04.愛しけりゃこそ強と打て
ティルキスの招集でアーリアの部屋に集まったレフォード以外の面々は、深刻な面持ちでベッドに腰掛けているアーリアを見ていた。眠気眼を擦っているカイウスとルビアにすまなそうにしながら、アーリアはアルバート率いる黒騎士団がラウルスを襲撃しようとしていると語る。
「狙いは、私たちとトールスさん達です」
「本当なのか!? どうして分かるんだ?」
「アーリア、もしや……」
「……黒騎士団が攻めてくるのは本当です。何故なら、私がアルバートに知らせてしまったから」
「!?」
「え……ど、どういうこと?」
困惑するルビアとカイウスに、アーリアは以前からアルバートと通じていたこと、これまでも何度か密会して、カイウス達の動向を知らせていたこと、最初の出逢いすら、仕組まれたものだったことを伝えた。
フォレストは話を聞きながら、レイモーンの都でレフォードが言っていたのはこのことかと納得する。
「それじゃあ……アーリアは黒騎士団のスパイだったの?」
「……ええ。これまでアルバートが私達を追って来れたのも、全て私が情報を流していたから……本当にごめんなさい」
「成程な。だがどうして今頃になって、バラす気になった?」
「アルバートは今度こそ、皆さんを殺す気です。彼は自らの野望の為に、ヒトを殺すことも厭わなくなってしまった……もう耐えられなかったんです」
「ふーん……本当に信じていいのかな? 嘘の情報だったらどうするの?」
「それは無い。俺はアーリアがアルバートと密会した場に居たが、アルバートは確かに夜明けに攻撃すると言っていた」
と、アーリアの肩を持つティルキスを、裏切られたショックが抜け切らないルビアがキッと睨む。
「お兄様はアーリアのことが好きだから、目が曇ってるのよ!」
「うっ…………」
「あたし達はアーリアのせいで、これまで酷い目に遭ってきたのよ? 簡単に信用出来るわけないじゃない!」
「……ルビアの言う事にも一理ある。だが、夜明けの襲撃が本当だとしたらどうする? 村の者達全員を避難させる時間は、もう残されていないぞ。それに……トールスに知られて、彼を刺激するような事は避けたい」
「なら、俺達だけで迎え撃とう。町の外であれば、皆に気付かれることも無いだろうしな」
と、あくまでもアーリアの話が本当であることを前提に話を進める男衆に、ルビアが憤慨。
「皆どうかしているわ! 何でアーリアを放っておくの?」
「ルビア、もうよせよ! アーリアは逃げずにオレ達に危険を知らせてくれた。もし本当に裏切る気なら、とっくに逃げてるはずさ。……ルビアだって、本当はわかってるんだろ?」
「確かにアーリアは俺達を裏切っていたかもしれない。だが、俺達を助けてくれたことだって沢山あった筈だ。違うか?」
「な……なによ、皆して! これじゃ、あたしが悪者みたいじゃない……!」
自分の気持ちが伝わっていない、皆を案じる忠告が軽んじられている、と感じたルビアは、込み上げてくる涙を堪えて部屋を出ていった。
こんな夜中に一人で外に出るなと、カイウスが慌てて追いかける。
「……ごめんなさい。私のせいで……」
「こればっかりは仕方ないさ。ルビアはアーリアのことを慕っていたからな。ショックが大きいんだろう」
「……償いにはならないけれど、私も一緒に戦わせて」
「それは構わんが……大丈夫なのか? アルバートを裏切る事になるぞ」
「覚悟は出来ています。……いつかは、こうなる気がしていましたから」
「アーリア……無理はするなよ」
と、優しく彼女に寄り添うティルキスを見て、ここはティルキスに任せておいた方がいいかと、フォレストは一人部屋を出た。
ルビアのことも気になるが、先にレフォードにも話を伝えに行こうと、彼の待つ部屋に一度戻る。
ノックをしても返事が無かったので、そのまま中に入ってみると、レフォードはベッドの上ですやすやと眠っていた。
(……まあ、いいか。どのみちこの怪我ではレフォードの手を借りることなど出来ん。このまま休ませておくか)
やはり人恋しいのか、布団を抱き締めて眠るレフォードを微笑ましげに眺めていると、暫くしてまたコンコンと扉が叩かれる。
開けてみると、そこに立っていたのはルビアだった。
