01.Lost

「父ちゃんたち、今日は早く帰ってくる?」

いつも通り店を開け、バータイム開始前の穏やかな時間を過ごしていたシユウは、お手伝いに勤しむマリンにそう尋ねられた。

壱番魔晄炉の時と同じなら、恐らく帰ってくるのは夜遅くになるだろう。
それを伝えると、マリンはしゅんとする。

「マリンも父ちゃんたちと一緒に行っちゃダメ?」

「自警団の仕事は危ないからねぇ」

カウンター席で足の具合を確かめているジェシーが言った。

「でもマリン、父ちゃんともっとお話したい……」

ジェシーはよしよしと頭を撫でて、一緒に絵本でも読もっかと、片足を引き摺りながらマリンを地下へ連れて行った。

今回の作戦が無事に終わっても、バレット達はまたすぐ次の魔晄炉の爆破に向かうのだろう。
マリンがバレットとゆっくり過ごせるようになるのは何時になるのかとシユウは溜息を吐いて、

『伍番街魔晄炉前からの中継です。神羅カンパニーは魔晄炉の爆破予告を分析し、爆破の対象を伍番と特定。施設内にて実行犯を発見し、現在追跡、及び爆発物の探索に当たっています』

ニュースキャスターが読み上げたその文章にテレビの方を向いた。
画面には、壱番魔晄炉の時のものだろう映像――アバランチのメンバーが映っているもの――が流れている。

『続いて各地の映像です。伍番街スラムでは、爆破対象の特定報告を受けて、神羅カンパニー危機管理本部からの避難勧告が通達されました。壱番魔晄炉爆破事件に続く、連続爆破実行犯の非道な犯行に、非難の声が巻き起こっています』

『プレジデント神羅は、市民の暮らしを侵す脅威を、断固排除すると宣言しています』

シユウは暫しその画面に釘付けになっていた。
知らずと握り込んでいた手に、じわりと嫌な汗が滲み出す。

――――これは、まずい。非常に良くない。

アバランチのやった事が全て神羅の良い様に使われてしまっているのもそうだが、何よりバレット達の動向があちらに筒抜けになっているのがまずい。

脱出の為のルートは当然潰されているだろう。これでは袋の鼠だ。
抜け出すためには真正面から敵とやり合うしかない。

そう予想した通り、画面には巨大なロボットと対峙するクラウド達の姿が映し出された。
ニュースキャスターの実況に被って、ホログラムに投影されている髭面の男――確か、治安維持部門統括のハイデッカー――が声高に叫んでいるのが聞こえる。

『ミッドガル全市民の敵アバランチ! ウータイとの共謀による罪状は明らか……貴様らを即刻、粛清する!』

「――――は!?」

シユウは思わず声を上げた。
中継のカメラはティファの回し蹴りによって壊された様で、映像はスタジオに戻される。

「なんっ……何を勝手に、ウータイとの共謀って、何でそんな話に……!」

まさか、一連の騒動を戦争再開の口実にでも使うつもりか。
シユウは怒りに震えたが、ぶつける先がなく机を殴る。

(……落ち着け、落ち着け。今はバレットさん達の方を何とかしないと)

とは言え、ここから出来る支援などあるだろうか。
何か別の騒ぎを起こして、伍番魔晄炉から兵を引き離す? 或いは、こちらから伍番魔晄炉に出向くか。

(どっちも現実的じゃないな……下手に動くと状況が悪化する。信じて帰りを待つしか……)

だが気も漫ろで仕事に集中出来そうにない。
今日はバータイムの営業はやめておこうと、シユウは看板をCLOSEに引っくり返しに外へ出た。
すると、丁度そのタイミングでビッグスとウェッジが帰ってくる。

