02.MakeUpWith

一騒動あったものの、第八神羅丸は無事にコスタ・デル・ソルまで乗客の送迎を終えた。
降りるなり現地のスタッフに歓待されたユフィは、船酔いから回復してすぐに元気を取り戻す。

「見て見て! あそこ、マテリアって書いてある! 行ってみよ!」

プレゼントされた花輪を首に下げてはしゃぐユフィに、同じく花輪を下げたシユウが手で顔を扇ぎながらついて行く。暑い。

「お嬢、観光するのはいいんですが、まずは今後どうするかを決めませんか?」

「え? どうするって、分派と一緒に行くんでしょ?」

「決定事項みたいに言ってますけど、暗殺の時だって、皆さんの了承は得てなかったでしょう」

「別に了承なんて貰わなくても、勝手について行けば良くない?」

「それじゃストーカーですよ俺達」

「コスタ〜! バカンスを楽しんでる? ビーチに行くなら是非、コスタでアモールに参加してね!」

往来のステージで踊っていた催事スタッフであろう女性は、そう言って番号の書かれたチケットを二人に手渡した。
このチケットで街中で行われているゲームイベントに参加すると、リゾートウェア――要は水着――をタダで貰えるらしい。

そこまで本気でバカンスを堪能するつもりはないと、シユウはチケットを返却しようとしたが、

「いいじゃん! せっかくなんだし。シユウのその服装、見てて暑苦しいから着替えた方がいいよ」

と、有無を言わさずユフィにイベント会場まで連行される。
ゲームの種類は色々とあるようだが、二人は一番近場に受付場所のあったハッピーテンダーに参加することにする。

「このカメラで、街に隠れている4匹のハッピーテンダーを撮影してくださいね。全て撮り終わったら、ここに報告に来てください」

「この街の中全部探すの!?」

「ご安心を! 特別な地図をお渡ししますから、これを参考に探してみて下さいね」

「あの、ハッピーテンダーっていうのはどういう……?」

受付の女性は、マラカスを持ったハッピーなサボテンダーのイラストをシユウに見せた。成程分かりやすい。

「よーっし、じゃあどっちが早く見つけて来られるか競走ね!」

「はい?」

カメラと地図を受け取ったユフィは、おっさきー! と一人駆けて行った。
一緒に回って二人分一気に済ませるつもりだったシユウは、「まぁお嬢が楽しいならいいか」と、仕方なくそれに付き合う。

他のゲームと違い、ただ街を巡って写真を撮るだけ、という簡単・安全な内容なだけあって、参加者は子供や家族連れが多かった。
ペイントのある場所で「みつけたー!」と子供達が騒いでくれているので、シユウは労せず4箇所の撮影を終える。

(……マリンちゃん、寂しがってるだろうな)

よく似た少女を見かけて、ミッドガルで父の帰りを待っているのだろうマリンに思いを馳せた。
ちょうどそのタイミングで、何故かまた水兵姿に戻っているバレットと鉢合わせて、シユウは盛大に溜息を吐く。

