05.夢の跡 君は彼方へ

弱りきった究極召喚獣はその身の内から取り出した大剣を地面へと突き刺し、爆発を起こした。

人の姿に戻ったジェクトが、ゆっくりと地面に倒れる。
動こうとしたアーロンの脇をすり抜けて、真っ先に彼の体を受け止めたのはティーダ。

その腕に抱かれて横たわるジェクトは、息子の顔を見て笑う。

「……泣くぞ、すぐ泣くぞ、絶対泣くぞ、ほら泣くぞ」

人を馬鹿にしたような言動。
けれどその言葉は、不器用な人なりの、子供への愛情のように感じられた。

まるで、しょうがないなぁ、とでも言いたげな。

「……だいっ嫌いだ」

皆に背を向けるティーダの表情は見えなかったが、見なくても分かった。

ゆっくりと父親を地面に下ろして、ティーダは立ち上がる。

「はは……まだ早いぜ」

「全部、終わってから……だよな」

「分かってるじゃねぇか、さすがジェクト様のガキだ」

「初めて……思った。あんたの息子で……良かった」

涙声で言うティーダに、ジェクトは「けっ」と言いながらも、嬉しそうに笑った。

「ジェクトさん……あの……」

「ダメだユウナちゃん、時間がねえ!」

よろつきながら身を起こすジェクト。
その体から幻光虫が溢れ出す。

「ユウナちゃん、分かってんな? 召喚獣を……」

『僕たちを!』

その声に、祈り子の声が重なる。

「喚ぶんだぞ!」

『呼ぶんだよ!』

ジェクトはその場に倒れ、光の粒となって天へと昇っていった。

ユウナと2人、その言葉に応えるために、ユノはしっかりと頷く。

「来るよ!」

憑依先を失くしたエボン=ジュは、ジェクトの遺していった大剣へと突撃した。
その瞬間、周囲は赤い光に飲み込まれる。

その赤が晴れたとき、周囲にはただ虚無が広がっていた。
皆は唯一遺された剣を足場にして、顔を上げる。

「ユウナ! ユノ!」

ユノは杖を握り締めた。
震える腕を必死に抑えて、ゆっくりと息を吐く。

皆頑張った。これまで辛いことが沢山あって、その度に乗り越えてきた。
自分だけ何もしない訳にはいかない。

ここで逃げるわけには、いかない。

隣に立つユウナに視線を送ると、相手は力強く頷いた。
そして杖を振るい、召喚獣を喚ぶ。

エボン=ジュがすかさずそれに乗り移り、呼び出された召喚獣は新たなシンへと変わった。

やらなければならない事だと理解していても、無意味な犠牲ではないと分かっていても、召喚獣達と戦うことは辛かった。

一撃を喰らわせる度に、その姿が光になって消えるたびに、手を止めてしまいそうになる。目を背けてしまいそうになる。

けれど、ユウナは杖を振るうことをやめない。
仲間たちも、手を止めることはない。

「……ユノ」

気が付けば、もう残りは4体。

ユウナに呼ばれて、ユノは自分の番が来たことを悟る。

今一度深く深呼吸をして、目を閉じた。


全ては、新しく始める為に。


「──ヴァルファーレ!」

四方に伸ばした魔法陣の1つから、大きな翼を広げて現れたヴァルファーレが地に降り立つ。

ユノはじっとその顔を見た。そして、深々と頭を下げる。
ごめんなさいと、ありがとうを込めて。

「──イクシオン!」

ヴァルファーレを倒すと、今度は後ろへ伸ばしていた手を、そのまま右へ移動させる。

叩くようにして陣に触れれば、それに答えるようにイクシオンが現れた。

また同じように礼をして、自分たちの攻撃で傷つき、消えていくのを見つめる。

「──バハムート!」

次は前へ。着地の震動にふらつきながらも、仁王立ちでこちらを見下ろす彼にもまた、お辞儀をする。

苦戦し、心を痛めながらも、仲間と共にそれを倒した。


そして、最後の一体。


「…………っ」

体が強張って、前から左へと移動しようとした手が止まる。

あと数センチ。あと少し動かしてその名を呼べば、最後の召喚獣が、ここに現れる。

仲間たちも一度武器を下ろしてユノを見た。
ただ黙って、覚悟を決めるのを待っている。

──やらなければ。
自分をなんとか突き動かそうと、祈り子の言葉を呪文のように唱える。

けれどそれでも、体は動いてくれなくて。

「…………っ」


──白帝だけは、他の召喚獣とは違う。


実態はただの主従関係だったとしても、自分にとってはそれだけではなかった。


親より誰より何より、ずっと長く傍に居てくれた、共に生きてきた大切な────


『……ユノ』


久しく見ることのなかった、懐かしい姿の祈り子様が、滲む視界に映る。


『……行こう』


その姿が、白い虎に変わった。


「…………っ!! ────白帝!!」


やっと、杖の先が左の陣に重なった。

何度繰り返したか知れないその動作。
それももう、これが最後。

見慣れた白い獣が、眼前で咆哮を上げる。
いつもよりも大きな声で、いつもよりも長く、まるで叫ぶように。

倒すことを、別れを躊躇う主の背中を、叩くように。

「……アーロン、さん」

ユノは杖を地面に置いた。
そしてその手で、アーロンの手を掴む。

「俺に、やらせて、ください」

白帝の体に、エボン=ジュが乗り移った。

自我を失い、こちらに攻撃を仕掛ける獣に、ユノは自分の身の丈と同じぐらいの長さを誇る長剣を向ける。

重くて、ほとんど持っているのがやっとの状態。
微々たるダメージにしかならないようなへなちょこな斬撃を、何度も何度も叩き込む。

初めて振るう剣の感覚は、その刃から相手の痛みが伝わってくるようで────


「……っ! ぅあぁああああアアッ!!」


相手の攻撃に吹き飛ばされはじき返され、全身ボロボロで。

心も体もあちこちが痛くて、叫びすぎて喉が枯れて────


それでもユノは、ただひたすらに、剣を振るい続けた。
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