02.MakeUpWith

「まだ何かご用ですか?」

「お前、本当に暗殺なんかするつもりかよ」

「まあ、依頼されたので」

「……神羅のやってる事は確かに、暗殺されても文句言えねぇようなことばっかりだけどよ。プレジデントはともかく、ルーファウスはまだ殺されるほどの事はしてねぇんじゃねぇか? お前が手を汚してまで、今殺さなきゃいけねぇ相手なのかよ」

シユウは足を止めた。
振り向き、そこに居る善人≠見つめる。

「バレットさん。多分、貴方は俺のことを誤解してます」

「誤解?」

「俺は、貴方のように敵討ちや義侠心で神羅と戦ってるわけじゃない。シノビの役目はウータイを守ること……神羅という組織が、ウータイにとって脅威だから潰すんです。ルーファウス個人に非があるかどうかは関係ない」

「でもお前、前にオレが神羅兵を殺そうとした時、やめとけって止めてただろ。人殺しなんてしない方がいいって……」

「あれは貴方が殺すのはやめた方がいい≠チて意味で言ったんですよ。殺生を咎めたんじゃありません」

「…………………」

「それに、俺の手はとっくに汚れてますよ。ルーファウス一人を生しても殺しても、今更何も変わりません」

「だとしてもよ! ……今回はやめとけよ」

「何をそんな必死に……クラウド君達を巻き込むかもしれないからですか?」

「それもあるけどよ……殺し自体やめろよ。どうしてもしょうがねぇ時はあるだろうけどよ、そうじゃねぇ時はやめろ」

「道徳的な話なら他所でやって下さい。俺はシノビなので、説教されても困ります」

「そもそも何でシノビなんかやってんだよ。辞めちまえそんなもん」

「辞めちまえって、またそういう…………」

と、最後まで言い切る気力も失くして、シユウは盛大な溜息を吐いた。
どうしてこの人はいつもいつも、話が拗れると全てを投げ捨てようとするのだろう。何から何まで軽いし雑だ。

真面目に取り合っているのが馬鹿らしくなって、シユウは「それより」と話題を変える。

「ロドナーさんの懸賞金の件ですけど、あれってつまり貴方達の手配書がここまで出回ってるって事でしょう。潜入しないにしても、変装はしておいた方がいいんじゃないですか?」

「……お前も人のこと言えねーだろ……」

「? 俺は手配書には載ってないと思いますけど」

「そっちの話じゃねーよ! ったく……」

「????」

どうしてこちらが「しょうがない奴だな」とでも言いたげな態度を取られなければならないのか。
理解出来ず静かに苛立ちを募らせるシユウを他所に、バレットは「変装って言われてもよ」と次の話題に進む。

「なんか適当に違う服にでも着替えりゃいいのか?」

「…………………………」

「おい、聞いてんのか。なんだよその顔」

「別に。なんでもないです。――服着替えただけじゃ変装にはなりませんよ。ガラッと雰囲気を変えないと。かといって目立つのも良くないですよ。周囲に上手く溶け込めそうな格好にしないと」

