03.焦がれ消えぬ漣
「――って事で、他の寺院も見て回りたいんだけど……ダメ、かな……?」寺院を巡るのに飛空艇を使う以上、同乗しているユウナ達も巻き込んでしまう事になるので、ユノは帰ってきたユウナ達に早速お伺いを立てた。
「もちろん良いよ! 私も気になるし」
「あたしも良いんだけど……ユノもユウナも大丈夫? 無理してない?」
「うん、大丈夫」
「平気だよ」
と、頷く二人に、リュックは不安げな表情でパインと顔を見合わせる。
「……ま、いいんじゃない。本人がやりたいって言ってるんだし」
「う〜ん……そう、だよね。うん。本人の気持ちも大事だもんね」
リュックは心配な気持ちを自分で説き伏せて、よし! と気合を入れる。
「じゃあ次ね! 次の寺院はえーっと……あと残ってるのって何処だっけ?」
「行ってないのは、マカラーニャとジョゼ、だね」
「ああ、ジョゼはお助け不要らしいぞ」
四人の会話を聞いていたダチが、座席で画面を叩きながら言った。
「え、魔物が出てないって事ですか?」
「いや、自分達で何とかするらしい。あと、ヌージとバラライが行方不明だってよ」
「なるほど。よし、ほっとけ!」
操縦席に座っているアニキが、ハンドルを回しながら答える。
彼は基本的にユウナのこと以外には興味が無いらしい。リュックはやれやれと肩を落とした。
「で、どうする? ジョゼは飛ばしてマカラーニャ寺院か?」
「でもジョゼの寺院って、今はマキナ派の人達が使ってるんですよね? リュックは気になるんじゃ……」
マキナ派はアルベド族の人々によって作られた組織だ。青年同盟と新エボン党と並ぶ勢力の一つではあるが、衝突の耐えない他二つと違って中立の立場を貫いている。
それ以上の事は知らないが、アルベド族の団結力の強さなら知っている。彼らはひとつの大きな家族のようなものなのだ。
その家族に危険が迫っていると聞いて、心配でないことは無いだろうと、そんな想いでユノはリュックに尋ねる。
「ここからマカラーニャ寺院に行くなら途中で通るし、先にちょっと寄って、様子だけでも見てみない?」
「ん〜……じゃあ、そうしてもいい?」
「賛成! アニキさん、そういう事だから、ジョゼの寺院にお願い」
「まかせろ!」
ユウナの言葉にアニキが意気揚々と返して、飛空艇はジョゼへ向かった。
ヌージが行方不明、という話も気にはなったので、ユウナ、リュック、パイン、ユノの四人は寺院の手前のキノコ岩街道で降りて、青年同盟の本部に顔を出す。
「カモメ団ですけど、魔物は?」
「ご安心下さい! 一時は本部の近くまで魔物に侵入されたんですが、ジョゼに居るアルベド人達の協力で退治出来たんです」
「それってギップル?」
「はい。この機械も彼らが」
青年同盟のヤイバルはリュックの質問に肯定しつつ、本部の出入口に配備されている機械兵器を指した。
リーダーが不在でどうなっているかと心配したが、大きな被害が無くて良かったと皆は安堵しつつ、寺院に向けて歩き出す。
「ギップルさんって、マキナ派のリーダー?」
「そうそう。ユノはまだ会ったことないんだっけ?」
「うん。ユウナ達はもう会ったの?」
「前に発掘作業のお手伝いに行ったことがあって、その時にね」
「発掘……? なんの?」
「マキナ派って、新しい機械の発明とかやってるんだけどね、その改良の為のパーツ集めを、ビーカネル砂漠でやってるんだ」
そうなんだ、と返しながら、ユノは2年前の砂漠の記憶を回顧していた。
ガード衆とはぐれて、ユウナと二人で彷徨ったこと。親切なアルベド人が彼らのホームに招いてくれたこと。そのホームが襲撃されて、ベベルへ連れて行かれたこと。
(……そう言えば、ホームってあの後どうなったんだろう? ベベルの件ですっかり頭から抜け落ちてたけど……)
ホームが襲撃された理由は定かでは無いが、自分やユウナが匿われていたことも無関係では無い筈だ。
あの場に居た人達はどうなったのか。攻撃を受けボロボロになってしまったであろうホームは再建出来たのか。
今更ながらに気になったが、聞けば辛いことを思い出させてしまう。
ユウナ達と談笑するリュックを見て、ユノはその笑顔を壊すまいと、疑問を胸の奥にしまった。
