03.IFeelYou

ロープウェイ乗り場まで戻って、置いてあるベンチに腰掛ける。
ここは園内に比べるとまだ静かだ。

(…………納得いかない。何でバレットさん一人が、あんなに責められなくちゃいけないんだ)

シユウは村での出来事を振り返って歯を軋ませた。

バレットの話を聞く限り、魔晄炉建設に賛成したのは彼一人ではない筈だ。
なのに彼だけが悪いかのようなあの扱いは何だ。何故、村の誰も止めないのか。そもそも、怒り憎しみをぶつけるのなら、その相手は神羅であるべきではないのか。

自分のことを棚に上げてバレットを糾弾する村人達も、それを当然の事のように受け入れて自分一人を責めているバレットの態度も、全てが腹立たしい。

(ああムカつく。何でこんなにイライラするんだ。疲れてんのかな)

こんな所で一人で苛立っていても仕方がない。ユフィを見倣わなければ。そう思っていても気は収まらない。

せめてあの入口で絡んできた男達だけでも殴ってやればよかった。今からでも戻るかと考えていると、シユウが居なくなっていることに気付いて探しにやって来たバレットに見つかる。

「何やってんだこんなとこで。具合悪ぃのか?」

「…………大丈夫です」

「何だよ、まだへそ曲げてんのかよ」

面倒臭そうに言うバレットに、シユウは徐に印を結んだ。
直後、バレットの頭上から水が降ってくる。

「ぶわっ!? ――いきなり何すんだ!」

「村で酒か何か掛けられてたでしょう。ちゃんと洗っておかないと臭いますよ」

そう言って、シユウはハンカチでバレットの頭や顔を拭った。
バレットはサングラスについた水を払いながら、大人しくされるがままになる。

「親切心でやってんなら、もうちょい丁寧に扱えよ……」

「すみませんね。今虫の居所が悪くて」

「だから何をそんなに怒ってんだよ」

困り顔のバレットを見て、シユウは怒りを萎ませた。
彼を困らせたいわけでは無いし、喧嘩をしたいわけでも無い。自分が気を遣わせてしまっては意味が無い。

「……すみません、何でもないんです。もう大丈夫」

「本当に大丈夫かよ」

「大丈夫です。他の皆さんは?」

「ユフィ達は遊ぶってよ。もうオレは諦めたぜ。あいつらは手に負えねぇ。クラウドは宿で休ませてる。またフラフラしてたからな。お前も調子悪いなら休んどけよ」

「バレットさんは?」

「オレはユフィ達の気が済むまで適当に散歩だ。ついでに黒マントがどっか行かねぇか見張っとく」

「そうですか……」

「で、どうすんだ? 宿に行くなら、部屋まで案内してやるよ」

「……俺はもうちょっとだけここに居ます」

園内の色鮮やかな装飾とは裏腹に、味気ない蛍光灯に白く照らされているだけの空間をぼんやりと眺めるシユウを見て、バレットは静かに立ち去った。シユウも黙ってそれを見送る。

気持ちが完全に落ち着いたらユフィと合流しようと考えつつ、頭を空にして伸ばした両足をプラプラさせていると、何故かバレットが戻って来た。その手には缶コーヒーが二つ。

「ほらよ」

その内の一本を差し出されて、シユウはきょとんとした。

「どうしたんですか、これ」

「自販機で買った」

バレットはもう一本の缶を開けて飲みつつ、シユウの隣に座った。
シユウは受け取った缶コーヒーとバレットを交互に見る。

「飲まねえのかよ」

「飲んでいいんですか」

「おう」

礼を言って、プルタブに指を挟んで持ち上げると、カシュ、と音がして封が開いた。
傾けてとりあえず一口。

「まあまあですね」

「缶コーヒーにまで質を求めんなよ」

前にもこんな事があった。
シユウは缶の中のアイスコーヒーを揺らしながら、当時を振り返る。

「……俺に付き合わなくていいんですよ?」

「別に付き合ってる訳じゃねぇよ。オレはこれ飲んでるだけだ」

バレットも覚えているのかは定かではないが、一言一句当時と同じ返しをされて、シユウは思わず笑ってしまった。

バレットは優しい。
口は悪いし、態度もデカいし、未だに苦手だと感じる部分はある。

だがこういう時に、黙って傍に居てくれるのはいつも彼だ。
他の誰かでは、こちらの気が休まらないことを理解してくれているのかもしれない。

(……でも今回は、俺が甘やかす側になりたかったな)

へたくそ。と、感情をコントロール出来なかった己を情けなく思いながら、シユウは隣のバレットを盗み見た。
先の自分と同じように、バレットは何も無い空間をただぼんやりと眺めている。

普段通りに振舞ってはいるが、村人の言葉に、態度に、傷付いていない筈は無い。
励ましたいが、自分が何か言ったところで、傷が塞がるとは思えない。セブンスヘブンに居た時は、酒の力を借りられたのだが。

「……あの、俺はバレットさんのこと好きですからね」

子供か。シユウは自分の言葉のチョイスに絶望した。これなら、バレットの傷には触れずにゴールドソーサーで遊んでいるユフィの対応の方がまだマシだ。
聞いたバレットも薄く笑っている。