「ただいま。今日はもう店仕舞いか?」

「ビッグスさん! ウェッジさんも、無事で良かったです」

「ジェシーの怪我の具合はどうッスか?」

「悪化はしてません。今はマリンちゃんと下で休んで貰ってます。それより、ニュース観ましたか?」

「いや? バレット達と落ち合って別れた後、真っ直ぐここまで帰ってきたからな。何かあったのか?」

シユウはモニターを指し示した。
ちょうどビッグスやウェッジの姿が確認出来る映像が流れているところで、二人はぎょっとする。

「な、なんスかこれ!」

「壱番魔晄炉の時のか? クソッ、最初っからバレてたのかよ!」

「しかもウータイと手を組んでるってことにされてますよ」

「はぁ!? 何だよそれ!」

ビッグス達は執拗に繰り返される虚偽の報道に憤りつつ、バレット達はどうなったのかと尋ねる。

「分かりません。魔晄炉の出口付近で戦ってたところは映ってたんですが、それ以降は……」

「そうか……参ったな」

「で、でもクラウドさんも居るし、大丈夫ッスよね?」

ウェッジの不安交じりの問いに、確信を持って答える者は居なかった。






結局、日付が変わる頃になっても、バレット達が帰ってくることは無かった。

ウェッジは飼っている猫達の世話の為、ジェシーは怪我の療養の為にそれぞれ家に帰ったが、ビッグスとシユウはセブンスヘブンで夜を明かした。

ジージェと約束した時間ギリギリまで粘ってみたが、それでもバレット達は現れず、

「お前も今日は何か予定があるんだろ? こっちの事は俺達に任せてくれていいからな」

とビッグスに言われたので、シユウは渋々店を出て、本家アバランチのアジトへ向かった。
諦め悪くジージェ達にもバレット達のことを何か知らないかと聞いてみたが、揃って首を横に振るばかり。

「あの爆破騒ぎのせいで、あちこちの警備が厳重になっちゃってね。こっちの作戦にも色々支障が出てるの」

ナヨと呼ばれる眼鏡の女性が困り顔で嘆いた。
本家アバランチは穏健派らしい。バレット達が本家から離脱したのは、そういった意見の食い違いがあったからだろうか。

(……俺も、モンティさんやマーレさんに出逢って無かったら、バレットさん達と関わることも無かったんだろうな)

先に本家アバランチと繋がりが出来ていれば、進んで分派と接触する気にはならなかっただろうし、バレット達のこともただ軽蔑するだけだっただろう。
だが情が湧いた今となっては、彼らの行いを一方的に糾弾する気にはなれず、シユウは話題を逸らす。

「お嬢――ユフィとの待ち合わせ場所はここですか?」

「そう。元は別の場所だったんだけど、今回の騒ぎを受けて急遽変更したの。道なりに目印を貼っておいたから、それを辿ればここには来れる筈」

「ソノンの方は?」

「ユフィが今日来ることは知ってる筈だから、そのうち帰ってくるとは思うけど……」

それならばと、シユウはユフィを出迎えに行くことにした。
貼られている目印――モーグリのポスターをアジトから逆に辿って行くと、行き止まりになっている空き地に出る。

特にそれらしき人影は無いなと辺りを見渡していると、突如真後ろで大きな何かが落ちたような騒音が鳴った。
少し間を置いてから、先程よりは小さくもう一回。それに混ざって聞こえる女の悲鳴。

そう言えば、彼女は昔からよく高い所に登っていたなと懐かしく思いながら、シユウは土煙の中で咳き込んでいる少女に歩み寄る。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃな〜い! せっかく綺麗に着地したのに、これじゃ台無し……って、誰? あ、もしかしてアバランチの人?」

