03.焦がれ消えぬ漣
「結局、魔物が出てきた理由は分からず終いか」飛空挺に戻ってアニキ達に結果を報告し終えたユウナ達は、今後の活動方針を決める為に円になって話す。
「これで終わりならいいんだけど、原因が分からないと不安、だよね……」
「魔物が出てきたのは、ユウナ達がベベルに行った直後だったな。ベベルで召喚獣が出てきた時、他に何か気になることとか無かったか?」
「ダチ、その顔のケガどーしたの? アニキも」
「「ロッソテ」」
「ベベルでは特には何も……ヴェグナガンも無かったし……」
「あ、そーだ! あの時、ルブラン達が撮影してたよね? あれに何か映ってるかもよ」
「じゃあ、見せて貰おっか。グアドサラムに居るかな?」
「今は休業中らしいから、多分な」
「休業中? なんで?」
「ヌージさんが居なくなったから……じゃないかな?」
「あ〜、なるほどね?」
「よぉーっし! グアドサラムに向けて出発進行だ! カモメ団、マミヒシユテ!」
お決まりのアニキの号令で、艦内の役割が決まっている男性陣は持ち場につく。
ユノはクロスカウンターでも決めたのか、右頬と左頬を腫らしているアニキとダチを交互に見て謝る。
「あの、その怪我って俺のせい……ですよね? 忠告無視して飛び出してごめんなさい……」
「気にするな。アニキが勝手に暴れてただけだ」
「何だとぅ?」
また喧嘩が始まりそうだったので、ユノは白魔法で二人の怪我を治して、何とかご機嫌を取ろうと艦内のバーに向かった。
マスターに頼んでドリンクを用意して貰い、それを剣呑な雰囲気になっている二人に配る。
アニキは喜んで受け取ってくれたが、ダチは申し訳なさそうに苦笑。
「ユノ様がそんな気ぃ遣わなくても」
「でも俺のせいですし……」
「別にユノ様のことが無くても、たまには喧嘩ぐらいするって。アニキとは長い付き合いだしな」
成程。喧嘩するほど仲が良いというやつか。
幼馴染は居たが、彼らとも、他の誰とも殴り合いの喧嘩などした事の無いユノは、本音でぶつかり合えるダチとアニキの関係性を少し羨ましく感じた。
そうして、グアドサラムのルブラン一味のアジトを訪れたユウナ達に、消沈した様子のルブランは開口一番、
「出ていっとくれ」
「スフィアハントしないの? スピラ中のスフィア、カモメ団が貰っちゃうよ!」
「勝手におし。いくら集めたって、ヌージのダンナの笑顔はナシさ。何が楽しいってんだい」
「……落ちたな」
「何とでも言いなよ」
はぁ、と溜息を吐くルブランに、これは駄目だと四人は諦めて部屋を出て行く。
ウノーとサノーも何とかルブランを励ましたいようで、部屋の外でヌージのモノマネに勤しんでいた。
「あんた達も、お嬢を心配して来てくれたのか」
「えっと、ごめんなさい、そういうわけじゃないんですけど……前にベベルで貴方達が撮ってた映像を見せて欲しいんです」
「ああ、あれか。そう言えば、まだ見ていなかったな。なら上映会にしよう。俺達の部屋で待っていてくれ」
「部屋……また変なことしないですよね?」
以前の出来事を思い出して胡乱な目を向けるユノに、サノーは慌てて首を横に振った。
隠し通路の奥の部屋まで案内された一行は、仲良く並んでスフィアに記録された映像を観る。
が、開始早々、ユウナの後ろ姿を舐め回すようなアングルで撮っているのを見て、女性陣は真顔になり、ユノは無言で指を鳴らしつつサノーを見た。
「なに、これ」
「ムカツク」
「ま、待ってくれ。これを撮ったのはウノーで……」
「今ウノーさん映りましたけど」
「えっ? あ、いやその……これは偶然こうなっただけで……」
というサノーの見苦しい言い訳は聞かず、ユノは拳骨をお見舞いしてから続きを見る。
映像は召喚獣と戦った大穴の前を映していた。
特段目に留めるようなものは映っていないように見えたが、目を凝らしていたユウナは気付く。
「――待って、今誰か映ってた」
「え? どこどこ?」
「拡大してみよう」
