04.愛しけりゃこそ強と打て

「ルビア、レフォードがどこへ行ったか知らないか?」

東の門の宿で休憩がてら、これからどうするか皆と話し合っていたフォレストは、折を見てそう切り出した。
問われたルビアは、ふるふると首を振ってから、はたと思い出す。

「そう言えば、ロミーがもっとペイシェントが必要だって言ってたわ。だから集めてきて欲しいって話してたような……」

「集めるって言っても、ペイシェントが大量に採れるような場所なんてあるのか? 鉱物みたいに、そこらに生えてるようなもんじゃ無いだろうに」

「でも、レフォードはそれなら一つ心当たりがある≠チて返してたわ。詳しいことは何も言って無かったけど……」

「でも、本当にそんな場所があるのなら、どうしてこれまで手を付けなかったのかしら?」

「さぁな。適当言ってるだけなんじゃないか?」

カイウスは「それより生命の法について調べた方がいいんじゃないか」と提案し、他の仲間たちもそれに賛同していたが、フォレストは気になって思案する。

(ペイシェントの集まる場所……ロミーの話が本当なら、ペイシェントはレイモーンの民の命によって出来ている。ロミー達が持ち去ったという都の文献に、生成方法が載っていたのだとすれば……或いは、その技術を持つ者が今も居るのだとすれば……必要なのはレイモーンの民の命……それが集まる場所……?)

以前であれば、首都ジャンナの教会地下にあるあの牢獄がそれだったのだろうが、収容されていたレイモーンの民は皆逃がしたのだから、そこでは無いのだろう。
だが他にレイモーンの民が集まっている場所など……と、考えていたフォレストはハッとする。

「まさか……サンサへ行ったのか……!?」

「サンサ……? 地名までは言っていなかったけど、そこにペイシェントがあるの?」

「ペイシェントは無いが、レイモーンの民が居る。私の故郷だ。最初にここへ来た時に話しただろう、この門の先にオーガの住む森があり、私はその近くの出身だと」

「――――ああ、そうか! そういうことか!」

話の途中でティルキスがそう叫んで立ち上がった。
驚くアーリアに、フォレストが言おうとしていた続きをティルキスが語る。

「知っていて手を付けなかったんじゃない、知らなかったんだ。あいつはこの前フォレストから故郷の話を聞いて、初めてそれを知ったんだ!」

「そうですね。ティルキス様のあの時のご忠告が、現実になってしまった様です」

「じゃあ、アイツはフォレストさんの故郷に居るレイモーンの民を狩りに行ったのか!?」

「でもフォレストさんが前に言っていた通り、いくらレフォードでも、一人で多くのレイモーンの民を相手にするのは無理があるわ。行ったところで返り討ちに遭うだけなんじゃないかしら」

「あ、そっか。じゃあ放っておいても問題ないんだな」

「……いや、行かせて欲しい。確かにレフォード一人では被害もたかが知れているだろうが、だからと言って何事もなく済むとも思えん。それに、サンサには古老が居るのだ。生命の法についても何か聞けるかもしれん」

「なら決まりだな。フォレスト、案内してくれるか?」

「分かりました。サンサはアルガムの森の中にあります。外の者は殆ど近寄らない極寒の地です。私は慣れていますが、ティルキス様達には険しい道程となるでしょう。準備はしっかりとお願いします」

用意が出来たら砂漠側の門の前に集合、と決めて、一行は方々に散らばった。
ティルキスと共に皆の防寒着の調達を任されたアーリアは、憂い気なフォレストを振り返りながら言う。

「生まれ故郷に帰れるのに、フォレストさんはあまり乗り気ではないみたいね?」

「まあ、今は状況が悪いからな。それに……あいつは一度故郷を捨ててるんだ」

「捨てた……? どういうこと?」

「ジャンナ事件の後、生き残ったあいつは一人センシビアへ逃げてきた。脱出する時にはまだ他の生き残りも居たらしいが……他人のことを気遣う余裕なんて無かったんだろう。あいつはその事を、他の仲間を見殺しにしたと思ってる。今回俺の旅について来たのは、そのケリをつける為でもあるんだろう。あいつにとって、ジャンナ事件は現在進行形なんだよ」