「違いますけど、その件で迎えに来ました。お元気そうで何よりです、お嬢」

「ん? ……お嬢?」

手で土埃を払いながら出てきた少女は、シユウの顔をまじまじと見た。

「…………もしかして、シユウ?」

「はい。お久しぶりです」

「うそ、本当に? なんで居んの? っていうか、こんなとこで何してんの?」

「ですからお迎えです。アバランチの皆さんのアジトまでご案内しますよ」

「今回の相棒はソノンだって聞いてるけど、シユウの間違いだった?」

「ソノンも居ますよ。俺は助っ人みたいなものです」

「ふーん、まあいいや。じゃあ、案内ヨロシク!」

「了解」

こっちです、と来た道を引き返すシユウの後ろを、何故かモーグリのフードを被っている少女ことユフィがついて行く。

「ミッドガルに行ったとは聞いてたけど、まさかこんな所で会うなんて。会うの何年ぶりだっけ?」

「4年か5年くらいですかね」

「じゃあアタシがオトナの女になってて吃驚したでしょ!」

「え? ――ああ、背は伸びましたね」

「それだけみたいに言うなぁ! シユウこそ殆ど変わってないじゃん。もっとミッドガル色に染まってるかと思ってた」

「ミッドガル色って……」

あまり染まりたいとは思えない色だなと思いつつ廃工場の中などを進み、七番街まで戻って来ると、街中に置かれた古いブラウン管の前に人集りが出来ていた。

シユウは素通りしようとしたが、興味を示したユフィがそちらに吸い寄せられて行ったのを見て足を止める。

報じられていたのは、昨夜と変わらず伍番魔晄炉の件だ。
兵器開発部門統括のスカーレットがカメラの前で恭しく話す内容を聞いて、ユフィが興奮気味に尋ねる。

「これってアバランチの仕業?」

「まぁそうですね」

「やるねぇ! いいねぇ! アタシも負けないぞ〜!」

と意気込みを見せるユフィに、お嬢はそっち派かとシユウは苦笑した。
確かに停戦条約が結ばれた時も、彼女は納得していなかった。やられた事はきっちりとやり返したいタイプなのだろう。

「残念ながら、今回手を組むアバランチは、爆破事件を起こしたグループとはまた別ですよ」

「アバランチってそんなに沢山居るの?」

「人数は知りませんけど、グループは大きく分けて本家と分派の2つです。俺達がお世話になるのは本家の方」

「ふーん。分派とは組まないの?」

「さあ……そもそも今回の話がどうなってるのか、俺はよく知りませんから。本家の方々か、ソノンに聞いてください」

ユフィは了承し、アジトに着くと、待っていた本家のメンバーに意気揚々と挨拶。

「アタシはウータイ暫定政府の精鋭部隊、マテリアハンターのユフィ。邪智暴虐の神羅カンパニーより、究極マテリア奪取! ウータイの本気を示す為、遠方よりやって来た。盟友アバランチよ、協力に感謝する!」

マテリアを使った曲芸紛いの動きと共に、最後に笑顔で「よろしくね!」と締めたユフィに、一瞬呆気に取られていたナヨ達は順に挨拶を返す。

「ねえ、アタシの相棒のソノンは? もう着いてる?」

「今は出掛けてるの。そろそろ帰ってくると思うけど……あ、ほら、噂をすれば」

階段を降りてくる足跡が聞こえて、シユウはドキリとした。
「ただいま」とナヨ達に告げたソノンは、まずユフィに捕まる。

「おそ〜い!」

「ごめんごめん。初めまして、ユフィ。俺はソノン・クサカベ。ゴドー様から直接拳法の指導を――」

「あんな奴の話はいいから! それよりさ、何処行ってたの?」

「ちょっと敵情視察にウォール・マーケットへ」

「うぉーる・まーけっと? なにそれ」

言葉に詰まるソノンに、聞いていたナヨが横から助け舟を出す。

「一言で言うと、大人の街ね。色んなお店があるの。説明しづらいけど」

「オトナの街……って、アレでしょ? 辛いのや苦いの、思いっきりマズいのに、ヤセ我慢して飲んだり食べたりするんだよね。んで酔っ払って、昔はもっと厳しかった、大変だった。最近の若いヤツは〜≠チてするんでしょ! 堕落だよアレは!」

