02.MakeUpWith
次の日の朝。相変わらず熟睡出来なかったシユウは、やたらと回数の多いノックの音に起こされた。
何かと思えば、扉の向こうに居たのはユフィで、
「おはよーシユウ! クラウドの部屋に集合ね! それじゃ!」
とだけ言い残して去って行った。
身支度を整え、言われた通りクラウドの部屋に向かうと、他のメンバーも集まってくる。
「これで全員揃ったね。それじゃあ、昨日の答え聞かせて貰える?」
「って言われてもなぁ……」
「そもそも、上にはどうやって行くつもりだ?」
「それは――――」
説明しようとするユフィの声に被せて、外からバイクのエンジン音が聞こえてきた。
それと併せて、
「居るんだろう? マーイフレ〜ンド!」
という、喧しい男の声もする。
それを聞いたユフィが思い出したように補足。
「村長、アタシ達に払う報酬欲しさに、アンタ達を神羅に売る気なんだって。この様子だと、もう売れちゃったみたい」
つまり、外に居るのは神羅の手先らしい。
慌てる一行を置いて、ユフィはさっさと裏の窓から外へ。
「じゃ、手を組むってことでいいよね? 上に行く方法はシユウに聞いて。プリシラにも頼んでおいたから、あとはヨロシク!」
「え? ちょっと、お嬢!」
勝手に案内役を擦り付けられたシユウは彼女を追いかけようとしたが、逃がすかとバレットに捕まえられる。
「おい、どういうことだよ!」
「俺の方が聞きたいですよ!」
「早く出て来ないと、バイクごと押しかけちゃうぞぉ〜? いいのか、マーイフレ〜ンド!」
窓から外を覗いてみると、赤いバイクに乗った、恐らくはソルジャーと思しき男が見えた。
皆その顔には見覚えが無く、揃って首を傾げる中、クラウドだけは嫌そうな顔で嘆息。
「誰? クラウドの知り合い?」
「……室内は不利だ。外に出よう」
宿を出て、全員で相手の待つ広場に向かうと、男は喜色満面の笑みでクラウドに歩み寄ってくる。
「やっと来たか、マイフレンド!」
「…………」
「アッハ〜! 相変わらずつれないなぁ! そんな友に朗報だ。この度、エアリス救出特命部隊に抜擢されてね。そのことを伝えに来たってわけだ」
「え、わたし?」
またエアリスを攫うつもりかと、ティファとクラウドは警戒して彼女を背に庇ったが、その割には他のソルジャーや兵士が見当たらない。
「……一人で来たのか?」
「今回は挨拶に寄っただけだからね。ここは我々が踊るには少しばかり野暮過ぎる。不完全燃焼はお互いに避けたいだろ? よって上に! 最高の舞台を用意してある。そこでキミが来るのを待っているよ、マァ〜イフレェーンドッ!」
一方的にそれだけ伝えて、男は集まっていたアンダージュノンの人々を巧みなバイク捌きで華麗に避けつつ、高らかに笑いながら去って行った。
入れ替わるように、成り行きを見ていたらしいロドナーが出てくる。
「神羅の相手、ごくろうさん」
「てめぇ、オレ達を売りやがって。やってくれんじゃねぇか」
憤るバレットに、ロドナーは「少ないけど取っときな」と言って金を手渡した。
「なんだよ、このカネ」
「あんた達に懸かった懸賞金さ。元々、あんた達にもいくらか渡すつもりだったのさ。反神羅同士でいがみ合っても仕方がないだろ?」
「本当に捕まったらどうすんだよ!」
「その時はその時さ。上手くいったんだから、いいじゃない。ちゃんとあんたに払う報酬分も残してあるから、あとは頼んだよ」
最後の一言はシユウに向けて言って、ロドナーは人混みの中に消えた。
まさかルーファウス暗殺の依頼料を神羅に払わせるとは。その豪胆さにシユウは感服する。
「ここ、離れた方がいいよね。村にも迷惑がかかるし……」
「シユウ、上に行く方法、知ってるんだよね? 案内、お願いしていい?」
こうなっては他に選択肢もないとシユウは承諾し、皆を船着場まで連れて行く。
ユフィが先に行ってしまったので、操作室には自分が行くしか無いかとシユウは覚悟していたが、行動に移す前にプリシラ――イルカの調教をしている村の少女――に声を掛けられる。
「上に行くんだよね? 操作室に行く人は誰?」
「誰って、俺しか無理なんじゃ……」
「お兄さん以外でって、ユフィに頼まれてるの。イルカさんが手伝ってくれるから、誰でも大丈夫!」
いつの間にそんな段取りをしていたのだろう。
ユフィの心遣いに感謝しつつ、シユウはクラウド達にも上に行く方法を説明。
「つまり、誰かが操作室に行き、船を下ろす。残りのメンバーはその船に乗り、操作室で引き上げて貰う、という訳か」
「問題は、どうやって操作室へ行くかだな」
「そこでイルカさんの出番! イルカさんの力を借りてジャンプするの。そしたら、きっと届くよ」
簡単そうに言っているが、鉤縄を引っ掛けて攀じ登るよりも遥かに難しそうだ。
「誰が飛ばされる?」と無邪気に尋ねるプリシラに、バレットがクラウドの肩を叩く。
「頼んだぜ、なんでも屋」
便利な方便だとシユウは苦笑した。
