02.MakeUpWith

「うぉえぇぇえ……気持ちワルイ〜……」

無事に黒マントに紛れて停泊していた船――コスタ・デル・ソルへ向かう連絡船、第八神羅丸――に乗れたシユウは、例によって乗り物酔いに苦しめられているユフィを励ましていた。

船は複数階に分かれており、客室も金額によって一等と二等に分けられている。
今二人が居るのは二等客室の一室。船に乗る際、他の黒マントと一緒に、隔離されるようにこの部屋に押し込められた。
扉は内側からは開けられないようになっているらしく、先程からユフィが何度も解錠を試している。

「まるで罪人みたいな扱いですね。俺達はそれで間違ってないですけど」

「うぅ……もうムリ……ほんとにむり……くるしい……つらいぃ……」

「もう少しの辛抱です、お嬢。頑張って」

「もう少しって……あとどれくらい……?」

「えーっと……13時間くらいですかね」

「ぜんっぜん少しじゃないじゃん〜……!」

ラウンジの方ではクイーンズブラッド――最近流行っているらしいカードゲーム――の大会が行われているようで、船長による実況がスピーカーから流れてきていた。
クラウド達もこの船に乗っているようだ。シユウは彼らの勝負の様子を聞いて暇を潰す。

(……バレットさんの邪魔さえ入らなければ、仕留められてたのにな)

妨害されたことを思い出して、シユウは眉根を寄せた。
だがこちらもクラウド達の目的――ルーファウスとの対話の邪魔をしたのだから、文句を言う資格は無いのかもしれない。

恐らく今回の件で、自分達も神羅にマークされただろう。
暗殺にも失敗し、報酬も貰えず終い。シユウは肩を落として項垂れる。

(なんか疲れたな……最近まともに眠れてないし、ゆっくり寝たい……)

幸い部屋にはハンモックが幾つも並んである。
黒マント達が呻いて部屋を彷徨い歩いている事と、ここが海の上である事を除けば、眠るには最適の環境だ。

「お嬢、具合悪くしてるところ悪いんですが、俺はちょっと休ませて貰いますね」

「ゔぅ……この、はくじょうもの〜……」

というユフィの非難を聞きながら眠りに落ちたシユウは、数時間後にサイレンの音で起こされた。

『船長のチトフです。緊急事態が発生いたしました! お客様は船室にお戻り下さい。神羅軍関係者は、至急甲板まで集合願います』

「……緊急事態……?」

何だろう。神羅軍関係者――要は戦闘要員だろうが、それに招集をかけているということは、モンスターでも出たのだろうか。

まぁでも、助太刀に行こうにも、この部屋に監禁されている自分には無理だなと、モンスター退治は任せてシユウは寝直そうとしたが、ふと気付く。

(…………お嬢は?)

部屋の中を見渡してみたが、ユフィの姿が見当たらない。
周囲を彷徨く黒マントも、寝る前と比べて明らかに数が減っている。

シユウはハンモックから降りて、扉の方へ向かった。
押してみると、金具が軋む音と共に、重い扉が外へ開く。

(開いてる……お嬢が開けたのか? ってことは、お嬢も黒マントの人達も外か)

などと考えていると、突如背後でガラスが割れる音がした。
驚き振り返ると、割れた窓の外からモンスターが入って来るのが見える。

迎撃の為に元の姿に戻ったシユウは、黒マントを襲うモンスターを忍術で蹴散らした。
が、すぐに増援がやって来る。

流石に一人では凌ぎきれず、シユウは突進してきたモンスターに黒マント共々吹き飛ばされた。
衝撃で扉が外れ、身体はそのまま廊下に投げ出される。

「……っ、くそ、こっちは寝不足なんだって……勘弁してくれ……」

容赦なく追撃して来ようとするモンスターにクナイを構えたが、敵は横から飛んできた無数の鉛玉に蜂の巣にされて消えた。

「おい! 大丈夫――――」

か、と聞こうとしたらしい助っ人の男――水兵服から元の服に戻っているバレットは、倒れているのがシユウだと気付いて途中で言葉を止めた。
礼を言おうとしたシユウも、同じように途中で固まる。

