03.IFeelYou

皆は追跡を再開したが、バレットは吊り橋の前で一度止まる。

「気が進まねぇぜ……」

「……この吊り橋の先って、もしかしてコレル村ですか?」

「ああ」

神羅に荒らされた故郷を見るのは辛いだろう。
シユウはバレット以外のメンバーで様子を見に行くことを提案したが、バレットは「ここで待っててもしょうがねぇだろ」と足を踏み出す。

焼かれたと聞いていたので、てっきり何も無いとシユウは思っていたが、吊り橋を渡った先には人も家もまだ残っていた。
入口には村人と思しき男達が屯しており、バレットの姿を見るなり寄ってくる。

「おっと、誰かと思えば……またバレット様にお会い出来るとはね」

「どのツラさげて戻ってきたんだ?」

最初はただの知り合いかと思ったが、嘲笑を含んだその物言いで、すぐに友人の類ではないと理解した。
バレットを取り囲んだ男達は、何も言わないバレットの頬を不躾に触り、中身の入ったグラスを頭の上でひっくり返す。

「ほ〜ら、歓迎してやるぜ」

「なっ――――」

「ちょっと、なにすんの!?」

急な出来事にシユウが驚き固まる一方、ユフィは即座に男達を突き飛ばしてバレットを庇った。
だがバレットは「いいんだ」とそれを止める。

「でも!」

「行くぞ」

近頃は使っていなかったサングラスを取り出し、それを注がれた液体で濡れたままの顔に掛けたバレットは、男達には何も言わずに歩き出した。
ユフィに睨まれて、集まっていた男達は散ったが、その後もあちこちから嫌な視線と言葉が飛んでくる。

「お嬢ちゃんたち、そいつについてくと死んじゃうよ」

「誰かさんのお陰で、すっかり無職だよ」

「どうした、どっかの街から追い出されて来たか?」

「また金に目が眩んだか!」

罵倒、嘲笑、罵倒、嘲笑、罵倒、嘲笑。
バレットは取り合わずに進んでいくが、シユウの方が耐えかねて音を上げる。

「ちょっと、何ですか、これ」

「気にすんな」

「言わせといていいのかよ〜」

同じく気の収まらないユフィも、居心地の悪そうな他のメンバーも、バレットがやり返そうとしないのを見て、何か事情があるのだろうと、渋々大人しくついて行く。
途中、村の診療所らしき建物を見つけたティファが、皆を呼び止めた。

「ちょっと寄っていい? 挨拶したい人が居るの」

「知り合いでも居るのか?」

「5年前、私はニブルヘイムからここに運ばれて、シロン先生に助けて貰ったの」

「ティファを治療したのは、シロン先生だったのか」

「バレットさんも知ってる人なんですか?」

「オレの恩人もその人だ。入ってみようぜ」

院内は薄暗いが営業はしているらしく、中に入って呼びかけてみるとシロンが出てきた。
相手はバレットを見て顔を綻ばせる。

「バレットじゃないか!」

「先生、久しぶりだな」

「何年ぶりだ? 随分物騒な物を付けたな。まあ、元気そうで何よりだ」

バレットと親しげに話すの見て、シユウは眉間に寄っていた皺を少しだけ和らげた。彼は他の村人とは違うらしい。
シロンは次いでティファを見て驚く。

「覚えてますか?」

「勿論だとも! ティファ、立派になって……! 傷はもういいのか?」

「お陰様で。あの時は本当に有難うございました。先生が居てくれなかったら、私は今頃……」

「いや、あれは運が良かった。ちょうど新羅のヘリが居てな」

「神羅……ですか?」

「覚えていないのも無理はないが、連中も悪い奴らばかりじゃないよ。――ティファ、君の命は人々の善意で繋がった。それを忘れちゃいけない。無駄に使うことは、わしが許さんよ」

