03.IFeelYou
魔晄炉から昇降機で下へ行くと、コレルの炭坑に出た。黒マント達も集まっており、上がった跳ね橋の前で立ち往生している。
「どうしよう」
「バレット、何か知ってる?」
ティファに問われ、バレットはどこか気乗りしない様子で、跳ね橋の遥か上方を指した。
切り立った崖に、大きな歯車が幾つも取り付けられている。
「あそこにある操作室で、橋を下ろせる」
「どうやって行くの?」
「炭坑を通る。長いこと放ったらかしだから、中がどうなってるか分からねぇ」
跳ね橋の前で右往左往していた黒マント達は、何を思ったか崖下の川に身を投げ始めた。
それを見たバレットが慌てて「橋下げてやっから、ちょっと待ってろ!」と叫ぶが、黒マント達は止まらない。
魔晄中毒は恐ろしいなと改めて実感していると、隣に立っていたクラウドまでフラフラと川の方へ歩き出す。
「え、ちょっと――」
「おい、クラウド!」
足場から落ちそうになったところでシユウが咄嗟に手を掴んだ。同じく異変に気付いたバレットも、クラウドの肩を掴んで引き戻す。
貧血でも起こしたかのようにフラついているので、バレットはそのままクラウドを近くの木箱に座らせた。他の仲間達も、心配してその周りに集まる。
「魔晄の影響かもしれない。暫く休んだ方がいい」
「クラウドは休ませて、アタシ達で橋を下ろしに行かない?」
ユフィの提案に皆賛同し、バレット、ユフィ、ティファ、シユウの四人が炭坑へ向かい、エアリスとレッドはクラウドの付き添いとしてその場に残ることに。
「……あの、クラウド君って何なんですか?」
気遣いよりもモヤモヤをスッキリさせたい気持ちが勝って、炭坑に入るなり、シユウはバレット達に尋ねた。
「元ソルジャーのなんでも屋だろ」
「そうじゃなくて。たまに言動がおかしくなるでしょう。彼も魔晄中毒なんですか?」
「……分からないんです、私達にも」
ティファは悲しげに目を伏せて言った。
「セフィロスを追ってるって話も、皆さんがクラウド君に合わせてるだけだったりします?」
「いや、セフィロスはオレ達も見た。あいつがやべぇって話はマジだ。けどまぁ……確かに様子がヘンな時はあるな」
「医者に見せた方がいいんじゃないですか?」
「それで治りゃあいいけどな。簡単に治せるようなもんなら、黒マントがあちこち彷徨いたりはしてねーだろ」
「それは……確かに」
「ねー、これどっちに進むの?」
先々進むユフィに、バレットが進路を指示。
坑道内の設備は殆ど電源が入っておらず、また老朽化であちこち道が崩れているので、シノビ二人が鉤縄や飛び道具を駆使して先行し、ティファ達が通れる道を作っていく。
「シユウさん、本当にシノビなんですね」
「あれ、まだ疑われてました?」
「そういう訳じゃないんですけど、何だか見慣れなくて」
「服がバーテンやってた時のまんまだからだろ。もっと忍者っぽい格好しろよ」
「ウータイのシノビに制服はありませんので」
そんなやり取りをしつつ、四人は順調に上へ上へと登っていき、目的の高さまで到着。
外に出ると、4対の羽を広げた鳥型のモンスターが、雛鳥の巣を襲おうとしている場面に遭遇した。
丁度その下に操作盤もあるので、雛鳥が食べられる前にと、邪魔になっているモンスターを片付ける。
幸い雛鳥達に怪我はなかった。
三匹が巣の中で犇めき合いながら、元気にピヨピヨと囀っている。
「可愛い」
「親鳥は不在みたいですね」
「あっ、飛んだ! おいで〜!」
ユフィは指を立てて誘導したが、雛鳥はそれを無視してバレットの元へ。
バレットは追い払おうとするが、雛鳥は纏わりついて離れない。
「気に入られちゃったね」
「バレット、ずるい!」
どう足掻いてもついて来るので、バレットは観念して肩に留まることを許した。
懐いている雛鳥は、頭頂部で逆立っている黄色い羽が髪のようにも見える。
「見て見て。この子、なんかクラウドに似てない?」
「うん、わかる」
「よし、キミの名前はクラピヨだ!」
ユフィの命名に、雛鳥はピヨ!と返事。
シユウが触ろうとすると、クラピヨはバレットの頭上に避難。
本能的に、危ない人とそうでない人が分かるのだろうか。
危害を加えるつもりはないが、日頃の行いを考えると警戒されても仕方ないなと、シユウは大人しく手を引っこめた。
一方、バレットは置いてあるトロッコを指して言う。
「帰りはあれに乗って、一気に山を下りようぜ」
「あれって貨物用じゃないんですか?」
「本来はそうだが、人が乗っても壊れやしねぇよ。かなり揺れるが、楽で早いぜ。昔ダインと――――」
楽しそうに語っていたバレットは、そこで不意に言葉を詰まらせた。浮かべていた笑顔も消える。
「ダインって?」
「……いや、なんでもねぇ。さっさと橋を下ろしちまおうぜ」
どうしたのだろうと、他三人は顔を見合せた。
バレットは慣れた手つきで操作盤を弄って、通信機で下にいるクラウド達に作業が終わったことを知らせる。