「何でお前がここに居んだよ……」

「……今はそんな話してる場合じゃ無いですよ」

シユウは背後からバレットを襲おうとしていた敵をクナイで仕留めた。
バレットは地面を這っている黒マント達を助け起こしつつ、外から入ってくるモンスターを殲滅する。

「この部屋だけやけに人気じゃねぇか。お前、モンスターにもモテんのか?」

「さぁ。俺というより、黒マントの人達を狙ってるように見えますけど……」

「あぁ? 何でモンスターが黒マントを狙うんだよ」

「俺に聞かれても。とにかく、黒マントの人達が狙いなら、他も探して、どこか一箇所に集めたほうが良いですね。あちこち彷徨かれると被害が広がる」

黒マント達が指示に従ってくれれば楽なのだが、魔晄中毒患者と意思疎通は難しい。
強引に連れていくしかないかと考えていると、黒マント達は何かに呼ばれるように、フラフラと同じ方向へ移動を始める。

「なんだ?」

「……ついて行ってみます? 他の黒マントも居るかもしれない」

「そうだな……こんな状態の奴らを放っとくわけにもいかねぇしな」

絶えず襲い来るモンスターから護衛しつつ、ゆったりとした足取りで移動する黒マント達を追っていくと、最終的には機関室へ辿り着いた。
道の途中で合流した黒マントも合わせて、5人ほどがこの場に集まっている。その周りを、モンスターが取り囲む。

「やっぱり、この人達が狙いみたいですね……どうします?」

「どうするって、とにかく斃すしかねぇだろ」

「でもキリがないですよ」

これまでにかなりの数のモンスターを斃したが、その度に新しいモンスターがやって来る。
このままでは自分達も危ないし、長引けばその分、他の乗客も危険に晒される。最悪船が沈むかもしれない。

逡巡の後、シユウは魔物から黒マントに標的を移した。
それに気付いたバレットが攻撃を阻止する。

「てめぇ、何やろうとしてんだ!」

「この人達が狙いなら、この人達さえ居なくなれば、襲撃は止む筈です」

「だからって殺そうとすんじゃねぇよ! こいつらに何の罪があるってんだ! お前、本当に――――」

「バレット!」

シユウの胸倉を掴んで吠えていたバレットは、駆けつけたティファの声を聞いて渋々手を離した。
ティファは同じくやって来たクラウドと共に、モンスターを斃していく。

「あんたも居たのか」

「……ええ、まぁ。それより、客室の方はどんな様子でしたか?」

「入り込んだモンスターは粗方斃して来た。今のところは死者は出ていない。だが、このままモンスターの襲撃が続けば……」

「そいつらから離れろ!」

苦々しく言うクラウドの言葉に、チトフ船長の声が被さった。
彼は銃を構えており、その銃口は黒マント達に向けられている。

「その連中はモンスターと融合して、より危険な存在に変化するらしい。私の職権で、全員処分する」

「おい、待て!」

バレットの制止も聞かず、チトフは黒マントを射殺していく。
彼らの中に紛れていたらしいユフィが、それを見て慌てて変化を解く。

「無実、アタシは無実!」

「え、お嬢?」

「ユフィ、危ない!」

ティファが叫び、近くにいたクラウドが咄嗟にユフィの手を引いたお陰で、チトフの放った銃弾が彼女に当たることは無かった。

「か、かんいっぱつ……」

「お嬢、居たんですか」

「居たよ! 気付いてよ!」

「変化してる状態じゃ流石に分かりませんって」

などと呑気なやり取りをしている間にも、チトフは粛々と黒マント達を殺していった。
築かれた死体の山を見て、バレットやティファは言葉を失う。

「……私には、乗客を守る責任がある」

それが苦渋の決断だったのだろう事は、チトフの表情から見て取れた。
故に誰も彼の行いを非難することは出来ず、銃を下ろして去っていく彼を黙って見送る。

だがこれで危機は去ったかとシユウは胸を撫で下ろしたが、死んだはずの黒マント達が蠢いているのを見てギョッとする。

重なり合い、一つの大きな塊のようになった黒マント達は、瘴気に包まれて見えなくなった。
浮かび上がる無数の人のシルエットが、一体の化け物に形を変えていく。

「な……なにあれ……カンベンしてよぉ〜!」

と、ただならぬ気配を感じたユフィは一人逃亡。
シユウはティファ達を置いて行くのは気が引けて、仕方なく応戦の構えを取る。

瘴気が晴れると、そこに居たのは巨大なモンスター。
臓器を思わせる肉塊と触手の群れと、そこから伸びる髑髏の頭が、天井からぶら下がっている。気付けば、周囲の景色も異様なものに変わっていた。

