04.愛しけりゃこそ強と打て
「フォレストさんはレフォードを甘やかし過ぎよ! いくらなんでも、今回はやり過ぎだわ!」「そうね。命に関わるような怪我では無いし、罰としてこのまま放っておきましょう」
夜。他の者の治療を終えたルビアとアーリアは、結局そう言い放って、レフォードの怪我を治すことはしなかった。
カイウスとティルキスもそれに賛同したので、フォレストは皆の説得を諦めて、ラウルスの宿にボロボロのレフォードを運ぶ。
「残念だったな。まあ、暫く安静にしていれば治るだろう」
「……別に、最初からアテになどしていない」
そんな憎まれ口もいつもより元気がなく、フォレストはベッドの縁に座って、横たわっているレフォードの頭を撫で回す。
「お前は、怪我は大丈夫なのか。他の連中も……僕が聞くのもおかしいが」
「問題ない。お前以外の者は皆、ルビアとアーリアに治癒術をかけて貰えたのでな」
「そうか。ならいい」
「そうむくれるな」
「むくれてない。……いい加減撫でるのもやめろ」
と、抗議してもやめようとしないフォレストに、レフォードは嘆息。
「……レフォード、しつこい様だが、俺はお前の両親を殺してはいない。トールスも、他の連中も、14年前にジャンナへ向かった8人は皆無実だ」
「…………。だとしたら、誰が殺したんだ」
「それは分からない。だが、真相は必ずどこかにある筈だ。お前がそれを探すと言うのなら、俺も手伝う。だから……もうレイモーンの民に怒りをぶつけるのはやめるんだ」
「……………………」
「まあ、今はその怪我を治すのが先だな。難しい話は後にして、今はゆっくり休め」
「……どうしてそこまでしてくれるんだ。僕はお前に、散々酷いことをしただろう」
「それは……」
フォレストは暫し考え、あれやこれやと浮かんできた様々な理由を、いやこれは無粋だなと振り払い、
「まあ、端的に言えば、お前のことが好きだからだろうな」
そんな言葉で返した。
釈然としない面持ちのレフォードに、フォレストはキスをして繰り返す。
「好きだからだ」
「……………………」
「さて、そろそろ寝るとするか。怪我が治るまでは安静にしているんだぞ」
そう言って立ち去ろうとするフォレストに、レフォードは手を伸ばした。
が、掴み損ねてしまったので、痛む体を起こして再度引き留める。
「どうした? まだ起き上がらない方が――――」
いいぞ、と、言いかけたフォレストの口を、今度はレフォードが塞いだ。
「…………、……………………行かないでくれ」
その行動に面食らっていたフォレストは、切なげに細められた瞳と甘えた言葉に吸い寄せられるように、ふらふらとベッドに戻る。
「……………………、レフォード」
「なんだ」
「酔っているのか?」
「…………そう思ってくれても構わない」
レフォードはフォレストの首に腕を回して、引き寄せた唇を舐めた。
口内を怪我しているのか、僅かに血の味がするなと思いながら、フォレストはその誘いを受け入れる。
フォレストの手が、レフォードの後頭部を、耳の裏を、首筋を、背中を撫ぜた。
肌を擦られる度にレフォードがくぐもった声を上げて、ピクリと体を震わせる。
角度を変えて何度も口付けを交わし、呼吸が荒くなってきたレフォードは、それでも尚、蕩けた表情でキスをせがむ。
フォレストは思わず喉を鳴らした。
(……いや、駄目だ。怪我人にこれ以上のことをするのは…………)
頭ではそう思っているのだが、体は勝手にレフォードを組み敷いていた。
突然押し倒されて少し困惑しているレフォードの耳元に、フォレストが顔を近づけて囁く。
「…………、…………抱いてもいいか?」
「っ、――――え、え? 抱……っ、待ってくれ、抱いっ……!?」
夢見心地だったレフォードは、その一言で正気に戻った。
が、フォレストは構わず、すぐ近くにある耳を食んで、服の裾をたくし上げる。
「ぅ、あっ……だ、駄目だ、待ってくれ……キス以上のことは駄目だ、まだ心の準備が……」
「そんなものは要らん。安心しろ、なるべく優しくはする」
「違うそういう問題じゃない!」
レフォードは抵抗しようとしたが、痛む体で屈強なフォレストを引き剥がすことは出来なかった。
フォレストが手袋を脱いで、所々包帯の巻かれたレフォードの地肌を素手で摩る。
「……っ、や、嫌だ、やめてくれ……怖い……」
「怖くない。大丈夫だ」
「だ、大丈夫じゃ、な……、んっ」
フォレストは口付けて、強引にレフォードの発言を奪った。
そのまま内腿の間に指を這わせると、ズボン越しに硬くなっているものに当たった。
柔く握ると、レフォードが悲鳴を上げる。
「ひっ!? ――やっ、やめ、違う、それは違うんだ」
「何が違う?」
レフォードは眦に涙を溜めながら、ふるふると首を振った。