「よお、シドの娘!」
そうして、ジョゼの寺院につくなり、笑顔でリュックを小突きにやって来た青年を見て、ユノがユウナに尋ねる。
「あれがギップルさん?」
「そうだよ。それにしても、リュックと仲良いねぇ」
「昔付き合ってた」
「「えっ!?」」
声を揃えて驚くユノとユウナに、真っ赤になったリュックがギップルを突き飛ばす。
「ハシミッセンオ!?」
「ははっ! いい反応するなぁ」
「え、あれ、冗談……?」
「そこはご想像にお任せって事で。ところで、そっちのあんたは? カモメ団の新入り?」
「あ、初めまして。ユノって言います。カモメ団の一員ってわけじゃないんですけど……」
「ユノ……? なんかどっかで聞いた名前だな」
「そりゃそうだよ。大召喚士様だもん」
「ああ! 成程な、どおりで――――って、え、マジ?」
リュックとじゃれていたギップルは、ズカズカとユノの前までやって来ると、至近距離でじっと観察。
「アンタが大召喚士ユノ? 本当に?」
「は、はい。えと、何かおかしいですか……?」
「いやだって、ユノ様って男って話じゃなかったか?」
「? はい、そうですけど……?」
それがどうした、という気持ちでユノが返すと、ギップルは訝しげにペタペタと胸の辺りを触り始める。
そこで漸く、ユノは自分の性別を疑われていることに気付いた。
「おお、本当に男だ」
「ちょっとギップル! それセクハラ!」
「悪い悪い。想像してたのとだいぶ違ったんでな。まさかこんなヒョロッこいとは」
「ひょろっこい……」
確かにギップルに比べれば見劣りするだろうが、これでも鍛えてはいるのに。
先のギップルよろしく自分の体を触って落ち込むユノを、隣のユウナが励ます。
「で、今日は何の用? 発掘なら今はやってないぜ。それどころじゃないからな」
「ここも出たんでしょ? 魔物。退治してあげよっか?」
「魔物退治ねぇ……スフィアハンターは廃業?」
「休業! 今はお助け屋をしてるの。良かったら、私達に任せてみません?」
「やだね。もうシンの時代じゃないんだ。これ以上、召喚士に甘えてたまるかって。こんな突っついたら倒れそうな奴が大召喚士だって知ったら尚更な」
「なにさ〜、ユノだってやる時はやるよ? こう見えて結構強いんだから!」
「リュック、フォローしてくれて嬉しいんだけど、こう見えて≠ヘ出来れば省いて欲しい……」
「あ、ごめん」
「強いのは知ってるって。何せシンを倒したんだからな。でも、だからっていつまでも召喚士に頼っちゃあ、カッコつかないってこと。自分の世話は自分でするさ」
「カッコつけ〜」
「無理しないでね」
「あんたこそ」
ギップルはユウナ達とそんなやり取りをしつつ、しょぼくれているユノの額を指で押して、強引に上を向かせる。
「あんたも。さっきのは別に、馬鹿にして言ったんじゃないからな。ただ純粋に吃驚したんだよ。こんな可愛らしいのが、あんなデカいのと戦って勝ったのかって。大変だっただろ」
「はぁ……」
「あんたは立派に務めを果たしたんだ。なら、今度は俺達が頑張る番。だろ? あんたみたいなのが無理して戦う必要、もう無いんだって」
「…………」
「魔物騒ぎが落ち着いたら、また発掘作業も再開するし。手伝ってくれるってんなら、そん時にヨロシクな」
じゃあな、と手を振って、ギップルは寺院に戻って行った。
リュックはそれを見送ってから、申し訳なさそうにユノに謝る。
「なんか色々ゴメンね。ちょっとデリカシーに欠けるけど、悪いヤツじゃないんだよ」
「うん、それは分かるよ。大丈夫。優しい人だなって思ったし……リュックの友達って感じだよね」
「……それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「ホントに〜?」
明るくて、仲間想いで、いつも前向きで、ちゃんと自分の足で立って歩いている。
リュックやギップルに限らず、アルベドの人は皆そんな感じだ。
(……格好良いな、本当に)
憧れる。自分もそう在りたい。
だからこそ、彼と自分との圧倒的な違いが悔しくて、悪意なく言われた自分を案じてくれる言葉も、小さな棘になってチクチクとユノの胸に刺さった。