02.MakeUpWith

「これ以上は、やめよう」

確かに、民間人の居るこの場所を、本格的な戦場にするのは宜しくない。
大変遺憾ではあるが、脅威を退けただけで今は良しとすべきだろうと、皆去っていく宝条を睨むに留める。

「ティファさん、この方お知り合いですか?」

「あれ、覚えてませんか? セブンスヘブンに良く来てくれてたお客さんなんですけど……」

「え?」

シユウはまじまじと男の顔を見た。
そう言われれば確かに見覚えがあるような気もして来るが、ハッキリとは思い出せない。

ティファと親しい、ということは、恐らくティファ目当てで通っていた男性客の一人なのだろう。
余計な諍いを起こすのが嫌で、その手の客とは極力関わらないようにしていた為、知らなくて当然かとシユウは納得する。

「みんなお疲れ〜! アタシの作戦、どーだった? バッチリだったでしょ!」

「バッチリですけど、民間人を巻き込んじゃダメですよお嬢。怪我させてるじゃないですか」

「でもその人、皆のこと助けたがってたからさ。アタシが一人でやっちゃうより、一緒にやった方がいいかな〜と思って」

とりあえず治療してやった方がいいだろうと、一行はジョニーが経営しているというホテルに彼を運んだ。

シーサイド・ジョニーという名のその建物は、廃屋と思われてもおかしくない有様だったが、ベッドは置いてあったので一先ずそこへ寝かせる。
エアリスの癒しの術である程度傷が癒えると、ジョニーは意識を取り戻した。

