01.Lost

「やっぱりさ、手伝って貰った方がいいと思う」

とある日の昼下がり。
アバランチのメンバーが作戦会議に使うため、一時的にCLOSEの札を提げているセブンスヘブンの店内で、ジェシーがそう言った。

主に店にいるのは、七番街スラム支部改め、分派アバランチのメンバーだ。
ジェシー、ビッグス、ウェッジと、他のメンバーが数名、晴れてリーダーとなったバレットも居る。

今日の議題は、分派アバランチの記念すべき初ミッションについて。その目的は、壱番魔晄炉の爆破だ。

「正直、わたし達だけじゃあ戦力的にも知識的にも心許無いし。元ソルジャーに手伝って貰えるなら、それに越したことはないでしょ」

ジェシーの言葉に殆どのメンバーは納得している様子だったが、バレットはなかなか首を縦に振らない。

「元≠ニはいえ、ソルジャーってのは神羅の狗みてーなもんだろ。信用ならねぇ」

「そうかもしれないけど、一応ティファの紹介だし。見ず知らずの他人よりはマシじゃない?」

「マシってだけで良くはねぇだろ。ティファもあいつが神羅に居た時のことはよく知らねぇみてーだしよ。大体、依頼しようにもその金はどっから出すんだよ」

「あー、それは確かに。今回の作戦の下準備に大分使っちまったからなぁ……」

「資金繰りが厳しいのは元からでしょ。ケチって失敗するより絶対良いって!」

尚も渋い顔で唸るバレットに、ジェシーは我関せずといった様子で黙々とグラスを磨いているシユウに声をかける。

「シユウはどう思う?」

「俺はアバランチじゃありませんので、意見は控えさせて頂きますよ」

「そう言わずにさぁ。わたし達のご意見番とか、アドバイザーみたいなもんでしょ?」

「そんなものになった覚えは無いんですが」

「いいからいいから。わたし達だけじゃ埒が明かないし」

食い下がるジェシーにシユウは苦笑しつつ、「なら参考程度に留めて下さいね」と前置いて答える。

「バレットさんの言う通り、元とは言え神羅に従ってた経歴がある訳ですよね。となると元は敵も同然です。神羅が送り込んだスパイの可能性も無くはないですし、裏切られた時のリスクを考えると、安易に仲間に引き入れるのはあまりお勧め出来ません」

「ほら見ろ」

自分の味方が増えたと思いバレットは喜んだが、シユウは「でも」と続ける。

「現状のままでは作戦の成功率が低いのでは、というジェシーさんの懸念も分かります。ソルジャーであれば――まぁクラスにもよるでしょうが、確実に戦力にはなるでしょうし、何より神羅に居たなら内部情報をある程度知っている可能性もある。例えば、施設の構造、秘密の抜け道、暗号、人員の配置……それらを知っている人が居ると、潜入の際に手間が省けます。危険を犯さず情報を得られるのは大きなメリットですよね」

今度はジェシーがうんうんと頷いた。
シユウは「とは言えそれを逆手に取って騙される可能性もありますが」と付け加える。

「まぁとにかく、そういうリスクとメリット両方を理解した上で決めるのが良いと思いますよ」

「……で、結局お前の意見はどっちなんだよ?」

「俺はそのクラウド君とは直接お会いしたことも無いので、現時点ではなんとも。ただ、信用出来るか、役に立つかを見極める意味でも、1回依頼してみるのはアリなんじゃないですか」

「と、我々の信頼するアドバイザーが申しております」

「アドバイザーでは無いです」

「わーったよ。そこまで言うなら、いっぺん試してみっか」

「そう来なくっちゃ! それじゃ、クラウド達に伝えてくる!」

バレットの承諾を得るなり、ジェシーは笑顔で店を出て行った。
何故ジェシーはあんなにクラウドとの共闘に乗り気なのだろうかと不思議がるシユウに、ビッグスとウェッジが、

