03.焦がれ消えぬ漣

「あれ、ダチ達も一緒に来るの?」

キーリカに到着し、飛空挺から降りたリュックは、ユウナ達に続いて降りてきたダチとシンラを見て不思議そうに言った。

「僕は通信スフィアの設置」

「俺はお助け料の値段交渉」

「お代はユノが払うって言ってたから、戻ってからすればいいんじゃないの?」

「島の代表とは言え、ユノ様に払って貰うのはなんか違う気がしてな。ユノ様は助けに行く側だし」

「あー、それもそっか?」

そんな三人を含めた団体の先頭を行くユノは、魔物が出たという報せに対して、街は特に変わり無くいつも通りである事に首を傾げていた。

道行く人を捕まえてどういう事かと問うと、返って来たのはこんな言葉だった。

「ああ、確かに魔物が出たって、寺院の連中が騒いでましたけどね、本当かどうか怪しいもんですよ。前のスフィアの腹いせに、また何か企んでるだけじゃないですかね?」

「え……? あの、確かめに行って無いんですか?」

「そりゃあそうですよ。ずっと前から通行止めにしてるのはユノ様もご存知でしょう? 仮に本当だったとしても、新エボン党派の連中を俺達が助ける義理はありませんよ」

「そ、そんな……」

さもそれが当然のことであるかのように言う男性に、ユノは愕然とした。

二派の対立が深い事は知っているし、理解もしているつもりだった。
けれど、だからと言って、今この時にも寺院に居る人々は魔物と戦っているのかもしれないのに。命を落とす人が居るかもしれないのに。

ユノは寺院への道を塞いでいる門番にも同じ質問をしたが、先と似たような返答を貰うだけだった。
せめて自分達だけでも通して貰えないかと頼んでも、聞けぬ通せぬの一点張り。

こんな時にまで、党だ同盟だなんて事を気にするなんて。
どちらも同じ島に住む仲間なのに、ナギ節が来る前はこんな風では無かったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

これも全て自分が島主として不甲斐ないせいだろうかと落ち込みかけたユノは、今はそんな場合じゃないと己を叱咤する。

「ええと……そうだ、ドナさんなら何か知ってるかも。ちょっと聞いてきますね」

「あ、なら私も行くよ」

「あたしもー!」

あまり大人数で押しかけるのもどうかと思い、立候補したユウナとリュックだけを連れて、ユノはドナの家を訪ねた。

「あらあらあらあら、誰かと思えば……大召喚士様が二人揃って、一体何の用かしら?」

「すみません、長いこと不在にして……あの、寺院に魔物が出たって聞いたんですけど……」

「らしいわね。私も直接見た訳じゃないから、真偽は分からないけど」

「確認してないの?」

「私は青年同盟派。寺院に入れて貰えると思う? お陰で、あいつの仏頂面も随分見てないわ」

「仏頂面って……バルテロ?」

バルテロ、というのは、かつて彼女と共に旅をしていた彼女のガードの名だ。

そう言えば、二人は以前から新エボン党派か青年同盟派かで喧嘩していたんだったなと、ユノはこの家の近隣住民から寄せられていたクレームの内容を思い出す。

「なら、寺院の状況を確かめるついでに、バルテロさんの様子も見て来ますね」

「そんなに行きたいなら止めないけど、森への門は通行止めなのよね」

「それなんですよね……どうしようかなぁ……」

「もうさー、強行突破しちゃえば?」

相変わらずリュックの家系は問題の解決方法が過激だなぁと苦笑しつつ、しかし他に手が無ければそれしかないかと腹を括りかけたユノに、ドナが提案。

「私が門番を引き付けておくから、その隙に通って頂戴」

それだけ告げてさっさと出ていくドナを、「やっぱり気になってるんだ」とヒソヒソ声で揶揄いつつ、三人も追いかける。

そうして、外で待っていたパイン達も合流し、ドナの作ってくれた絶好のチャンスを逃すまいと、一行はタイミングを見計らって門を走り抜けた。

門の先に広がる森では、あちこちで火の手が上がっていた。
魔物がやったのか、はたまた魔物に対抗しようとして誰かが火を放ったのかは分からないが、これでは寺院に居る人々の退路まで塞いでしまう。

「……ユノさま? ユノさまだ!」

不意に幼い子供の声が聞こえたかと思うと、黒煙の中から煤だらけになった少女が駆け寄ってきた。
汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにしているその少女は、ユノの脚にしがみついて泣きじゃくる。

