05.夢の跡 君は彼方へ
そうして、全ての召喚獣が消えて、行き場を失ったエボン=ジュが、その姿を現す。白帝を失い、泣き崩れそうになるユノの体を、アーロンが支えた。
「……よくやった。あと一歩だ」
そうだ、まだ、終わりじゃない。
「……っはい!」
借りていた剣を返して、杖を拾い上げて、ユノは涙を拭う。
全員が露になったエボン=ジュを見上げる中、ティーダが声を上げた。
「みんな! 一緒に戦えるのは、これが最後だ。よろしく!」
へっ? と、事情を知らないワッカが目を丸くする。
ワッカだけではない、リュックやルールー、キマリも。
「なんつったらいいかな……エボン=ジュ倒したら、オレ……消えっから!」
「あんた、なに言ってんのよ!?」
ティーダは前に進み出る。
途中、ユウナと目を合わせて、しかし何も言わずに通り過ぎる。
「さよならってこと!」
「そんなぁ……!」
リュックが嘆いて、他の皆は言葉を失っていた。
先頭に立ったティーダは、皆を振り返って不敵に笑う。
「勝手で悪いけどさ!」
ティーダは剣を構えた。
いつも通りの明るい声で、高らかに叫ぶ。
「──これが、オレの物語だ!」
スピラの夜空を、眩い閃光が照らし出す。
地上からそれを見た人々は、揃って歓声を上げた。
同じ頃。各地にあった祈り子像が、その力を失って、静かに石造へと変わっていく。
宿っていた祈り子もまた、長い役目を終えて、夜の闇に溶けていった。
かつて繁栄を極めた、古代都市ザナルカンド。
祈り子の夢と、ジェクトの意識が作り出したその景色の真ん中で、2人の召喚士が舞っていた。
空からそれを眺めていた召喚獣たちは、一体ずつ光となって霧散していく。
それを見ながら、ユウナとは対曲線側にある位置で、ユノは舞い続ける。
足元に白帝が擦り寄る感触があった。
両目から涙を流しながら、そっと何もない場所へと手を伸ばす。
「……有難う。ずっと、ずっと……」
白帝の返事が聞こえた気がした。
感触が消えて、足元から幻光虫がゆっくりと舞い上がっていく。
スピラの上空に揺蕩っていたシンの体が破裂し、その身に蓄えられていた幻光虫がスピラ中に広がる。
周囲は光の海で満たされた。
その中を泳ぐように飛ぶ飛空挺の甲板の上で、ユノは再び、ゆっくりと舞い始める。
居なくなってしまった人たちを送るために。
これから居なくなってしまうであろう大切な仲間を、送るために。
ユノからは離れた場所で、同じように異界送りを続けていたユウナは、ふとあることに気付いてその手を止めた。
アーロンの体から、幻光虫が零れている。
仲間たちも、それに気付いてアーロンを見た。
「続けろ」
「でも……」
「これでいいさ。10年待たせたからな」
アーロンは1人1人仲間の顔を見ながら、ゆっくりと光の海へ歩いていく。
「待ってくださいアーロンさん! せめてユノに……」
「いいんだ」
何も知らず舞い続けているユノを見つめて、アーロンは寂しげに微笑した。
「あいつには……言わなくていい」
「そんな……」
「ちょっとおっちゃん! 一声くらいかけていってあげなよ! あたし呼んでくるから……」
駆け出そうとしたリュックは、アーロンに腕を掴まれてダッシュに失敗する。
「どーしてさ!?」
「知れば、あいつはきっと泣くだろうからな」
「そりゃ、そうだろうけど……別に泣いたっていいじゃん!」
「そうされると、困るんでな」
理解できないといった顔でリュックがむくれる。
ティーダはやっぱそうだよな、と、心の中で共感していた。
「泣き縋られて、行くなと言われたら……決意が鈍りそうだ」
「……なら、もう少し、一緒に居てあげても……」
ユノを自分と、アーロンをこの後のティーダと重ねて、ユウナが言う。
だが、アーロンは首を振った。
「これ以上、ここに留まるつもりはない。……ユウナ」
懐からスフィアを取り出して、それをユウナの手に乗せる。
「いつでもいい、あいつに渡してくれ」
そして自らはそのまま、皆に背を向けた。
甲板の端で振り向いて、皆と、その向こうに居るユノを、目に焼き付ける。
「……もう、お前達の時代だ」
伝説のガードは、1人光となって、待つ人の元へ、在るべき場所へ、還っていった。