シノビの幻術のようなものだろうか。
そんなことが出来るモンスターなど聞いたことはないが、今は考察している場合では無い。

「あんた、シノビなんだよな? 戦えるか?」

「ええ」

「なら援護を頼む」

シユウは地面を叩いている触手を忍術で凍らせた。クラウドはそれを大剣で切り刻みつつ、敵の懐へ潜る。
ティファは凍った触手を足場に上空へ跳躍し、頭部へかかと落としを決める。ダウンした敵に、バレットが充填したエネルギー弾を放つ。

「どうよ!」

「……いや、まだ駄目そうですね」

ダメージは与えられているようだが、破壊した頭部も触手も新しく生え変わっている。
バレットは「めんどくせぇな」と悪態を吐きながら弾を補充する。

「なんかあの、逆さまの胴体……? のように見える場所とか、攻撃がよく通りそうじゃないですか。あそこ狙ってみませんか?」

「上と繋がってる細ぇとこか?」

「そうそう。俺がタイミング合わせるんで、さっきの技、もう1回お願いします」

「しゃーねぇな」

エネルギーの充填が完了するまで、シユウとバレットは前衛二人の援護に回った。
ティファとクラウドも、呼吸を合わせた連携技で着実にダメージを重ねていく。

「もういいぜ」

「了解」

バレットの合図で、シユウは印を結んだ。
エネルギーの集まっている銃口に紋様が浮かび上がり、その紋を貫くように放たれた弾が、炎を纏って膨れ上がる。

隕石と化したソレは、狙い違わず敵の接合部に着弾した。
天井から切り離された敵は床に落ち、喚きながら変体。肉塊部分から人の腕のようなものが無数に生え、触手部分には眼球が増える。

「うわぁ気持ち悪い。ほんと何なんですかコイツ」

「引いてる場合じゃねぇぞ、こっち狙ってやがる」

四本足でバレット達に迫った敵は、長く伸ばした触手で地面を薙ぎ払った。
跳躍して避けたシユウを、無数の白い手が掴み、そのまま力一杯投げ飛ばす。

壁に叩き付けられたシユウは、そのまま床に落ちた。
痛みに蹲っているところを、敵がレーザーで狙う。

「……っやば」

「おい、避けろ!」

バレットが叫んだ。
そうしたいが、痛みですぐに動けない上に、地面から伸びてきた触手に足を絡め取られる。

駄目だ、当たる。
シユウは放たれたレーザーの眩しさと恐怖で目を閉じたが、その攻撃は目の前に咲いた花の盾に弾かれて霧散した。
同時に、癒しの光が体の傷と痛みを消していく。

