02.MakeUpWith

「んで、おめーはそんな石コロ集めて何がしてぇんだよ」

「石じゃなくて鉄鉱を集めてるんです」

「あぁ? それのどこが鉄鉱だよ」

「……違うんですか?」

ちょっと貸せ、と、バレットはシユウが集めたものを入れている麻袋の中を確認。

「ただの石じゃねーか。見分けついてねーのかよ。そもそも、鉄鉱っつったって種類があんだろ。お前が探してんのはどれだよ」

シユウはバレットにメモを見せた。
バレットは麻袋を漁って、該当するものを選別していく。

「書かれてんの殆ど亜鉛系鉱物じゃねぇか。船でも造ってんのか?」

「修繕用です。よくそこまで分かりますね」

「似たようなリスト見たことあっからよ。海洋生物の付着防止になるとかで、塗料に加工したもんを船底に使うらしいな」

「そうなんですか」

「そうなんですかじゃねぇよ。集めてんのはお前だろ。なんで他人事なんだよ」

「俺はアンダージュノンの人に頼まれて採りに来ただけですから、専門的なことはよく分かりません」

「分かんねぇなら分かる奴連れて来いよ」

「こんなに難しいと思わなかったんですよ……」

「バレット、時間がかかるなら先に行ってるぞ」

「おう」

クラウドと短いやり取りを交わし、坑道を出る皆と別れて場に残ることを選んだバレットに、シユウは目を丸くする。

「え、まさか手伝ってくれようとしてます?」

「お前一人に任せてたら一生終わらねぇだろ」

「それはそうかもしれませんけど……」

自分は神羅の手先だと疑われていたのではなかったか?
困惑するシユウを他所に、バレットはピッケル片手に採掘を始める。

「随分と手馴れてますね」

「そりゃあ元は炭鉱夫だからな」

「そうなんですか?」

「話したこと無かったか? 魔晄炉が出来てからはお役御免になっちまったけどよ。ここに山ほどあるミスリルも、昔は高値で売れたんだぜ」

バレットの手で次々に掘り出されていく鉱石を、シユウが受け取り袋に入れる。それを繰り返しているうちに、あっという間に麻袋は一杯になった。
これだけあれば十分だろうと、かなり重くなったそれをシユウが両手で抱える。

「有難うございます。お礼に何か……」

「要らねぇよ別に。それより、何でミッドガルから出てこんな所まで来てんだよ?」

「何でって……ミッドガルに居てもしょうがないですし」

「しょうがないって何だよ。出ていくなら出ていくで、オレ達に一声かけろよ」

「? 二度とツラ見せるなって話でしたよね?」

「それはお前が神羅のスパイだった場合の話だろ! 神羅ビルに居んのかと思ったら居ねぇし、神羅の連中に聞いても誰も何も知らねぇしよ! 一体何処行ったんだってこっちはずっと心配して――――」

と、一息に言ったバレットは、そこで失速して脱力した。
シユウは確かめるように復唱する。

「心配してくれてたんですか? 俺を? なんで?」

「なんでって、心配するだろ、普通」

「でもツラ見せるなって言ったのはバレットさんじゃないですか」

「言ったけどよ、まさか本当に帰って来なくなるとは思わねーだろ。勝手に居なくなるなよ」

「勝手にって……言ってること無茶苦茶ですよ」

「だぁもう、うるせーな! とにかく、神羅のスパイじゃねぇんだろ!? 信じるからな!?」

「はぁ」

「ったく、違うなら最初っからそう言えよ……」

「いや言ってましたよ俺は」

「もっと全力で否定しろよ!」

「はいはい、俺が悪かったんですよね。どうもすみませんでした」

投げやりなシユウの態度に、バレットはぐぬぬぬと怒りを膨らませたが、今ここでそれを爆発させてしまってはまた同じ事の繰り返しになると、何とか気を鎮める。

「……疑って悪かった」

「信じてくれるんですか?」

「まぁ…………」

その歯切れの悪さに、シユウは「まだダメなんじゃないですか」と眉を下げて笑った。

(……でも、信じきれてないのに心配はしてくれたのか。バレットさんらしいな)

