04.それは絶望にも勝る
最後の試練を乗り越えて、ようやくゴールに辿り着く。最後の祈り子の部屋が、この先にある。
「……着いたぞ」
「究極召喚……ですね」
仲間は皆そこで止まった。
この先に行くのは、ユウナかユノか、どちらか1人だけ。
誰も、何も言わなかった。
動こうとしたユウナより、ユノが先に一歩を踏み出す。
そして祈り子の部屋に続く階段の前に立って、杖を振るった。
「──白帝」
ここまでずっと自分を護ってきてくれた召喚獣を傍に降ろして、最後の命令を下す。
「誰も通しちゃだめだよ」
「ユノ! 待って! 私が──」
「ユウナ」
彼女が何を言いたいのか分かる。
でもそれを聞く気は無い。
「キマリさん、ワッカさん、ルールーさん、ティーダ、リュック……アーロンさん、みんな」
順に顔を見て──最後だけは、目線を外して。
ユノは深々と頭を下げる。
「有難う御座いました」
「だめ、ユノ……っ!」
白帝の喉を撫でて口付けを落とし、一人で階段を下りる。
──これできっと良かったのだろう。
死んで行ったかつてのガード、故郷の人々、この旅で出会った色んな人。
その全ての悲しみが癒せるのなら。
仲間たちを守れるのなら。
ほんの短い間だけでも、この世界に平穏を齎せるのなら、自分の命など安いものだ。
未だ恐怖の抜けきらない心にそう言い聞かせながら進んで、最後の一段から足を離す。
そして顔を上げ、そこにあるものを見た。
────見て、言葉を失った。
「………………え……?」
そこに置かれていたのは、ただの像だった。
祈り子ではない。何の力も宿していない、ただの石像。
「……え……え? なんで……祈り子様は……? 究極召喚は……?」
「ユノ!!」
続けて、バタバタと仲間達が駆け下りてきたこともあって、ユノは完全に混乱する。
「ど、どうして……白帝は……」
「お前を死なせたくないそうだ」
「そん──って、それより、あの、究極召喚が、祈り子様が……」
「その像は、すでに祈り子としての力を失っておる」
いつの間にやら部屋に居た僧官が、事の次第を説明。
「史上初めて究極召喚の祈り子となったゼイオン様。そのお姿を止める像にすぎぬ。ゼイオン様はもう……消えてしまわれた」
「消えたぁ!?」
「てことは、究極召喚もなくなっちゃったの!?」
あからさまに嬉しそうなのはリュックだけ。
他の皆は、シンを倒す唯一の手段が失われたのかと絶望する。
「ご安心なされい。ユウナレスカ様が新たな究極召喚を授けてくださる。召喚士と一心同体に結びつく、大いなる力を。……奥に進むがよい、ユウナレスカ様の御もとへ……」
そう告げて、僧官は奥の部屋へと消えた。
残された一行はどうしたものかと目を見合わせる。
「ちょっと待てよ。アーロン、あんた最初っから知ってたんだよな?」
「ああ」
「どーして黙ってたの!?」
「お前達自身に、真実の姿を見せるためだ」
「……ユノ、聞いて。私だって、覚悟して、ここまで来たんだよ。だから私にも、ちゃんと選ばせて。その権利はあるよね?」
「で……でも……」
「行くなら、一緒に行こう」
強く手を握られ、ユノは仕方なくユウナと、皆と共に奥へ進む。
そこには僧官の言っていた通り、幽体──新たな祈り子となったユウナレスカが佇んでいた。
「ようこそザナルカンドへ。長い旅路を越え、よくぞ辿り着きました。大いなる祝福を、今こそ捧げましょう。我が究極の召喚……究極召喚を。さあ……選ぶのです」
「選ぶ……? 何を、ですか……?」
「あなたが選んだ勇士を1人、私の力で変えましょう。そう……あなたの究極召喚の祈り子に」
その場に居た全員が息を呑む。
ユノは聞いた瞬間、青ざめて固まった。
「想いの力、絆の力……その結晶こそ究極召喚。召喚士と強く結ばれた者が、祈り子となって得られる力。2人を強く結ぶ思いの絆が、シンを消す光となります。
1000年前……私は、我が夫ゼイオンを選びました。ゼイオンを祈り子に変え、私の究極召喚を得たのです。
恐れることはありません、あなたの悲しみは、すべて解き放たれるでしょう。究極召喚を発動すれば、あなたの命も散るのです。命が消えるその時に悲しみは消え去ります。
……あなたの父ブラスカもまた、同じ道を選びました」
ブラスカ達の幻が、また目の前に浮かび上がる。
今の自分達と同じように、ユウナレスカと対峙している。
『まだ間に合う! 帰りましょう!』
『私が帰ったら誰がシンを倒す。他の召喚士とガードに同じ思いを味わわせろと?』
『それは……しかし、何か方法があるはずです!』
『でも、今は何もねぇんだろ』
ジェクトの言葉にアーロンが押し黙る。
煮え切らない2人に代わって、ジェクトは自分が祈り子になると決断。
『ずっと考えてたんだけどよ……オレの夢は、ザナルカンドにいるあのチビを一流の選手に育て上げて……てっぺんからの眺めってやつを見せてやりたくてよ。でもな……どうやらオレ、ザナルカンドにゃ帰れねぇらしい。アイツには……もう会えねえよ』
ティーダは悲痛な表情でそれを聞いていた。
旅を始めた頃には分からなかったジェクトの気持ちが、今の彼には分かるのだろう。
『となりゃオレの夢はおしまいだ。だからよ、オレは祈り子ってやつになってみるぜ。ブラスカと一緒に、シンと戦ってやらあ。そうすればオレの人生にも意味ができるってもんよ』
『ヤケになるな! 生きていれば……生きていれば、無限の可能性があんたを待っているんだ!』
『ヤケじゃねえ! オレなりに考えたんだ。それによアーロン、無限の可能性なんて、信じるトシでもねぇんだよオレは』
アーロンの葛藤が、無念が、その光景からありありと伝わってくる。
奇跡を信じて抗いたくても、どうにもならない現実というものがあることも、彼は知っている。
『ジェクト……』
『なんだ、止めても無駄だぞ』
『すまん……いや、有難う……』
『……ブラスカにゃ、まだシンを倒すって大仕事が残ってる。オレのぶんまでしっかりブラスカを守れよ。──んじゃ、行くか!』
『……ブラスカ様! ジェクト!』
『まだ何かあんのかぁ!?』
『シンは何度でも蘇る! 短いナギ節の後で、また復活してしまうんだ! この流れを変えないと、2人とも無駄死にだぞ!』
『だが、今度こそ復活しないかもしれない。賭けてみるさ』
『ま、アーロンの言うことももっともだ。──よし、オレがなんとかしてやる』
『何か策があるというのか?』
アーロンの問いに、ジェクトは朗らかに笑った。
『無限の可能性にでも期待すっか!』