01.Lost
駅前は多くの人でごった返していた。伍番魔晄炉の爆発の影響などでダイヤが乱れ、運行する列車の本数も減っているらしい。
押し合い圧し合いながらも何とか停まっていた列車に乗り込んだ三人だったが、当然中も鮨詰め状態で、ソノンとシユウはユフィが潰されないようにと壁になる。
「そう言えばお嬢、乗り物酔い酷かったですよね。列車は大丈夫……」
「じゃない……気持ちワルイ……」
「あ〜……すみません、今日は酔い止め持って来て無くて」
吐き気を堪えようと上を向いて耐えるユフィを見て、ソノンが寂しそうに笑う。
「メルフィも乗り物には弱かった。船、チョコボ……列車も多分ダメだな」
「メルフィって?」
「妹だ。一緒にゴドー様に師事していて……俺より才能があった」
「あった=H」
どうして過去形なのかと問うユフィに、ソノンが答えるまで少し間があった。
シユウはどんな顔でこの話を聞いていればいいのか分からず、窓の外を流れるトンネル内の景色を意味もなく眺める。
「亡くなった。停戦の年だ。神羅の自走式兵器が暴走して、それを止めようと……だから、これは復讐なんだ」
「……うん。でも……アタシは妹じゃない」
何を思ったか、ユフィは壁についているソノンの手をグイと引っ張った。ソノンがバランスを崩し、シユウもそれに引っ張られる。
ちょうど列車は線路のカーブに差し掛かったところで、三人は壁と人の間に挟まり押し潰される。
「お嬢! 何やってるんですか、せっかくガードしてたのに」
「そんなことしなくていい!」
「????」
一体何が気に入らなかったのか。
シユウはソノンと顔を見合せて首を傾げた。
ユフィの酔いが限界に達する前に列車は駅に到着し、三人は他の乗客と共に外へ吐き出される。
神羅ビル内はマスコミ関係者で埋め尽くされていた。それに対応している警備兵も多く居る。
「お嬢、具合は?」
「もうヘーキ。さっさと行こう。人にも酔っちゃいそう」
「エレベーターがある。あれに乗ってみよう」
ジージェに貰ったIDを翳してエレベーターに乗り込み、扉を閉めようとしたところで兵に止められる。
一瞬警戒したが、どうやら相乗りしたいだけの様だ。
それならばと承諾して同乗者を待っていると、あろうことか連れられて来たのは兵器開発部門統括のスカーレットだった。シユウは息を呑む。
「行き先は?」
「……地下、兵器開発」
動揺を隠してソノンが答えた。
ソノンにとってはメルフィの死の原因を作った仇のようなものだ。だが今ここで事を起こせば、作戦の続行は難しくなる。
「ウータイも姑息よね。アバランチなんかと手を組んで、コソコソ攻撃してくるなんて」
そうして感情を抑え込んでいる三人を煽るようにスカーレットが言った。
「ウータイ人は誇り高いと聞いていたけど、それは昔の話みたいね。今のウータイさんは、神羅に集る虫みたいなものよ。ねえ、貴方達もそうは思わない?」
――これは、正体を見透かされているのだろうか?
