03.IFeelYou

「あれ? どうしたんだろう」

「申し訳ございません! 只今、園内において、電気系統のトラブルが発生いたしました」

「ええ〜? ツイてないなぁ」

「現在、原因を調査中ですが、万が一を考え、これよりお客様を安全なところまで誘導させて頂きます」

スタッフがそう声を張り上げて、待機列に並んでいた客達を先導し始めた。
停電だろうと思っていたシユウは、それを見て眉を顰める。

「避難誘導するってことは、事件ですかね」

「あれ? シユウさん。エアリス達も」

「なんだ、あんた達も来てたのか」

結局クラウド達にも見つかってしまい、避難する人達の邪魔にならぬよう、一行は端に寄って話す。

「全員集まって……ないな。バレットは? あんたと一緒じゃないのか」

「確かにお嬢と合流する前は一緒に居ましたけど、何で知ってるんですか?」

「あんたを探しに行くと言ってた。様子がおかしいって心配してたぞ」

それでわざわざ来てくれたのか。
シユウは「他人のことより自分のことを考えてくれればいいのに」と思いながら、ロープウェイ乗り場で話した後、別れたことを伝える。

「その後は何処に行ったか分からないので、館内放送で呼び出して貰いましょうか」

「迷子みたいに?」

「迷子みたいに」

「いいな。それでいこう」

「クラウドまで……」

半分冗談、半分本気で話していると、王冠と赤いマントを被った黒猫が慌てた様子で駆けて来た。

「クラウドはん、大変や〜!」

「ケット・シー?」

「わ、かわいい」

「最近の動物はよく喋りますね」

「それは私のことか?」

「いやいや、ボクは本物の猫やのうて、占いマシーンの――って、それどころや無いんですわ! クラウドはん、他の皆さんも、大至急コロシアムに来てください!」

「どうしたんだ?」

「実は、コロシアムのロビーで銃撃事件がありまして……目撃者によりますと、犯人は片腕が銃の男≠竄チたそうです」


――――片腕が銃の男。


皆が驚愕した。
名を出さなくても、全員が同じ人物を思い浮かべる。

「何かの間違いだよね?」

「とにかく行ってみよう」

ケット・シーの案内で、一行は事件現場のバトルスクエアへ。
エリア内は既に封鎖されていたが、ケット・シーの口利きで特別に中に通される。

規制線の張られているバックヤードの壁には、あちこちに弾痕が残っていた。
ビニールシートに覆われた遺体まで転がっている。

「神羅の兵隊さんが襲撃されたんや。それで――」

「私から話そう」

ケット・シーの話を遮ったのは、園の入場時にクラウドとステージ上で殴りあっていた、筋骨隆々の男。

「私は延長のディオ。若者達よ、我が輝きの楽園、ゴールドソーサーへようこそ。君は既に戦友だったな? 再戦はいつでも受け付けているぞ」

「そんな話はいい。ここで何があった?」

「本日、神羅の統括殿がお越しになったのだが、一緒にやって来た兵士達が襲撃されてね。スタッフや他のゲストも巻き込まれてしまったのだ。犯人の姿を確認しようにも、周到にも監視カメラが壊されていてね。――ただ、目撃者の証言によれば、犯人は片腕に銃を仕込んでいたそうだ。そこで私は思った。そういえば、要注意人物として報告を受けていた男と似ているな、と。私には劣るが、体が大きく、態度も声も大きく、不機嫌そうな顔を隠さず、サングラスをかけ、そして――片腕が銃の男。君達、心当たりがあるだろう?」

「待って下さい。バレットはよく暴れるけど、こんな酷いことはしません」

「その言葉を信じたいが……今日こんなものが配られてね」

そう言って、ディオは一枚の紙を取り出した。
神羅が発行した、アバランチの手配書だ。

テロリストの一味が仲間を庇ったところで、信用しては貰えないだろう。
ティファは悔しげに口を閉ざしたが、クラウドは負けじと続ける。

「犯人はバレットじゃない」

「根拠は?」

「先に監視カメラを壊すなんて、らしくない。仮にこんな事件を起こすなら、何か理由がある筈で……それならやっぱり、カメラを壊すなんて、しない」

「なるほど。良い、良いぞ! 美しい友情は大好物だ!」

ディオは大仰な身振り手振りを交えて言ってから、だが、と太い眉毛を下げる。

「これは大事件だ。それだけで無罪放免という訳にはいかない……ではこうしよう。君達の手で真犯人を捕まえ、友の無実を証明したまえ。期限は24時間。それまでに真犯人を捕まえられない場合は、君達全員を捕らえ、神羅に引き渡す」

