02.永遠の終わり

「……お前、何してるんだ?」

「う、ウノー……いや、これはだな……」

部下へのセクハラを目撃されて慌てるサノーと、突然の乱入者に目をぱちくりとさせているユノを見て、一瞬唖然となったウノーは、しかしそんな事はどうでもいいとばかりに早口で捲し立てる。

「そんなことより、侵入者だ! カモメ団の連中がいつの間にか屋敷に入り込んでたんだ!」

「そ、そうか。まぁどうせ狙いはスフィアだろうが……生憎と俺は今手が離せんのでな、先ずはお前が──」

「何言ってるんだ、さっさと行くぞ! もしスフィアを持っていかれたら、お嬢にどやされる!」

「あ、おい、ちょっと待て! 話を……!」

ウノーはサノーの襟首を掴むと、有無を言わさずに引き摺って行った。
目まぐるしい状況の変化にぽかんとしていたユノは、よく分からないが助かったと息を吐く。

「──って、そうじゃない! スフィア!」

目的を思い出したユノは、慌ててベッドから起き上がりサノー達を追った。

宝物庫と思しき部屋でサノー達と対峙するユウナ達を見つけて、ユノは先のお返しも込めて、そのままサノーの背中に飛び蹴りをお見舞いする。

「ぐおっ!?」

「皆! 大丈夫?」

「あっ、ユノ〜! 良い所に!」

「何ぃ!? お前ら、仲間だったのか!」

こうなれば、もう慣れない変装などする必要も無い。
リザルトプレートの力を借りて早着替えを済ませたユノは、地面に転がっているサノーを踏みつけてユウナ達の隣へ。

「ユノ、アーロンさんのスフィアは見つかった?」

「うん、今俺が蹴飛ばした人が持ってる。ユウナ達の方は?」

「バッチリ見つけたよ〜! ほらこれ!」

と、リュックは二つに割れたスフィアを両手に握ってユノに見せた。
ユウナ達が盗まれたものはその内の片方だけ。もう片方は、この部屋に置いてあったものらしい。

「二つに割れたスフィアなんて、どうして盗ったのか不思議だったけど……」

「スフィアの片割れを探してたんだね」

「大当たり〜!」

パインとリュックの言葉に答えたのはルブランだった。
床に転がったままのサノーと慌てるウノーにハリセンで喝を入れつつ、ユウナ達の前に立つ。

「散々苦労して集めたんだよ、ヌージの旦那の為にね。指一本触れさせるもんかい。お前達、やっちまうよ!」

「「へいっ、お嬢!」」

好きな人の為に危ない橋を渡ってスフィアを集めるなんて、なんて健気な……と一瞬ユノはルブランに感動したが、それが原因でこちらの大事なスフィアが盗まれたのかと思うと、やはり許せない気持ちの方が勝った。

指一本触れさせたくないのはこちらも同じ事だ。
ユノはサノーの二丁拳銃から放たれる弾丸を避けて、その懐に飛び込む。

「それに、さっきのセクハラも許せないです!」

「……セクハラ?」

「なっ、お前……!」

皆の訝しげな視線を受けて動揺するサノーの顎目掛けて、ユノは拳を振り上げた。
そしてその手で相手の胸倉を掴んで、鳩尾に膝蹴りを叩き込む。

それを見たパインは、ウノーやルブランの攻撃を大剣で捌きながら、感動と若干の畏怖を感じて言う。

「……見た目の割に、なかなか容赦ない攻撃するよね」

「いつもはもうちょっと控え目なんだけどねぇ……今日は怒ってるね……」

「大切な人の遺品を盗まれたら、流石にユノだって怒るよ。──それより、さっきのセクハラって何? ユノに何したの?」

「い……いや……それはだな……ちょっとした手違いと言うか……」

「何? ハッキリ言って?」

サノーと同じ拳銃使いのユウナは、冷ややかな笑顔と声色で凄みつつ、空になったマガジンを取り外して新しいものを装填。

リュックはそれを横目に見ながら、「あ、ユウナもキレた」とボソリと呟く。

「ユノの大事な大事なスフィアを持って行っただけじゃなく、セクハラまでしたの? 誰の許可があってそんな事してるのかなぁ」

「きょ、許可ってそんな無茶苦茶な……」

「言い訳無用! 成敗っ!!」

ユウナは補充したばかりの弾を全てサノー目掛けて撃ち出した。
避けきれず蜂の巣にされたサノーは撃沈し、ユウナはフッと銃口の硝煙を吹き消してホルスターに仕舞う。

「ユノ、大丈夫? 怖かったでしょ、助けられなくてごめんね」

「いや、怖かったとかじゃ無いんだけど……あ、有難うね……?」

ギュッと手を握り本気の心配をされたユノは、複雑な心境でぎこちなく礼を述べた。
せめて逆の立場なら格好もついたのだが。

程なくしてウノーとルブランもリュックとパインに沈められ、さてどうしてやろうかと躙り寄るカモメ団の一行に、観念したルブランが命乞いを始める。

「ちょ、ちょっと待っておくれよ! あのスフィア、見せてやるから……」

「……見せてやる?」

「……どうぞ、ご自由にご覧下さい……」

完全に白旗モードになっているルブラン達を見てスカッとした気分になりながら、ユウナ達は割れたスフィアを一つに合わせて、部屋にあった映写機にセットする。

ユノはその輪には入らずに、サノーの手から己のスフィアを取り返して、壊れていないか確認。

「何ともない……良かった……」

「ふ、フン。そんなに欲しけりゃ持ってきゃいいさ。結局何の役にも立たなかったし、盗り損だよ盗り損!」

負け惜しみ丸出しのルブランの発言に、そうと分かっていてもユノはムッとして反論する。

「貴方達にとってはそうでも、俺にとってこのスフィアは、何よりも大事な物なんです。俺の大好きな人が、俺を想って、俺だけの為にわざわざ遺してくれた、大切な大切な物なんです……」