だが確かに、元ソルジャーであれば、仮に失敗したとしても大怪我にはならないだろう。
クラウドも仕方がないと渋々承諾して、イルカと共に指定の位置へ。
見事なドルフィンジャンプと、天高く打ち上げられたクラウドの完璧なフォームと着地に、見ていた面々は拍手と歓声を送る。
「んで? オレ達はあのでっけぇ船に乗るだけか」
「あそこまではどうやって行くの? 泳ぐ?」
「泳いでもいいけど、この小船を使えば、イルカさんが引っ張ってってくれるよ」
「是非それでお願いします。俺はその為に資材を集めたので」
修繕は終わっているようで、小さいながらもしっかりとした造りの船に、一行は順に乗り込む。
レッド、ティファ、エアリスは危なげなく乗れたが、バレットが乗った瞬間、船は大きく傾いた。
バランスを崩して落ちそうになるバレットと揺れる船を、女性陣が支える。
最後に残ったシユウは、それを見て船に乗せかけていた足を引っ込めた。
「何やってんだ、早く乗れよ」
「…………これ、俺が乗ったら重量オーバーになりません?」
「ギリギリいけるだろ。多分」
「仮に沈んでも、最悪泳いで行けばいい」
レッドが大した問題では無さそうに言って、皆も頷いたが、シユウは納得しなかった。
痺れを切らしたバレットに引っ張られて、強制的に船の上へ移動させられたシユウは、咄嗟に印を結んで再びトンベリの姿になる。
これなら総重量は殆ど変わらない筈だが、船が不安定なことに変わりは無い。
万が一沈んだ時のことを考えて、トンベリと化したシユウはバレットの頭に攀じ登る。
「何がしてぇんだよお前は……」
ぺちぺち。
「ぺちぺち。じゃねぇよ。なんかベタベタすっから降りろ」
バレットはトンベリの襟首を掴んで膝の上に乗せた。
イルカが牽引を始めると、バレットの重さで後ろに傾いていた船体がちょうど水平に戻る。
陸地から目的の場所まではそれほど距離も無いが、到着するまでトンベリはバレットにしがみついていた。
小船から大型船に移る際も服にぶら下がったまま離れず、甲板に乗ったところで漸く手を離して元に戻る。
「ふぅ……疲れた」
「何がだよ。お前は何もしてねーだろ」
エアリスとティファが操作室に手を振ってクラウドに合図を送ると、大型船は海面を離れて上昇を始めた。
そのまま操作室の高さも通過して、無事ジュノンの上層に到着。役目を終えたクラウドも、少し遅れて合流する。
「警備はそれほど厳しくないな」
「パレードの準備中、かな?」
「オレ達に構ってるヒマはねぇってか」
「私達にとっては好都合だね」
人気の無い通路を進んで行くと、飛空艇の発着場に出た。
お偉い方の出迎えでもしているのか、多くの神羅兵が並んでいるその先に、立派な飛空艇が見える。
「クラウド、あれは?」
「ハイウインド。神羅が威信をかけて完成させた、最新鋭の高速飛空艇だ」
何に使うつもりなのかを考えなければ、神羅の技術力は大したものだ。
皆改めてそれを実感しつつ、兵に見つからないよう静かにその場を離れる。
「ここまで来たら、もう案内は要りませんよね? 俺はこのへんで」
「あ? 何処行くつもりだよ」
「お嬢を探さないと。手伝って貰えるなら歓迎しますけど」
「そういえば、暗殺の話は結局どうなった? 手伝うのか?」
「ユフィはそのつもりみたいだったけど……」
「まあ、暗殺とまでは言わねぇが、オレも一言二言言ってやって、ついでにぶん殴るくらいはしてやりてぇ」
「一部、賛成。タークスは、わたし達、もう追わないって言ったのに。バイクの人は、保護するとか何とか……ハッキリして欲しいな」
「そうだよね。でも、社長と話すなんて出来るかな……」
「ユフィとあんたは、どうやって暗殺するつもりなんだ?」
「特に決めてませんが、これだけ人と建物が多ければ、上から狙うのが楽でしょうね。近付く必要がある場合は、変装して紛れ込んだりもしますけど」
「変装か……なら、俺達はパレードの一員になるのはどうだ? 慣例通りなら、パレードが終わった後に表彰式がある。社長賞に選ばれれば、表彰台に上がるタイミングで、ルーファウスと話せるかもしれない」
というクラウドの案が採用され、クラウド、ティファ、エアリスがパレードの部隊員として潜入することになった。
体格的に神羅の制服を着れないバレットとレッドは、事が終わったあとすぐ発てるよう、港までの経路と警備状況の確認、黒マントの捜索を任される。
「妥当な提案だ」
「うるせえ」
「ええと……クラウド君達は、あくまでもルーファウスと話をしに行く、ってことでいいんですよね? 暗殺ではなく」
「今のところは、そのつもりだ」
「わかりました。ただ、状況によってはこちらの作戦に巻き込んでしまうかもしれません。そこだけご承知おき下さい」
「分かった」
制服の調達に向かうクラウド達を見送って、さてユフィを探すかとシユウも動き出したが、何故かその後ろをバレットがついて来た。