「あれ……ここは……」

「具合、どう? 痛くない?」

「皆さん……無事だったんですね」

「お前が頑張ってくれたお陰でな」

「いえ、元はと言えば俺のせいです。俺が止めていればあんな事には……」

「ジョニーのせいじゃないよ」

「ティファ……って、ああっ!? お前!」

ティファと、皆に混じって頷くシユウを見たジョニーは、突然声を上げて飛び起きた。
人差し指を向けられたシユウは首を傾げる。

「何ですか?」

「お前、セブンスヘブンのプリンスだろ!? 何でまだティファと一緒に居るんだよ!」

一瞬、部屋が静まり返った。
ジョニーの口から唐突に出た単語に皆ポカンとし、一拍してからまずユフィが笑い出す。

「プ、プリンスって……シユウがプリンス……」

「いや知りませんよそんな呼び名。何ですかそれ」

「店に来た女の子達が言ってたような……」

ティファが昔を思い返して言った。

「その通り! でも俺達男からすれば、お前はティファについた悪い虫でしかない! ティファから離れろ!」

「その理屈で言ったらクラウド君だって咎められるべきじゃないですか? なんで俺だけなんですか」

「アニキは立派なお方だからいいんだよ! でもお前は、大したことはして無いのに、微笑んでるだけで女の子達にキャーキャー言われて……ズルいだろ!」

「ああ、分かるぜその気持ち」

バレットがしみじみと言った。
ジョニーが「ですよね!」と嬉しそうにして、またシユウを睨む。

「その上ティファとまで仲良くして、挙句の果てにこんなバカンスでデートまで……!」

「いや、デートじゃない」

クラウドが「それは認めない」と言いたげに割り込んだ。
その心を知らずジョニーは続ける。

「お前はどこまで俺の楽園を荒らせば気が済むんだ! 俺の城から出ていけ!」

「城とは?」

「この宿のことだろう」

シユウの疑問にレッドが答えて、

「お城なら、プリンスにピッタリ、だね!」

楽しそうなエアリスが付け加えた。
ユフィがまた吹き出す。

「言われなくても、ここに泊まるつもりは無いですよ。他のホテルを探します」

「他って、予約してあんのか?」

「予約はしてませんけど、これだけの規模のリゾート地なら、泊まる場所なんて幾らでもあるでしょう?」

「フッ、残念だったな! 今日はシーサイド・ジョニー以外のホテルは全部予約でいっぱいだ!」

「え、本当に?」

「私達もそれで困ってたら、ジョニーが声をかけてくれたんです」

「お前も泊まりたいなら、金輪際ティファには近付かないと誓え!」

正直、この風通しの良過ぎるボロ屋に、そこまでして泊まりたい訳でも無いのだが。ベッドと屋根がある分、野宿よりマシではあるだろう。

故にシユウは言われた通りにしようと口を開いたが、ティファが止める。

「ジョニー、それは私が困るな」

「えっ……!? ティファ、ま、まさか……ティファまでそいつのこと……」

「え? 違うの、そうじゃなくて――」

「ち、チクショオオオオオオっ!!」

ティファの訂正も聞かず、勝手に絶望したジョニーは、悔し涙を流しながら駆けて行った。
ティファは「そうじゃないんだけどな……」と苦笑しながらシユウに向き直る。

「シユウさん、あの……聞いておきたいことがあって…………」

「? はい、何でしょう」

「その…………私達のこと、どう思ってるのかなって…………」

「え!?」

「あー、クラウド。お前もちょっと来い」

話が進まねぇと言って、バレットは動揺するクラウドを連れて出て行った。
ハッキリと物を言えないティファに代わって、エアリスが切り込む。

「ルーファウスの、暗殺の話。あの時、シユウもユフィと居たんだよね? どうして止めなかったの? わたし達、居たのに」

「え、そうなの?」

何も知らないユフィが言った。
レッドが変装の件を彼女に説明している間に、エアリスは話を進める。

「あそこで投げたら、わたし達も危ないって、分かってたよね? なのに、やめなかった。ティファ、それで傷付いてる。わたしも、ちょっと怒ってる。シユウは、わたし達なんて、死んでもいいって思った?」

今度はシユウが驚いた。
まさか、あの時の行動をそんな風に受け止められていたとは知らず、シユウは「流石にそこまでは」と首を振る。

「確かにこちらの都合を優先はしましたし、それでエアリスさん達に迷惑をかけることも承知でやりました。ただ、何かあっても貴女達なら切り抜けられるだろうと……クラウド君も居ましたし」

「クラウドが居ても、ティファが強くても、万が一ってこと、あるよ。兵とか、沢山居たし」

「……すみません。正直、あの時はそこまで深くは考えていませんでした」

「ほんと?」

「本当に」

「だって、ティファ」

「……もう一つ、いいですか? さっきのジョニーの提案、シユウさんは受け入れようとしてましたよね? その場凌ぎのつもりでしたか? それとも……本当にもう、金輪際関われなくてもいいって思ってますか?」

「それは…………」

今度はすぐには答えられず、シユウは口籠った。
ティファの目が悲しげに細められる。

「シユウさんにとっての私達は……セブンスヘブンは、ただウータイのシノビとして、任務を遂行するための隠れ場所でしか無かったんですか?」

「いえ、そんなことは……」

「でも、簡単に離れられる程度の気持ちしか無いんですよね?」

「そうじゃないんです。俺は……」

「シユウはそんなハクジョーな奴じゃないよ」

レッドから事情を聞き終えて、やり取りを清聴していたユフィが、聞き捨てならないといった様子で言った。

「ただ割り切ってるだけ。そもそも、先にシユウを突き放したのはそっちでしょ?」

「お嬢、それはティファさんは関係ないですよ」

「カンケーある! 同じ分派アバランチじゃん」

「バレットさんが一人で暴走しただけです。ティファさんを責めるのはお門違いですよ。保護者じゃあるまいし」

「あの、やっぱりそれが原因なんですか?」

「原因というか……でも、まあ、そうですね。俺はティファさん達の本当の仲間じゃないって、割り切ったのはあの時だったとは思います」

「ならばバレットのせいだな」

「バレットのせい、だね」

レッドとエアリスが唱和した。
ティファは「その事は本当にごめんなさい」と、バレットに代わって頭を下げる。

「でも私は、シユウさんのこと、今でも仲間だと思ってます。だから……もう二度と関わらないなんて、そんなの……私は嫌です」

「ティファさん…………」

「シユウは、どう? ティファのこと、わたし達のこと、嫌い?」

シユウは首を振った。
彼女達を嫌いになる要素など無い。

「その、俺との関係を、そこまで大事にして貰えてるとは思いませんでした」

「大事です。なのにミッドガルであんな別れ方になって、本当にどうしようかと……再会出来た時、凄く嬉しかったのに、まともに話すことも出来なくて……」

ずっと辛かったと、彼女の声と表情が物語っていた。
シユウは握り込まれたティファの手に控えめに触れる。

「すみませんでした。ティファさんの気持ち、何も分かってなくて」

「私の方こそ。ユフィの言う通り、先に突き放したのはこっちですよね……」

「じゃあ、仲直り、する?」

別にティファと喧嘩していたつもりは無いが、エアリスに促されたので、シユウはティファと握手を交わした。
ティファが嬉しそうにはにかんだのを見て、まあ細かいことはいいかと、シユウも顔を綻ばせる。