「ヒトの顔見て溜息吐くなよ」

「娘を置いてリゾート地で浮ついてる父親見たら、誰だって溜息出ますよ……」

「別に浮ついてるわけじゃねぇよ! エアリス達が泳ぐとか何とか言い出したもんで仕方なく……」

「じゃあその格好は何ですか。もう変装の必要は無いでしょうに」

「ビーチに入るのに、普段の格好じゃダメだって言われてよ。おっとそうだ、武器も持ち込み禁止らしいからよ、またあの術かけてくれよ」

と、右手を差し出してきたので、シユウは「俺の忍術はこんな事のために使うものじゃないんですが」とボヤきつつ、渋々変化の術で銃を鉤爪に変える。

「そう言うお前は、こんなとこで何やってんだよ」

「ハッピーテンダーを探してました」

「ハッピー……何だって?」

シユウは撮影してきた写真を見せた。
着飾ったピンクのサボテンダーが、ゴキゲンな様子でマラカスを振っている。

「こんなもん撮ってどうすんだ」

「4匹見つけると、リゾートウェアと交換して貰えるんです」

「お前も浮かれてんじゃねーか! よくそれでヒトのこと言えたな!?」

「俺はお嬢に付き合ってるだけですよ」

「だからそれもオレと同じだろーが!」

などと言い合いながら受付に戻ると、既にリゾートウェアに着替え終えているユフィが、ムスッとした顔で立っていた。

「なに呑気に歩いてんの! 勝負だって言ったじゃん!」

「流石お嬢、完敗です。水着も良くお似合いで」

「そんなんで騙されるか! もっとやる気出せ〜!」

受付で写真を確認して貰い、賞品のアモールカード――リゾートウェアの引換券――をゲットしたシユウは、ユフィ、バレットと一緒に交換所へ。

「そもそも何で分派と一緒なの?」

「オレの名前は分派じゃなくてバレットだ、ニンジャ娘」

「アタシだって、ニンジャ娘じゃなくてユフィって名前ですぅ〜」

「コスタ〜! リゾートウェアのご利用ですね? どのウェアにします?」

「じゃあこれで」

一時的に着るだけなら別に何でもいいと、シユウは一番手前に飾られていた、無地のシャツとパンツがセットになったものを適当に指した。

ユフィは「こっちにしなよ」と派手な柄のサーフパンツを手に取り、バレットは「こっちにしとけ」と長袖のラッシュガードを手に取る。

「暑いから着替えるのに、それじゃ余計暑苦しいじゃん!」

「だからってお前が選んだ方はほぼ裸じゃねーか!」

「別に女じゃ無いんだから、上が裸でも問題ないって。ねぇシユウ?」

「あー……まぁ。でも日焼けしたくないので」

「え〜?」

「かと言ってバレットさんのは確かに暑そうなんで、これにします」

と、シユウは結局最初に自分で選んだものをチケットと引き換えて更衣室へ。
加えて髪も一つに結ぶと、首回りの風通しも良くなって、かなり涼しくなる。

「それじゃー服も着替えたし、マテリアって書いてた店見に行こ!」

「あん? ビーチに行くんじゃねぇのかよ」

「別にビーチには用無いもん。バレット達はビーチで遊ぶの?」

「遊ばねぇよ! でも黒マントがそっちに集まってるらしくてな。オレはちょっと見てくる」

「そっか。じゃあまた後でね!」

「後でねって、なんで合流する前提なんだよ」

というバレットのツッコミは無視して、ユフィはシユウの手を引いて去って行った。
女に振り回されるのはどこも同じかと、バレットはシユウを憐れむ。

(……あいつ、やっぱりまだ裸は見られたくねぇんだな)

ユフィの「女じゃないんだから」という発言に、シユウはどこか気まずそうにしていた。
日焼けがどうのと言っていたが、理由はそれだけでは無いのだろう。

例の薬の後遺症を鎮める為の行為は、セブンスヘブンを買い取る話が出たあの日にやったきりだ。
最近はもう寝ている間に弄ったりするような事も無くなったとシユウは言っていたが、発作が無くなっても、性的対象として見られ、突然犯されたトラウマが消える訳ではない。

(ひでぇ事しやがってよ……けど、オレもあんま言えねぇかもな……)

ラッシュガードを勧めたのは、ただシユウを気遣っただけではない。
自分が、彼の裸を直視出来ない気がしたから。

(抱いたことあるからって、オレまでそんな目で見るようになったら、それこそあいつのトラウマになるだろ)

事情を知る者として、配慮出来る部分はしてやりたいが、だからと言って変に意識し過ぎないようにしなければ。
そう思いながら、バレットはビーチへと降りて行った。







「なーんだ、マテリアじゃなくてアイスじゃん」

お目当ての店の前までやってきたユフィは、「マテリアイス」という看板を見て肩を落とした。
シユウは「この店、ウォール・マーケットで見たことあるな」と思いつつ、ユフィと自分の分をそれぞれ注文。日陰を探して二人で食べる。