「多分顔が良かったからだな」

「クラウドさんは女の子にモテそうなタイプっす」

と、揃って似たようなことを言った。






果たして、ティファと一緒にやってきたその青年、クラウド・ストライフは、前評判通り整った顔立ちをしていた。

男前、と言うよりは、美形、という表現の似合う顔だ。
ツンツンと先の尖った金の髪と、魔晄を帯びた碧の瞳。服は恐らくソルジャーの制服だろう。見覚えがある。

そんな風にクラウドを興味深げに観察するシユウと同じく、相手も上から下まで観察してから、

「あんたは?」

これまた顔に似合う綺麗な声で尋ねた。
シユウはニコッと営業スマイルを貼り付けて答える。

「セブンスヘブンのバーテンダーのシユウと申します。初めまして」

「あんたもアバランチなのか?」

「俺は違いますよ。でも活動の邪魔をするつもりもありませんので、お気になさらず。何か飲みますか?」

「いや、いい。それより、依頼について詳しく聞きたい。誰と話せばいい?」

「おう、こっちだ」

と、ビッグスやウェッジと談笑していたバレットが、来客に気付いて手招き。
クラウドはジェシーと一緒に、彼らの居るテーブル席へ。

「ごめんなさい。クラウドはその、あんまり人付き合いが得意じゃなくて。でも悪気があるわけじゃないんです」

背負っている大剣もどこかで見たような気がするな、と考えていると、残ったティファに申し訳なさそうに言われた。
シユウはなんの事か分からず首を傾げる。

「初対面にしてはちょっと、愛想が悪かったかなって」

「そうですか? 俺は気になりませんでしたよ。バレットさんとの出逢いの時に比べれば、遥かに好印象です」

「そう言われると……確かに?」

ティファはバレットの日頃の振る舞いを振り返って、困ったように笑った。
バレット達の話し合いに加わらないのならと、シユウは彼女をカウンター席へ案内する。

「彼、ティファさんの旧友だそうですね?」

「はい。でも、会うのは随分と久しぶりで……クラウドはソルジャーになるって言って村を出て、私はそれきり会えてなかったので。7年ぶりくらいかなぁ」

「7年……よくそれですぐにクラウド君だって気付けましたね?」

「見た目はそんなに変わってないですから。背が伸びて、逞しくはなったけど……でも……」

楽しそうに話していたティファは、テーブルに置いた両手を握り、視線を落とした。
珈琲を淹れたシユウは気遣わしげに声をかける。

「どうしました?」

「あ、いえ、何でも。見た目は変わってないけど、中身はほんの少し変わったかなと思って。でもそんなこと言ったら、私だって昔と違うところは沢山あるし。成長と共に変わっていくのは普通のことですよね」

取り繕うように若干早口で述べたティファは、差し出されたホットコーヒーを口に運び、「美味しい」と微笑んだ。

「珈琲はシユウさんが淹れたものには敵わないなぁ」

「試行回数の差だと思いますよ。カクテル作りに関しては俺が負けてます」

ティファがセブンスヘブンで働くようになってから、女性客の多い昼間はシユウが、男性客の多い夜はティファが主に店番をするようになった。
それに伴い、それぞれ提供するメニューの腕ばかりが上がっていき、シェーカーを振る機会が減ったシユウは、あっさりとティファに追い抜かれてしまった。