口と態度は悪いが、なんだかんだで彼は優しい。
ジェシー達のように、バレットについて行く人達はきっと、彼のそういったところに惹かれているのだろう。

「そう言えば、マリンちゃんはどうしたんですか? 姿が見えませんけど」

「あー……マリンはエアリスの家に預けたままだ」

「――――え、置いてきたんですか!?」

「しょうがねぇだろ! こんな危ねぇ旅にマリンを連れて来れるかよ! ちゃんとマリンにも話はしてあるし、エルミナにも頼んでる。心配要らねぇよ」

「心配どうこうの話じゃないですよ! マリンちゃん何歳だと思ってるんですか! これまでも作戦だ何だでろくに傍に居なかったのに、マリンちゃんがどんな気持ちで……」

「そう思うんならお前が傍に居てやれよ」

「あんたじゃないと意味無いんですよ!」

結局言い争いになって、二人は喧嘩しながらアンダージュノンに戻った。
もうこんな人は放っておいて、さっさとユフィと上へ行こうと浜辺に向かうと、何やら人集りが出来ていた。少し離れた場所で、モンスターと戦うクラウド達の姿も見える。

バレットはそちらに加勢に向かったので、シユウは人集りの方へ。

「何の騒ぎですか?」

「あぁあんた! やっと帰ってきた! 大変なんだよ、ユフィが……!」

人の輪の中にいたロドナーが、切羽詰まった様子で言った。
皆に囲まれて居たのはユフィだった。全身ずぶ濡れ、且つ、ぐったりとした状態で、砂浜に横たわっている。

「お嬢!? 一体何が……」

「説明はあと! それより、あんたも手伝ってくれ。この子、さっきから息して無いんだよ……!」

「――――!!」

シユウはユフィの傍に屈んで口に手を当てた。確かにロドナーの言う通りだ。
海で溺れでもしたのかと考えながら、心肺蘇生法を行ってくれているロドナーを手伝う。

「お嬢、しっかりして下さい! 作戦前に死んでどうするんですか……!」

呼びかけても全く反応は無い。その様にシユウは青ざめた。ソノンの最期を思い出して心拍数が上がる。

冷静になれ。焦ってもどうにもならない――そう言い聞かせても、「上から医者を呼んだ方がいいんじゃないか」「それじゃ間に合わない」「体温が落ちてる、急がないと」といった周囲の人々の声が、余計に気を逸らせた。

溺水による心肺停止の場合、8分も経過すれば、助かる見込みはほぼ無くなる。
今は何分経った? もうあと何分で彼女の命は失くなる?

「――――ッお嬢! 起きてくださいお嬢!」

「おい、大丈夫か!?」

戦闘が終わったらしいバレット達も駆け寄ってきた。
取り乱しているシユウを見て、彼女と知り合いなのだろうと皆が察する。

「どんな様子だ?」

「息してないんです! 早くしないと手遅れに……!」

「落ち着け。クラウド、代わってやってくれ」

「わかった。どうすればいい?」

「呼吸は私がやるから、あんたは胸部圧迫の方を頼むよ」

ロドナーが何度目かの人工呼吸を終え、クラウドに圧迫の指示を出す。
が、クラウドの手がユフィに触れる前に、彼女は息を吹き返した。

激しく咳き込みつつ、自分の置かれた状況を目で確認したユフィは、胸部圧迫のため胸元に伸ばされていたクラウドの掌を見て飛び退く。

「なにするんだ、ゴラァ〜!」

痴漢だとでも思ったのか。一行を威嚇するユフィにロドナーが説明。

「この人達は、あんたを助けてくれたんだよ」

バレットやティファの顔を見て、それが分派アバランチだと理解したユフィは、

「そうなんだ。ごっめ〜ん、助けてくれたのに。アタシってば、バカバカ!」

と、自らの頭を小突きながら謝罪。
見ている限りでは後遺症なども無さそうだ。いつも通りのユフィの姿に、「よかった」と弱々しく呟くシユウの背を、バレットが優しく叩く。