神羅と聞いて複雑な顔をしていたティファは、その言葉にはしっかりと頷いた。

「そうだ、丁度いいところに来た。手伝ってくれ。あの患者から血を採りたいんだ。暴れないように押さえてくれんか」

あの、と言ってシロンが指した先に居たのは、黒マントの男だった。
バレットが押さえている間に、シロンが手早く採血を済ませる。

「この連中の症状は、魔晄中毒のものだ。ただ、血液を調べてみたところ、奇妙なことを見つけてね」

「何か分かったのか?」

「血液の中に、わしの知らない成分が入っている。正体は分からんが、似たような血なら見たことがある。――その目はソルジャーなんだろう?」

シロンはクラウドを見て言った。
クラウドは「元ソルジャーだ」と訂正する。

「ソルジャーは職業ではない。一度なったら死ぬまでソルジャーだ。血をくれんか?」

「断る」

「わしはね、彼らは劣化したソルジャーではないかと考えている。あくまでも仮説だがね。実際のところは、もっと調べてみないと分からん」

劣化、というのがどういうことを指すのかは分からないが、もしその仮説が正しいのなら、クラウドもゆくゆくは黒マントのようになる、ということだ。

仲間達の視線がクラウドに集まる中、本人は話題を逸らすように尋ねる。

「黒マントは他にも来たんじゃないか?」

「ああ、来た来た。怪我をした連中は保護したが、他はゴールドソーサーへ向かったらしい」

「ゴールドソーサーだ?」

「理由なんか知らんぞ。わしに聞くな」

診療所で長話をするのも悪いなと、一行はシロンに礼を言って外に出た。太陽の光が眩しい。

「ねえ! ゴールドソーサーって、あの有名な、毎日がお祭りの遊園地でしょ? 行くんでしょ? 行くよね?」

「ユフィ、目的は黒マントだ」

「イエス、黒マント! いや〜、アタシ初めてだよ〜!」

これはダメそうだ。
「ゴールドソーサーに行くなら、この先にロープウェイがある」とバレットに聞いたユフィは、ウッキウキで階段を上っていく。

あまり使われていないのか、上がった先の乗り場は無人で、ケーブルカーも見当たらなかった。
どうやら利用者が自分で端末を操作して呼び出す必要があるらしい。炭坑の時と同様に、操作はバレットに任せる。

「ねえ、早く行きたいのはやまやまなんだけど、仕返ししなくてもいいわけ? バレットが村のおっさん達に侮辱されまくって、アタシまでムカついたんだけど!」

「いいんだ。行こうぜ」

「事情も教えて貰えないのかな。お金に目が眩んだ、とか言われてたよね。私が知ってるバレットは、そういう人じゃない。何か誤解があるんじゃない?」

ティファの言葉にも、バレットはわざとらしく「来ねえなあ」とケーブルカーの到着を待つ仕草をするだけで答えない。
シユウは小さく溜息を吐いた。

正直、バレットが話したくないのなら、自分はそれでいいと思っているのだが。
このはぐらかし方はティファが可哀想だ。そう思って口を開く。

「俺には散々言ってたくせに、自分の番になったら、そうやって隠すんですね」

「ああ? それとこれとはワケが違うだろ」

「いいですよ別に。俺は貴方と違って心が広いですから。話したくないことを無理に聞き出したりはしませんし、話さないからと言って、貴方を責めたり疑ったりしません」

「……お前、相当根に持ってんな」

「当時はそれなりに傷付いたので。でも、隠される側の気持ちも、たった今理解しましたよ。信頼されてないような気持ちになりますね。やっぱり敵国のシノビだと、何をしてもその程度の信用しか得られない――」

「わーったよ! 話しゃいいんだろ!」

最後の方は思ってもいないことを言ったのだが、バレットには効いたらしい。
皆は語り始めるバレットの傍に集まる。

「コレルには、良質な石炭が採れる炭坑があってな。村の住人は、少々気は荒いが性根は真っ直ぐな、そんな連中ばかりだった。いいところだったぜ。ホコリっぽくて貧しかったけどよ。長閑で、村のみんな仲が良くてよ」

在りし日の故郷を思い浮かべているのだろう、バレットは穏やかな笑顔を浮かべていた。
だがその表情は次第に曇っていく。

「それなのに、魔晄という言葉を知ってから、全てが変わっちまった……6年前、村に魔晄炉を建てるって話が出てよ。最初は皆反対してたんだが、収益の一部が村に還元されるって聞いて、賛成派の方が多くなっていったんだ。オレもその一人だった。朝から晩まで汗水垂らして、需要の無くなった石炭を掘り続けるより、そっちの方が楽に稼げる、良い暮らしが出来る……そう思ってな。最後まで反対してた奴も居たが、結局は多数決で魔晄炉建設が決まった」