ディオはクラウドの腕を掴み、そこへ腕輪を装着した。
何だこれはと目で問うクラウドに答える。

「発信機だ。君達が逃げないように監視させて貰う」

「俺達は逃げない」

「宜しい。タークスに先を越されないよう、頑張りたまえ」

「タークス、いるの?」

「競争相手が居ると燃えるだろう? ――それから、保険として君だけはここに残って貰おう」

どうしてこんな事にと、不安と心配で途中から話を聞いていなかったシユウは、突然ディオに肩を掴まれて目を丸くした。

「え、なんですか?」

「発信機が一人分しか無いのでね。君達の仲間が犯人だったとしても、本人は逃げようと思えば逃げられる。そうならないようにする為の保険だ」

「人質ってことですか? どうして俺が」

「すまないが消去法だ。若い女性を軟禁するとなると、私が別の罪に問われる恐れがある。それに事件の前、君があの男と二人で居るところを見たという者が何人か居たのでね。親しげに話していたそうじゃないか」

「はあ……まあいいですけど」

「シユウさん、本当にいいんですか?」

「他の人よりは、俺の方が都合が良いです」

「どういうことだ?」

「お嬢に聞いてください」

「さあ若者達よ、犯人は下へ行ったぞ! 友の為に走りたまえ!」

ユフィは全く心配していない様子だったので、他のメンバーもシユウを信じて、先導するケット・シーと共にその場を後にした。
地下へ降りるエレベーターの中で、クラウドが尋ねる。

「ユフィ、あいつはああ言ってたが、どうなんだ?」

「シユウを捕まえておくのなんてムリムリ。アタシも昔、見張られるのにウンザリして、部屋の中に閉じ込めたり、寝てる間に縄で縛ったり、色々試したんだけどね、全然効果無かったんだ。どうやってるのか知らないけど、すぐ抜け出してくんの」

「それは……すごいね?」

「惨いな」

「シユウさん……苦労してるなぁ……」

「だから、いざとなったら自分で逃げると思うよ」

「そうか。なら、心配いらないな」

そんなクラウド達の会話を、シユウはディオと共に聞いていた。
ディオの手には通信端末があり、そこからクラウド達の声が聞こえている。

「実は、あの腕輪は盗聴器にもなっていてな」

「……それを先に言ってください」

これでは、ディオの前で言葉をぼかして、ユフィに説明を頼んだ意味が無い。筒抜けだ。
「逃げられるのは困るが、縄抜けは一度見てみたいな」と楽しげに語るディオに、シユウは愛想笑いを返す。

「ともあれ、結果が出るまでは寛いでいてくれたまえ。VIPルームを用意してある。共に彼らの勇姿を見届けようではないか」

良いように言い換えただけで、牢屋にでも放り込まれるのだろうと思っていたが、ディオの言葉に偽りは無かった。
質の良い絨毯、革張りのソファー、壁に取り付けられた巨大なモニター。本当にVIPルームらしい。

「容疑者の仲間をこんな扱いしていいんですか?」

「今の君はまだゴールドソーサーの大事なゲストだ。本当ならこんな風に閉じ込めておくのも忍びないが、協力して貰えると助かる」

「それは構わないんですが……」

「お仲間が心配かね?」

「心配です。凄く」

「確かに、彼らが向かったアンダーソーサー……今はコレルプリズンとも呼ばれているが、あの辺りは治安が良いとは言えない。だが安心したまえ。万が一の時は私が――」

「クラウド君達の方ではなくて。貴方が疑っている男性の方です」

どうして今このタイミングでこんな事件が起こるのかと、シユウは頭を抱えた。

神羅兵を襲った、片腕が銃の男。
特徴だけを聞けばバレットがかなり怪しいが、ティファやクラウドが言っていたように、腑に落ちない点が多い。恐らく犯人は別に居るだろう。

だが、それならば何故、彼は居なくなった?
たまたま犯行の現場に居合わせて、一人で犯人を追っているのか?

「……園内には居ないんですよね?」

「ああ。それは既に確認済みだ」

ディオがモニターを操作すると、画面上に園内各所の光景が映し出された。
カメラを壊されたバトルスクエアの映像は砂嵐になっているが、パークセントラルに設置されているカメラが、バトルスクエア方面へ向かうバレットの姿を一時間ほど前に捉えていた。その後は、どのカメラにも映っていない。

「彼が犯人で無いにしろ、犯人と同じルートを辿っていることは間違いない」

「そうですか……」

一体何があったのだろう。
船の時のように、一人で無茶をしていないだろうか。
犯人だと疑われて、心無い言葉を投げ付けられてはいないだろうか。
嫌な想像ばかりが浮かんで、シユウは唇を噛む。

「君は事件の前に彼と話していたのだろう? 何か事件に関係する話を聞いてはいないかね?」

「いえ。もし仮にあの人が何か知っていたとしても、俺には話してくれないと思います」

「彼と親しいのでは?」

ディオのその疑問に曖昧にしか答えられないことが、今はやけに虚しく感じた。
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