00.Beginning

魔晄炉建設を巡る神羅とウータイの戦争が、一先ずの終わりを迎えたその年。

ウータイの特殊技能集団、シノビの一員であるシユウ・シノノメは、憎い仇の神羅擁する大都市ミッドガルへと――当然身分は隠して――移った。

敵情視察の為という名目はあったが、本音を言えば、メルフィの死後ソノンの傍に居ることに耐えかねただけだ。
彼から離れられるのなら行き先は何処でも良かったのだが、適当な場所で漫然と過ごすよりはこの方がマシだろう。

ミッドガルの街は円形になっていて、魔晄を吸い上げる巨大な八つの炉に囲われている。
その中央には一際巨大な神羅の本社ビルがあり、そのビルと各魔晄炉を結ぶプレートの上で人々は暮らしている。

そのプレートの1つ、八番街と呼ばれる区画で営業しているバーを、シユウは潜伏先として選んだ。
情報を得るにはまず酒場から、というセオリーは一体どこで学んだのだったか。兎も角、そういった理由で選んだその店は、幸か不幸か神羅社員の溜まり場だった。

とは言え、最初の内は客の会話に耳を攲てる余裕などなく、マスターに教わったバーテンダーの基本的な業務や振る舞いを習得するのに必死だったのだが。

それが板に付いてきた頃、店内で繰り返し似たような話を耳にするようになった。

「ソルジャーのクラス1stが二人も離反したんだとよ」

「ああ、その噂なら私も聞いたわ。しかも2ndと3rdまで連れて行っちゃったって?」

「それで最近あんまりソルジャー見かけなかったのかぁ〜、納得。でも何で?」

「さぁなぁ。先の戦争中に消えたって話だったし、前線で戦うのが嫌になったんじゃないか?」

「今更〜? っていうか、それウータイに寝返ったんじゃないの?」

ソルジャー、と言うのは、神羅カンパニーの私設軍隊、その精鋭達の総称だ。
確かに戦争の時にも一人は見かけたなと思いながらグラスを拭いていると、盛り上がる若者達の輪に、スーツ姿の赤髪の青年が近付く。

「コラ新人共、あんまり外でそういう話はするなよ、と」

「わっ、レノさん!? ルードさんも!」

若者達は慌てて立ち上がり、レノと呼ばれた青年と、その隣に立つスキンヘッドの男性、ルードに頭を下げた。ルードも同じくスーツに身を包んでいる。

どちらも常連客ではあるが、彼らの詳細なプロフィールを知らないシユウは、二人が歴とした神羅社員であると知り内心で驚いた。

スーツ姿の客は他にも居るが、レノの派手な見た目といい、ルードのがっしりとした体格といい、この二人はただの公務員には見えない。どちらかと言えば取り立て屋だ。

「何処で誰が聞いてるか分からないからなぁ。次からは気をつけろよ、と」

レノはそんな風に軽く窘めつつ、ルードと共にカウンター席へ座った。
そして、興味深そうな顔で見ているシユウに苦笑を交えて言う。

「あんたも、さっきのは聞かなかったことにしてやってくれよ」

「俺はそういう話には明るくないので、聞いてもサッパリですよ。ご注文は?」

「ん〜、今日は何にするかな〜」

メニュー表を広げて、ルードと仲良く相談を始めるレノだったが、注文を決める前に懐の携帯電話の着信音が鳴る。

「イヤな予感」と小声で言ってから応答のボタンを押したレノは、そのまま携帯片手に外へ出た。
ルードはそれを見て、何も注文はせずメニュー表をシユウに返す。

「すまない。恐らくは呼び出しだ」

「大変そうですね。何のお仕事ですか?」

「俺とレノは総務部調査課だ」

「調査課……あまり聞き馴染みがないですけど、何を調べてるんです?」

「それは……まあ、色々とな」

「ルード、仕事だ。ちょっと面倒なことになってるぞ、と」

「面倒なこと?」

「行きゃ分かる。――あんたは他の客と一緒に、ここでじっとしてな」

「?」

一方的にそれだけ言って、レノはルードと共に立ち去る。
シユウがその言葉の意味を理解したのは、店の外から悲鳴が聞こえてきた時になってだった。

窓越しに見えたのは、逃げ惑う人々と、それを襲う謎の覆面集団と魔物。
店内が俄にざわつき始めた。外に居た男が、逃げ場を求めて店のドアを叩く。

「たっ、助けてくれぇ!」

「何が起こっているんですか?」

「分からないんだ! 奴ら急に現れて――」

その言葉の続きは、ガンッ!という衝撃音に掻き消された。
扉越しに男と話していたシユウは、扉を突き破って眼前に現れた刃と、その先端から血が滴っているのを見て息を詰める。

刃は引き抜かれ、空いた隙間から覗く赤い瞳と目が合った。
扉が壊され、敵が入ってくると、店内の客は蜘蛛の子を散らすように窓や裏口から逃げていく。だが外にも当然敵は居る。

シユウには「応戦する」という選択肢しか残されていなかった。
忍術を使わずに済ませられないかと思ったが、雑兵のような見た目に反して敵は随分と手強い。

だから結局、シユウは自らシノビですと明かすような技を人前で披露するしかなく。
親切心で駆け付けてくれたソルジャーや、様子を見に戻って来てくれたレノ達にそれを見られたことも、仕方のない事だった。
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