「助けてユノさま……! 寺院から魔物がたくさん出てきて、みんなが……!」

「わかってる。ごめん、来るのが遅かったよね。でももう大丈夫だから……」

ユノは屈んで、その小さな体を抱きしめ、少女が落ち着くのを待った。
その間にも、あちこちから似たような様相の島民達が命からがら逃げてくる。

「おお、ユノ様! 戻られましたか! どうか寺院へお急ぎ下さい。まだ多くの者が取り残されておるのです!」

「ユノ様! どうか助けて下さい! 寺院にはまだ私の夫が……!」

「大召喚士様! 助けに来て下さったのですね! 魔物は寺院の奥です。ご武運を!」

皆がユノにかけるそんな言葉に、追ってくる魔物を斬り倒していたパインは呆れた様子で呟く。

「どいつもこいつも、こういう時だけ島長に頼るんだな。党と同盟でモメてた時は耳を貸さなかったくせに」

「ホントだよ。ユノが怒らないからってさぁ」

ユノは自分を気遣ってくれる二人に内心感謝しつつ、泣き止んだ少女を見送って立ち上がる。

「確かにちょっと調子いいかなって思わなくもないけど……でも、今はそれだけ大変な状況って事なんだと思う。それに、例えお飾りでも、俺はこの島の代表だから。この島を守ることは俺の義務で、俺のやりたい事でもあるから……だから……」

「放っておけない、助けたい、だよね?」

ユウナの言葉に頷いたユノは、炎の先へ行く為に近くの木を登り始めた。
そのまま橋のように伸びている幹を伝って進んでいくユノに、彼と同じ気持ちのユウナも続く。

「……もしかして、召喚士ってお人好しのことを言うのか?」

「まあ、元はスピラを救う為に自分の命を差し出そうとしてた人達だからなぁ」

「そういう優しいところが、ユウナとユノの良いところでもあるけどね〜」

「でも、あれじゃ周囲の都合の良いように利用されるだけだ」

「そうさせない為にあたし達が居るんでしょ? さ、行こ行こ!」

そんなやり取りをしつつ、リュック達もユノ達を追って炎の上を走り抜けた。

森を抜けた先、寺院の前の広場には、戦闘用の機械人形が整然と並んでいた。
寺院の人々は慣れない手付きでその機械を操っており、見兼ねたリュックとダチが助太刀に向かい、シンラは通信スフィアを寺院の入口に置きに行く。

「あの機械はどうしたんですか?」

「本部から一時的に借り受けたものです。寺院に機械を入れるなど本来あってはならない事なのですが、この状況ではそうも言っておられず……どうかお許し下さい」

苦々しい顔で頭を下げる僧に、ユノは「今更そんなことは気にしなくていい」と首を振って状況を尋ねる。

「戦える者は寺院の中で魔物と交戦しております。そうでない者は街へ避難させているのですが……人手が足りず難航しております」

「なら魔物は俺と、カモメ団の皆さんに手伝って貰って何とかします。貴方は他の方々と一緒に避難を始めて下さい」

「承知致しました。どうか頼みます……」

僧は広場に居る人々に声をかけて回り、残ることを希望した者以外を連れ、街へ続く階段を下りて行った。

残っている人々の中には子供も混じっており、ここに居ては危ないからとユノ達は避難を促したのだが、相手は「親が帰って来ない」と泣きながらそれを拒む。

森に散ってしまった魔物がいつまたここに戻って来るとも知れない状況で、戦えない者を置いては行けないが、かといって寺院の中を放置して自分達がここに留まるわけにもいかない。

困り果てるユノに、機械のレクチャーが終わったダチが「そういうことなら」と広場の護衛を引き受ける。

「え、でも、大丈夫なんですか?」

「平気平気。俺だってスフィアハンターとしてそれなりの危険は乗り越えて来てるからな。それより、危ないっていうなら中の方がよっぽどだろうし、そっちも十分気をつけてな」

「分かりました、有難う御座います」

ぺこりと頭を下げて、迷いの無くなったユノはユウナ達と共に寺院の中へ。
傷付きその場から動けなくなっている人々を助けながら通路を進んで行くと、丁度魔物と交戦中だったバルテロと遭遇した。

挨拶は後にして加勢し、続けざまに何体もやってくる魔物を全て倒し切ると、力尽きたバルテロがその場に倒れる。

「バルテロさん! 大丈夫ですか?」

「あんた達は……助けに来てくれたのか……すまない……」

「ずっとここで戦ってたの?」

「ああ。だが倒しても倒しても出てくるんだ……次から次へと……! 魔物が島中に広がったら、ドナが……!」

白魔法で怪我を癒し終えたユノは、バルテロのその言葉に微笑む。

「ドナさん、心配してましたよ」

「そうそう。会いたがってたよ。素直じゃなかったけど」

「俺もドナに会いたい。信じる道は違っても、ドナを想う気持ちは変わらない。召喚士の時代は終わっても、俺は生涯ドナのガード! ドナを護る事が、俺の生きる道!」

「……言ってて恥ずかしくないか?」

パインの冷静なリアクションを他所に、居ても立ってもいられなくなったバルテロは、回復するなりドナの名を叫びながら外へ走り去って行った。
あの調子なら大丈夫そうだと、四人は笑いながら見送る。

(それにしても……生涯ガード、かあ。素敵だな。羨ましいなぁ……)


――――もし、あの人が生きていたなら、同じように言ってくれただろうか。

あの二人の様に、何かのきっかけで喧嘩する事があっても、変わらず互いを愛し続ける仲で居られたのだろうか。


ユノはそれを思い描こうとして、今はそんな空想に浸っている場合ではないと頭を振り、再び歩み始めた。
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