03.IFeelYou
そうして、一行はシーサイド・ジョニーで一晩を過ごした。翌朝、人の姿に戻ったシユウは、ギリギリ機能を保っているシャワーを浴び、元の服に着替える。
「寝心地イマイチでした」
「あんま言ってやんなよ。ジョニーだって頑張ってんだからよ」
「違いますよ。貴方の腹の上の寝心地のことを言ってるんです」
「オレはベッドじゃねーんだよ! 大体、文句言う割には熟睡してたじゃねーか」
チェックアウトの為に外に出ると、少し遅れて女性陣も出てきた。何故か全員同じ部屋から。
大口を開けてあくびをしているユフィに理由を尋ねると、
「いや〜、遅くまで盛り上がっちゃってさぁ」
との事だった。
足りていない部分をティファが補足。
「エアリスの部屋に集まって、皆で話してたんです。これまでの事とか色々。そしたら、気付いた時には夜遅くになってて……そのまま寝ちゃって」
「でも、楽しかった。続きはまた今度。ね!」
エアリスの言葉に、ティファとユフィが賛同。
要は昨日エアリスとユフィが言っていたガールズトークとやらを、三人で満喫したらしい。
その成果か、ユフィはすっかりエアリスやティファと打ち解けている。
「お嬢のそういうところ、一種の才能ですよね」
「そっちはメンズトークとかしなかったの?」
「残念ながら。でも、早くに寝たお陰で体調は悪くないですよ。お嬢は大丈夫ですか?」
「ちょっと夜更かししたくらいじゃ、どーにもならないって! で、次は何処行くの?」
ユフィは受付でジョニーと話しているクラウドに尋ねた。
クラウドは怪訝な顔をする。
「待て。俺達について来るのか?」
「そうだよ? 文句ある?」
「え……いや……」
ティファとエアリスを味方につけ、堂々とした態度を取るユフィに、クラウドは何も言えなかった。
まあ戦力にはなるだろうし良いかと諦めて、ジョニーに視線を戻す。
「世話になった」
「そんな、俺の方こそ。アニキ達は、これからどうするんですか?」
「黒マントを追いかける」
「あいつらなら、今朝コレル山の方に行っちまいましたよ。ケガしてる奴も居たんで、止めようとしたんですけど」
「コレル山……」
バレットが神妙な顔で呟いたのを聞いて、そう言えば彼はコレルの出身だったかと、シユウは昔に聞いた話を思い出した。
クラウドは「俺達も行こう」と目的地をそこへ定め、一行はジョニーに見送られて宿を発つ。
「コレル山って、ここから歩いて行ける距離なんですか?」
「行けねぇことはねぇだろうが、チョコボが借りれんなら、乗って行った方がいいな」
幸いコレル方面へ向かう街の出口に貸し出し所があったので、一行はバレットの先導でコレル山の麓まで向かった。
ユフィが酔うのではないかとシユウは心配したが、それは杞憂に終わる。
「チョコボは大丈夫なんですね?」
「そうみたい。まあ、チョコボは乗り物じゃなくて生き物だし」
「なるほど……?」
登山道の入口近くにはロープウェイの乗り場もあったが、運行はしていない様だ。
山道を登るしかないと知って、エアリスは不安な顔。
「登れるかな……」
「よゆ〜よゆ〜! 景色を楽しめばいいんだよ」
「何にもねぇよ。あるのは、ぶっ壊れた魔晄炉だけだ」
「そっか、バレットはこの辺りに詳しいんだよね」
躊躇う様子もなくティファが尋ねた。
はぐらかすように、「さあ、行こうぜ」と率先して登り始めるバレットを、ティファは「あれ?」と戸惑った様子で見る。
コレルの魔晄炉と言えば、事故か何かで爆発したという例のアレだろう。
バレットの故郷は、その隠蔽の為に神羅に燃やされたのだと、かつて彼は語っていた。
ティファの性格を考えれば、その事情を知っていれば、今のような聞き方はしないだろう。
シユウは「俺にしか話してないのか」と少し意外に思いつつ、「まあベラベラ話すような内容でもないか」と納得してバレットの後を追う。