随分と偏ったイメージだなと、黙って聞いていたシユウは思った。
ユフィが正確に歓楽街を想像出来ていたら、それはそれで少し嫌だが。

「そんな所で遊んでたんだ? すっかり街に馴染んじゃってさ! ちょっと、シユウも何とか言ってやってよ!」

背を向けてソノンと顔を合わすまいとしていたシユウは、不意にそう話を振られて、う、と顔を歪めた。
ユフィの言動を微笑ましく見ていたソノンの表情も変わる。

「……シユウ? まさか、シユウ・シノノメ?」

「え? なんで知って――ってそっか、二人ともオヤジの弟子だからかぁ」

答えないシユウに、ソノンは肩を掴んで強引に振り向かせた。
シユウはその鋭い視線から逃れようと尚も顔を逸らす。

ただ向かい合っているだけでも息が詰まった。
重苦しい空気を感じ取ったユフィが、二人の顔を交互に見遣って、

「……何?」

「……いや、何でも。でも今回の任務は、俺とユフィ先輩の二人だけって聞いてたけど?」

「アタシもそう聞いてたけど、シユウも手伝ってくれるんだって。っていうか、先輩? アタシが?」

「俺の方がずっと年上だけど、特殊部隊に入ったのは君が先だからね」

「先輩かぁ……いいね。アタシいつもチビッコ枠だから」

などと呑気に浮かれるユフィと、乱入してきた伝書鳩のお陰で、シユウは何とか呼吸を取り戻すことが出来た。
偽造IDが出来たので受け取りに来て欲しい、という連絡だったらしく、ナヨについて来るよう言われる。

指定された場所――郊外の物資保管庫へ向かう途中、突然隠れるように言われて、何かとナヨの視線を辿ったシユウは思わず「あ、」と声を零した。

「なになに? どうしたの?」

「あれ、分派の連中」

「ああ! さっきシユウから聞いたよ。 でも何で隠れるの?」

ナヨがその説明をユフィにする間、シユウはセブンスヘブンの前でビッグスと話す二人――ティファとバレットを見て深く安堵していた。
その様子に気付いたソノンが尋ねる。

「知り合いか?」

「え? まあ……俺、今はあの酒場で働いてて。あの人達は同僚」

「へぇ。随分と楽しい日々を送ってるみたいだな」

冷水をかけられたかのように、バレット達の無事を喜んでいたシユウの心はしゅるしゅると萎んでいった。
仕方の無い事ではあるが、こうもあからさまに皮肉をぶつけられると堪える。

「あの連中、もう神羅にマークされてるんじゃないか? 一緒に居たならお前も……」

「いや、俺はアバランチの作戦には参加してないから、多分まだ大丈夫だと思う」

「元々は俺とユフィの二人でやる予定だったんだ。無理にお前が参加する必要は無いだろ」

成程。どうやらソノンは自分をこの作戦から外したいらしい。
傍に居るだけで嫌なことを思い出すからだろう。その気持ちはよく分かる。

だがシユウはキリキリと痛む胃を押さえながら首を振った。ソノンとユフィだけを敵の本拠地に送り込むような真似はしたくない。
バレット達が居なくなったところで、ナヨが先導を再開する。

「分派の連中はね、神羅とガチで戦うつもりなの。いわゆる武闘路線」

「いいじゃん。ナヨ達は違うの?」

「私達の目的は、神羅カンパニーからミッドガルを解放すること。だからたとえその為でも、市民の生活は大切にしないとね。街を壊すのは違うと信じてる」

ごもっともだとシユウは思ったが、ユフィとソノンは納得のいかない顔をしていた。

1つ目のIDを無事に受け取り、アジトへ戻ろうとしたところで、またも伝書鳩がやって来る。
足に括り付けられたメモを解いたナヨが、そこに書かれている内容を読み上げる。

「予定変更。支柱の下で待つ。急がれたし――ジージェ=v

「支柱とは?」

ソノンの問いに、ナヨは頭上に広がるプレートを支えている巨大な柱を指した。
向かってみると確かにジージェは居たが、何やら神羅兵と揉めており、兵達の気が逸れた一瞬の隙をついて逃げていく。