「あのバレットって人が、シユウにツラ見せるなって言ったんだよね? さっき普通に喋ってたけど、もう仲直りしたの?」

「いえ。寧ろどんどん嫌われていってる気がします」

「そうは見えなかったけどなぁ〜。本当にそうなら、もうほっときなよ」

「でも今後も彼らについて行くんじゃありませんでしたか?」

「それはそうだけど、別に無理して全員と仲良くする必要も無いじゃん」

「でも俺とバレットさんが険悪だと、場の空気も悪くなるでしょう。他の人に気を遣わせるようなことは、なるべくしたくありません。ティファさんとか、そういうのかなり気にすると思いますし……俺はバレットさんのこと嫌いじゃないので」

「へー、あの人のどこがそんなに良いの?」

シユウはこれまでに見てきたバレットの美点だと思う部分をあれこれと考えて、

「あったかいところとか」

その一言に集約した。

「…………体温の話?」

「心根の話です。俺はバレットさんとお嬢って、ちょっと似てるなと思ってますよ」

「それって悪口?」

「褒めてます」

「あんまり褒められた気がしないなぁ〜」

と、微妙な顔でアイスを舐めていたユフィは、不意に上空を見て立ち上がった。
何かと視線を辿れば、神羅のヘリが船着場方面に降りようとしているのが見える。

「誰だろ。ルーファウスかな?」

「流石に暗殺未遂事件の直後に出歩いたりはしないと思いますけどね。俺達を追って来た一般兵士、とかじゃないですか」

「だったらマズいじゃん。逃げる?」

「先にバレットさん達と合流しましょう。追われてるのは彼らも同じでしょうし、教えてあげないと」

溶け始めたアイスをさっさと食べ終えて、二人はビーチへ向かった。
が、ヘリの降りた方角からやって来た団体と鉢合わせそうになり、慌てて物陰に隠れる。

「人に囲まれててよく見えないけど……神羅兵じゃなくない?」

「そうみたいですね。あの白衣の男……科学部門統括の宝条かもしれません」

「科学部門〜? なんでそんな人がこんな所に来るのさ。休暇?」

「さぁ……でもジージェさん曰く、神羅の幹部の中でも特に悪辣な人らしいですよ」

「ふ〜ん。なら、とっちめてやろっか?」

「こんな観光地で事を構えるのは流石に。それより、多分バレットさん達は見つかりますねこれ。どうしましょうか」

「こっそり様子見てみようよ」

宝条達が居なくなったのを確認してから、二人はビーチ全体を見下ろせる位置へ移動。
早速クラウド達と宝条が対面しているのを見てヒヤリとしたが、特に何事もなく両者は離れていく。

「あれ、クラウド君達はスルーですか」

「やっぱ遊びに来てるだけなんじゃない?」

「かなり偏見なんですが、休暇だからってこんな所に遊びに来そうなタイプには見えないんですよね、あの人」

宝条は接待をしている市長や女性陣達を引き連れて東屋へ向かった。
クラウド達もそちらへ向かったので、シユウとユフィは東屋の屋根に飛び移り、耳を欹てる。

「君も呼ばれて来たのだろう」

「何の話だ」

「自覚が無いのか? 見たまえ、君の兄弟達も集まってきたぞ」

「…………?」

周囲を確認してみると、海辺をふらついていた黒マント達が東屋の近くまで来ていた。
宝条の接待をしていた女性達が、彼らを一列に並べ始める。

今居る屋根の真下で喋っているので姿は見えないが、さっき宝条と会話していたのは、声からして恐らくクラウドだ。
黒マント達が彼の兄弟、というのはどういう意味だろうかと、シユウは首を傾げる。

「おい、何する気だ?」

「さあ、実験ショーの開幕だ!」

バレットの疑問と宝条の声と共に、海底からアンモナイトのような形の機械兵器が現れた。
牽引している箱の中からモンスターが飛び出し、黒マントに襲いかかる。黒マントは魔物と融合し、異形の化け物へと変貌する。