何か良い案はないかと周囲の人々を観察していたシユウは、港に集まっている水兵と、恐らくはコスタ・デル・ソルへ向かうのだろうリゾートウェアを着た団体に目を留めた。

「バレットさん、港の警備状況の確認をするんでしたよね。なら、あの辺りの人達に紛れたらどうですか?」

「あの辺りって……どっちのこと言ってんだよ?」

「どっちでもいいと思いますけど、やる事を考えたら水兵姿の方が良いかもしれませんね」

「オレにアレを着ろってか? 第一、服はどうやって用意すんだよ」

「ん〜……船の中に予備とかあったりしませんかね。俺ちょっと見てきます」

「見てくるって、どうやって――――」

と、尋ねるバレットの前で、三度印を結んだシユウは、またも白い煙に包まれた。
現れたのはトンベリではなく、見知らぬ水兵の男。

「……他人にも化けられんのかよ」

「便利でしょう? ちなみに他の人にも術はかけられますよ」

そう言って、シユウは懐から葉っぱを一枚取り出し、それをバレットの額に貼り付けた。
印を結ぶと、バレットも見知らぬ他人の姿になる。

「なら変装なんざしなくても、これでいいじゃねぇか」

「それじゃクラウド君達も貴方だって分からなくなるじゃないですか。さてと、それじゃささっと見てきますから、大人しく待ってて下さいね」

シユウは小走りで停泊している船の近くまで行き、荷物の積み込みをしている水兵達の真似をして船の中へ。

バレて捕まったりはしないだろうかと、遠くからそれを見守っていたバレットはハラハラしたが、特に何事もなく30分ほどでシユウは帰って来た。

変化の術を解かれたバレットは、同じく元の姿に戻ったシユウに物陰に連行されて、その場で水兵の制服に着替えさせられる。

「サイズどうです? 一番大きいの持ってきましたけど」

「そこは問題ねぇけどよ……こんなんで本当に大丈夫なのかよ」

と、ぶつくさ言いながらもバレットは着替え終え、シユウは少し離れてその全体像をチェック。

「フフッ。――うん、良いと思いますよ」

「笑ってんじゃねーか!」

「すみません、なんか可愛くて……いやでも、かなり雰囲気変わりましたよ。これなら一見して分からないと思います。あとは――――」

シユウは変化用の葉っぱを取り出して、今度はそれをバレットの右手に貼り付けた。
印を結ぶと、そこにあった銃器は金属のフックに変わる。

「これで完璧。貴方は右腕が銃の男≠チていう特徴で探されてるみたいですからね」

「だからって何でフックなんだよ? 普通の義手にしといた方が目立たねぇだろ」

「そっちの方がよりコスプレ感があって面白いかなって」

「やっぱり面白がってんじゃねーか! ヒトの身体で遊ぶなよ!」

怒っている事すら格好のせいで可笑しくて、シユウは堪え切れず笑った。
久しぶりに見たその屈託のない笑顔に、バレットは毒気を抜かれる。

「クラウド君達にも是非見せたいですね」

「笑いものにしやがって……まぁでも、そろそろパレードが始まる時間か」

パフォーマンスが行われる通りの両側は、観客や報道陣で埋め尽くされていた。
これではクラウド達を見つけるどころか、パレード自体見えるか怪しい。移動するのも一苦労だ。

「参ったな……これじゃお嬢と合流出来るかどうか」

「ほー、そりゃ残念だったな」

「何でちょっと嬉しそうなんですか。言っておきますけど、合流出来なくても暗殺は決行しますよ」

「まぁそうピリピリすんなって。まずはクラウド達の勇姿を見届けようぜ」

「いや俺は暗殺場所を決めないと……」

「んなもん後でいいだろ」

「良くないです」

『ここでルーファウス新社長の登場です!』

肩を組んでこの場に留めようとしてくるバレットと言い争っていると、あちこちに設置されたスピーカーからそんな声が聞こえた。

パレードの様子を映し出している街頭のモニターに、マーチングバンドやバイク隊に先導される形で入場してきたオープンカーが映る。
その後部座席に座るルーファウスにカメラが寄った。彼は手を振る観客に笑顔で応えている。

「……こうして見ると、なんかちょっとお前に似てんな、アイツ」

「は? 何処がですか」

「顔で人気を博してそうなところとか、外面が良いところとか。なんつーか……」

「……胡散臭い=H」

「それだ!」

「それだ! じゃないですよ失礼な……」

映像を見る限り、今ちょうど車が目の前を通っている筈なのだが。通りと自分の立ち位置の間を隙間なく埋めている人混みのせいで、肉眼では全く見えない。せいぜい隙間から車体の一部が辛うじて見て取れる程度だ。

(今ここから狙うのは無理か……まあ、どちらにせよクラウド君達の目的が果たされるまでは、待ってあげた方がいいな)

とはいえ、クラウド達の作戦のことを知らないユフィが先に動く可能性はあるが。その時はその時だ。

表彰式までに合流出来ればいいけどと思いながら、彼女が報道のカメラに映ることを期待してモニターを見ていると、不意に車が止まった。運転手を務めている神羅兵が何かをルーファウスに伝えて、後部座席の彼は立ち上がる。