その後、二年ほどで魔晄炉は完成し、試験運転も順調だった。
これで豊かな生活が始まる――皆がそう喜んでいた矢先に、魔晄炉は爆発した。
皆は山で見た魔晄炉の残骸を思い浮かべる。

「そしたら、神羅の軍隊がやって来て……村は焼かれ、大勢が殺された」

「スカーレット……スカーレットがやったの?」

ユフィが怒りに震えながら言った。バレットは頷き、ユフィは「ひどいなぁ」と拳を握る。
彼女のその怒りは、今の話だけに向けられたものではないのだろう。シユウはその件については今深く考えないよう努める。

「でも、どうしてそんなことになるんだ?」

「爆発は、村の反対派の仕業ってことで処理しようと考えたらしい。勿論、誰も魔晄炉に近寄っちゃいねぇ。完全なでっち上げだ」

「許せない……!」

「ああ、オレも許せねえ……でもよ、一番許せないのはオレ自身だ。魔晄炉に夢を見て、村をその気にさせたのはオレだからな」

「バレット……」

バレットは到着したケーブルカーの扉を開けて乗り込んだ。
沈痛な面持ちで、他の面々も順に乗り込む。

「あ〜、辛気臭ぇな! お前ら! 慰めとか、てめえのせいじゃないとか、そういうのは要らねえからな! この後悔は、オレの一部だからよ」

「……うん、そうだね。せっかくゴールドソーサーに行くんだし、空気を変えなくちゃ! 暗い顔してたら楽しめないもんね!」

そう言って、ユフィはニッコリと笑ってみせた。
彼女のそれが、ただの能天気ではないことを理解しているシユウは、その在り方を心の中で讃えた。
視線を床に落としていた他の面々も顔を上げる。

「楽しむって、お前なぁ……そんな旅じゃねぇだろうが、これは。なあ?」

バレットは賛同を求めたが、エアリスが「ゴールドソーサー、あっちかな?」とユフィ側に乗っかったのを皮切りに、皆の意識はそちらに移った。

席を立ち、窓際ではしゃぐユフィ達に、不貞腐れたバレットが「ご清聴ありがとよ」と呟く。
一方、座ったままのシユウは、バレットの台詞を復唱。

「後悔はオレの一部≠ナすか」

「……なんだよ」

「別に。随分と格好付けてるなと思っただけです」

「ああ? 喧嘩売ってんのか?」

辺りは暗くなり始めており、ゴールドソーサーから放たれる煌びやかな光の筋が夜空を照らしていた。
ホログラフィーで再現された召喚獣やチョコボが周囲を飛び回っており、女性陣が歓声を上げる。

「俺には、背負う必要の無いものまで背負い込んでるように見えますけどね。いつもはちょっとしたことで怒り狂うのに、あんな扱いすら甘んじて受け入れるなんて、同郷の皆さんには随分とお優しいことで。それとも、自分を虐めるのが好きなんですか?」

「……お前、何イライラしてんだよ」

「別にイライラなんてしてません」

「じゃあ何でそんな突っかかって来んだよ」

シユウは口を閉ざした。
顰めっ面のまま、窓枠に肘をついて他所を向き、深く長い溜息を吐く。

「だから何だよ。何が気に入らねえんだよ。オレはちゃんと話しただろ」

「別に何でもないんで、ほっといて下さい」

「お前から絡んできたんだろーが」

豪勢な花火と賑やかな音楽に迎えられて、ケーブルカーはゴールドソーサーに到着した。
すっかり観光気分の女子三人は、ケーブルカーから降りると駆け足で入場ゲートに向かい、男性陣は歩いてその後を追う。

ゲート付近では歓迎のパレードが行われており、ゴールドソーサーのキャスト達が様々なパフォーマンスで観客を沸かせていた。
ユフィ達はそれに巻き込まれて、キャストと一緒にダンスを披露している。それが終わると、今度はクラウドが園長を名乗る男に連れて行かれた。そして何故かステージ上で殴り合いのバトルが始まる。

皆楽しそうで何よりだ。何よりだが、シユウは全く気が乗らず、一人踵を返した。
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