「ユフィ、オレ達はもう仲間だ。勝手なマネすんなよ」
「ん? なんでも許可が必要ってこと?」
「そうだ」
「あっそう。じゃあ、歌っていいですか?」
「ああ?」
「背中かいていいですか? 耳ほじっていいですか? あくびしていいですか? ねえねえ、いいですか? ねえねえねえ、いいですか!?」
「うるせえーッ! 全っ部、ダメだ!」
「横暴! おーぼー!」
「おいシユウ! コイツ何とかしろ!」
「無理です」
「匙投げんのが早ぇよ!」
「ティファ、よくこんな人と一緒に戦ってきたね」
「でも、良いところの方が多いよ」
「悪いところが49で、良いところが51、みたいな?」
「もう少し差があるかな」
「バツが45で、マルが55?」
「あー……」
否定しないティファを見て、バレットは哀愁漂う顔で「ティファよう……」と嘆いた。
フィジカルの強い面々は、そんな風にお喋りしながら難なく山道を登って行くが、中腹まで来たところで、エアリスが遅れていることに気付く。
「ごめん……足、重くて……」
「少し休もう」
「でも、急がないとマテリア……じゃなかった。黒マント、逃げちゃうよ。――そうだ! アタシが先に行って、偵察してきてあげる。皆は後から来なよ。じゃあ、あとで!」
返事を待たず駆け出すユフィに、「あとで、じゃねぇよ」とバレットも続いた。
クラウドとレッドは一生懸命登ってくるエアリスを待っている。
「シユウさんは、ユフィを追いかけなくていいんですか?」
「バレットさんがお目付け役をやってくれそうなんで、ここは任せようかと」
「でもバレット、何だか少し様子がおかしいような……ちょっと心配なので、私も先に行ってますね。エアリスのこと、お願いします」
と、ティファも先行組を追いかけて行ったので、シユウは任された通りエアリス達に歩調を合わせることにした。
「差し支えなければ聞いておきたいんですけど、皆さんはどうして黒マントの人達を追っているんですか?」
「正確にはセフィロスを追ってる」
「……詳しくは無いんですが、セフィロスってソルジャーの、ですよね?」
「そうだ。ソルジャーのクラス1st。かつて英雄と呼ばれていた男だ」
「記憶違いかもしれないんですが、故人じゃありませんでしたか? 戦死したとかで……」
「そう言われていた。だが、あいつはまだ生きている。俺達はこの目で見た」
クラウドはそう断言したが、シユウは第八神羅丸での彼の言動――化け物をセフィロスと呼んでいた――から、その言葉を信じきれず、実際はどうなのかとエアリスに目で問う。
「セフィロスは、いるよ。生きているのかは分からないけど……確かに、いる」
「そうですか……それで、追う理由は?」
「セフィロスは、この星、壊そうとしてる。それ、止めたいの」
「星を壊す……? バレットさんがいつも言ってる、星の命がどうこうの話ですか? 神羅がやってるような……」
「ううん。神羅とは、少し違う。セフィロスは、星、生かそうとしてる。でもその為に、もっと恐ろしいこと、やろうとしてる」
抽象的過ぎる。
首を捻るシユウに、エアリスは「言葉で伝えるの、難しいね」と苦笑し、
「我々と共にセフィロスを追っていれば、いずれ分かる」
レッドがそう締め括った。
「なら、黒マントの人達を追う理由は?」
「ルーファウス曰く、奴らはセフィロスの分身らしい。追えばセフィロスに辿り着くそうだ」
「分身って……それもまた現実味のない話ですね」
「あんたやユフィも、似たような術を使ってるじゃないか」
「俺達がやってるのは手品みたいなものです。一時的にそれっぽく見せてるだけで、術を解けば元に戻ります。実際に人間のコピーを造り出すのは訳が違う」
「だが、黒マントが普通の人間では無いということは、お前も気付いているだろう?」