「……すみません、有難うございます」

「おう。で、あいつは何だよ?」

「あー……ええと、前に言ってた妹みたいな子、なんですけど……」

詳しく説明するには人の目が多すぎる。
ロドナーにも休むように言われたので、集めてきた資材は彼女に預けて、一行はユフィが使っている宿の部屋へ移動する。

「じゃあ、まずは自己ショーカイ。アタシは、ウータイ暫定政府の精鋭部隊、マテリアハンターのユフィ! 邪智暴虐の神羅カンパニーと戦う為に遥か遠方よりやって来た、シノビの末裔なのであーる!」

さっきまで死にかけていたとは思えない明るさで、解禁されたマテリアジャグリングを披露したユフィに、クラウド達は唖然としていた。
暫しその場に沈黙が流れる。

「……ウータイ?」

「うん」

「シノビ?」

「そう。でね、頼みたいことがあって――」

「待て待て待て! お前がシノビなら、こいつは何だよ!?」

バレットが静観しているシユウを指して言った。
ユフィはしれっと答える。

「シノビの仲間だよ」

「はぁ!?」

「そういえば、シユウのこと神羅のスパイだとか言ったヤツが居るんだって? よりにもよって神羅って! だ〜れ〜だ〜!」

皆がバレットの方を向いた。
ユフィはじりじりとバレットに迫る。

「いや待てって! いきなりウータイだの忍者だの言われても信じられるかよ! 本当にそうなら証拠見せろよ、証拠!」

「ショーコって?」

「何かあんだろ、忍者らしい術とか技とか」

ユフィは「だってさ」とシユウに話を振った。
シユウは「らしいかは分かりませんけど」と言って印を結び、ボンッ!という破裂音と共に、その姿が白い煙に包まれる。

煙が晴れると、そこに居たはずのシユウは消えており、代わりに包丁とランタンを手に持った緑の小型モンスター、トンベリが現れていた。
警戒し後退る男性陣とは裏腹に、つぶらな瞳で見上げてくる小さな生き物を見た女性陣は声を揃える。

「「かわいい」」

「いやモンスターだろこれ。どういう術だよ」

「変化の術だよ」

喋れないトンベリに代わってユフィが答えた。

「……つまりこれがシユウってことか?」

懐疑的な目を向けるバレットに、トンベリはのそのそと近寄っていく。その動きは本物ソックリだ。

「とりあえずその包丁は仕舞えよ。危ねぇだろ」

言葉は通じるらしく、トンベリは言われた通り包丁を仕舞った。
バレットから歩幅一本分空けた距離で止まって、遥か頭上にある顔を見上げる。
マリンと喋る時の習慣でバレットが屈むと、トンベリは尻尾でぺちぺちと床を叩いた。

「なんだよ」

「屈んでくれてありがとう≠チて、言ってるんじゃないかな?」

そう言って、エアリスも同じように近くに屈んだ。
肯定するように、トンベリは彼女の方を向いて、またぺちぺちと音を鳴らす。

「本当にシユウなんだろうな? すり替えただけなんじゃねぇのか?」

「疑り深いなぁ。本物のトンベリなら、とっくに刺されて死んでるよ」

「そりゃそうだろうけどよ……そもそも何でトンベリに化けるんだよ。もっと他に色々あんだろ」

エアリスと戯れていたトンベリは、皆から少し離れるとまた白い煙に包まれた。
元の姿に戻ったシユウが、バレットの疑問に答える。

「人以外のものに化けるのって結構難しいんですよ。トンベリは比較的簡単な部類なので。それに、トンベリ好きなんですよ俺。この小さな体で意外とタフなところとか、静かに近寄って包丁の一刺しで確実に仕留めるところとか。無駄がなくて良い」

