
志のために自分を律して、
その分人には優しくできて、
悲しいときでも笑える。
そんな自分に誇りを持っていて、
だからこそ人を惹きつける。
「ユノは? 自分のこと、好き?」
その質問に、頭を左右に振ると、ユウナに抱きしめられた。
温かくて、力強くて、とても優しかった。
「私は、ユノのこと好きだよ。……大好きだよ」
ユノはなんとか声を絞り出して、有難う、と返す。
「……俺も、ユウナのこと好きだよ。すごく好きだよ」
だから、もう決めた。
目一杯の笑顔を浮かべて、その場から逃げるように離れる。
ユウナは死ぬべきじゃない。
ユウナが死ねば、沢山の人が悲しむ。
どれだけ彼女が愛されているかは、さっき皆としたやり取りで身に染みて分かった。
あんないい子が死んじゃいけない。
シンを倒すための犠牲には相応しくない。
どうせ犠牲にするなら、もっと、相応しい人間が居るはずだ。
そう例えば──
「……っ、う……っ」
──俺みたいな。
岩陰に隠れて、小さく丸まって泣き声を押し殺す。
ぽたぽたと雨のように零れ落ちる涙が、地面に小さなシミを描いていった。
俺も自分のこと好きになりたいなぁ。
ユウナみたいに、胸を張って、言えたら。
「……れないよ……」
彼女のように強く、
彼女のように優しく、
彼女のように誇り高く。
口から出た嗚咽混じりの声は、ユウナとは似ても似つかなかった。
「好きになれないよ……っ!!」
醜くて、卑怯で、弱いだけの自分。
親に捨てられたこの見た目も、
人のことを考えられない心も、
女性よりも頼りない体も、
なにもかも──嫌いで、嫌いで、大っ嫌い。
さっきの質問だって、1人だけ聞かなかった。
聞くのがいやで、わざと声をかけなかった。
あの人には、ユウナが好きかどうかなんて、聞きたくない。
知りたくない。
「なんでこんな……っ!」
子供染みた我侭と嫉妬。
こんな奴、さっさとシンを倒して消えてしまえばいい。
そうだ消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ──!!
狂気に駆られて杖を振り上げた体に、白い毛皮が当たる。
召喚した覚えは無いのに、気付けばそこには白帝がいて、心配そうにこちらを見つめていた。
白帝は涙で塗れた頬を舐めて、悲しそうに鳴く。
振り上げた腕から力が抜けた。
ユノの体を、柔らかい白帝の体が包む。
「……ごめん」
彼ら召喚獣は、仕える召喚士を選べない。
定められた手順で儀式を行えば、否応なくその下僕になってしまう。
「ごめんね……!」
この優しい獣に相応しい、ちゃんとした人間でありたかった。
人に愛されるような、自分を愛せるような、人間でありたかった。
叶うのならば自分も、皆と一緒に、もっと生きていたかった。