「……ぼ、僕は、したことがないんだ、まだ。だから…………」
「――――――――っ!」
己を突き動かす動物的本能を、フォレストは奥歯を噛んで堪えた。
このまま無理矢理にでも抱きたいという感情と、それは良くないという理性がせめぎ合う。
「…………っ、レフォード、どうしても駄目なのか?」
子供が親に玩具を強請るような声色で、フォレストは言った。その手はレフォードのものを弄り続けている。
気持ち良い。けれどまぐわうのは怖くて、レフォードはいやいやと首を横に振り続ける。
「前に、俺が欲しいと言っていたな。……逆では駄目か?」
「……逆?」
「俺もお前が欲しい。――今ここで、俺のものにしたい」
「…………!」
答えを待たず、フォレストはレフォードの口を塞ぎ、ズボンに手を掛けた。
フォレストの言葉が、与えられる刺激が、薬のようにレフォードの全身に回っていく。
あぁ、駄目だ。無理だ。流される――――――――
「レフォード! 起きてるか?」
突如、ティルキスの声と共に、ドンドンドン! と、部屋の扉が大きく鳴った。
吃驚し過ぎて口から心臓が出そうになった二人は、バクバクと脈打つ胸を押さえながら扉を凝視する。
「疲れてるところ悪いが、アーリアから大事な話があるんだ。来れそうなら来て欲しい」
「は……!? な、なん……なんだ今度は……アーリアが何……」
「おーい、聞こえてるか? 入るぞ?」
「!? ま、待て、今開けるな!!」
レフォードの制止も虚しく、中で何が起こっているかなど知る由もないティルキスは、そのまま扉を開けてしまった。
そして、ベッドの上で向かい合っているレフォードとフォレストを見てキョトンとする。
「フォレスト? ……何をやってるんだ?」
「ティルキス様……その、これは…………」
フォレストは必死に言い訳を考えたが、正直、この状況で何を言っても言い逃れられる気がしなかった。
だが何も言わないわけにもいかない。フォレストはさっきの今で上手く働いていない頭を捻る。
「…………か」
「か?」
「看病をしていました」
「看病」
「はい。看病です」
――――どう考えても無理がある。
ティルキスは本当に?といった目でレフォードを見た。
窒息しそうな顔になっているレフォードは、フォレストとティルキスを交互に見て、こくこくと頷く。
絶対に違う。ティルキスは思ったが、二人が今何をしようとしていたのか知るのが怖くなって、それ以上追求はしなかった。
「それで、アーリアがどうしました?」
「え? ――ああ! そうそう。アーリアがな、皆に話したいことがあるみたいなんだ。ちょっと込み入った事情があって、また明日って事にも出来なくてな。今からアーリアの部屋に集まってくれるか?」
「分かりました、すぐに向かいます」
「助かる。ええと……それじゃあ、俺はカイウスとルビアを呼んでくる。邪魔して悪かったな!」
若干引き攣った爽やかな笑顔を残して、ティルキスはそそくさと部屋を出て行った。
パタン、と扉を閉める音が虚しく響いて、暫くの沈黙の後、フォレストが呟く。
「……始めた後でなくてまだ良かったな」
「何も!! 良くない!! 誤魔化せてない!! どうするんだ!!」
「見られてしまったものは仕方がないだろう。どうしようも無い。――痛っ、こら叩くな。あまり暴れると傷が開くぞ」
言ったそばから傷を押さえて呻くレフォードに、フォレストは「ほらみろ」と苦笑。
「その調子では動くのは無理だな。アーリアの話は後で共有してやるから、お前はこの部屋で大人しくしていろ」
「何だその恩着せがましい言い方は……元はと言えばお前のせいだろう……」
「俺のせいだったか? 本当に?」
うぐ、と口を閉ざしたレフォードに、フォレストはふっと笑って、頭をポンポンと叩いた。
そうして、アーリアの部屋に向かう。
残されたレフォードは、一人になった途端にフワフワとしていた気持ちが萎んで、ふぅと肩を落とした。
(……疲れたな……寝るか、もう……)
あまりにも目まぐるしい一日だった。
レフォードは目を閉じて、レイモーンの都からここに至るまでの出来事を振り返る。
(トールスも、他の奴らも、誰も殺していないと言っていた……フォレストの言葉に嘘は無いのかもしれない。だが……だとすれば、父上と母上は誰に殺されたんだ…………)
もしも、二人を殺したのがリカンツではなく、ジャンナに居る誰かだとしたら?
ある意味それはリカンツに殺されるよりも恐ろしいことに思えた。
あれだけ両親と親しくしていた人々の中に、犯人が居るとは思いたくない。
それに――――
(もし……もし万が一、犯人がレイモーンの民では無かったとしたら……これまで、僕のしてきた事は…………)
――――嫌だ、怖い。考えたくない。
レフォードは震える己の体を抱いて、布団の中に潜り込んだ。