地下で撮ったものだからなのか、映像はかなり乱れていたが、それでもそこに映っているのがヌージだということは分かった。
当時あの場にいたユウナ達を見下ろすような位置に立っていたヌージは、そのまま奥へと消えてしまう。
「何してたんだろ?」
「俺達と同じで、ヴェグナガンを壊しに行ったんじゃないかな? ルブランさんがそう言ってたし」
「でも、それならどうして帰って来ないのかな……」
「うーん……まだベベルでヴェグナガンを探してる、とか?」
と、各々の意見を述べるカモメ団に、再生を終えたスフィアを片付けるサノーが神妙な面持ちで言う。
「あんた達がどうしようと勝手だが、お嬢には黙っていてくれよ」
「なんで?」
「ヴェグナガンはどう見ても危険な存在だ。スフィアハンター風情が手を出しちゃあ、身の破滅だ。だがヌージが絡んでいると知れば、お嬢も首を突っ込みたがるさ。お嬢にもしもの事があったら……」
「サノーさん……ルブランさんが心配なんですね」
「あんたもツラいんだねぇ〜」
「しかも報われん……」
と、肩を落とすサノーには同情心が湧いたが、その割には他に目移りし過ぎてはいないだろうかと、彼の頭に出来たたんこぶをユノは冷めた目で見つめた。
「大した情報は得られなかったけど……これからどうする?」
「ベベルに行ってみませんか? ヌージさんもあの場に居たのなら、魔物の件について何か知ってるかもしれませんし……ルブランさんや青年同盟の人達が心配してることも伝えたいです」
「他に手掛かりも無いもんねぇ」
「それじゃあ、次はベベルだね」
話が纏まり、サノー達と別れた一行は、数日ぶりにベベルを訪れた。
青年同盟と同じく、トップのバラライを欠いた新エボン党の党員達は、落ち着きなく街中を歩き回っている。
お陰で特に見咎められることもなく、すんなりと本部の中に入れたのだが。
ヌージを探してスフィアに映っていた場所へ向かう道中、何故かマキナ派のギップルの姿を見つける。
「あれってギップル? なーにやってんだろ?」
「……気に入らないな。コソコソと……秘密だらけだ」
「って、ギップルさん、ジョゼの方は落ち着いたのかな? まさか魔物を放って来てるなんてこと無いよね……?」
「追いかけてみよう」
どうやらギップルも地下に用があるようで、相手は尾行されることには気付かないまま、大穴の手前までやって来る。
そんな彼を、先に待っていたヌージとバラライが迎えた。
「どういうこと……? あの三人って、顔見知りなの?」
「三人とも組織のトップだから、知り合いでもおかしくは無いけど……」
「……違う」
「違うって何が? パイン、何か知ってるの?」
距離のせいで会話までは聞こえなかったが、ギップル達はかなり親しげに見えた。
困惑するユウナ達を他所に、パインは一人苛立ちを募らせる。
ギップル達は暫く何かを話していたが、突如バラライが銃を取り出し、それをヌージに向けた。
「何故撃った! あの時、再会を誓って別れた僕達を、後ろから……! 答えろ!!」
バラライのその叫びは、離れていたユウナ達にも聞こえた。
諍いを止めようとするギップルの必死な声も、続けて聞こえてくる。
それでも銃を下ろさないバラライに、今度はギップルが銃を向けた。
その様を嘲るようなヌージの笑い声が響いて、彼もまた銃を構えた。それぞれの銃口が、三角形を描く。
何が起こっているのかは分からなかった。ただ、止めた方が良いことは分かる。
しかし、止めに入ろうとしたカモメ団の行く手を遮るように、巨大な魔物が天井から降ってくる。
「わっ!? 吃驚した、どこから……!?」
「とにかく倒さないと!」
「次から次へと、何なのさ〜!」
「くそっ……!」
四人が魔物を片付けた時には、その先に居たはずのヌージ達の姿は無くなっていた。
結局あの三人は何をしていたのか、どうしてここに居たのかも分からぬまま、飛空挺からの帰還命令で、ユウナ達は慌ただしくその場を後にした。