「急になんだよ。慰めてんのか? そういうのは要らねぇって言っただろ」

「ですよね……」

「でもその気持ちは貰っとくぜ。ありがとな」

逆に慰められてしまった。
本当に情けないとシユウは溜息を吐く。

友人と名乗ってもいいのかどうかも怪しいような関係性で、彼の根深い傷を治そうと考えること自体、烏滸がましいのかもしれない。
だが、何も出来ないのはもどかしい。

悶々と考えているせいで渋い顔になっているシユウを、今度はバレットが盗み見る。

「なあ」

「はい?」

「オレのせいでそんなんなってんのか?」

「そんな、とは」

「情緒不安定ぎみっつーか……」

「情緒不安定……まあそうですね……」

「何でオレのことでお前がそんな風になるんだよ」

確かに。
シユウは目を瞬かせてバレットを見た。
バレットも不思議そうにシユウを見ている。

「何ででしょうね?」

「オレに聞くなよ」

謎は解けないまま、先にコーヒーが無くなってしまったので、空き缶をゴミ箱に捨てて二人は立ち上がる。

「ご馳走様でした。じゃあ、俺はお嬢の所に行ってきます。目を離すと心配なんで」

「おう。そうしてやれ」

「というか、目的がないのなら、バレットさんも一緒に来ればいいじゃないですか」

「オレは遊びに来てるわけじゃねーんだよ」

「変なとこ頑固ですね」

「うるせぇ」

と言って別れた後も、気になってバレットの方を何度か振り返りつつ、シユウは園内でユフィを探した。

入場ゲートのあるパークセントラルから、アトラクションのある各エリアを順に巡っていくと、色んなミニゲームが集うワンダースクエアで一人休んでいるのを見つける。

「おろ、シユウじゃーん。どこ行ってたの?」

「ちょっとベンチで休んでました。お嬢はお一人ですか? ティファさん達と一緒って聞いてましたけど」

「それがさー、あちこち目移りしてたらはぐれちゃって。しょうがないから一人で遊んでたんだけど、やっぱこういうのは皆で回った方が楽しいよね。探すの手伝ってくれる?」

「勿論」

ということで、今度は二人で他のメンバーを探すことに。
レッドは闘技大会が開かれているバトルスクエア、エアリスは設定の凝ったシューティングゲームが遊べるスピードスクエアで合流出来た。
ついでだからとユフィに誘われて、各所のアトラクションも楽しむ。

特典に応じて景品が貰えるので、ムキになったユフィが何度も挑む様を眺めているシユウの顔を、エアリスが覗き込む。

「シユウ、楽しそう。ううん、嬉しそう?」

「ウータイにはこういう遊び場は無いので。たまにはいいですよね。お嬢には特に、戦場よりもこういう場所で遊んでて欲しいです」

「シユウとユフィって、カップル――というよりは、兄妹、って感じ、するね。実際はどっち?」

「どっちでもありませんよ。俺の師匠が、彼女の父親ってだけです。ただ、訳あって一緒に暮らしていた時期があったので、その時から彼女の目付け役も任されるようになって……関係的には兄妹、或いは主従、みたいなものだと思ってます」

「ふむふむ。訳あって≠フ部分は、詳しく聞かれたくない?」

「いえ。早くに両親を亡くしたもので、師匠の所でお世話になってたってだけです」

家族を喪うのは、ウータイではよくある話だ。
エアリスは少し寂しげに目を伏せて、「そっか」と返す。

「わたしもね、本当の両親、いないんだ。子供の頃に亡くして……今のお母さんに、育ててもらったの。みんな、色々あるよね」

「……そうですね」

「でも、人生って、そういうものだよね。出逢って、別れて、また出逢って……それの繰り返し。だから、一緒にいられる時間、大切にしなくちゃって思う」

慈しむように目を細めるエアリスに、確かにその通りだなと、シユウも頷いた。
ゴールドソーサーの目玉の大観覧車は現在カップルタイムのようで、宣伝する館内アナウンスを聞いたエアリスが上を指して言う。

「こういうのとか! 素敵な時間の使い方、だよね」

「エアリスさんは、恋人とか居るんですか?」

「恋人は……どうだろう? でも、好きな人なら、いるよ。いいなあ、一緒にゴンドラ。乗れたら、楽しいだろうな」

「……乗るの難しい感じですか?」

「今は、ね。でも、いつか乗れたらいいな。シユウは? 恋人とか、好きな人とか、いる?」

「俺はそういうのとは無縁なんですよね、実は。ずーっと修行と戦争ばかりしてましたから」

「じゃあこれから、だね! 出来たら、教えてね」

「なになに、何の話?」

ハイスコアを取れてご機嫌のユフィと、その景品のメダルを首に提げたレッドがアトラクションから戻って来たので、一行は残るティファを探しにまた別のエリアへ。

チョコボレースが観れるチョコボスクエアにも、劇の鑑賞が出来るイベントスクエアにも居なかったので、ゴンドラのあるスカイホエールスクエアへ向かうと、クラウドと一緒に列に並ぼうとしているティファを見つける。

「あー……」

シユウが「今声をかけるのはマズいか」と思いながら言って、

「おやおや〜?」

訳知り顔のエアリスが興味津々な様子で言って、

「ふぅ〜ん?」

同じく興味津々な様子のユフィが言った。

「どうした、声をかけないのか」

レッドだけはいつもの調子だ。

「いやいや。流石にアタシも、あそこに入っていくほど空気読めなくはないって」

「クラウド君、フラついてるって聞いてましたけど、体調治ったんですかね?」

「具合、悪そうだったら、ティファ、連れ出したりしないと思う。クラウドは、具合悪くても来そうだけど」

「どうする? アタシ達も乗って、こっそり覗いちゃう?」

などと話していると、突然ゴンドラの明かりが消えて停止した。
目次へ戻る | TOPへ戻る