02.永遠の終わり
ザナルカンドと同じく、長い歴史を持つスピラ最大の都市、ベベル。エボンの総本山である宮殿の置かれたこの地は、二年前に旅をしたメンバーにとって、良くも悪くも思い出深い場所だ。
シーモアに唆され、ユウナ達と袂を分かつ寸前だった当時の自分の行いを振り返って、ユノは空を仰ぐ。
(……アーロンさんのこと、いつから好きだったのか自分でもよく分からないけど……あの時にはもう好きになってたなぁ)
自分の価値を疑って、自己犠牲に走ってばかりだったあの頃の自分を、それでも彼は見捨てずに居てくれた。
何も言えなかったのに、何も言わなくても、彼はこちらの考えを汲み取ってくれた。
強引で、けれどとても優しさに満ちた言葉を、今でも覚えている。
彼が居なければ、本当にあのままシーモアと行っていたのかもしれない。
何も分からないまま次のシンを生み出して、スピラを滅茶苦茶にしていたのかもしれない。
そうならなくて良かったと、二年経って成長したユウナ達や、少し雰囲気の変わったベベルの街並みを見てユノは思う。
「で、どういう作戦で行く?」
「う〜ん……」
「偉い奴をふん捕まえる! これだね! で、ヴェグナガンの所へ案内させればいいのさ」
「ターゲット決定! 新エボン党議長、バラライ!」
「大人しい優男だ。護衛無しでは何も出来まい」
「……それが、結構強いんだよな」
サノーの言葉に反論したパインに、知り合いなの? という疑惑の視線が集まる。
だがその真偽を確かめる前に、エボン党の兵士達が集まってくる。
「お前達は……ふん、青年同盟の回し者か! キーリカのようにはいかんぞ!」
「えっ? あっ……」
────そうか、それがあったんだった。
大召喚士という肩書きのお陰で、これまで新エボン党の人々とは良好な関係を保てていたユノは、この場も穏便に乗り切れるだろうという気持ちでいたが、相手の発言で認識を改めた。
大召喚士はともかくカモメ団≠ヘ、今の新エボン党にとっては、青年同盟に加担した憎き連中でしかない。
「じゃ、後は頼んだよ!」
「じゃ、って……」
カモメ団を囮にしてさっさとその場から逃げて行ったルブラン達に呆れつつ、残った四人は渋々兵を蹴散らす。
これは先が思いやられるなと、あちこちに散見される兵の姿に四人は辟易としたが、何故か襲われたのはその一回きりで、他の兵はカモメ団に見向きもせず素通り。
「あれ? 大丈夫……なのかな?」
「なんだか慌ただしいね……何かあったのかな」
「聞いてみる〜? バラライがどこに居るのかも分かんないし」
「自分から捕まりに行ってどうするんだ。いいから、今の内に先へ進むよ」
「はぁ〜い」
ベベル宮へ入り、昇降機を使って下へと降りて、かつて通ったことのある道──祈り子様の部屋へと続く試練の間を通って、一行は最奥まで辿り着く。
かつてはここに祈り子の像があり、道はここで行き止まりとなっていた筈なのだが、今は像の代わりに巨大な大穴がぽっかりと空いている。
縁から覗けば、照明に照らされて、下にも空間が広がっているのが見えた。
だが流石にこの高さでは飛び降りるのは無理だろうとユノは身を引っ込めたのだが、ユウナ達は躊躇いもせずにひょいとその穴へと飛び込む。
「えっ!? ちょっ……ユウナ!?」
なんて無茶な、とユノは青ざめたが、女子三人は危なげもなく着地し、下から手を振ってくる。
「何してるのー? 早くおいでよ!」
「え、えぇ……?」
俺の感覚がおかしいのだろうか。
ユノは分からなくなりながらも、縁に座って足を伸ばし、なるべく着地点と現在地の距離を狭めた上で、思い切って飛び降りる。
そしてユウナ達のように軽やかに着地──とは行かず、下にあった瓦礫の山につんのめって、べしょりと地面に倒れる。
「わっ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……痛いけど……」