魔物と融合し、異形の怪物に変貌する。
これまでに見てきた光景を振り返ると、確かにクラウド達の言葉は否定し切れない。
「……まあ、とにかくセフィロスを追ってるって事ですよね。承知しました」
「そっちの目的は?」
「ウータイの為に有益な情報を手に入れたい。あわよくば神羅を潰したい。そんな感じです」
「なるほど」
先に行ったユフィが描き残していったのだろう落書き、もとい目印を辿って、シユウ達は山道を登っていく。
山の天辺が見えてきた頃、エアリスがポツリと呟いた。
「お母さん、元気かな」
「俺が会った時は元気だった。心配してたけどな」
「あれ、エアリスさん、もしかしてあれから帰って無いんですか?」
あれから、というのは、七番街のプレート落下事件の時の事だ。
エアリスが連れ去られた、という話はクラウド達から聞いていたが、その後の顛末はまだ聞いていない。
エアリスは、クラウド達に助け出された時の事をシユウに語る。
「わたし、研究施設の中、閉じ込められてた。クラウド達が見つけて、助けてくれたけど……」
「兵に追われて、エアリスを家に帰すことも出来なくてな。そのままミッドガルを出たんだ」
「じゃあ、エアリスさんが今こうして無事で居ることも、エルミナさんは知らないんですか?」
「そうなの。どこかで話、伝わってるといいけど……親不孝だね、わたし」
「事情を話せば、分かってくれるさ」
「説明、大変そう」
エアリスはおどけて言ったが、きっと本心では、今すぐにでも家に帰って、エルミナに無事を伝えたいと思っているのだろう。
あの日、自分がセブンスヘブンに居ればと、シユウは改めて悔やむ。
「辛い思いをさせてすみません。マリンちゃんを助けてくれて、本当に有難う御座いました」
「お礼はともかく、どうして、シユウが謝るの? マリンを助けに行ったの、わたしが選んだことなのに」
「俺が店に居れば、エアリスさんが連れていかれることも無かっただろうにと思いまして」
「どうかなぁ。マリンのことがなくても、わたし、何処かで捕まってたと思う。だから、シユウが気に病むことないよ。ほら、レッドにも会えたし」
「確かに、エアリスが捕らえられていなければ、私はここには居なかっただろうな」
「レッドさんは、どういう経緯で仲間に?」
「私もエアリスと同じ部屋に捕らえられていた。宝条の実験サンプルとしてな。バレットがエアリスを閉じ込めていた装置を破壊してくれたお陰で、私も外に出られた」
「ね? 嫌なことばかりじゃない、でしょ?」
笑顔のエアリスに言われて、励まされたシユウは「却って気を遣わせてしまったな」と苦笑しつつ頷いた。
山頂付近にあるヘリポートを抜けて、鉄骨の階段を上っていくと、漸くバレット達と再会する。
「おまたせ!」
「エアリス、大丈夫?」
「うん、良い汗かいた〜!」
「偵察はどうだった?」
「異常ナシ! ついでにマテリアも……ナシ」
「魔晄炉に着く前にとっ捕まえたからな。どっかの目付け役がサボりやがったせいで、こっちは大変だったぜ」
「素晴らしい。是非今後も宜しくお願いします」
「オイ」
「全員揃ったし、早く魔晄炉へ行こう! 黒マント達は、もう魔晄炉へ行っちゃってるよ」
落ち着きのないユフィに急かされて、一行はコレル魔晄炉へ。
魔晄の特徴的な色を宿した、大きな湖――正確には魔晄溜まり――に、壊れた建材が幾つも浮かんでいる。
その周りを囲んでいる足場はまだ残っていたので、皆は先を行く黒マントに倣って、その道を進む。
「ねぇ、あの黒マントの人達って、なんなの?」
「神羅の犠牲者だ」
「へえ……じゃあ、アタシ達ウータイと一緒だ」
「どういうこと?」
「ウータイはね、神羅にあちこち爆撃されて、街もみんなもボロボロにされて……その上、インチキな条約を押し付けられたんだ」
「停戦はウータイも歓迎したんだろ?」