「体調どうだ?」
『問題ない』
「オレ達はトロッコで下りるからよ、お前達は線路を歩いて来い。途中に吊り橋があるから、そこで落ち合おうぜ。ついでにルートの確認を頼む」
「なるべく揺れないやつにしてよね!」
ユフィがバレットの後ろからマイクに向かって叫んだ。
「オレはスリリングなのが好みだけどな!」
「頼むよ〜クラウド〜」
通信はそこで切れたので、結局クラウドがどちらのルートを選ぶのかは分からず終いだ。
ユフィは来る乗り物酔いを想像して、早くもグロッキーになっている。
「やっぱりさぁ、歩いて下りない?」
「そんなビビんなって。大したことねーよ」
「さっきかなり揺れる≠チて言ってたじゃん!」
「お前、ここに来るまでに散々飛んだり跳ねたりしてたじゃねーか。なんであれが出来て、乗り物はダメなんだよ」
「自分でやるのと、勝手に動く乗り物じゃ全然違うよ。逆になんで平気なの?」
「さあな」
「シユウ〜、何とかしてよ〜」
「すみません、俺も乗り物酔いはしたことが無いので、対処法は分かりません」
「ティファ〜」
「ごめん、私も……」
「クラピヨ〜!」
ユフィに泣きつかれたクラピヨは、「ピヨ?」と可愛らしく小首を傾げるだけだった。
暫くして、クラウド達から連絡が入る。
「クラウド、線路はどうだった?」
『出来る限りのことはやった』
「ほんと? 揺れない?」
「ありがとよ。すぐに合流するぜ。――そんじゃあ、トロッコで大冒険といくか」
不安いっぱいのユフィを押し退けて、強制的に通話を終わらせたバレットが、トロッコに乗り込む。シユウとティファがそれに続いた。
トロッコの構造は、箱にレバーと車輪がついただけのシンプルなものだ。レバーは恐らくブレーキの役割だろう。つまり進路やスピードは線路任せだ。
「だいじょーぶ、ゆれない。ユレナイ……」
「あれ、クラピヨもついてくるの?」
ずっとバレットの近くを飛び回っているクラピヨは、ティファの問いにピヨ! と答えてトロッコの縁に降り立った。
「しゃあねえな」と、バレットがその小さな頭を撫でる。
「お嬢、クラピヨに負けてますよ」
負けず嫌いのユフィは、それを聞いてようやくトロッコに乗った。
しかし恐怖心は消えないようで、身を屈めてトロッコの縁にしがみついている。
「行くぞ。振り落とされんなよ!」
全員乗ったのを確認して、バレットがレバーを引くと、トロッコはゆっくりと動き出した。
すぐに下り坂になり、スピードが上がる。風がユフィの悲鳴を後ろに流していく。
「結構速度出ますね」
「大人が四人も乗ってりゃあな。いや、一人は子供か?」
吹き付ける風が気持ち良い。最初は両側を岩壁に挟まれていたが、それを抜けると視界が開けて空が見えた。ついでに、レールが二手に分かれているのも見える。
右側は緩やかな下り坂。左側は――上に伸びる急勾配の先でレールが途切れている。
「あれ、左のルート通れないじゃないですか」
「右だよね!? とーぜん右に行くよね!?」
皆そう思っていたが、あろうことかトロッコは左に曲がった。
これには流石にシユウとティファも驚き、ユフィは絶句。バレットだけがクラウドの選択を褒める。
「やるじゃねぇか、クラウド!」
「クラウド、話がちが〜う!!」
トロッコは勢いそのまま、途切れたレールを飛び出して空を渡った。
嫌な浮遊感があった。皆を乗せたトロッコは5秒ほど空中に投げ出され、先にあったレールに着地する。
助かったと思ったのも束の間、今度はレールを塞ぐ瓦礫の山が見えた。
トロッコはそこに激突して止まり、乗っていたメンバーは玉突き事故を起こす。
「痛たた……バレットさん、ブレーキかけて下さいよ……」
「わりぃわりぃ。よそ見しててよ」
「ユフィ、大丈夫?」
「ぐわんぐわんする……クラウド、許すまじ……」
「いいじゃねぇか。クラウド、いい仕事ぶりだったぜ」
バレットは肩に乗ったクラピヨに向けて言った。
トロッコを降りると、本物のクラウドとエアリス、レッドもやって来る。
「無事だったようだな」
「おかげさまで〜!」
ユフィが皮肉たっぷりに言った。
クラピヨはバレットから離れてクラウドの元へ。
「なんだ?」
「助けたらついて来ちゃった。クラウドにそっくりでしょ? クラピヨっていうんだよ」
仲間だと思っているのか、クラピヨは嬉しそうにクラウドに喋りかけている。
「やめてくれ」と困り果てるクラウドを皆で微笑ましく見ていると、通信機の屋根の上に一羽の鳥が降りてきた。
クラピヨはその鳥の元へ向かい、互いに頬擦り。
見た目はかなり違うが、恐らくは親鳥なのだろう。
サイズの違う二羽の鳥は、一行に礼をするように一鳴きし、大空へと羽ばたいていく。
「あ〜あ、行っちゃった」
「家族は一緒がいちばんだ」
「元気でね、クラピヨ!」
ユフィとエアリスが大きく手を振って見送る。
その向こうに、吊り橋を渡る黒マントの姿が見えた。