「あのさ、つまり全面的にバレットが悪いってことだよね?」

「うーん……まあ、そうかも」

「そうだな」

「そうなるね」

「一発殴りに行く?」

「俺も疑われるようなことしたのは事実ですし、そこまではしなくていいですよ。それよりお嬢、今日の宿をどうするか決めないと」

「わたし、ユフィとお話したいな。泊まっていかない?」

「お? いいねぇ、ガールズトークってやつ? するする!」

「じゃあ私、ユフィ達も泊めて貰えないかジョニーに頼んでみるね。なんだか誤解されてるみたいだし、探して話してくる」

「ならば私も手伝おう。何処へ行ったか、ニオイで辿れる」

と、皆散り散りになってしまったので、シユウは話が終わったことを外に居るバレット達に知らせに行った。
まず真っ先にクラウドに色恋の話ではないことを伝えると、彼は安堵して部屋に戻っていく。

「バレットさんは、ティファさんの話がどういったものか知っていたんですか?」

「ジュノンの時の事とかだろ? あれからずっと気にしてたからな」

「バレットさんって、結構そういうの見てるんですね」

「結構は余計だ。で、ちゃんと話出来たのかよ?」

「お陰様で」

「伍番街スラムでお前が出てった後もよ、あいつにすげー怒られてな。お前が居なくなったら自分は困るってよ。お前がどう思ってるかは知らねぇが、ティファはお前のこと大事に思ってんだ。それはちゃんと分かっててやれよ」

「承知しました」

シユウは階段に座っているバレットの隣に腰を下ろした。
木造の床板が一々軋むので不安になる。

「バレットさんは?」

「ああ?」

「今後俺が一緒に居ても大丈夫ですか?」

「……神羅のスパイじゃねぇんだろ」

「ウータイの手先ではありますけどね」

「けっ」

「現状何か企んでる訳じゃありませんけど、気になるなら離れますよ」

「それでティファがああなったんだ。同じこと二回も繰り返すほどバカじゃねぇよ」

「ティファさんが悲しむから我慢するって事ですか?」

「おう」

「……そうですか」

「なんだよ」

「いえ、別に。優しいなと思っただけです」

シーサイドという名前の割に海は見えないが、それでも空をオレンジに染め上げている夕陽は綺麗だった。
日中よりは陽射しも和らぎ、風が心地よく肌を撫でる。

「……結局ここに泊まんのか?」

「一応ティファさんがジョニーさんに掛け合ってくれてるみたいですけど、どうでしょうね。そもそも部屋数が足りないように見えますけど、割り振りどうなってるんですか?」

「男は全員同じ部屋だ。ティファとエアリスがそれぞれ一部屋ずつ」

「ベッドは?」

「女部屋はどうか知らねぇが、オレ達の方は2つしかねぇな」

「じゃあ俺の分無いじゃないですか」

「縮めば二人でも寝られるだろ」

「縮……? ああ、変化の術ですか?」

確かにトンベリの姿ならスペースは取らないだろうが。
男二人が同じベッドで眠る姿を想像して、シユウは嫌そうな顔になる。

「クラウド君と一緒に寝ろって事ですか?」

「何で当然のようにオレを外してんだよ」

「サイズ的にその方が良いでしょう。バレットさんと寝ると押し潰されそうですし」

だが、かと言ってクラウドと寝るのはかなり抵抗がある。
彼とはまだそこまで親しくは無いし、こちらが承諾してもあちらが嫌がるだろう。

悩んでいるうちに夜になり、ティファがジョニーの許可を貰って帰ってきたので、トンベリに化けたシユウは渋々バレットのベッドに寝そべる。

「文句あんなら床で寝ろよ」

トンベリは同じく横になっているバレットの腹の上に攀じ登って、ベチベチベチベチと力強く尻尾を叩き付けた。
バレットは「暴れんな」と掌でそれを押さえる。

トンベリは不服そうにしていたが、疲れと連日の寝不足が重なって、そのまま眠ってしまった。
何気なくバレットが親指の腹で頭を撫でると、尻尾が波のように僅かに揺れる。

こうして見ると、確かにトンベリも可愛いかもしれない。
マリンに見せたら喜ぶだろうかと、その光景を想像しているうちに、バレットも眠りに落ちた。
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