「見事だ! これぞリユニオンの力!」

逃げ惑う人々の悲鳴など意にも介さず、宝条が嬉しそうに叫んだ。

次いで箱の中から出てきたのは、クラゲのような形の小型の浮遊兵器。
モンスターと化した黒マントをアームで持ち上げて、そのまま箱の中に連れて行く。

「この状態の検体が欲しかったのだよ」

「きっさまあああ!」

「バレット! 先に、みんなを助けよう」

「奴ら好き放題だな」

「許さない……!」

バレット、エアリス、レッド、ティファ、クラウドの順で東屋から出てきた一行は、魔物と交戦を始めた。
変化の術を解けばいいバレットはともかく、他の皆は宿に武器を置いてきているらしく、その場に置いてあるもので代用して戦っている。

「どうする? 手貸す?」

「俺は彼らが取り漏らしたモンスターを先に片付けてきます。お嬢はお好きなように」

「りょーかいっ」

シユウはクラウド達が戦っている場の逆側に降りて、モンスターに襲われている人々を助けて回った。
ここに居るのは戦う術を持たない一般人ばかりだ。助けに来てくれる自警団もタークスもソルジャーも居ない。そんな場所で魔物を放つなんて。

砂浜で泣いている幼い男の子を見つけて、シユウはその子供をつけ狙っていたモンスターを鉤縄で捕らえた。
そのまま己の方に引き寄せて、クナイを深く突き刺して斃す。

「怖かったね、もう大丈夫だよ。怪我は無い?」

「おっ、おがあざぁん、おどうざぁん」

モンスターに襲われる恐怖と、両親とはぐれた心細さで一杯なのだろう。
ただただしゃくりを上げる男の子を見て、シユウは眉尻を下げた。付近に両親の姿は無い。

「……見つけるよ。大丈夫。俺が守るから、ついておいで」

男の子の手を引き、他の逃げ遅れた人々も拾いつつ、モンスターを斃しながらビーチの外まで走る。
幸い、街に出る階段の上り口で男の子の両親も見つかり、泣きながら互いを抱き締め合う親子の姿にシユウは安堵する。

(これで避難は済んだかな……あとはバレットさん達の方だけど……)

彼らならばモンスターに後れを取ることも無いだろうとは思いつつ、念の為に様子を見に戻ってみると、何故かクラウドが一人で兵器と戦っていた。
いつもの大剣の代わりに畳んだビーチパラソルを振り回している彼は、シユウに気付いて「加勢か?」と尋ねる。

「必要であればそうしますが、他の皆さんはどうしました?」

「捕まった。全員、あの箱の中だ」

「あらら。結構手強いですね」

「俺もさっき捕まりそうになったが、ユフィに助けて貰った。何か策があるらしい。時間稼ぎを頼まれてる」

ユフィの策、というのは少々不安だが、そういう事ならとシユウも時間稼ぎに加わる。
暫くして、

「うぉぉぉぉぉおお〜!!」

という雄叫びと共に、見知らぬ男性が黒マントを背負って駆けて来た。
黒マントに反応したのか、捕獲用のロボットが箱の中から出てくる。

「ジョニー、だめ! 危ない!」

箱の蓋部分が開いたお陰で、捕らえられていたティファ達が顔を出した。
彼女達と男性は顔見知りらしい。危ない、とティファに警告されているということは、彼は荒事に慣れていない民間人なのだろう。

保護しようと思ったが、ジョニーと呼ばれた男性は、皆の視線の先で複数人に増えた。
分身の術だ。シユウはこれがユフィの策であることを瞬時に理解する。

「かかったな! ――忍法、青天のヘキレキ!」

当の本人はと言うと、東屋の屋根の上に居た。
ロボットに捕まった無数のジョニーが、元のモーグリのぬいぐるみに戻り、大元の機械兵器に向けてレーザーを照射。

兵器は大爆発を起こして、一人残った本物のジョニーは吹き飛ばされた。
そのまま足元に転がってきたので、シユウは屈んで容体を看る。

「大丈夫ですか? ……ああ駄目だ、気絶してる」

「ジョニー!」

箱の中の方が却って安全だったのか、ほぼ無傷で出てきたティファと、離れていたお陰で爆発に巻き込まれずに済んだクラウドはジョニーに駆け寄る。
レッド達は引き上げようとする宝条を追おうとしていたが、エアリスが引き止めた。
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