05.夢の跡 君は彼方へ

「今だ! 異界に送っちまえ!」

三度現れたシーモアを倒し、力なく膝をついた相手にユウナが舞い始める。

それを見るシーモアの顔は、どこか穏やかだった。

「私を消すのは、やはり貴女か。私を消しても……スピラの悲しみは消えはしない」

光に包まれ静かに消えていくシーモアに、ティーダが答える。

「シンごと消してやるよ」

彼もまた、シンによる破滅に打ちのめされたうちの1人だったのかもしれないなとユノは思った。

もしもまともに話が出来ていたのなら、何かすこしでも分かり合えることがあっただろうか。

「……あの、アーロン、さん」

シーモアのこれまでの非道な行いを思い返すうちに、1つアーロンに言わねばならないことがあったことを思い出す。

「ベベルで、その、俺とユウナが攫われた時に、アーロンさんたちと合流する前、そこに行く途中で、シーモアが、キノックさんを、ころ、殺して……俺、その場にいたのに、止めるどころか、異界送りすら、出来なくて……」

ベベルに閉じ込められてたとき、部屋の見張りをしてた兵が、キノックはアーロンの古い友人なのだと話していた。

つまり、自分はアーロンの友人を見捨ててしまったのだ。

友が送られずに放置され、魔物と化してしまうかもしれないという恐怖は知っている。
知っているのに、救うことが出来なかった。

ごめんなさい、と、振り絞るように出した声に、アーロンが立ち止まった。
そしてその手で、優しく頭を撫でる。

「シンを倒せば、あいつも浮ばれるさ。……そう約束したからな」






足場は水面から陸地へと移り変わり、入り組んだ道を奥へ奥へと突き進む。

最奥へと到達すると、空から柱のようなものが降ってきた。
そこに描かれた紋章に触れると、景色は一変して異様なものへと変わる。

だが暫くすると、突然体が引っ張られるようにして、また何処へと攫われた。

そうして辿り着いた先は、いつかシーモアの屋敷で見た、1000年前のザナルカンド。
ただし街に灯る明かりは僅かで、建物もあちらこちらが崩れている。

そんな静かな幻の街を前にして、1人こちらに背を向けて佇んでいる男が居た。
誰なのかに気付いたティーダが前に出て、アーロンがそれに続く。

「……遅ぇぞ、アーロン」

それはユノにとっては、遺された古いスフィアでしか聞いたことのなかった声。

アーロンはそれに、間を置いて短く応える。

「……すまん」

男は振り返ってこちらを見た。
沢山いる仲間の中から、息子の姿を見つけて微笑する。

「……よお」

「……ああ」

この2人が会うのは、いつ以来のことなのだろう。

久しぶりに交わされる親子の会話は、心温まる感動の再会という訳にはいかない。

「へっ! 背ばっか伸びてヒョロヒョロじゃねえか! ちゃんとメシ食ってんのか、ああん?」

それでも、喜びを隠さずに感慨深げに言うジェクトに、ティーダが微笑む。

「デカくなったな」

「まだ、あんたの方がデカい」

「はっはっは! なんつってもオレはシンだからな」

「笑えないっつーの」

精一杯明るく返そうとしているティーダを見ながら、ユノは自分の両親のことを思った。

正直言って自分は、母親のことも、父親のことも、あまり好きではない。

僅かに残る記憶は温かいが、その最後はとても悲痛なもので、思い出すたびに胸が痛んだ。

もしも自分がティーダと同じ立場だったら、今どう思っただろう。

「じゃあ、まあ、なんだ、その……ケリ、着けっか」

「……オヤジ」

「おお?」

「…………ばか」

酷い台詞なのに、とても温かく響くその言葉に、ジェクトは笑う。

「それでいいさ。……どうすりゃいいか、わかってんな」

「……ああ!」

「もう、歌もあんまし聞こえねえんだ。もうちっとでオレは……心の底からシンになっちまう。間に合ってよかったぜ。──んでよ、始まっちまったら、オレは壊れちまう。手加減とか……できねえからよ!」

すまねえな、と、心底申し訳なさそうに誤るジェクトに、震える声でティーダが叫ぶ。

「もう、いいって! うだうだ言ってないでさあ!」

彼も最初は、ジェクトのことを嫌っていたと思うのだが。

けれど分かる、今の彼の思いが。

どれだけ諍いがあっても、どれだけ離れていても、そこに温かい記憶がある限りは────

「……だな。じゃあ……いっちょやるか!!」


その思い出を忘れて、完全に情を失くすことなど、出来ないのだと。


「────ッ!!」

ティーダが声にならぬ叫びを上げて、ジェクトへと手を伸ばす。
だがそれは届かず、ジェクトの体はゆっくりと後退して、足場から落下した。

光の海へと落ちていったジェクトの体は、そのまま見えなくなった。
それと共に、静かだった街が鳴動を始める。

底からジェクトの悲鳴が上がった。
それは咆哮へと変わり、彼は再び一行の前に戻ってくる。

大召喚士ブラスカの遺した、究極の召喚獣となって。

「すぐに終わらせてやるからな! さっさとやられろよ!」

ティーダは剣を構えた。
涙声になっている彼の両脇に、ユウナとアーロンが進み出る。


そして彼らは、それぞれの想いを胸に抱いて、ジェクトを討ち破った。
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