05.夢の跡 君は彼方へ
舞を終えたユノがユウナたちのほうを見ると、ちょうど遠ざかっていくティーダの背中が見えた。ティーダは勢い良く走り出して、そのまま甲板を蹴って、光の海へ飛び込む。
最後の最後まで、彼は本当に、格好良かった。
その正体が夢でも何でも、ティーダのことはきっとずっと、一生忘れない。
ユウナ、泣いてるかな。何て声をかければいいんだろう?
これから先、ティーダの代わりに、自分がちゃんと、守ってあげなくちゃ。
そんな風に思いながら、ゆっくりとゆっくりと、仲間の元に向かう。
ずっと長い間、皆の夢だった。願いだった。
シンの居ない世界、永遠のナギ節。ここがその出発点。
まず何から始めようか? そんなことを考えるだけで、胸が弾んで、嬉しくて嬉しくて。
逸る気持ちが抑えきれなくて、ユノは駆け足で残りの距離を走った。
「ユウナ、みんな!」
仲間達が振り返る。
ユウナの目には涙が滲んでいたけれど、その顔は思っていたよりは穏やかなものだった。
良かった、と一先ず安堵して、今一番見たい顔を探す。
そこで漸く、気付いた。
「………………あれ……?」
端から順に、仲間を見る。
キマリ、リュック、ルールー、ワッカ、そしてユウナ。
居ないのは、海へと還っていったティーダ。
──それから?
「……あ、の……アーロン、さん、は?」
どこ行ったんだろう、と、純粋に疑問に思った。
こんなときに突然居なくなっているのが、とても不自然に感じて。
仲間はその問いに、誰も答えてくれなくて。
疑問は次第に、不安に変わっていく。
「ねえ、ユウナ、アーロンさんは、どこに……」
気遣いも忘れて、ユノはユウナに今一度問いかける。
すると彼女は、そっと何かを差し出した。
「……なに、これ?」
「……アーロンさんが、ユノにって」
それは映像スフィアだった。
どうして、今、こんなものを。
不安が急速に膨らんでいく。
「あの、だから、アーロンさんは……」
「……アーロンさんはね」
どこか言いにくそうにするユウナに、心臓が早鐘を打った。
不安が限界まで膨らんで膨らんで膨らんで────
「……もう、居ないの」
その一言で、爆発する。
「………………なに、ユウナ、もっかい、言って……?」
「……もう、居ないの。何処にも……」
「……何処にも、って、なに? どういうこと……?」
「……死人だったのよ、あの人も」
ユウナのセリフを引き継いだルールーのその言葉に、ユノの頭の中が白く染まる。
「さっきの異界送りで、在るべき場所へ還ったわ」
「……うそ。そんなの、うそ、です、よね……? だって、さっきまで、ここに……」
「ユノがあっちで舞ってる間に……ね。言おうと思ったんだよ? でも、おっちゃんが言うなって……」
「うそだよ、だって、アーロンさんは、アーロンさんは…………」
あの人は、自分を置いていったりしない。
だって彼は、どんなときだって、傍にいてくれたじゃないか。
それはこれからだって、ずっと変わらない筈で────
「み……みんなで、俺のこと、からかってるん、ですか? いくらシンを倒しておめでたいからって、そんな、そんな嘘ついて、面白がる、なんて……」
「……嘘じゃねぇ」
いつにもなく真面目で、辛そうな面持ちのワッカが言う。
「嘘じゃねぇんだ、ユノ」
「……もうね、居ないの。アーロンさんも……彼も……」
皆が自分を見た。
とても可哀想なものを見る目つきで。
居ないだなんて、そんなはずは無い。
ユノは広くはない甲板を歩き回って探す。
けれどどこにも見当たらなかった。
いつも進むべき道を教えてくれていたあの広い背中が、どこにも。
「アーロンさん、どこ……?」
だって、まだ何も言っていないじゃないか。
ありがとうも、さようならも。
なのに────
「アーロンさん……っ」
これから一緒に見たいものが沢山ある。
一緒に行きたい場所もあるし、一緒に食べたいものもある。
話したいことが山のようにあるし、聞きたいこともたくさん、沢山────
「アー、ロン、さん……」
永遠のナギ節が来たら何がしたいと、貴方は尋ねた。
俺はちゃんと答えたはずなのに。
貴方と一緒に居たい≠ニ。
「……っアーロンさん!!」
全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちる。
手からはスフィアが零れ落ちて、コロコロと甲板に転がった。
「……っぁ、ああぁ、あ」
──ああ、これじゃあ、またふりだし?
──また俺は、ひとりぼっちになるの?
視界が黒く染まっていく。
意識を手放す直前に見た景色はいつかと同じで、仲間たちがこちらにむかって手を伸ばして駆けてきてくれていて────
けれどその中に、彼の手はもうなかった。