04.それは絶望にも勝る
「最後かもしれないだろ? だから、全部話しておきたいんだ」焚き火を囲んで皆で輪になって、ティーダが昔話を語り出す。
それは日が沈むまで続いて、ティーダの話を聞いている間、ユノの頭にも当時のことが浮かんでは消えていった。
「なあ、もっといろいろあったよな? そういえば、あの時とか……誰か何かない?」
「あのね」
「何?」
期待の眼差しを向けるティーダに、ユウナは静かに答える。
「思い出話は……もう……おしまいっ」
1人、また1人と、仲間たちは立ち上がって歩き出した。
ユノも立ち上がって、エボン・ドームを目指す。
「……どうするか、決めたのか」
自分の隣を歩くアーロンに、ユノは泣き顔を取り払って笑顔を貼り付けた顔を向けた。
「はい」
「答えを聞かせろ」
「シンを倒します」
「何のために」
──長い沈黙があった。
やっと口を開いたと思えば、ユノの口から出てきたのは別の質問。
「…………アーロンさん」
「何だ」
「ユウナのこと好きですか?」
どうして、今そんなことを聞く?
不思議に思ったが、アーロンにはその考えがすぐに分かった。
シンを倒す為の犠牲。
彼は今、その選択を、この答えによって決めようとしているのだと。
その思考の間の沈黙を肯定と捉えたのか、ユノはアーロンの返事を待たずに続けた。
「ユウナは死ぬべきじゃないです」
ユノは下がっていく目線をなんとか相手のお腹の辺りで留めて、自分が今出せるありったけ明るい声で言う。
「死ぬべきじゃないです」
「……ユウナの代わりに死ぬのか」
「ユウナは死ぬべきじゃないです」
「お前は死ぬべきか?」
答えられなかった。
ユノは自分を捕まえようとする手から逃れて後ずさる。
「もう決めたんです」
ユノは距離を取って、相手を遠ざけた。
その胸に飛び込んで、縋りつこうとする心を殺して。
「……ここまで本当に、有難う御座いました」
最後の退路を、断ち切る。
色んな所が痛い。
だが、死ねばそれも無くなるだろう。
そうして去っていくユノに、アーロンは何も言えなかった。
あの夜、彼は確かに、死にたくないと泣き喚いていたはずなのに。
自分はそれを叶えるつもりでいたのに。
(お前が望むなら……シンなど放って、遠くに逃げても良かったんだぞ、俺は……)
そうすれば今度こそ、大切な人を失わずに済んだのに。
前を行くユノは、マカラーニャの森の時のように、振り返りはしなかった。
「長き旅路を歩む者よ、名乗りなさい」
「召喚士ユウナです。ビサイドより参りました」
「召喚士ユノ、です。キーリカより参りました」
「顔を……そなたらが歩いてきた道を見せなさい」
エボン・ドームの入り口。
僧官が、ユウナとユノの顔をじっと見る。
「よろしい、大いに励んだようだな。ユウナレスカ様も、そなたらを歓迎するであろう。ガード衆ともども、ユウナレスカ様の御もとに向かうがよい」
「……はい」
内部には幻光虫が満ちていて、触れると目の前に人が現れる。
『スピラを救うためならば、わたしの命など喜んで捧げましょう。ガードとして、これほど名誉なことはありません。ですからヨンクン様……必ずやシンを倒してください』
召喚士と、そのガードの男は、歩き去って消えた。
「なに? 今のなに〜?」
「かつてここを訪れた者だ」
「ヨンクン様って言っていたわね……あの人、大召喚士様のガード!?」
「幻光虫に満ちたこのドームは巨大なスフィアも同然だ。想いを溜めて、残す。いつまでもな……」
進むたびに、いろんな人の念が形になって目の前に現れた。
その中にはシーモアや、ブラスカ達も居た。
『なあ、ブラスカ、やめてもいいんだぜ?』
『気持ちだけ受け取っておこう』
『……わーったよ、もう言わねえよ』
『いや、俺は何度でも言います! ブラスカ様、帰りましょう! 貴方が死ぬのは……嫌だ……』
『君も覚悟していたはずじゃないか』
『あの時は……どうかしていました』
『私のために悲しんでくれるのは嬉しいが……私は悲しみを消しに行くのだ。シンを倒し、スピラを覆う悲しみを消しにね。分かってくれ、アーロン』
若き日のアーロンたちが、走り出して消える。
本当に大事な人には、彼はああするんだな。
誰にも聞こえない小さな声で、ユノは「いいなぁ」と呟いた。