00.Beginning

結局、あの襲撃は何だったのか。
魔物達と普通に戦っていたレノ達や、彼らの属する総務部調査課とは何なのか。

そんな数々の疑問の答えを得られないまま、シユウはウータイの密偵として捕えられる前に姿を消した。

とは言え何の成果も得られないまま、一年そこらでウータイに帰る訳にもいかず。
次に選んだ潜伏先は、元居たプレートの遥か下に広がるスラムの一角。巷で「ウォール・マーケット」と呼ばれている、六番街スラムの歓楽街だった。

魔晄をあらゆるエネルギー源として活用しているミッドガルは、どこもかしこも不必要なほどに煌びやかだが、ウォール・マーケットは一際眩い場所だった。本当に、文字通りの意味で眩しい。

ウータイではまず見かけない、色とりどりのネオンの光。騒音にしか感じられない垂れ流しの店内BGM。露出が多すぎる下品な客引き。あちこちから漂う甘ったるい香り。

特別な理由がなければ決して近寄りたくはないその異様な空間に、特別な理由のあるシユウは入らざるを得なかった。
決して居心地は良くないが、ここを選んだのには訳がある。

まず、このエリアは基本的に神羅の干渉を受けないらしい。
全く、という事は無いだろうが、他の地区に比べれば放置されていると言っても過言では無い。その分無法地帯になっているが、身を隠したい自分のような者にはうってつけの場所だ。
おまけに、ここに来る客は皆口が軽い。上では聞けなかったような話も多く聞ける。

店で働くのも、詳細な身分や来歴の確認もなく、簡単な面接のみでアッサリと通して貰えた。
前回と同じ職種を選んだお陰で、仕事を覚えるのにもそれほど苦労はせずに済んだ。スラムにしては給料も良いし、寝泊まりする場所にも困らない。

そんなこんなで、来てすぐの頃は渋い顔をしていたシユウも、一年ほど経った頃には、ウォール・マーケットもそう悪くは無いと思うようになっていた。

店にも街にも馴染み、客に顔と名前を覚えられるようになった頃、

「なぁあんた、もしかしてウータイ人か?」

客の一人、ジージェと名乗った金髪の男性にそう声をかけられた。
驚き警戒心を露わにするシユウに対し、ジージェは「俺も同じだから安心してくれ」と笑う。

「その首の紐、アレだろ? 見る人が見れば分かるってやつ。こんなところで何やってるんだ?」

首の紐、というのは、カマーベストの襟に通してある飾りのことだ。
これがシノビの符丁であることを彼は知っているらしい。シユウはグラスに酒を注ぎながら答える。

「潜伏中――だったんですが、上に居た時に神羅の人間にバレてしまって」

「あちゃあ。そりゃマズいな。それでこんなとこに隠れてるのか。大変だな」

「慣れるとそうでも無いですよ。貴方は?」

「まあ俺も似たようなもんだ。でも、こっちは独りじゃない。あんたアバランチって知ってるか?」

「ええと……前にウータイで好き勝手やってた人達ですか?」

「いや、俺が言ってるのはまた別のアバランチだ。神羅に楯突くテロリストって感じだが……方針の違いとかでバラバラになって、今は小さい集まりが幾つもあるような状態なんだ。俺はその内の1つと手を組んで色々やってる」

「色々……たとえば?」

「俺は主にウータイとこっちの橋渡し役だな。あんたみたいにミッドガルに渡ってきたシノビをサポートするのも仕事の一つ。って事で、あんたも合流しないか? 人数は多いに越したことは無い」

ジージェの申し出に、シユウは暫く悩んでから、首を横に振った。

「すみません。貴方の話を疑ってるわけじゃ無いんですが……アバランチに対しては、やっぱり昔の良くないイメージがまだ残ってて。今のアバランチがどんなものなのかも、俺はよく知りませんし……」