「追いかけよう。俺達の為に、何か無茶をしたのかもしれない」

「ジージェのこと頼んでいい? 私は戻って皆に知らせなくちゃ」

「任せて!」

ナヨと別れたシノビの三人は、ジージェを追う神羅兵を尾行して駅の方へと向かった。
道すがら、先のナヨの話を掘り返して、ソノンが語る。

「彼らは覚悟が足りない。分派と呼ばれていた連中の方が、手を組む相手としては好ましい」

「うん、そうだね。ナヨはああ言ってたけど、ウータイは滅茶苦茶にされたんだもん」

「……だから、ミッドガルも同じ目に遭わせてやる、って事ですか? ナヨさん達みたいに、俺達に協力してくれる善い人だって、ミッドガルには居ますよ」

「それはそうだけどさ……」

「随分とミッドガルの肩を持つんだな。神羅の連中がウータイで何をしたか、そのせいでウータイがどうなったか、俺達がどんな目に遭ったのか、全部忘れたのか? それとも、ミッドガルに移り住んだから、もう故郷がどうなろうと知ったことじゃないって?」

「そうは言ってない!」

「言ってるだろ。悪いが、俺はこの街にそこまでの愛着は持てない。神羅を潰せるならどんな手だって使う。その結果、この街がどうなろうと関係無い」

そう吐き捨てるソノンに、シユウは何も言い返せなかった。
彼は復讐に囚われている。そうなった理由の一端は、かつての自分の行動にある。

やがてメインピラー整備場まで来ると、開けた場所で対峙している神羅兵とジージェの姿が見えた。
ジージェは捕まってしまったようで、後ろ手に縛られ銃を向けられている。絶体絶命だ。

「行きますか、先輩」

「モチロン!」

「って言っても、作戦は?」

「俺が敵を引きつける。二人はその隙にジージェを」

「陽動作戦だね、いいじゃん。でも、目立つのはこのアタシ!」

ユフィはニヤリと笑んで、ひらりと近くの鉄骨に飛び移った。
ソノンが止める間もなく、ユフィは声高に叫ぶ。

「やい、そこの悪党ども!」

当然、兵達は警戒してユフィの方を向いた。
ユフィはノリノリで喋り続け、最初からこうなることを見越していたシユウは、天を仰いでいるソノンを引っ張ってジージェの所へ連れて行く。

「駄目だ、俺の手には負えない……」

「お嬢は昔からああだから、諦めた方がいい」

それに、配役は違えど陽動作戦には違いない。
ユフィが必要以上に騒いでくれたお陰で、ジージェの救出はすんなりと終わった。

鉄骨から降りてきた――というより、落ちてきた――ユフィも合流し、三人で神羅兵を潰してからジージェの無事を確認。

「有難う、助かった」

「怪我はありませんか?」

「ああ、お陰様で。早速だけどコレ、神羅ビルの中で使う社員用のIDカードだ。これを使って地下に行ってくれ」

「地下に究極マテリアがあるの?」

「多分な。地下には兵器開発部門のラボがあって、その中にはマテリア研究フロアがある。究極マテリアがあるとすれば、その何処かだろう」

「兵器開発部門……」

ソノンが囁くように繰り返した。
かつてメルフィを殺したのは、その開発部門が製造したのだろう機械兵器だ。

「さあ、急いだ方がいい。神羅が何か大きな作戦を実行に移すらしい。七番街を破壊し尽くすなんて噂もある。巻き込まれないようにな」

「え!?」

ソノンを心配して見ていたシユウは、ジージェのその発言に眉をひそめた。
ジージェは「あくまでも噂だ」と繰り返す。

「でも念の為、俺は仲間に知らせに行ってくる。あんたらは駅から上に行く列車に乗ってくれ。成功を祈る」

「あのっ! その噂、バレットさん――分派の皆さんにも伝えてくれませんか? セブンスヘブンに居ると思うので。あと、出来れば天望荘のマーレさんにも!」

「了解」

ただの噂だとしても、火のないところに煙は立たない。
不安の残る顔で、走っていくジージェを見送るシユウに、

「……七番街が心配なら、お前はジージェと一緒に行ってもいいんだぞ」

ソノンがそう声をかけた。
それが思い遣りから出た言葉では無いのだろうことに眉を下げつつ、シユウは今己が優先すべきはどちらかを考えて、「早く駅に行こう」とだけ返した。
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