02.永遠の終わり

とりあえず虱潰しに当たってみよう、との事で。飛空艇は一路ビサイド島へと飛んだ。

ここに来るのはユノにとっては二年ぶりだ。
本当ならもう少し早くに足を運ぶつもりだったのだが、キーリカでのごたごたのせいで結局来れず終いだった。

「あ、ユウナちゃん! スフィア、青年同盟に返してくれたんだって?」

島に着くなり見知らぬ青年達に囲まれてしまい、慌てふためくユノにリュックが耳打ち。

「ブリッツの選手で、ワッカと一緒のチームだった人達だよ」

「お、もしかしてそっちはユノ様? ワッカさんから噂は聞いてるよ」

「は、初めまして、お世話になってます」

「しかし、ユウナちゃんはやっぱり俺達の味方だったなぁ」

「どういう事?」

「ビサイド・オーラカは青年同盟に入ったんだ」

「ま、名前だけみたいなもんだけどさ。ワッカさんも入ってないし」

「そりゃあそうさ。子供が生まれるって時に、党だの同盟だのって空騒ぎしてる場合じゃないよ」

そういえばルール―さんとワッカさん、子供が出来たって言ってたっけ。

手紙のやり取りで聞いたそんな吉報をユノが思い出していると、海岸に続く坂から一人の男が下りてくる。

「空騒ぎだと?」

「……リュック、あの人は?」

「さあ?」

「俺はベクレム、青年同盟の本部から派遣された者だ。こいつらのぶったるんだ根性に気合を入れる為にな」

厳しそうな人ですねという目で近くに居る男性達に視線を戻すと、考えている事が伝わったらしく相手は苦笑して答えた。

「ワッカさんの100倍厳しいっす」

「戦闘訓練をさぼって無駄話とは。皆、余程腕に自信があるようだな。いいだろう、なら早速実力を見せて貰おうか」

突然の命令に狼狽えて尻込みする男達を一瞥して、近くまで来たベクレムは鼻を鳴らす。

「俺の記録に挑戦する者はいないのか! 情けない連中だ」

「や〜な雰囲気」

「……だね」

無関係の自分達はさっさとお暇した方がいいだろう、そう考えてユノ達は立ち去ろうとしたのだが、

「それはやめろ!」

見送ろうとしてくれた男がエボンの祈りを捧げるのを見て、ベクレムが声を荒げた。

「もう寺院の時代じゃない、そんな古いしきたりはさっさと捨てる事だ。無暗に召喚士を拝むのも時代遅れだな。召喚士なんて、過去の存在だよ」

「……何それ、今が誰のナギ節だと思ってるわけ!?」

「りゅ、リュック」

今にも相手に掴みかかりそうなリュックを、慌てたユノが引き留める。

確かに、今の物言いにはカチンとくるものはある。
自分はともかく、ユウナを始め、当時シンに命懸けで挑んだ世界中の召喚士達の献身は、そう簡単に忘れ去られていいものではない。

それでも、感謝や崇拝は強要するようなものでもない。
今のこのナギ節がどれだけの犠牲と想いの上に在り、その価値がどれほどのものなのかは、分かる人だけが分かってくれればいい。

きっとユウナだって同じだろうとユノは思ったのだが、

「もう召喚獣は居ないんだ。となれば、召喚士など役立たずさ」

その一言で、今度はユウナが口を開く。

「その言葉、取り消して下さい」

「いいとも。役立たずじゃないと、あんた自身が証明してくれたらな。さっき話していた訓練なら腕試しに丁度いい、どうだ、やってみるか?」

「わかりました、受けて立ちます」

「ちょっ……ユウナ……!?」

どうして。いつものユウナなら、この程度の言葉は軽く聞き流す筈なのに。一体何が彼女の怒りに触れたのか。

ベクレムと共にスタスタと歩いて行くユウナに、言われっぱなしは嫌なのだろう、同じく乗り気のリュックも二人を追いかけて行った。

「……あっちの気が済むまで、こっちはルブラン一味の聞き込みでもしておく?」

今はあんな人に構うより、一刻も早くアーロンさんのスフィアを取り返しに行きたいのに。
そんな気持ちで項垂れるユノに、残ったパインがそう提案。

「え、いいんですか?」

「ここに来た目的はそっちだし、売られた喧嘩を全員で買いに行く事もないだろ」

そう言ってユウナ達とは反対方向へ歩き出すパインに、ユノは小走りでついて行った。






「──あ、ワッカさん!」

左右に小さなテントの並ぶ道の先に、懐かしい人を見つけたユノは思わず声を上げた。
相手もユノに気付いて、驚きと喜びの入り混じった顔で迎える。

「ユノか!? 久しぶりだなぁ! 元気してたか?」

「はいっ! ワッカさんも元気そうで安心しました。あと、遅くなりましたけど、ルールーさんとの事、おめでとうございます」

「おう、ありがとな。しっかし、相変わらず男だか女だかよく分からん見た目してるなぁ」

「男です!! ちゃんと鍛えてるんですよ!? 髪だって短くして……」

「そんなペラペラの身体で言われてもなぁ、ショートカットの姉ちゃんになっただけじゃねえか……って、冗談だ冗談。そんなマジで傷ついたって顔すんな」

「ワッカさんの意地悪……」

「ところで、今日はどうした? キーリカで色々と揉めてるって言ってただろ、離れて来て良かったのか?」

「あ、実は……」

ユノはここに来た理由と、それに至った経緯を手短に説明した。
聞き終えたワッカは納得しつつ、申し訳なさそうに首を振る。

「多分この島にゃ来てねぇな。一緒に探してやりてぇんだが……今ビサイドから出ていくのはな……」

「いいんです、ワッカさんはルールーさんの傍に居てあげて下さい」

「おーい! ユノ! パイン〜!」

ベクレムとの対決が終わったのか、ユウナとリュックが大きく手を振りながら走ってきた。
ユウナもこの島に帰ってくるのはカモメ団に入って以来だったようで、ワッカを見てどこか気まずそうに視線を泳がせる。

