02.永遠の終わり
ワッカと別れ、ルブラン一味を探して次に訪れたのは、未だ雪に覆われたガガゼト山。かつてキーリカからここへ来るまでには、長い長い道程を歩いて来なければならなかったが、今は飛空艇のお陰でひとっ飛び。
便利になったものだと感心する反面、少し寂しさのようなものも感じる。
ユウナ達と共にガガゼト山の麓に降り立ったユノは、後ろに広がる平原を振り返った。
──ナギ平原。
もう二度と見ることは叶わないと思っていた光景が、あの頃と変わらずそこに在る。
「ユノ〜! どしたの?」
「あ、ごめん、何でもないよ」
先を行っていたリュックに追いつくと、二年ぶりに見るキマリが出迎えてくれた。
「ユノか、会えて嬉しい」
「お久しぶりです、キマリさん。確か長老になられたんですよね?」
「ああ。ユノもキーリカの長になったと聞いている」
「はい。でも、肩書だけというか……それらしいことは全然出来てなくて……」
「そうか。キマリも悩んでいる。ロンゾの族長として、相応しい振る舞いをするのは難しい」
「キマリさんも……」
それを聞いて、ユノはほんの少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
ヌージ達に長として認めて貰えないのは自分が不甲斐ないせいだとばかり思っていたが、初めのうちは誰もがそんなものなのだろうか。
「ユウナ、すまない」
「どうしたの? 突然」
「ユウナの為にスフィアを探した。だが、見つけられなかった。キマリは情けない」
「大丈夫だよキマリ。手伝ってくれるのは嬉しいけど、私の問題は私が解決しなきゃ」
相変わらず、ユウナの言葉は真っ直ぐで力強い。
かつてここで道を阻んできたロンゾに毅然と答えていた彼女の姿を思い出して、ユノは目を伏せる。
自分は、あれから少しでも変われているのだろうか?
ユウナと同じ──とまでは行かずとも、胸を張って誇れる自分になれているだろうか?
考えるまでもなく、答えは分かっている。
ユノは己の成長の無さに溜息を吐いた。
「キマリは山中を探し歩いた。まだ探していない場所は一つ。御山の奥に聳える祈り子の断崖 ロンゾは誰も近寄らない、神聖な土地」
「手つかずのスフィアがあるかもな」
「召喚士は御山を登らない。だが、スフィアハンターが来る。神聖な土地が汚されないか、キマリは心配だ」
「ねえ、ルブラン一味かもよ」
リュックの言葉で、この山に来た目的を思い出したユノは顔を上げた。
そうだ、早く盗まれたスフィアを探さなければ。
「あの、キマリさん。その場所って、調べさせて貰ってもいいですか?」
「ユノやユウナ達なら、キマリは何も心配しない」
「有難う御座います!」
ならば即行動あるのみだ。
我先にと走り出すユノに「張り切ってるねぇ〜」と言いながら、負けじとリュック達も続く。
行く先にあったのは、頂上の見えない断崖絶壁。
一瞬怯んでしまったが、ひょいひょいと登っていくルブランの手下を見かけてユノは覚悟を決める。
それなりに体を鍛えておいて良かった。
きっと二年前なら、一人では登れなかっただろう。
ユウナ達の方はと言えば、この程度の事は日常茶飯事なのか、危なげもなく登っていく。流石だ。
「ふう、いい湯だったわ。こんな所に温泉があるなんてね〜」
何とか登り切って更に奥へ進むと、女性の声が洞窟に反響して聞こえてきた。
恐らくはさっき見かけたルブランの手下だろうが、温泉? とユノ達は視線を見合わせる。
道の先は崖になっていて、下を覗けば確かに温泉のようなものが見えた。
既に満喫した後なのだろう女性が四人、その近くで談笑している。
「でもさ、ここって一応ロンゾの聖地でしょ? ちょっとヤバいんじゃない?」
「なに? 祟りでも怖いってわけ? そんなの、ルブラン様に比べたら全然よ」
「こら! お前ら、サボってたろ!」
今度は聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
ルブランの残したスフィアに映っていた男だ。ユウナ達曰くルブランの右腕的存在で、名前は確かウノー、だったか。
上司に隠れて来ていたらしい女性達は、やって来てしまった相手にしどろもどろに言い訳を始める。
が、幸か不幸か、その直後にユノ達が居た場所の足場が崩れ落ち、その音を聞いたウノー達は祟りだとでも思ったのか、説教を中断して慌てて走り去っていく。
一方、足場ごと温泉にダイブしたカモメ団は、全身ずぶ濡れになりながら水面に浮上。
「び、びっくりした……」
「あ〜! 忘れ物!」
何やら見つけた様子のリュックが、ざばざばと湯を掻き分けて陸に近づく。
そこには先の女性達が置いていったのであろう、ルブラン一味の戦闘服が置かれていた。
「簡単に手に入っちゃったね」
「スフィアはっ!?」
「う〜んと……無いみたい」
「……そっかぁ……」
がっくりと肩を落とすユノを励ましつつ、ユウナが「せっかくだし、入ってく?」と提案。
了承してさっさと服を脱ぎ始めたリュックとパインに、ユノはぎょっとして顔を逸らした。
「ちょっ!? ちょっと待って! 入るなら俺が出てからにして!」
「え? なんで? ユノも浸かっていきなよ」
「いくら仲良くても男女で一緒にお風呂に入るのはマズいよ! ──と、とにかく、俺は先に帰ってるから!」
言うが早いか猛スピードでその場を後にしたユノを見て、きょとんとしていたリュックが得心。
「あ、そっか、男の子なんだった」
「リュック、いつも忘れるよね」
「だって全然男の子って感じしないんだもん。頼りないって事じゃないんだけどさ、アニキ達みたいに声低かったり、ゴツゴツしてる訳でもないし……」
「まあ、女って言われても信じるよね。私も最初に見た時はそう思ったし」
「あ、やっぱりパインもそうなんだ?」
「でも、本人が男として扱って貰いたがってるんなら、あんまり弄らない方がいいんじゃないの」
「そうだね。本当に気にしてるのかもしれないし……」
「え〜? でも別に貶してる訳じゃないんだよ? 可愛いって褒めてるのになあ。あたしはそういうユノが好きだし」
「好きって、男として?」
「へ? まっさかぁ! ユノのことそういう風に見たことないよ〜」
「……可哀想に……」
「可哀想って、ユノだってあたしのことそういう風に見てないと思うけど」
「そんなの、本人に聞いてみないと分からないんじゃないの?」
「え!? も、もしかして本当に……!?」
と、慌てるリュックとそれを面白がっているパインに笑いながら、ユウナは心の中で思う。
きっと誰も知らない。気づいていない。
彼も、仲間達に何も言わない。
けれど、同じ運命を歩んでいた自分には。
新たなナギ節が始まったあの日、ルカで一緒に泣き喚いていた自分には、何となくわかる。
永遠のナギ節、その対価に失ったもの。
居なくなっても尚、その面影を追い求めてしまう相手。
彼の恋い慕う人は、きっと────