バレているのなら話を合わせる必要も無いかもしれないが、シユウより先にユフィが口を開く。
「……思います。そうですね!」
彼女にとっては一番屈辱的なことだろうに。
無理に笑みを形作って答えたユフィに、スカーレットは「良い笑顔」と微笑んだ。
エレベーターが地下へ到着し、三人はスカーレット達と共に目的地へ向かおうとしたが、エレベーターホールを出ようとしたところで扉を閉められてしまう。
「ちょっと!?」
「残念。ウータイのネズミさんは、あっち」
分厚いガラス扉の向こうで、スカーレットが三人の後ろを指した。
見れば、そちらにも通路が伸びている。
「貴方達には、新しい兵器の実験台になって貰うわ」
やはり最初からバレていたのだろう。
嘲笑いながら去っていくスカーレットに、ソノンが「くそっ!」と扉に拳を叩き付ける。
「絶好のチャンスだったのに……!」
「……でも、あの場で戦う訳にもいかなかっただろ。悔しいだろうけど、また別の機会が――」
「お前が言うなよ!!」
ソノンはシユウの胸倉を掴んで吼えた。
その手は怒りに震えている。
「お前が……お前のせいでこんな……!!」
「…………ごめん」
またそれか、と、シユウは自分に対して思った。
きっとソノンにも呆れられているのだろうが、謝る以外に出来ることが浮かばない。
事情を知らないユフィは、ソノンの手をシユウから優しく剥がす。
「ソノン、落ち着こう。アタシ達、何しに来た?」
「先輩…………」
ソノンはゆっくりと息を吸って、吐いた。
冷静さを取り戻して、ユフィに謝る。
「いいよ。ムカつくのはアタシも同じ……究極マテリアのとこまで案内させれば良かったよ」
「兵器の実験台って、何をさせるつもりだろうな」
「行ってやろうじゃないの。でもその前に――――」
ユフィは背伸びをして、シユウとソノンの頭を叩いた。
男二人は軽い衝撃に「いてっ」と声を揃える。
「アジトを出る前からず〜〜〜っと続いてるその空気、なに!?」
「いや……これは……」
「前に何かあったんだろうけどさ、今のアタシ達は同じ任務に挑むシノビの仲間でしょ? 協力して作戦を成功させる事が一番大事なんじゃないの?」
「…………その通りです」
「だったら過去のことは一旦置いて、今は仲良くやろうよ! ケンカとかそういうのは、作戦が終わってからいくらでも出来るんだからさ」
「「…………はい」」
「よろしい。では改めて、しゅっぱ〜つ!」
まさかユフィに窘められるとは。
まったくもって情けないと、シユウとソノンは失笑しつつ、彼女について行く。
狭い通路を抜けると、機械兵器が並べられた広い部屋に出た。
「見てよこれ。やる気満々だよね」
「君もやる気満々だ」
「アタシはオヤジとは違うから。あのぐうたらと違って、いつでもやる気満々」
「ゴドー様はどうしてるんだ?」
「牢屋ん中。暫定政府に投獄されたよ」
「え、そんな事になってるんですか? 何で?」
「皆の話も聞かずに、勝手に停戦なんかしたからでしょ。滅茶苦茶不利な条件呑んでさ。せっかくだから頭冷やせばいいんだ」
「うーん……」
自分は停戦を受け入れたゴドーの判断には賛同しているのだが、今ここでそれを言うと火に油かとシユウは口を噤んだ。
ユフィも「こんな話やめよう」と会話を打ち切る。
『田舎者の話は退屈ねぇ』
「うわっ、出た!」
『お喋りはそこまで。実験を始めましょう。まさかとは思うけど、こんなところで死なないで頂戴ね?』
ホログラムに投影されたスカーレットが一方的にそう告げて、同時に周囲の兵器が駆動し始めた。
まずシユウが遠くからクナイや忍術で気を引き、敵の攻撃パターンが凡そ分かったところで、ソノンが一気に距離を詰めて叩く。
遠近両方を得意とするユフィは、二人の連携を見ながら合間に攻撃を挟む。
「息ピッタリじゃん。本当は仲良し?」
「お嬢が協力しろって言ったんでしょう」
「ユフィ先輩、集中」
「む〜っ」
疎外感を抱いたユフィは、その不満を兵器にぶつけた。
見事スクラップにし終えると、ホログラムのスカーレットに次のエリアへ移動するよう促される。
「む〜か〜つ〜く〜! マテリアどこだーっ!」
「呼んでも出てきませんよ」