「黙って居なくなったもんで、村中大騒ぎになったんだぞ」

「あはは……ごめん」

「ま、元気そうで何よりだ。ところで、さっきから気になってたんだが……そっちはツレか?」

「あ、パインさんって言うんです。ユウナ達の仲間で……」

「カモメ団の先輩。一緒にスフィアを探してるんだ」

「スフィアハンターか……。噂は聞いてる、だもんで実はあんまり心配してなかったんだ。しっかし、ユノもそうだが、大分雰囲気変わったなぁ」

「ワッカは相変わらずだね〜、ぷにぷに」

と、擬音を口にしながらリュックに肘で腹を突かれたワッカは、「やめれって」と恥ずかしそうにそれを振り払った。

「俺だってもう父親になるんだし、貫禄あった方がいいんだよ」

「産まれそうなの?」

「おう!」

「ワッカがお父さんかぁ〜」

「俺も全然実感湧かねぇけどな。……なあ、父親ってのは、どんな顔して子供を迎えりゃいいんだろうな?」

「自分の親をお手本にするとか」

「なーんも覚えてない。俺が小さい頃、シンにな」

「そうだったんですか……」

「スフィアも残ってないんだっけ?」

「ああ、なーんも……」

そう答えつつ、ワッカは何かを思い出したのか、考える素振りを見せる。

「どうしたの?」

「……なんでもねえよ。それよりあれだ、お前らルーにも顔見せて安心させてやってくれ」

頼むぞ! と言って、ワッカは去っていった。
何だったんだろうかと四人は目で会話しつつ、言われた通りルールーの居るテントへ向かう。

「おかえりなさい。……あら、ユノも一緒だったのね? 久しぶり」

「ただいま、ルールー」

「ご無沙汰してます、ルールーさん」

二年ぶりに会う彼女も、ワッカと変わらずかつての通りの姿をしていたが、膨らんだお腹があの時とは違うのだと主張していた。

「ねえねえ、赤ちゃんは? もうすぐ産まれるんでしょ?」

「まだよ、ワッカ一人で先走ってるだけ」

「なーんだ……」

「それよりどう、少し歩かない?」

「大丈夫?」

「少しは動いた方がいいの」

妊婦というものをよく知らないユノは、本当に大丈夫なのだろうかと落ち着きなくルールーの傍を徘徊する。
その様子に、ルールーが苦笑を漏らした。

「そんなに心配しなくても、いきなりどうにかなったりしないわよ。男の人ってどうして皆そうなのかしらね」

「ワッカさんもですか?」

「もうずっとソワソワしてるわ。あの人の場合、父親になる事の不安もあるんだろうけれど」

「ルールーは不安じゃないの?」

「そりゃあ、私にだって不安な事は沢山あるわ。ちゃんと無事に生まれてきてくれるか、とかね。でも、狼狽えてばかりじゃ居られないもの」

そんな話をしながら、寺院が見える高台まで来た所で、ルールーは足を止めてユウナに向き直った。

「……さ、聞かせて。何も言わずに出て行った理由」

そういえば、自分もユウナがカモメ団に入った経緯の詳細は聞いていない。
リュックが誘ったという事は知っているのだが、それだけで黙って島を出て行くような事はしないだろう。

興味津々で見つめるユノの視線の先で、ユウナは一つのスフィアを取り出した。

「これなの」

「例のスフィアね、ワッカから聞いてる」

「?」

「キマリがガガゼト山で見つけたんだって。……見ればわかるよ」

リュックに言われ、ユノはルールーも交えてそのスフィアに記録されていた映像を見る。
劣化して乱れている音声と映像の中、途切れ途切れに見えるのは一人の青年の姿。

それは、つい最近飛空艇で見たものとよく似ていた。

「これって……やっぱりティーダ、なの?」

「……確かに似ているわね、少し雰囲気は違うけど。それで、何かわかったの?」

「似たようなスフィアは見つけたんだけどね、手掛かりになるような事はまだ何にも……。でも、まだ調べてないところ沢山あるんだ」

「楽しそうじゃない、自由にあちこち飛び回って」

「うん、楽しい。こういう旅初めてだし」

「私が居ないから羽根を伸ばせるってわけ?」

「かもよ?」

「言ってくれるわねぇ」

悪戯っぽく言って見せるユウナに、ルールーはやれやれといった様子で微笑しつつ頭を押さえた。

それが長年、家族同然に育ってきた二人の信頼の証なのだという事を知っているユノは、その光景に微笑む。

「でも、ユノまでスフィアハンターになってたなんてね」

「あ、俺は違うんです。今はちょっと事情があって同行させて貰ってるだけで……」

「ああ、そういう事。まあ、二人共元気にやってるならそれでいいわ。──ただ、貴方達は自分の立場を忘れないで」

「え?」

「シンを倒した大召喚士……その名前、利用されないように」

その言葉に、青年同盟の本部でヌージに言われた事を思い出したユノは俯く。

いずれその弱さに付け込まれる──あの忠告も、今のルールーの言葉も、言わんとしている事は同じなのだろう。

「……大丈夫。私、もう誰にも利用されたりなんかしない」

毅然とそう返すユウナに対し、ユノは不安の残る顔で頷く事しか出来なかった。
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