「そうか。まあ、確かに今はちょっと時期も悪いしな。集会所が神羅に幾つも潰されてる。まずはそっちを何とかしないと」

ジージェはグラスの酒を呷って立ち上がった。
去り際に、思い出したように振り返る。

「そのイヤリング、外さないのか?」

随分唐突な質問だった。
シユウは不思議に思いながら、右耳にぶら下がっているアメジスト――本物ではなく、それを模したガラスの飾り――を触る。

「これですか? ここのマスターに貰った物なんですよ。俺が入ってから店の売り上げが伸びたとかなんとかで、そのお礼にって」

八番街のバーのマスターは、落ち着いた雰囲気の壮年の男性だったが、今の店のマスターは歳が近く、ミッドガルで出来た新しい友達のような感覚だ。

金髪に無精髭、目鼻立ちなどの特徴はジージェと少し似ているが、ジージェを爽やかと評するなら、マスターは夜の街が似合うような、そういった雰囲気のある人だ。

それほど広くは無い店内で、別の客の相手をしているマスターを見ながら言うと、ジージェは「あいつか」と意味ありげな視線を向ける。

「あんた、あの男に惚れてるとか?」

「は? まさか。何でそうなるんですか」

「だったら外しとけ。お節介かもしれないけど、一応忠告。じゃあな、落ち着いたらまた飲みに来るわ」

「はぁ……」

彼の言葉の意味がよく分からないまま、シユウは去りゆくジージェを見送った。

ああ言われると気になってしまう。
グラスを片付けながら、イヤリングを外すかどうか悩んでいると、マスターに肩を叩かれる。

「何話してたんだ?」

「え?」

「さっきの客。アバランチがどうとか聞こえたけど」

「ああ……」

確か今のアバランチは、ジージェ曰くテロリストなんだったか。
危ない話をしているとでも思われたのだろう。シユウは「大丈夫ですよ」と笑う。

「ただの世間話です。神羅がアバランチを潰すのに躍起になってるって聞いて、巻き込まれたら怖いな〜って」

「なんだそんな事か。あれだろ? アバランチがコレル魔晄炉を爆破したとかで、その制裁とか何とか」

「魔晄炉を爆破? アバランチってそんな事までしてるんですか?」

「さぁ、実際のところはどうだかな。でも、神羅にとっちゃハエみたいなもんだろ? 何かと理由を付けて潰したいんだろうよ。まあでも、此処はそういうイザコザとは無関係だから安心しろよ」

確かに神羅やアバランチの問題に巻き込まれる心配は無さそうだが、それ以外の問題が山積みな点は良いのだろうか。

マスターとそんな他愛もない話をしている内に、シユウの頭からはジージェの忠告などすっかり抜け落ちてしまっていた。

そうして更に時が経ち、ミッドガルへ来てから早三年目。

「シノ、良い酒が手に入ったんだ。一緒に呑もうぜ!」

いつも通りの営業を終えたその日、マスターは何やら上機嫌でそう誘ってきた。

シノという名は、ミッドガルに来てから使っている偽名だ。
名を偽る必要はあまり無い気もするが、敵国で本名のまま活動するのも何となく嫌で、適当に付けたもの。
最初の内は慣れなかったが、今はもう自分の名前としてすっかり定着している。

「良いですけど、俺あんまりお酒強く無いんですよ。知ってるでしょう」

「バーテンダーがいつまでもそんな事でどーするんだよ? 飲み続けりゃそのうち体の方が順応するって」

などと言いながら有無を言わさずグラスに酒を注ぎ出すマスターに、シユウは仕方がないなと苦笑して対面の席に座った。
他の従業員は既に帰ったあとで、店には二人だけだ。酷い酔い方をしても恥は最小限で済む。

マスターが注いだ酒は、いかにも度数の高そうな匂いのする蒸留酒だった。
躊躇なく飲み始める相手を見て、シユウも腹を括ってグラスを傾ける。

「どうだ? 美味いだろ?」

「……味の善し悪しはあまり分からないんですが、何と言うか……独特の味がしますね」

「結構高かったんだぞ? 味わって飲めよ〜」

と言う割に、マスターは惜しみなくボトルの酒を注ぐ。
二杯、三杯と飲み進める内に、シユウはフワフワと夢の中に居るような感覚に陥っていく。

(……? なんだ、なんか……いつもと違う……)

酩酊してクラクラするのはいつもの事だが、それほどまでに酔うと大抵は同時に吐き気が迫り上がってくる。が、今日は心地良さがあるだけ。

「どうした? ボーッとして」

「ん……いや、多分酔ってる……んだと思う。この酒相当キツいな……」

「ははっ、敬語外れてるぞ。イイ感じに回ってきたな」

「…………?」

「ほら、もっと飲め」

マスターはシユウの傍まで回り込むと、その口に強引に酒を注いだ。
思考がボヤけていても身体が拒否して、叩き落とされたグラスの中身が板張りの床を汚す。

「あーあ、勿体無い」

「ゲホッ……ちょっと、一旦ストップ。なんかこの酒、おかしい……」

「おかしいっていうか、特別製なんだよ。お前の為に用意したんだぜ? ほら、良くなって来てる」

マスターはそう言いながら、シユウのズボンの膨らみを膝で押し潰すように擦った。
触られて初めてソコが勃ち上がっていることに気付いたシユウは、その衝撃と与えられた刺激に息を呑む。

マスターは困惑するシユウを抱き上げて、テーブルの上に座らせた。
互いのズボンを下ろしながら耳元で囁く。

「なかなか良い薬が手に入らなくてな。見つけたと思ったら高いのなんの。でも、お前がよく働いてくれたお陰で手に入ったよ。これでやっと、お前と気持ち良くなれる」

「は……何言って……何の話……」

「お前がここに来た時からな、俺はず〜っとこの時を待ってたんだ。他の奴に先に手ぇ出されないようにマーキングまでして、結構大変だったんだぜ?」

マスターはそう言って、シユウの耳飾りに触れた。
瞬間、忘れていたジージェの忠告が、朦朧とするシユウの脳裏に過ぎる。

そんな風に見られていたことも、それに全く気付けなかったことも屈辱だが、今は怒りよりも焦りの方が勝っていた。

逃げなければ。相手はただの民間人だ、こちらがその気になれば簡単に倒せる。
シユウは思ったが、身体が全く言うことを聞かなかった。動かそうとしても、上手く力が入らない。