「そうかよ……」

「これで信じたよね? じゃあ話を戻すけど、頼みっていうのはほかでもない。どう、アタシ達と手を組まない? アタシさ、手を組むなら、本家より分派だと思ってたんだよね」

「忍者の仕事と言やぁ、スパイか暗殺だろ? オレ達がやってるのは、そういう事じゃねぇんだよなぁ」

「へんけ〜ん! ――でも、今回はアタリかも。実は、ここの村長に暗殺を依頼されてるんだよね。そのターゲットはなんと! 神羅カンパニーの新社長、ルーファウス神羅その人だ!」

大仰な身振り手振りを混じえて話したユフィは、ビックリした? と皆の反応を窺うが、聞かされた方は「本気か?」とでも問いたげな顔。

「もうすぐルーファウスがジュノンに来るんだって。この村の真上。呑気に就任パレードかなんかやるらしいよ。ここの人達は、国と太陽を奪われてから、ずっと神羅を憎んでるんだよね。だからこの機会に……」

シュッ、とユフィは手で首を切るジェスチャーをした。
子供の戯言にしか聞こえないのか、バレットが「そりゃすげぇ」と呆れ顔で言う。

「お嬢はやると言ったらやる人なんで、見た目や年齢でナメてかからない方がいいですよ」

「その通り! ま、返事は明日でもいいから、一晩考えてみてよ。話は以上! 解散!」

と言い渡されて、ユフィ以外のメンバーは部屋の外へ。

「どうする?」

「俺達の目的は黒マントだ。暗殺の手伝いなんてやってる場合じゃない」

「じゃあ、断る?」

「でもよ、ルーファウスが来るってんなら、確かに素通りは面白くねぇよな」

意見が纏まらず、結局ユフィに言われた通り、クラウド達はそれぞれ一晩考えることになった。
海の魔物を退治した礼にと、クラウド達も一人一部屋使っていいことになったらしく、それぞれ割り当てられた部屋に戻る。

「そういや、お前はどうすんだよ?」

皆と同じく自分の部屋に戻ろうとしたシユウは、バレットに呼び止められた。

「どうとは?」

「オレ達が協力を断った場合、お前はどっちについて行くつもりだ?」

「それは当然、お嬢の方ですが」

「なんでだよ。お前は元々こっちのメンバーだろ」

「逆ですよ。俺は元々ウータイのシノビなんですから」

「……じゃあ何だ、セブンスヘブンが無くなったから、オレ達はもう他人ってことか?」

「他人とは言いませんけど……知り合いです」

「知り合いってお前……そんな浅い関係でもねぇだろ」

「なら逆に聞きますけど、今の俺達ってどういう関係なんですか?」

「どうって…………」

ただの知り合いではない、と言いたいが、他の適切な表現がすぐには浮かばず、バレットは口籠もった。

「別にそこはなんでもいいんだよ。お前がオレ達と来ねぇ理由を聞いてんだ」

「だから、俺がウータイのシノビで、お嬢は同じ目的を持った仲間だからです」

「それだけかよ」

「あと個人的にお嬢が心配なのもあります。元々お目付け役ですし、親友にも頼まれてるんで」

「個人的な感情で選べるなら、オレ達を選んでもいい筈だろ」

「それはそうですけど、お嬢と皆さんのどちらが大事かって聞かれたら、流石にお嬢の方が大事なので」

「けっ。そーかよ!」

ひどく立腹した様子で、バレットは自分の部屋に戻り、荒々しくドアを閉めた。

先に突き放したのは彼の方なのに、今更何をそんなに怒ることがあるのかと疑問に思いつつ、シユウも今日はもう休もうと自分の部屋に戻った。
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