03.焦がれ消えぬ漣

ルブラン一味と別れ、ユノとカモメ団女性陣が戻ってきた飛空挺内は、断続的に鳴り響くアラート音と、回転灯の赤い光で満たされていた。

聞けばあちこちの寺院から魔物が溢れ出てきているらしく、このアラート音はその寺院周辺の人々からの救難信号らしい。

「あちこちの寺院って、まさかキーリカもですか……!?」

「ああ。あとはビサイドもだな」

どうしてこう、悪い事というのは連続して起こるのだろう。
何にせよ放ってはおけないと、ユノはキーリカに自分を降ろしてくれと皆に頼む。

「我儘言ってごめんなさい。でも、俺すぐに戻らないと……」

「待って、ユノ一人で行くつもりなの? 私達も一緒に行くよ」

「有難う。だけど、これはスフィアハンターの仕事じゃないし……ビサイドも被害に遭ってるなら、ユウナ達はそっちに行かないと」

「だからって、一人で行ってどうする? 相当な数の魔物みたいだし、あんた一人じゃ焼け石に水だろ」

パインの言うことはもっともだが、ユノは自分の我儘に皆を付き合わせる気にはなれなかった。

どうすればと悩む一行に、リュックは頭を捻らせて、ピンと名案を思いつく。

「じゃあさ、お助け屋カモメ団ってどうかな? 」

「魔物を退治して金を取るって事か?」

「そ! 依頼って形なら、ユノも遠慮しなくて済むでしょ?」

「それは……でも、どっちにしろビサイドを優先した方が……」

「ビサイドにはワッカさん達が居るから、少しは持ち堪えられると思うんだ。だから、キーリカを優先しよう」

「……ほ、本当にそれでいいの?」

「うん。皆もそれでいい?」

「いいんじゃない」

「さんせ〜!」

と、アッサリ話は纏まって、飛空挺はキーリカへと向かう事に。
次々に入ってくる情報を捌きながら、ダチは未だ暗い顔をしているユノを手招き。

「大丈夫か? さっき泣いてたみたいだが」

「えっ!? あ、もしかして聞こえてましたか?」

恥ずかしいと顔を赤らめながら、ユノはベベルであった事──バラライとのやり取りや、何故か復活した召喚獣が襲いかかってきた事などを説明した。

「それで……その時に、スフィアも壊れてしまって……」

「えっ、ルブラン達から取り返したやつか?」

「はい。すみません、せっかくダチさん達にも手伝って貰ったのに……」

こんな事なら、持ち歩かずに家に置いておけば良かっただろうか。
いや、置いていればルブラン達のように盗んでいく者も居るのだから、結局は絶対に安全な方法など無いのだろう。

でも、それでも、ユノは後悔せずには居られなかった。
二つに割れる程度ならまだしも、あそこまでバラバラに砕けてしまったスフィアを復元することは不可能だ。かつてシーモアに殺されたジスカルの遺言がそうだったように。

もう二度と戻らない──その事実に、また悲しい気持ちが涙と共にせり上がってくる。

「い、今はそんなこと言ってる場合じゃないですよね。何から何まで手伝って貰ってすみません、有難う御座います」

連戦になるだろうし、今のうちに消耗品の補充をしておかなければと言って、ユノは足早にその場を離れた。

それが涙を見せまいとしての行動だと分かっているダチは、大丈夫だろうかとその背中を見送りつつ、同じようにユノを見つめていたユウナを呼ぶ。

「なあ、ユノ様のあのスフィアって、一体何だったんだ?」

「あれはアーロンさんが遺したスフィアなんだ。アーロンさんって言うのは……ダチさんは多分知ってると思うんだけど、二年前に私達と一緒に飛空挺に乗ってた……」

「ああ、あの人か。成程なぁ。じゃああのスフィアは、恋人からの贈り物だったんだな」

「……え? 恋人?」

飛空挺に乗ってたユノのガード、と続けるつもりだったユウナは、ダチの言葉に目を丸くした。

「あれ、違ったか?」

「こ……恋人だったかどうかまでは、私は知らないんだけど……ダチさん、誰からそう聞いたの?」

「別に聞いた訳じゃないが……」

キスしてるとこ見たんだよなぁ、と、ダチは言うべきかどうか悩んで、結局言わなかった。

二年前、シンとの決戦を目前に控えていた時、飛空挺の片隅で抱き合っていた二人を見て、色々と衝撃を受けた事を思い出す。

(あんな堂々としてるから、てっきり公認なんだと思ってたが、そういう訳じゃないのか……?)

戸惑うユウナを見ながらダチは考えて、「まあ自分もよくは知らないが」とフォローを入れる。

「でも、仲良かったのだけは確かだからな。それであんなに落ち込んでるのか」

「うん……召喚獣の事もショックだっただろうし、励ましてあげたいんだけど……」

「召喚獣の件がショックなのはユウナも同じだろ? あんまり無理するなよ」

「うん、有難う。ダチさんも、疲れたら休んでね」

とは言え今は休む暇もないかもしれないけどと、ひっきりなしに入ってくる通知を見ながら、ユウナは苦笑した。
ダチは片手でパネルを叩きながら、こっちは任せとけと微笑みを返す。

(しかしまあ、どっちのお相手も、なんで二人を残して逝っちまうのかね)

シンを倒したあの日。
飛空挺内に戻ってきた面々の中に、アーロンとティーダの姿は無かった。
故に二人が居なくなった事は、世間には知られずとも、二年前に飛空挺に乗っていたメンバーは皆知っている。

どうして居なくなってしまったのか、詳しい事は聞かされていないが、それがどれだけユウナやユノにとって辛いことだったのかは、彼女らを見ていただけでも伝わってくるものがあった。

特に気を失って運ばれてきたユノの精神的なダメージは火を見るより明らかで、ユウナはそれについて「多分、私と違って心構えが出来てなかったんだと思う。急なことだったから……」と語っていた。

意識が戻るまで何度も何度もアーロンの名前を呼んでいた彼は、その数日後にキーリカへと帰って行った。

「あんな状態で、一人にして大丈夫か?」

「あたしも心配だし、本当は連れて行きたいけど……ユノがキーリカに戻るって言うんだもん、しょーがないよ」

リュックとそんな会話をしたのは、ユウナ達と共にビサイドに滞在していた彼女を迎えに行った時の事だったか。

今こうして実際に会ってみれば、思っていたほど酷い事にはなっておらずにホッとしたものだが、まだ完全に立ち直れてはいないのだろう。
そんな状況でこんな事が起これば、参ってしまうのも無理は無い。

(可哀想に……せっかく頑張ってシンを倒したのに、その先のナギ節がこれじゃあな……)

大召喚士ともなれば、それはもう華やかな人生を歩めるのだろうと思っていたのだが、今のユノはそれとは程遠い。

何とかしてやりたいが、それよりも今はまずユノの故郷を救うところからだなと、ダチはキーリカからのSOSに返信を送った。
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