「ジジイ達が勝手に受け入れたんだ。昔から国のことを全部決めてて、皆大人しく従ってきたけど、こればっかりは不満爆発! そんな怒った国民が期待したのが、グレン大佐とその仲間達。元ソルジャーで、脱走兵の三羽ガラス」
「初耳だ」
「錆び付いた足枷みたいなしきたりをぶっ壊して、ウータイを元気にしてくれたんだ。そこに、大佐達が信頼するスフール総督って人が合流して、革命が起きたってわけ。で、暫定政府が誕生したの」
「革命か。やるじゃねぇか」
「どうして、暫定政府なの?」
「本当の政府は、神羅との戦いが終わってから、国民全員で選ぶものだからって。だからね、アタシ達は暫定が取れるように頑張ってるわけ。燃えるっしょ?」
それなりに重たい話だが、語った本人はいつもと変わらぬ調子で「どーしたの、置いてくよ!」と手招きし、先を急ぐ。
前向きなのか、はたまた無理に明るく振舞っているのかは、まだ彼女と付き合いの浅いクラウド達には分からない。
「って事は、お前らはその暫定政府とやらの指示で、ミッドガルに来たってことか?」
「お嬢はそうらしいです」
「シユウさんは違うんですか?」
「俺は独断ですよ。ウータイを出たのも、暫定政府が出来る前の事だったので」
「どうしてウータイを出たんだ」
「それは……まあ、色々ありまして」
「なんだよ色々って」
「あんまり詮索すると嫌われますよ」
「おめーがいちいち勿体ぶって隠すからだろ」
「ねぇみんな! 来て来て!」
途切れた足場の端で魔晄溜まりを覗き込んでいるユフィに、「落ちないで下さいよ」とシユウは忠告。
「ねえねえ、これぜんぶ魔晄なの?」
「ああ」
「じゃあ、ここにはすんごいマテリアがあるんじゃない? どっひゃ〜! って、ビックリするようなマテリア!」
と、はしゃいでいたユフィは、不意にボコボコと泡立ち始めた水面を見て、クラウドの背に隠れた。
モンスターかと皆が武器を構える中、飛び出してきたのは大きなマテリア――胸部にそれを宿した、見たこともない巨大な生物だった。
姿は鯨に近い。身を翻しながら宙を舞うその様も、鯨のブリーチングのようだ。そしてまたすぐに魔晄溜まりへ落ちていく。
天高く上がった水飛沫が、雨のように辺りに降り注いだ。圧倒されたユフィが後ろへすっ転ぶ。
「どっひゃ〜……!」
「今の何だ!?」
「ウェポンだ。星の守護者……星に危機が訪れると出現する、と言われている。宝条の憧れの一つだ」
「ウェポン……」
空と雲を溶かしたような青白い肌と、そこに埋め込まれた魔晄色のマテリア。
恐ろしさも感じるが、水滴を纏って輝くその姿は、宝飾品のように美しかった。
あんな神秘的な生き物が居るのか。もう一度見れないかと、シユウは恐る恐る水面を覗き込んでみたが、薄らと移動する影が見えるだけ。
「ねえねえ見た!? 体の中に、すんごくでっかいマテリアあったよね!? 何とかして捕まえらんないかな〜」
「星の守護者を捕まえる?」
レッドが驚きと呆れを含んだ声色で言った。
「あんなおっきなマテリア、欲しくない? あれ、ぜーんぶアタシのものだよ!」
「じゃあここでゆっくり考えろ。俺達は先に行く」
素っ気なく言って歩き出すクラウドを見て、ユフィは泣く泣くウェポンに別れを告げた。
シユウも少々名残惜しく感じながら、その場を離れる。
「ウェポンってのが現れるほど、神羅が星を追い込んだって事だよな。つまり、アバランチの主張は正しかったってわけだ。なあ、そうだろ?」
「ああ。でも、危機の原因は神羅だけじゃない」
「……セフィロス、だね」
「行こう。星を助けないと」
星を助ける、とは言うが、具体的にどうするつもりなのだろう。
ウータイ、神羅。今目の前にあるそれらの問題に取り組んでいるシユウには、星の危機も、エアリス達の目的も、今一つピンと来なかった。