「そうだったのね……14年も前のことを、未だに……」

アーリアはフォレストの胸中を想像して、ああ、だからかと一人納得する。

「だから彼は、レフォードのことが気になるのね」

「ん? どういう事だ?」

「ジャンナ事件が現在進行形なのは、レフォードも同じよ。彼も14年前のあの日にずっと縛られているから……何かシンパシーのようなものを感じているんじゃないかしら」

「そうか……なるほどな。という事は、俺とアーリアにも通じるものがあるって事だな」

「?」

「過去に囚われて苦しんでる奴を見守ってる者同士ってことだよ」

ちょっとこじつけっぽいけど、とはにかむティルキスに、アーリアもくすくすと笑って「そうね」と頷いた。






「ルビア、随分と早いな。支度はもう済んだのか?」

まだ他の者は来ていないだろう、と一人集合場所で待機しておくつもりだったフォレストは、先客が居ることに驚きつつ声をかけた。

往来の邪魔にならぬよう、壁際に一人立っているその姿は、何も知らない者が見れば迷子の子供のようにも見える。

「まだだけど……サンサに行く前に、フォレストさんに伝えておいた方がいいかと思って……」

「? 何の話だ?」

「あの人……レフォードのこと、なんだけど……でも、やっぱり余計なことかも……言ってもどうにもならないし……結局何を考えてるのかよく分からないし……」

「????」

要領を得ず首を傾げるフォレストに、ルビアは暫く悩んだ後、「でもやっぱり言わないとモヤモヤする!」と顔を上げた。

「あのね、ロミー達に捕まってる時に、あの人とも少し話したの。それで……あの人の両親を殺したのがフォレストさんだって聞いて……」

「ああ……その話か。そうだな、ルビアにはまだ話せていなかったか」

と、フォレストはレイモーンの都でレフォードとしたやり取りを再度説明した。
確かにジャンナ事件の犯人ではあること、だがレフォードの両親どころか、あの時は誰も殺してはいないことを伝えると、ルビアはほっと息を吐く。

「やっぱりそうよね……良かった……」

「不安にさせてすまない。聞きたかったことはそれだけか?」

「あ、違うの。それでね、あの人がそのことについて悩んでたってことを伝えたくて……」

「悩む……? 何をだ?」

「フォレストさんを信じていいのかどうか。あたしがカイウスのこと疑ってしまったのと同じで……あの人も、何が真実なのか分からなくて苦しんでるみたい」

「そうか……そうだろうな。私は殺していないとハッキリ伝えたのだが……それを信じて貰えるほどに、あいつの信用を得られてはいなかったのだろう」

「違うの!!」

一段大きな声で否定されて、フォレストは目を丸くした。
ルビアは声を張り上げてしまったことを恥ずかしそうに謝りながら続ける。

「あたし、カイウスやおじ様がどんな人なのか知ってる。幼馴染だし、ずっと一緒に過ごしてきたから、優しい人だってわかってる。でも……それでも疑ってしまったのは、レイモーンの民≠フことを、まだよく分かっていないから。お父さんとお母さんが殺された現場を、この目で見ていなかったからなの。知らないことは、分からないでしょう? だから惑わされるの。……あの人も、きっと同じなんだと思う」

犯人を知らない、という事は、ジャンナ事件の際、彼は現場には居なかったのだろう。
何も知らない、何も分からない。だからロミーの言った出処も不確かな「噂」にすら、簡単に流される――――

「でもそれは、フォレストさんのことを信用していないわけじゃないと思うの。本当は、信じたいと思ってる……でも、信じられるだけの根拠もなくて、どうすればいいのか分からなくなってる。だから……こんなこと言うのも変かもしれないけど……あの人のこと、助けてあげて欲しいの。今のままじゃ、ロミーの良いように操られるだけだわ……」

悲しげに目を伏せて、ルビアはそう訴えた。
ほんの少し前までは、彼のことをあれほど憎んでいたのに。その変化を嬉しく思いながら、フォレストは屈んでルビアと目線を合わせる。

「有難う、ルビア。お陰で少し靄が晴れた。……私も、あいつを救えるのなら救ってやりたいと思っている。私にどうにか出来るかは分からんが……」

「そうよね……あたしの場合は、ロミーが口を滑らせてくれて助かったけど……レフォードのご両親が殺された事件の真相について、知っている人が居ればいいんだけど……」

「そうだな……そこは地道に調べていくしかないだろう。――因みに、もう一つ聞いておきたいのだが」

「なぁに?」

「その話をしていた時、あいつはどんな風だった? 私に呆れたり、怒ったりしていたか?」

ルビアはすぐにそれを否定して、当時のレフォードの顔を思い出しながら答えた。

「ずっと辛そうな顔をしてたわ。あの人、きっと本心では、フォレストさんと対立なんてしたくないのよ。あたしも、カイウスともう一緒に居られないかもしれないって……そんなの絶対嫌なのに、でも戻ることも出来なくて……凄く辛かったから……他人事とは思えなくて……」

「……そうか」

フォレストは再度礼を言って、ルビアの肩を優しく叩いた。

(……なんだ、信用出来ていなかったのは俺の方か)

ロミーの言葉に流される程度の信用しか得られていなかったと、彼の気持ちがその程度のものだったと勝手に決めつけていたことに、フォレストは気付いた。
レフォードがレイモーンの都で見せたあの涙の意味を、自分は理解出来ていなかった。あの時の彼の気持ちも。

(カイウスと幼馴染のルビアですら、ロミーの言葉に惑わされたのだ。まだ俺と知り合って間もないあいつが、惑わされるのは当然だな)

その上で、彼はルビアと同じだけ苦しんでいる。
ルビアがカイウスを想うのと同じように、彼は自分を想ってくれている。

(……まだ、俺はお前を諦めなくていいのだな? お前も傍に居ることを望んでくれているのなら、俺は絶対に、お前を諦めたりはしない)

何処に居ようと、どんな状況だろうと、必ず連れ戻す。
フォレストはその闘志にも似た決意を胸に立ち上がった。
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