01.わだつみに別たれ

「何度も言わせないで頂戴。私はね、召喚士なのよ!」

ミヘン街道からキノコ岩街道へとさしかかった地点で、女性の怒声が上がった。
ちょうど道が変わる辺りの位置に討伐隊の駐屯所があり、女性は道を塞ぐ隊員に怒鳴りつけている。

「召喚士の旅を邪魔するなんて、何考えてるわけ?」

「申し訳ありませんが! 例外はありません!」

「話にならないわね!」

踵を返して戻ってきた女性が一行に気付く。
知り合いなのか、ユウナの顔を見てどこか嫌そうに眉を寄せた。

「あら、あなたたち……見ての通り、召喚士でも通行止めよ。結局は召喚士に頼ることになるのに、全然分かってないんだから。まあ、いい機会だから戻って休むことにするわ。行きましょ、バルテロ」

彼女のガードらしき大男が後ろをついていく。それと入れ替わりで、道の境目にある門に荷車を引く兵士がやって来た。

檻から覗くそれは明らかに魔物で、まだ動いているそれにユノは後ずさる。
魔物など運び入れて何をするつもりなのかと、その時から少し嫌な予感がしていた。

「今度、ブリッツ教えてくれよな!」

「ちょっと行ってシンを倒してくるから、待ってろよ」

兵士はティーダに向かって手を振り、奥へと進んでいく。
シンを倒すとは一体どういうことなのだろうか。さっき追い返していたくらいなのだから、中に召喚士はいないはず。

それよりも今は、ここをどうやって通過するべきかということなのだが。
策もなく立ち往生していると、また新たに1つの団体がやって来た。先頭に立っているのは、ルカで魔物を殲滅していたグアドの新しい老師、シーモアだ。

「またお会いできましたね、ユウナ殿」

「は、はいっ!」

「何かお困りの様ですが……」

「実は……」

ユウナが門の方向へ視線を送ると、シーモアは兵にユウナとそのガードを通すようにと交渉を始めた。
それほどユウナと親しいのか、ただの親切か。なんにせよ大召喚士の血筋というのはやはり特別なんだなとユノは感じた。

「さあ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

通行の許可が下りて、シーモアは先に中へと入る。
あまりにすんなりと事が進んで呆けているユウナをルールーが連れて行き、偉そうなやつ! と面白くなさそうなティーダを諌めるワッカもそれに続いた。

そして自分もついていこうとして、ふと思う。
通行を許可されたのはユウナとそのガードだけだ。自分は彼女のガードではない。

門を抜ける手前で停止したユノを、何やってんだとワッカが呼ぶ。
周囲の兵がそれを見咎める素振りはないが、行っていいのか悩んでいると、ユウナ達と何か話していたシーモアの目に留まってしまった。

「どうしましたか?」

彼にはアーロンとはまた違った威圧感がある。
萎縮するユノに、シーモアはにこやかに続ける。

「あなたも召喚士ですね。ユウナ殿のご友人ですか?」

「……い、いえ……その……」

「どうか、そんな緊張なさらずに。どうしてこちらへ来るのを躊躇われているのです? ──ああ、ガードでないからと言って、遠慮する必要はありませんよ。宜しければ、貴方もぜひ作戦司令部へお越しください。皆の勇姿を共に見届けましょう」

優しくそう言って街道の先へ消える相手に、ユノは大きく息を吐く。
有名な血族でもない田舎の召喚士が、族長と会話などするものではない。

ところで、

「……作戦って、なん、ですか?」

さっきから気になっていたことを、誰にとは指定せずに問う。
これまでの道と違い岩肌が剥き出しの道を上へ上へと登りつつ、皆が順に答えてくれた。

「アルベド族の機械を使って、シンをぶっ倒そうっつー作戦だよ。エボンの教えに反してるってのに、どいつもこいつも……」

「教えに背いてはいるけど、みんなの気持ちは本当だと思うな。シーモア様も、そう思っていらっしゃったんだよ、きっと」

「使えるものは何でも使えばいい。それでシンを倒せるとは思わないが」

そう思っているのなら、どうして止めないのだろうか。

周囲を見渡せば、確かにあちこちに物騒な機械が並んでいる。
だがどれだけ強力な機械であろうと、どれだけの兵が束になろうと、倒せるものではない。アーロンの言う通り、シンは普通の魔物とは違う。こんな作戦は、余計な犠牲が増えるだけだ。