「ねえ、シユウとソノンっていつから知り合いなの? 付き合い長い?」
「まぁ、それなりには」
「へぇ〜。なんで隠してたの?」
「別に隠してた訳じゃ……話す機会が無かっただけです」
「さっきの連携とかさ、あんなに呼吸を合わせられるって事は、元は仲良かったんでしょ? なんで今はそんな感じなの?」
「あ、ほらまた敵が来ますよ」
「だぁーもうっ、空気読め〜!」
進路を塞ぐ兵器や戦闘員を蹴散らしながら進むと、今度はマテリアの並ぶ部屋に出た。
究極マテリアとは違うようだが、ユフィは「せっかくだから」と幾つか拝借して懐に仕舞う。
「お嬢、窃盗は良くないです」
「いいじゃん、神羅のなんだし。マテリアをいっぱい集めて、ウータイをもっと強くしなくっちゃ」
「ユフィ先輩の言う通り」
「……避けられる戦闘は避けるべきだ。戦えばその分犠牲も出る」
「避けられるならな。でも、神羅との戦いは避けられなかっただろ」
次の部屋に向かう道を探してくると言って、ソノンは輪から外れた。
悲痛な顔でその背を見詰めるシユウを、傍らのユフィが見詰める。
「ケンカ、意見の食い違いが原因?」
「流石にそれだけでここまで険悪にはなりませんよ」
「じゃあ何?」
「……メルフィが死んだ時、俺も同じ場所に居たんです。俺はメルフィを助けられる距離に居た。でも……ソノンも敵に狙われてて、危ない状況だったんです。あいつ、メルフィの事に気を取られて、自分の方には気付いてなくて……」
「……それで、ソノンの方を助けた?」
「はい。結果、メルフィは死んで……それが原因です」
「そっか……でもそれ、シユウは悪くないじゃん。二人いっぺんに助けるなんて無理だよ」
「有難う御座います。でも問題はそこじゃない。どちらか一方しか救えないのなら、メルフィを選んで欲しい……あいつならそう言うと分かっていて、俺はその想いを無視した。それが許せないんですよ。あいつも、俺も」
その上、きちんと向き合うこともせず、一人でさっさとミッドガルまで逃げてきたのだから、ソノンが怒るのは当然だろう。
進路を見つけたソノンに呼ばれて、二人は一旦会話を終わらせて先へ進んだ。
行く先々で待ち構える敵に各々が悪態を吐いていると、またもやホログラムのスカーレットが現れる。
『ご機嫌いかがかしら?』
「うひゃあっ!?」
『この程度で驚いて貰えて光栄だわ。ねえ、折角ここまで来たんだもの。もう少し私と遊んでいかない? ホログラムなんかより、もっと面白いものを見せてあげる』
「何が目的だ!」
『やだ、そんなに怖い顔しないで? そうね……貴方達の探し物も、この先にあるんじゃないかしら』
ロックのかかっていた扉がひとりでに開いて、スカーレットは「待ってるわね」と手を振り消えた。
罠かもしれないが、他に選べる道も無い。三人は覚悟を決めて扉の先へ向かう。
何があるのかと思えば、そこは兵器の試験場だった。
中に入るなり、電子的な音声で耐久テスト開始のアナウンスが流れる。
「本当に実験に付き合わされてますね、これ」
「ふざけんなーっ! 究極マテリア寄越せーっ!」
ご丁寧に一体ずつお出しされる殺戮ロボットを順に倒していくと、終点で待っていた生身のスカーレットに拍手で迎えられる。
「お疲れ様、ウータイのシノビさん。なかなかやるじゃない」
「な〜に余裕ぶってんの。ホントはビビってんでしょ! ウータイにはアタシ達みたいなのが沢山居るよ。想像してみ? シノビの末裔達が大勢来るの!」
「それは大変! 対策を立てなくちゃ」
「ムダムダ!」
「ケチくさいこと言わないで、チャンスを頂戴?」
スカーレットが指を鳴らすと、部屋に鎮座していた一際大きな兵器に光が点った。
スカーレットはコックピットに乗り込んで、その巨体を動かす。
「これはね、私のアイディア満載の最新型バトルアーマー。いい思い出にしてね? 誰にも話せないと思うけど」
脚部に付いたロケットエンジンで急加速し、両手に剣を携えた機体が迫る。
シユウ達は三方にそれを避けて距離を取ったが、追うように砲撃が飛んでくる。
「まずあの腕壊そう! アタシ右!」
「じゃあ俺は左。シユウは足を頼む」
「了解」