このスフィアがあるから、あれからの二年を生きて来れた。
落ち込んで挫けそうになった時、このスフィアに残るあの人の姿に、声に、言葉に、どれだけ励まされたか分からない。

「……だから、もう二度と盗んだりしないで下さい」

まるで愛しい人にそうするように、スフィアを抱き締めて言うユノを見て、ルブランはその心境を理解した。

「なんだ……そういう事だったのかい。それなら、悪いことしたね。でも、そんなに大事なスフィアなら、簡単に盗まれるような所に置いておくんじゃないよ」

「え? いや、それはその通りなんですけど……」

どうしてこっちがお説教されているのかと困惑するユノに対し、警戒を解いたルブランは慰めるようにその肩を叩く。

「そのスフィアにどんなドラマがあったのかは知らないけど……死に別れても尚、お互いを思い続けるなんて泣かせるじゃないか。あたしはそういう純愛みたいなのに弱いんだ。あんた、色々辛い事もあるだろうけど、へこたれるんじゃないよ。きっと相手も、あんたの頑張りを見てくれてるさ」

「は、はぁ……そうですかね……?」

ルブランの変わり身の早さについて行けないユノは、あやふやな返事をするしか無かった。

一方、ユウナ達は壁に映し出されたスフィアの映像に映る巨大な兵器──以前キーリカの寺院から奪い、青年同盟に渡したものにも映っていた──を見て、息を呑む。

「大いなる存在、ヴェグナガンだよ。撮影地点も解析済みさ。どうやらベベルの地下らしいね」

「昔も今も、ベベルは隠し事だらけか」

「その通り! エボンの奴らは、大昔の兵器を隠し持っているって訳さ。こんなものが使われたら、スピラの一大事だよ」

「でも機械なんでしょ? チョイチョイって、分解するとか壊すとかすればいいんだよ」

「ヌージの旦那はその気だよ。旦那が言うなら、勿論あたしもね。──で、あんたは?」

「私?」

「シンを倒した召喚士なら、スピラの為に立ち上がらなきゃ」

ルブランにそう発破をかけられて、ユウナはしっかりと頷いた。
ほか三人は「こうなると思った」と言いたげに目を見合せて微笑する。

「じゃああたしらは仲間って事だ。先行って待ってるから、宜しく」

「……待つ?」

「決まってるだろ? あんたらの飛空挺さ。アレで一遍飛んでみたかったんだよねぇ」

「えっ……一緒に来るんですか!?」

「勝手に決めるな〜!」

さっさと駆けていくルブラン達を、いやまさか、冗談だろうと思いつつ追いかける。
が、どうやら本気だったようで、ユウナ達が到着した頃には、ルブラン達は好き勝手に飛空挺内を走り回っていた。

説明も無しに乗り込んできたルブラン達に手を焼いているアニキとダチに、ユウナが事のあらましを説明する。

「事情は分かったが……信用して大丈夫なのか?」

「どうだろう。嘘は言ってないと思うけど……」

「嘘は言ってなくても、裏切る可能性は大いにあるな」

「まぁいいんじゃない? その時は、飛空挺から突き落としちゃえばいーんだよ」

「ま、それもそうか」

「あ、でも、あの人はユノには近づけないでね。セクハラしたから」

「は? セクハラ?」

「なんだとぉ!? 貴様、オレ達のユノになんって事を!!」

話を聞くなりサノーを成敗しに行ったアニキに、リアクションに困ったユノは苦笑。

「具体的には何されたんだ? ユノ様」

「えっ? いやあの、男として惨めな気持ちになるので、あんまり詳しく言いたくは無いんですが……俺はともかく、ユウナ達に同じ事したら殺します」

「ユノがそこまで言うなんて、あいつよっぽどの事したんだねぇ」

「そうか……悪い、俺が面白がって女の格好で行かせたからだな」

「そんなのダチさんのせいじゃないですよ。面白がってっていうのはちょっと聞き捨てならないですけど」

「とにかく先ずはベベル直行だよ。飛空挺、発進!」

カモメ団の心境など意にも介さず、ノリノリで号令を飛ばすルブランに、皆はヤレヤレと肩を竦めた。

「ベベルに行くのはいいんだが、ユノ様はどうするんだ? このまま俺達について来るのか?」

「あ、はい。お邪魔じゃなければ、そうしたいです」

「こっちは全然構わないが……キーリカの事気にしてただろ。話にあったベベルの兵器も相当ヤバそうだし、ついて来ると危ないかもしれないぞ。気遣ってるだけならやめといた方が……」

「いえ、そうじゃなくて。俺も、あんな兵器を使おうとしてるなんて話聞いて、放っておけないです。それに危ないのなら尚更、そんな所にユウナ達だけでなんて行かせられないですから」

ね! と本人としては格好良い事を言っているつもりのユノに対し、ダチやユウナ達は微妙な顔。

「その心意気だけは本当に立派なんだけどなぁ……う〜ん……」

「大丈夫だよダチさん、ユノの事は私達が守るから。心配しないで」

「そーそー、無理矢理置いてっちゃうと却って危ないよ。一人で追っかけて来そうだもん」

「そうか……? まあ、ユウナ達がそう言うんなら任せるが……」

三人の間で小声で交わされる会話を聞いて、パインは聞こえていないユノに哀れみの眼差しを向けた。
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