どうして自分はこうなのだろうと悲しみに暮れながらも、ユウナとリュックに助け起こされて、ユノはのそのそと立ち上がった。
そして、先に来ていたらしいルブラン達と共に、そこにある光景に目を見張る。
「……凄い……」
「な……なにアレ〜!?」
「ここまで大袈裟な秘密だと、却って笑えるな……」
広大な空間を埋め尽くす、機械仕掛けの建造物。
それ光景はさながら、1000年前のザナルカンドのよう。
機械を禁じていたエボンが、秘密裏に機械を使っていた事は既に周知の事実だが、まだこれほどの規模の機械を隠し持っていたとは。
圧倒されつつも、一行は侵入者を感知して作動した防衛機構を排しつつ、更に奥へと進む。
そして別の部屋にある巨大な機械を見たリュックは、不意に「あ〜!?」と声を上げた。
「ユウナ! あいつが映ってたスフィアって、ここで撮ったんじゃない?」
確かに、そう言われてみれば、ティーダによく似た人物が映っていた例のスフィアの背後には、こんな機械があったような気がする。
(ヴェグナガンを追って行けば、あのスフィアの謎も解ける……のかな? でも、それで明らかになる真実って、ユウナにとって良いものなのかな……)
同じように思っているのか、悩ましげに機械を見上げていたユウナは、ルブランにせっつかれて再び歩き出す。
そしてその先で、やっと目当ての人物の姿を見つけた。
「誰かと思えば……カモメ団の皆さんですか」
「えっと……この人がバラライさん?」
「そ。ユノ、会ったことないんだっけ?」
「うん。キーリカに居る新エボン党派の人達を通して、何度かやり取りした事はあるんだけど……直接会うのは初めてだよ。リュック達は知り合い?」
「まぁね〜。キーリカでユノと会う前にベベルに寄っててさ、その時にちょっとね」
小声でそんな応酬をする二人の前で、サノーが言っていた通りの印象を受ける柔和な雰囲気の青年は、何も答えずに相手を見据えるユウナを見て、はぁと息を吐く。
「……言わなくても分かりますよ。あなたの事だ、スピラを脅かすヴェグナガンを破壊しに来た……そんな所でしょうね。僕らだって、壊せるものならとっくにそうしている。でも、あれに触れてはならないんだ。君らもヌージも、それを分かっていない」
「……ヌージとは話したのか?」
「あいつは……信用出来ない」
「あんただって」
「エボンは信用が無いな……自業自得か。──とにかく、手出しは無用です。ヴェグナガンは僕に任せて」
「どうするつもりですか?」
ユウナのその問いに、バラライは武器を構える事で応えた。
「僕に出来ることは、ヴェグナガンを壊しに来る者達を排除すること……帰って下さい」
「そんな、どうして……!?」
壊せるものならそうしている、という言葉が本当なのなら、目的はこちらと同じ筈なのに、どうして戦わなければならないのか。
バラライの考えがわからずに困惑するユウナ達を尻目に、パインは一人、剣を手に前に出る。
「皆……ごめん」
「──パイン!」
二人はそのまま戦闘を始めてしまい、他の面々は訳も分からぬままそれに巻き込まれてしまう。
「パインさんとバラライさん……ヌージさんもだけど、何か因縁でもあるの?」
「知らないよ〜! 前に会った時は何も言ってなかったもん!」
「でも、きっと何かあるんだと思う。とにかく今は、この戦いを何とかしないと……!」
バラライの事情もパインの事情も分からないが、バラライの言葉に従って大人しく帰る訳にもいかない。
見た目に反して相当な練度で双頭刃を繰るバラライに苦戦を強いられつつも、一行は何とか彼を退かせる事に成功した。
パインは剣を収めて、納得いかない顔をしている皆を振り返って言う。
「私……行くから」
「……訳あり、なんだ?」
「後で話してよね!」
「……ずうっと後でな」
先に一人で行ってしまうパインを、リュックが慌てて追いかけて行く。
まあ、誰にだって言いたくない事はあるよねとユノは苦笑しつつ、ユウナと共にそれに続いた。