「なんで先輩だけですか! オレも前線で戦わせてくださいよ!」

やりきれない気持ちのまま更に上に登っていくと、さっき荷車を引いていた二人が何やら言い合いになっていた。
言い合いというより、片方がいきり立っているだけの様だが。

「上の決定だ」

「オレだっていつまでも新米じゃないんです! 前線に出してくれたら証明してみせますよ!」

「司令部を守るのも、大切な任務だろうが」

「オレがビサイドからここまで来たのは、シンと戦うためです!」

「分かっているが、命令だ。さっさと配置につけ」

「先輩!!」

後輩らしき男は、全く取り合ってくれない相手に、やがて諦めて走り去っていった。
残された男はこちらを見て少し驚きを見せる。

「通行許可が出たのか」

「ガッタ、かわいそうだったな」

「戦わずに済んで運がいいじゃねえか。大体なんで戦うんだ? 主役はアルベド族の機械だろ」

「はっきり言ってしまえばオレ達の戦いは……そう、機械の準備が整うまでの時間稼ぎだな」

子供じみた言動で露骨に不快感を表しながら、ワッカはそっぽを向いてしまう。
どういう関係なのだろう、かなり親しげに見えるのだが。

「あの人はルッツさんで、さっきのはガッタさん。ワッカさんの昔からの友人だよ」

ユウナがこっそりと耳打ちしてくれたが、なら尚のことこんな作戦やめさせたほうがいいのでは、とユノは心配になる。
大事な友人を亡くすなんて、そんなのは。

(……そんなのは、俺の二の舞じゃないか)

フッと浮かんだ言葉に、また嫌な記憶が蘇った。知らずに握り込んだ手が震える。

止めたい。でも、自分の言葉など誰が聞いてくれるだろうか。

自分には何の力もない。大勢の人や高い位置に座る人間にとって、自分など道端に生えている草木のようなものなのだ。
反対した人はこれまでにだって居ただろう。それでも決行されようとしていることを、自分などが止められるはずがない。

非力だと、悔しさに唇を噛みしめた。

「ユノ、どうしたの?」

不安げなユウナの顔に、ハッとして頭を振る。
ルッツはいつの間にかいなくなっていて、皆は再び歩き始めていた。

──そうだ、ユウナなら、ユウナなら止められるんじゃないか。

僅かにもったそんな期待を断ち切るかのように、自分と同じように作戦に反感を持つワッカの「どうせ失敗する」という言葉に、彼女は悲しげに返した。

「無謀な作戦かもしれない、教えに背いてるかもしれない。だけど、討伐隊もアルベドの人たちも……すごく真剣だよ。みんなシンを倒したいって心から願ってる。その気持ちは、わたしたちと全然変わらない。……そう思わない?」

機械を運ぶ兵、指揮をとる兵、鍛錬をつむ兵。

ユウナの言葉を聞いて、ユノは四方を通り過ぎていく兵士達を今一度見る。
その全ての人の瞳の中に、揺ぎ無い覚悟のようなものが見えた気がした。

死が目前に迫っているのに、彼らの目は、自分よりずっと生きている。

「へっ、わーったよ。でもな、オレは機械を認めない。教えに反することは認めない!」

ワッカは強い口調で言い切って背中を向ける。ユウナは女性兵に声をかけられて司令部へと連れて行かれた。
自分も呼ばれた気がしたが、それを無視して、せめて今出来ることを成すために反対側に走り出した。
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