「みんな、おまたせ!」

「無事か?」

レッドを連れて場に現れたエアリスを見て、彼女に助けられたのだと理解したシユウはほっと息を吐いた。
足に巻きついていた触手も、レッドが引き千切ってくれる。

「有難うございます。エアリスさんも、助かりました」

「どういたしまして」

「なんのなんの!」

遠巻きにシユウが助かったことを確認したバレットは、クラウドやティファと連携して敵を追い詰める。

「クラウド、お願い!」

「トドメ刺してやれ!」

「任せろ!」

クラウドが常人の目には追い切れないスピードで敵を切り刻み、仕上げの回転斬りを叩き込まれた敵は漸く沈黙した。
床に横たわる骸を見て、クラウドが呟く。

「セフィロス……」

「え?」

駆け寄った皆がそれを聞いた。
セフィロス、というのは、かつて英雄として持て囃されていたソルジャーの名だったか。

目の前に居る化け物はとてもその人には見えないが。困惑するシユウや他の皆を余所に、クラウドは背を向けて呟く。

「……ああ。騙されるものか」

まるで誰かと会話でもしているかのようだ。
彼はどうしたのかとシユウは目でティファ達に問うたが、気まずそうに目を逸らされてしまう。

「……それより、オレはお前に言いたいことが山ほどあんだよ。ちょっとツラ貸せ」

と、バレットに手を引かれたシユウは、モンスター騒ぎのせいで人の居なくなった甲板まで連行される。

「またお説教ですか?」

「んな可愛いもんじゃねぇ。オレは本気で怒ってんだ。暗殺の時のことだけならまだしも、さっきのアレはどういうつもりだよ」

「どれの事ですか」

「黒マントを殺そうとしてただろ!」

「そうしないと他の皆が危ないからですよ。船長さんだって、同じ考えでやったんでしょう」

「あいつは黒マント達が最終的にあんな化け物になるって知ってたから、仕方なくやったんだろ。納得はしねぇが理解は出来る。でもな、お前はそれを知ってた訳じゃねぇだろ」

シユウは煩わしそうな顔でそっぽを向いた。
真剣に取り合う気の無さそうなその態度に、バレットが更に怒る。

「聞いてんのか!」

「聞いてますけど、これ何の意味があるんですか? 俺が謝れば気が済むんですか?」

「謝るだけじゃなく改めろって言ってんだよ! 何でもかんでも殺して解決しようとするその思考をよ!」

「でも実際、それが一番確実で手っ取り早い方法じゃないですか。モンスター、神羅、魔晄中毒患者……話し合いじゃどうにもならない相手は居ますよ」

「だからって、じゃあ殺そうって結論になんのはおかしいだろ!」

「……そうですね。俺がおかしいですね。もうそれでいいですよ」

「そうやってすぐ話終わらせようとすんのもやめろ」

「貴方がしつこいからですよ。疲れてるんで、休ませてくれませんか」

元居た部屋はモンスターに荒らされてしまったので、甲板にあるデッキチェアで寝るかと、シユウはバレットを押し退けて椅子に横たわる。

「おい、マジで寝ようとすんな」

「………………」

「おい!」

その内諦めるだろうと、徹底的に無視を決め込むシユウに、バレットは嘆息。
そのまま立ち去るかと思ったが、バレットは隣の椅子に腰掛ける。

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「…………部屋戻らないんですか?」

「おめーがこんなとこで寝ようとすっからだろ。またモンスターが出たらどうすんだよ」

シユウはその言葉の意味をすぐには理解出来ず、一瞬怪訝な顔をしてから、心配されているのだと気付いて相手の顔を見る。

「なんだよ。話聞く気になったか?」

「………………」

「なんとか言えよ」

そういえば、先の戦闘の際も、彼は自分の身を案じてくれていた。
バレットからすれば、自分は好ましい相手では無いだろうに。子を持つ親の性だろうか。或いは、バレットが特別お人好しなだけか。

「損な性格ですね」

「何だそりゃ。嫌味か? あ?」

睡魔に負けて瞼を閉じたシユウは、そのまますぅすぅと寝息を立て始めた。
バレットは「本当にここで寝るのかよ」と呆れる。

とは言え担いで船室に運んでも、ハンモックの数が足りず床で寝ることになるだろう。
ならばもう自分もここで寝るかと、バレットもデッキチェアに仰向けに寝転がった。

こうして風に吹かれて星空を眺めていると、マリンと共に野宿していた頃の事を思い出す。
シユウに泊めて貰った日のことも。

(…………悪い奴、ってことは無ぇ筈なんだよな)

最初から、シノビとしての非情な側面を見て知っていれば、そういう人物だと割り切れたのかもしれない。

だが自分は、シノビではない彼の優しい側面ばかり見てきた。
だからこんなにも受け入れ難いのだろうか。

そんなことを考えているうちに、バレットも眠ってしまっていた。
朝日が昇り始める時間になって、先にシユウが起きる。

暖かな風と海猫の鳴き声が、コスタ・デル・ソルが近いことを告げていた。
上体を起こしたシユウはうんと伸びをして、穏やかな朝の空気を堪能する。

そして、隣から聞こえてきた鼾の音で、バレットの存在に気付いた。

結局船室には戻らなかったのか。
シユウは寝起きのぼんやりとした頭で思いつつ、バレットの寝顔を眺める。

(……俺がバレットさんのことを特別お人好しだと思うのと同じで、バレットさんからすれば、俺は特別冷酷な人間に思えるのかな)

黒マントの人達は被害者だとは思う。
だがたった数人の魔晄中毒患者と、健康なその他大勢では、後者を優先すべきだと自分は思う。その判断が普通≠セとも。
だがバレットの普通は違うのだろう。きっとその感覚の溝は、この先も埋まることはない。

シユウは徐に指でバレットの頬をつついた。
うーん、と目を閉じたまま眉を寄せて唸るバレットの反応に、自然と頬が緩む。

いつか完全に道を違えることになってしまうのだろうか。そうだとしても、その日はなるべく遠くにあって欲しい。
そんなことを願いながら、シユウは暫くの間、眠るバレットを眺めて過ごした。
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