02.MakeUpWith

ミッドガルを出て、隣町のカームに到着したシユウは、そこでユフィと再会した。

夜は明け朝になっており、ここまで休み無しで来たシユウは、流石に疲れた顔でレストランのテーブルに着く。
対面では、宿で休んで元気になったユフィが、朝食のサンドイッチをはむはむと食べている。

「スラムの様子、どうだった?」

「上から見た通りでしたよ。でも、生存者は思っていたよりも多かったです」

「ってことは、アバランチの皆も無事?」

「……本家の方は分かりません。元のアジトには居ませんでしたし、死体も見ていませんから、上手く逃げてくれた事を祈りましょう。分派の方は……」

ビッグスとジェシー、それから他にも、作戦に協力していた者は多く居た筈だが、皆行方知れずの状態だ。
全滅でないだけマシかもしれないが、それを無事だったと評していいものか。

「とりあえず、ナヨさんがお嬢に分派の連中だって紹介してた人達――リーダーのバレットさんと、ティファさんは無事でしたよ」

「そっか……でも、それなら何でシユウ一人? アタシてっきり、分派の人達と一緒に来るもんだと思ってたのに」

「え、連れてきて欲しかったんですか?」

「だって、ナヨ達は行方不明だし。分派の人達と手を組めないかなって」

「お嬢がそうしたいなら止めませんけど、俺は無理ですよ」

「なんで?」

「二度とツラ見せるなって言われちゃいましたから」

「……なんで??」

シユウがそこに至るまでの経緯を語ると、ユフィは我が事のように憤る。

「なにそれ! そんな言いがかりつけられたんなら怒りなよ! なんでそのまま引き下がってんの!?」

「いや、ちょっとは反論したんですけど……何処で何してたって聞かれてしまって、答えられなくて……」

「神羅ビルに究極マテリアを探しに行ってました〜って言えばいいじゃん」

「それ密命なんじゃないんですか?」

「そうだけど、ナヨ達は知ってるんだし、分派だろーと同じアバランチなんだから、教えてもいいんじゃない? 神羅のスパイだなんて疑いかけられるくらいならさ」

「うーん……」

確かに、暫定政府からの協力要請が、本家に限らずアバランチ全体に対するものなら、問題は無いのかもしれないが。
あの場でそれを確認する方法など無かったし、分からないまま勝手に内情を明かせるほど奔放な性格でも無い。

「何にせよ、もう過ぎたことですよ」

「また何処かで会うかもしれないじゃん」

「その時はお嬢の判断に従います。そろそろ出発しましょうか」

「え、もう? シユウ休んでないじゃん」

「ジュノンに着いたら休みますよ。ここからジュノンまで距離がありますし、早めに出発しないと野宿になる」

元気な時なら野宿もさほど苦にはならないが、心身共に疲れ切っている今は遠慮したい。

二人はチョコボを借りて、グラスランドの広大な草原を抜け、湿地帯を渡り、入り組んだ坑道を通った。
そうして漸く目的地であるジュノン――正確にはその下層のアンダージュノン――に到着した頃には、陽は落ち夜になっていた。

寂れた風景はミッドガルのスラムを彷彿とさせたが、石畳で舗装されている道や統一したデザインの家々を見るに、あちらよりはマシな環境に見える。
海に面した部分が大きく開けているお陰で、空気も――潮風で少々ベタつきはするものの――比較的キレイだ。

「ちょっと待って」

とりあえず宿でも探すかと看板を探していると、村の出入口に座っていた壮年の女性に呼び止められた。

「私はロドナー。村長兼、警備主任だ。アンダージュノンへようこそ」

「どうもどうも! アタシはユフィ、こっちはシユウ。よろしくね」

こういう時、ユフィが居てくれると大変有難い。
余所者の来訪に警戒していたロドナーの表情がが少し和らいだのを見て、シユウはしみじみと思った。

「この村へは何をしに? ジュノンの観光目的なら、残念だけどここからは行けないよ」

「なんで行けないの?」

「上に行く為のエレベーターは神羅の関係者専用なんだ。この村の住民でも行き来は出来ない」

「うわ、神羅オーボー」

と口を尖らせるユフィに、ロドナーはクスリと笑って「全くだよ」と同意。

「そういう訳だから、上に行きたいなら、船か飛空艇を使うことを勧めるよ」

「今日のところはいいや。この村って、泊まれる場所とかある?」

「それならあっちに宿がある。滅多に客も来ないから、歓迎されるだろうよ」

ロドナーに礼を言って別れ、二人は紹介された宿に入った。
木と石で造られた壁や床が、橙色の照明に優しく照らされている。置かれている調度品も、古くはあるが手入れがされていて、宿全体がアンティーク品のような味わい深さがある。