厄介な攻撃と機動力さえ封じればこちらのものだと思ったが、それはスカーレットも見越していたようで、こちらが破壊する度に別のパーツに付け替えて対応してくる。
「それ反則!」
「これじゃキリがない。全員で本体を一気に叩こう」
ソノンが先陣を切って突っ込み、続けてユフィが合流。餅突きさながら交互に武器を叩き込む。
敵は怯んではいるが、決定的なダメージは入らない。
シユウは恐らくコアがあるだろう部分に狙いを定めた。
氷属性の忍術を同じ場所に何度も撃ち込む。ソノンがそれに気づいてユフィに指示を出す。
「その程度じゃ傷も付かないわよ、おバカさん」
「傷を付けるのが目的じゃないんで大丈夫です」
「はぁ?」
「「せーのっ!」」
シユウの忍術が止んだタイミングで、ソノンとユフィが凍った一点目掛けて同時に武器を振り下ろした。
極限まで冷やされた装甲がバリンと音を立てて割れて、奥にあったコアに棍と手裏剣が突き刺さる。
結果、バトルアーマーは内部で爆発を起こして沈黙。
役に立たなくなった機体から降りたスカーレットを、三人が取り囲む。
「さてと、どうしよっかな〜」
「あらやだ、田舎臭い顔ばっかり」
「俺はミッドガルでも結構褒められますよ?」
「そこは対抗しなくていい」
圧倒的に劣勢の筈だが、スカーレットは余裕を崩さず笑みを湛え、徐に己の太腿へ手を伸ばした。
一見するとただの装飾に見える金の飾りに指で触れると、部屋中に警報が鳴り響く。
「え、なになに!?」
「おい、今何をした!?」
問い詰められても、スカーレットは涼しい顔。
ソノンは再度怒鳴る。
「言え! 何をした!?」
「さっきから怒鳴ってばかり。それがウータイ流?」
「ソノン、もういいよ。それよりおばさん、究極マテリアはどこ? むりくり強力なマテリアを作ったんでしょ? 知ってるよ」
「……へぇ、なかなか良い情報網を持ってるのね。それとも、内通者が居るのかしら?」
なんだ、本当に実在するのか。
究極マテリアの話自体、半信半疑だったシユウは、図星らしいスカーレットの反応に内心で驚く。
「確かにゴージャスなマテリアを作る準備はしてきたわ。でも、まだ出来てないの」
「ウソ。騙されるもんか」
「ホントよ。他の仕事で忙しくなって、実験を延期したの」
「他の仕事ぉ?」
スカーレットは不意に笑い出した。
怪訝な目で睨む三人に、ひどく愉しそうに告げる。
「ここだけの話よ? 私達、七番プレートを落とすの。ウータイとアバランチの犯行に見せかけてね」
「………………は?」
「なにそれ。そんなことして何になるの?」
「それは内緒。でも一つだけなら教えてあげる。アバランチのアジトが七番街スラムにあるらしいの。それを潰すのが目的よ。羽虫を一匹ずつ捕まえて殺すより、巣を丸ごと駆除する方が手っ取り早いでしょう?」
「馬鹿馬鹿しい。それじゃ被害が大きくなり過ぎる。いくら神羅でも、自分達の膝元に居る市民を無差別に殺すような真似をする筈が――――」
ない、と言い切る筈だったソノンの言葉は、遠くから聞こえてきた爆発音に掻き消された。
「信じられないのなら、自分達の目で確かめるといいわ。もうここに用は無いでしょう?」
確かに、究極マテリアが未完成だと言うのなら、これ以上探しても意味は無い。
スカーレットの言葉に従うようで癪だが、このまま留まっていても仕方が無いと、三人は走り出す。
ジージェが言っていた、七番街を破壊し尽くすという噂はこの事だったのか?
プレートが落ちたら、スラムに居る皆はどうなる?
その様を想像して、シユウは青ざめた。
先のスカーレットの仕込みのせいか、あちこちからソルジャーが集まって来る。
「どうする!?」
「とにかく突破!」
逸る気持ちとは裏腹に、手強い敵のせいでなかなか先に進めない。
半ばヤケになって忍術を乱発するシユウに、敵も苛立ちを募らせる。
「いい気になるなよ! 終わらせてやる!」
「!? きゃあっ!」
「ユフィ!」
「お嬢!」
敵の投げた手榴弾がユフィに直撃し、吹き飛ばされたユフィは隣接している小部屋の中へ。
二人もそれを追って中に入り、彼女を背に庇う。が、何故か敵はその部屋の中には入って来ず、閉じた扉の向こうに消えた。