「先生の指導のお陰です」

「俺は基本を教えただけですよ。ここまで上達したのはティファさんの実力です。売上だってティファさんの方が上でしょう」

「それは商品単価が夜の方が高いからで――――」

そんな風に「どちらがより相手を褒められるか」の勝負に興じる二人を、クラウドはじっと見ていた。
ジェシーがそれに気付いて、視界を遮るようにクラウドの前で手を振る。

「ちょっと聞いてる? 今回の作戦の流れについて説明するから、ちゃんと聞いててよ」

「あ、ああ。悪い」

「まず壱番魔晄炉への侵入経路ね。目指すはここ、壱番街の駅。駅のホームからこう進むと、魔晄炉の近くに出られるの」

ジェシーは言いながら、机に広げた地図の上で指を滑らせた。他のメンバーはそれを目で辿る。

「駅まではどうやって?」

「走行中の列車に飛び乗る。後はそのまま、駅に着くまで列車の上で身を潜める。他にも色々考えたが、結局はこれが一番手っ取り早い」

「なるほど」

「お、全然ビビってないね。流石はソルジャー」

「元<\ルジャーだ」

「オレは正直ちょっと怖いッス……」

「俺が後ろから押してやるよ」

「そのまま転がり落ちたらどうするんスか!」

「それで、その後は?」

「後はカンタン。警備をどうにかしつつ魔晄炉の根本まで行って、この爆弾を仕掛けるの。時限式だから、置いてタイマーをセットして逃げるだけ」

「だけ≠チて言うけど、結構綱渡りなんだよな。逃げ遅れたら俺達も危ない」

「そうならない為の助っ人でしょ? 頼りにしてるからね!」

「決行日は?」

「今夜だ。逃げるなら今のうちだぜ」

「わかった。2000ギルで引き受けよう」

金の話が出た瞬間、皆渋い顔になり歯切れを悪くした。
セブンスヘブンの他にも収入源はあるが、ローンの返済やアバランチの活動費、その他諸々で差し引きはほぼゼロ。急な出費にすぐ対応出来るほどの余裕は無い。

だが背に腹はかえられないと、バレットはクラウドの提示した条件を呑んだ。
この作戦には、アバランチの想いと、この惑星の未来と、皆の命が懸かっている。失敗は許されない。

話が纏まり、時間まで一時解散となったアバランチのメンバーはあちこちに散らばった。
ティファは街を案内すると言ってクラウドと共に店を後にし、それと入れ替わるようにバレットがカウンターに座る。

「移動時間も考えると、出ていくのは夕方頃ですか?」

「おう。マリンと入れ違いになるな」

近頃のマリンは、同じ年頃の子供達と近所の空き地などに遊びに出掛けるようになった。
いつも通りなら、帰ってくる時間とバレット達が出ていく時間は丁度同じ頃だ。

「オレ達が帰ってくるまで、マリンとティファの事は頼んだぞ」

「承知しました。バレットさん達もお気を付けて。そうだ、これお守り代わりにどうぞ」

シユウは引き出しから取り出したものをカウンターに置いた。
癒しの魔法が込められた緑色のマテリア。店などでは「かいふくのマテリア」という名で売られているものだ。

「こんなもんいつ買ったんだよ」

「買ったんじゃなく貰ったんです、店に通ってくれてるお客さんから」

「貢ぎモンかよ……どうせ女からだろ?」

「プレゼント≠チて言ってください。俺は男性客には嫌われてますからね。ティファさん目当ての方には特に」

「だろうな」

バレットは笑いつつ右腕から銃を外して、空いた穴にマテリアを填め込んだ。
他の箇所には、攻撃用のマテリアが装着されている。

「……こんなもの、使わずに済めば一番良いんですけどね」

「まだ反対してんのか」

「俺はずっとそうですよ。バレットさん達のことも心配ですし」

「このまま神羅を野放しにしてると星か滅びる。そうなる前に誰かがやらなきゃならねぇんだ。動かねぇと何も変わらねぇ」

「それはもう散々聞きましたよ。星命学を否定するつもりはありませんけど、俺は星の命より、目の前の人の命の方が大事なんです」

「その人の命も、星あってのもんだろ?」

「それはそうですけど……」

「大体な、今から作戦始めようって時に、惑わせるようなこと言うんじゃねぇよ。もっと頑張って! 応援してます!≠ニか、そういう前向きなこと言えねぇのかよ」

シユウはむぅと口を曲げながら、然しここは確かにバレットの言う通りかと引き下がる。

「無事を祈るくらいはしてますよ。応援はしませんけど」

「しねぇのかよ」

「店開けていいですか? 何かしてないと小言ばかり言いそうなんで」

「おう。何か手伝うか?」

「バレットさんは休んでて下さい。作戦前ですから」

なら銃の整備でもしてくるかと立ち上がったバレットは、憂い気な顔で小さく溜息を吐くシユウを気にしつつ店を出た。

アバランチに入って今日まで、ひたすら前を向いてがむしゃらに走り続けてきたが、シユウと話すとどうにもその勢いが殺がれる。

分派アバランチの皆は自分を信じて付いて来てくれている。先頭に立つ者が揺れていては皆が不安になるし、それが命取りになることもある。

だからブレてはいけない。
バレットは迷いを振り払って歩き出した。
目次へ戻る | TOPへ戻る