その間にも、マスターは着々とシユウから服を剥ぎ取っていき、露になった互いの性器を擦り合わせるように腰を動かす。

その僅かな刺激に、シユウの全身が痺れた。信じられないほどに気持ちが良い。
シユウはそう感じた己の感覚を疑った。好きでもない相手に良いようにされて、気持ちが良い筈は無い。

だが意志とは裏腹に腰が揺れた。
強請るような動きに、マスターが満足気に微笑む。

「欲しいか? 待ってろ、すぐ挿れてやるからな」

「ち……ちが、違う、やめろ……あッ――――」

肛に指を挿し込まれる感触に声が上擦った。
ローションで濡れたマスターの中指が撫でるように内壁を擦る。

「凄い締め付けだな。ちょっと力抜け、ほら」

空いた手で先走りを滲ませる竿を扱かれて、シユウは腰を浮かせた。
与えられる快感を体が貪欲に求める。指が二本、三本と増やされていく。

「……そろそろ入りそうだな。我慢出来ないし、俺の挿れるぞ」

「ぇ……」

返事を待たず、マスターは指での愛撫を終えて、性器の挿入を始めた。
欲情して勃起したマスターのものが押し込められる感触。初めて経験する、男に抱かれる感覚。

痛みも不快感もあるが、気持ち良さがそれを遥かに上回っていた。
酒に混ぜられた薬のせいだろうと分かっていても、その効果から脱する術が無い。

震えるシユウの内腿を撫で摩りながら、マスターはシユウの身体をあちこち舐め回した。
奥まで挿入が終わると、その感触を味わうように上下に揺する。

「ん……イイな。想像していたよりも良い具合だ。お前の反応も、声も、ナカも、二年も待った甲斐はある」

「は……っ、ぁアッ…………」

シユウは与えられる快楽に抵抗し、意識を保つので精一杯だった。
マスターは張り詰めたシユウのものを扱きながら囁く。

「イッていいぞ」

「〜〜〜〜ッ、ンっ、!!」

その言葉と刺激に促され、シユウは痙攣しながら射精した。
荒い呼吸で上下する胸元の突起に、マスターが口付ける。

「次は俺もイかせてくれ」

「ぁっ……待っ……!」

トントンと一定のリズムで出し入れされるマスターの性器は、少しづつ質量を増していった。
前立腺を刺激され、シユウの性器も再び勃ち上がる。

このままではいけないと、シユウの手がぎこちなく動き、マスターの服を掴んだ。
離れろ、という意志を込めて強く押し返しても、いつもの半分ほどの力すら籠らず、相手はビクともしない。

マスターはその手を掴み剥がすと、己の掌と握り合わせた。
そのまま机に縫い止めるように押さえつけて、激しく腰を打ち付ける。

たまらずシユウは嬌声を店内に響かせた。
机や床の軋む音と、肌が触れ合う音。奥でかき混ぜられている血と精液の音。
今ここで二人が性行為をしていると知らしめる卑猥な音の数々が部屋を満たす。

不意に強く腰を掴まれ、一段と深く突き上げられたシユウは、相手の絶頂が近いことを悟った。
このまま最後までされてたまるかと思っていても、抵抗することが出来ない。

程なくして、マスターが至極気持ちよさそうな声を上げて達した。
きつく目を閉じ、トクトクと奥に注がれる精液を大人しく受け止めるシユウの姿は、マスターを更に昂らせる。

「この薬な……飲んでヤるとクセになるんだ。今凄い気持ち良いだろ? これが欲しくて欲しくてたまらなくなるんだ。だから……これからもお前のことずぅっと抱いてやるからな」

「…………っ、は…………っ」

「もう喋れないか? まあとりあえず、今日は薬の効果が切れるまでヤろうな」

注がれた精液が潤滑剤となって、先程よりも滑らかなピストンが始まった。
突かれる度に、シユウの口からは勝手に喘ぎ声が漏れる。

薬と快楽に侵されて迎える二度目の絶頂は、双方早かった。
互いの精液に塗れながら、マスターが言う。

「はぁ〜、やっぱりウォール・マーケットは最高だな……!」

シユウは耳を疑った。
違法な薬を使い、強引に相手を抱いているだけのこの状況を、最高だと言う相手の思考が理解出来なかった。


――――ああ、自分はこの場所の闇を甘く見過ぎていたらしい。


己の軽率な行動を今更呪っても遅く、シユウは夜が明けるまでマスターの下で喘ぎ続けた。
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