レフォードしか居ないと思っていたのだろう、ルビアはフォレストが出てきた事に驚き、目をぱちぱちと瞬かせる。
「えっと……ごめんなさい、部屋を間違えたかも」
「レフォードに用なら合っているぞ。私はアーリアの話を伝えに来たのだが、生憎と眠ってしまっていてな」
「あ……そうなんだ。レフォードなら、アーリアのこと色々と知ってるんじゃないかなって思って……話がしたかったんだけど……」
「そうか。カイウスはどうした? ルビアを追いかけていった筈だが」
ルビアは少しムスッとした顔になって、「カイウスじゃ全然話にならないもの!」と口を尖らせた。
どうやら宥めるのに失敗したらしい。途方に暮れているだろうカイウスに同情を寄せながら、フォレストは「なら代わりに私と話さないか」と部屋に招き入れる。
「あたしだって、アーリアのことは好きよ。話してくれたこと、信じたいと思ってる。でも、女の人って、男の人よりウソが得意なのよ。カイウスがウソをついてたらすぐに分かるけど、アーリアは……アルバートと繋がってたなんて、あたし全然気付かなかった……」
「……そうだな。私も驚いた。ルビアはアーリアがまだ何か隠しているのではないかと、それがカイウス達を危険に晒すのではないかと、それが心配なのだな?」
「うん……なのに、カイウスもお兄様も、全然アーリアのこと疑わないんだもの! あたしだって、アーリアのこと悪く言いたくなんてないけど……信じて、また裏切られたら……」
不安でたまらない、といった表情のルビアの気持ちは、フォレストにはよく分かった。
ヒトとの融和を解く時、レフォードの傍に居る時。今のルビアと同じ不安に襲われることがある。
故にフォレストはルビアの言葉を肯定してから返す。
「信じるというのは難しいものだ。一度裏切られたとなれば尚更な。……だが、ルビアはそれでもアーリアを信じたいと思っているのだろう?」
「……うん。だって、アーリアには良いところも沢山あるもの。お兄様に言われなくたって……あたしだって分かってる」
「ならば、もう一度だけ信じてみてはどうだ? アーリアは元はスパイとして我々と共に居たのかもしれない。だが今は? 共に旅をしていく中で、気持ちに変化があったのかもしれない。だからこそ、皆に嫌われることを覚悟の上で、打ち明けてくれたのかもしれない」
「……そう、なのかな……」
「少なくとも、ルビアの気持ちはアーリアに届いている。私にはそう見えた。……彼女は信じてくれ≠ニは言わなかっただろう? 信じるべきかどうかの判断を、我々に――ルビアに委ねたんだ。罠に嵌めようとしているのなら、ここで我々の信用を得なければならない。だがそうはしなかった。ある程度の信憑性はあると思う」
「……でも、それも、あたし達にそう思わせる為の作戦だったりしない?」
「そこまで考えているのなら大したものだな。実際のところは私にもわからん。だから、後はルビア次第だ。リスクを負ってでも信じるだけの価値が、アーリアにあると思うかどうか。それだけだ」
「信じるだけの価値……フォレストさんはどう思う?」
「私も正直、未だ半信半疑だ。ティルキス様がああなのでな。私が多少疑ってかかることで、丁度バランスが取れると思っている」
フォレストの物言いに、ルビアはふふっと笑った。
そして、スッキリした顔で頷く。
「そうよね。あたしも、カイウスがああだから、少しぐらい疑ってた方がいいのかも。でも……あたしはもう一度だけ、信じてみようかな。アーリアは、あたしの大事な友達だから……」
「そうか。ルビアがそう決めたのならばそれでいい」
「有難うフォレストさん。あたし、アーリアと話してくる。アーリアにも、何か複雑な事情があるのかもしれないし……」
「ああ。――出来ればカイウスにも声をかけてやれ」
「カイウスなんか後でいいの! ほんと、どうしてフォレストさんみたいに出来ないのかしら!」
と、未だ少しご立腹な様子で、ルビアはアーリアの部屋に歩いていった。
15歳の少年に、45歳と同等の対応を求めるのは酷だと思うが。
カイウスも苦労するなと思いながら、フォレストは小さな背を見送って、自分はそろそろ迎撃の準備と作戦会議でもするかと、ルビア達の話の邪魔になるだろうティルキスと、放置されているカイウスを迎えに行った。