「何だ? まさかオレ達の事がバレたんじゃねぇよな?」

「いや、流石に……クラウド君達がよほど下手を打っていない限りは、大丈夫だとは思いますけど……」

困惑する二人と人々の視線の先で、ルーファウスは空を見上げた。
その視線の先には、ジュノンのシンボルにもなっている大型兵器、魔晄キャノン砲がある。

「さぁ……新時代の幕開けだ。撃てーーーー!」

「は――――」

シユウは耳を疑った。

ルーファウスの号令で、砲身から弾丸が放たれた。
砲撃は海面に着弾し、ジュノンの建造物よりも高い水飛沫が上がる。衝撃で地面と空気が揺れた。

『なんということでしょう……ジュノンのシンボルである魔晄キャノン砲が、なんと発射されました!』

キャスターの興奮と動揺を孕んだそのアナウンスを皮切りに、ジュノンは大きな歓声に包まれた。
それらを見聞きしていたシユウの表情が、驚愕から怒りに変わっていく。

ジュノンのキャノン砲は、例え演習目的であっても使用しない――――停戦の条件として、ウータイとそう取り決めていた筈だ。
約束を反故にされた怒りでシユウが震える。

「……あいつを殺す理由が出来ましたよ、バレットさん」

唖然としていたバレットは、その言葉で我に返った。

「落ち着けって」

「これが落ち着いていられますか」

ミッドガルも、そこに住む人も、どうなってもいいと言っていたソノンの気持ちが、今になって理解出来てしまう。

あの砲撃がウータイに向けられれば、故郷はまた戦火に呑まれることになる。あの一撃で、何百という命が失われる。
それをまるで花火か何かのように、ジュノンの人々は喜んでいる。

――――許せない。

シユウは肩を抱くバレットの手を叩き落として、足早に人の群れから離れた。
バレットはそれを追いかける。

「待てって! 今はやめとけよ」

「今やるとは言ってませんよ。確実に仕留められる時を狙います。一緒に居ると共犯だと思われるでしょうから、離れておいた方がいいですよ」

表面上は平静を取り繕ってはいるが、声に怒りが籠っていた。
そのオーラに気圧されて一瞬躊躇したが、バレットは再度シユウの手を掴む。

「お前の気持ちも分かるけどよ、さっきのはただの景気付けみてぇなもんだろ?」

「気持ちが分かる? 景気付け? ふざけないで下さい。貴方は神羅との戦争を経験した事が無いから、そんな風に言えるんですよ。俺達ウータイの人間がどれだけ……!」

どれだけ、炎と血と涙と骸に囲まれて生きてきたか。
どれだけの苦悩の果てに停戦を受け入れたか。

だがそれをバレットにぶつけても仕方がないと、シユウは溢れそうになった感情をぐっと抑え込む。

「……これはウータイと神羅の問題なんです。関係の無い人が口を挟まないで下さい」

「別に戦争云々に口出すつもりはねぇよ。ただ、そんな軽々しく人を殺すなって言ってんだ」

「その感覚がもう違うんですよ。俺にとっては、さっきのルーファウスの行いは殺すに値します。貴方がそれを邪魔するのなら、貴方にだって容赦しませんよ」

「……だったらやってみろよ」

バレットが一歩前に出た。
すぐ傍でシユウと睨み合う。

「やれよ。おめーは非情ぶってるだけで、本当はそんな真似出来る奴じゃねぇって、オレが証明してやっからよ」

「……本当にやりますよ?」

「おうよ。どうせ――――」

本気で攻撃など出来るはずがない、と高を括っていたバレットは、地面に引き倒された。
シユウはその背に伸し掛り、バレットの左腕を捻りあげながら、首筋にクナイを当てる。

「おまっ……」

「俺のこと誤解してるって言ったでしょう。今貴方の前に居るのは、セブンスヘブンのバーテンダーじゃなく、ウータイのシノビなんですよ。理解して下さい」

クナイの刃が首にめり込んで皮膚を裂く感触と、腕や肩の骨が軋む感覚に、バレットはたまらず降参した。
シユウはすぐにクナイを離してバレットの上から退く。

「もう追ってこないで下さいね」とだけ言って、シユウは去って行った。
流石に追う気にはなれず、その場に座り直したバレットは、傷口を回復魔法で癒す。

(……誤解って何だよ。オレの見てきたお前は、全部ウソだったってことか?)

かつてシユウにお守り代わりだと言って渡された緑のマテリアを見ながら、バレットは一人悶々としていた。
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