だがロドナーの言っていた通り他の客は居ないようで、良い宿なのに勿体無いと宿帳に名を記したシユウが呟くと、受付の男性が「そうなんですよ」と現状を嘆き始めた。

「昔は漁村としてそれなりに栄えてたんです。でも、神羅のせいで今はご覧の通り。上に建てられた要塞のせいで陽も当たらないし、海底魔晄炉が稼働し始めてからは水質も悪化して、不漁になるわモンスターは出るわ……お陰で客足も遠のいて、この宿もいつ潰れるかわからない。皆それぞれ頑張っては居るんですが……」

「……大変ですね」

「っと、せっかく来てくれたお客さんに、こんな愚痴を聞かせるものじゃありませんね。すみません。どうぞごゆっくり」

二部屋分の鍵を受けとり、今後どうするかの話し合いの為に一旦シユウの部屋に入ったユフィは、ソファーに座って足を投げ出す。

「なんかさ、神羅に滅茶苦茶にされた場所って、どこも同じだよね。それまでは平和に暮らしてたのに、神羅が来て、好き勝手に荒らされて……元居た人達が苦しんでる。そんなのおかしいよ」

「そうですね」

「この村の人達は、神羅と戦おうって思わないのかなぁ」

「戦える人ばかりじゃないですからね。俺達は幼い頃から訓練を受けてますし、戦争を経験してますから、抗争にもさほど抵抗はありませんけど、そうでない人達の方が多いと思います。素人が戦って勝ち目のある相手でも無いですし」

「でも、だからって何もしなかったら、ずっとこのままだよ」

「それはそうですが、皆が武器を持って前線で戦うことだけが正解というわけでもありません。――それよりお嬢、俺達には神羅のことよりも先に、解決すべき問題があります」

「え? なに?」

「金です」

シユウは神妙な顔で言った。
ユフィは目を瞬かせる。

まさか七番プレートが落とされるとは思っていなかったので、これまでに稼いできた金の大半は天望荘に置いてきたままだ。今頃は燃えて無くなっているか、あっても瓦礫の下だろう。
いつも持ち歩いている財布の中にも多少は入っているが、何日も宿で寝泊まり出来るほどの額ではない。

「お嬢が暫定政府から資金援助でも受けてるなら、話は別ですけど」

「そんなの無いよ」

「じゃあ何か稼ぐ方法を考えないと。何をするにもお金は要ります」

とは言っても、これまでのように酒場で働こうにも、この村にそれらしき店は見当たらない。あったとしても客は少ないだろう。

(いっそクラウド君みたいに、なんでも屋でもやってみようかな……明日ロドナーさんに、何か受けれる依頼がないか聞いてみよう)

今日はもう遅いので続きは明日にしようと、シユウはユフィと別れてベッドに腰掛けた。
そのままごろんと寝転がって目を閉じると、瞼の裏にソノンの姿が映る。

血。
黒い靄。
男の笑い声。
ユフィの絶叫。
炎に呑まれた七番街。

なるべく考えないようにと、思考を他へ誘導しようとするが、目を閉じると引き戻されてしまう。

自分の選択はあれで正しかったのだろうか。
かつてメルフィを見捨ててまで助けたソノンを死なせて良かったのだろうか。
他の何に代えてでも、彼を護るべきだったのではないか。

(………………わからないな)

仮に選択が間違っていたのだとしても、やり直す事など出来ないのだから、考えるだけ無駄だ。
そう思っているのに、頭は延々と意味の無い思考を繰り返し続け、眠りを妨げた。
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