03.IFeelYou

コレルプリズンへ向かったクラウド達は、早速現地の荒くれ者に捕まっていた。

盗聴器越しに聞こえてくる会話によれば、犯人は既にコレルプリズンの連中によって確保されているらしい。
その場所を教える代わりに、チョコボレースの賞金を持って来い、という話になっている。

『優勝出来るまで、お仲間は預からせて貰う』

『クラウド!』

『クラウドは〜ん!』

『待て!』

『おっと心配するな。丁重におもてなしするさ。でも、もしお前がカネを持って来ないなら、彼女達に稼いで貰うことになるかもな〜?』

「『クズ……』」

思わず口から出た感想がクラウドと被った。
言われた相手は気を悪くした様子もなく、『ノンノン、ゲスと呼んでくれ!』と返している。

「この様子では、犯人に辿り着くのはまだ時間がかかりそうだな。私は見つかった時の為の準備をしてくる。何か動きがあれば知らせてくれ」

そう言って、ディオも部屋を出て行ってしまったので、シユウはソファーに寝転がる。
抜け出そうと思えば出来るのだろうが、手掛かりもなく探し回るよりは、ここでクラウドが情報を得るのを待つ方が早いだろう。

クラウドがチョコボレースに長けているかは知らないが、負けるところは想像出来ない。仮に妨害を受けたとしても、不思議と「彼ならば何とかしてくれるだろう」という安心感があった。
なので暇潰しがてら、犯人らしき怪しい人物が映っていないだろうかと、園内の監視カメラの録画映像を繰り返し眺める。

(……バレットさん、散歩してないな、これ)

映像の中のバレットは、ロープウェイ乗り場から出て来た後、バトルスクエアに消えるまでの間、ずっとパークセントラルのベンチに座っていた。
別のカメラには、ユフィ達とアトラクションで遊んでいる自分が映っている。

その対比に無性に苛立って、シユウはモニターから顔を背けた。

(お嬢の所に行くんじゃなくて、あのままバレットさんと居れば良かったかな……)

それでバレットの気は楽になるのだろうか。
辛い時に、自分が傍に居ることを彼は望むだろうか。一人の方が良いのではないか。

(…………わからないな)

クラウドの方は、チョコボレースに出場するチョコボを万全の状態にする為に、まずは与える餌を探すところから始めるらしい。
時折聞こえてくる愚痴に同情しつつ、シユウは大人しく進展を待った。

あまりにもやる事が無く、気付けばそのままソファーで眠ってしまっており、扉をノックする音に起こされる。
入ってきたのはディオで、「進捗はどうかね?」と問われたシユウは、テーブルに置いていた端末を手に取る。

『よし。じゃあ上のレース会場まで案内する』

『ねえ、やっぱり私がエスコートするわ! いいわよね?』

『あん……? ったく、ちょっとイイ男だとこれだ!』

『それじゃあ、私について来て!』

どうやらチョコボレースに出場するところの様だ。
ディオは再度モニターを操作して、チョコボレースの中継映像を画面に映す。

「では、我々もここで勝負の行方を見守るとしようか」

レースに参加する騎手はクラウドを含めて10名。
優勝するには他9人に競り勝たなければならない。
ディオはゲートに並んでいるその内の一人を指して言う。

「彼は手強いぞ。現役チョコボレーサーのトップだ」

クラウドも彼を警戒しているようだった。開始前から互いに睨み合っている。

実況解説役によるコースと選手の紹介の後、スタートを告げる号砲が鳴った。チョコボ達は一斉に走り出す。
流石、レースに慣れている走者達は出だしから速いかった。その中でも、ディオが手強いと言っていたトップレーサーは抜きん出ている。

だが、クラウドも負けてはいなかった。
他のチョコボの動きを見て、どう動けばいいのかを頭の中で組み立て、最下位から徐々に追い上げていく。

ファイナルラップではついに2位につけた。前を走っている相手も、迫ってくるクラウドに気付いて本気を出してくる。
接戦だった。ゴール手前、残り数十メートルのところで、クラウドが追い抜く。

『ゴォォォォール! 初参戦のピコチーム、ゴール直前でトウホウフハイを抜いて一着でゴールしました! 大番狂わせです!』

「素晴らしい!!」

沸き立つ会場内の歓声を聞きながら、ディオは画面に映るクラウドに拍手を送った。
シユウもパチパチパチと控え目に手を叩く。

閉じ込められていたユフィ達も無事解放された様だ。
コレルプリズンへ戻ったクラウドを褒め称える様々な声が、ディオの端末から聞こえてくる。

『今度はあんたが約束を守る番だ』

『わかってる。オレ様は約束を守る男だ。急かす男は嫌われるぞ? ――片腕が銃の男は、スクラップ置き場の牢獄に縛り付けてある。あとは神羅に突き出すなり、始末するなり、好きにするんだな』

クラウド達はコレルプリズンから地下道を通って行くらしい。
ディオは「では我々も向かうとしよう」と言って部屋の扉を開ける。

クラウド達と同じルートで行くものと思っていたが、ディオはそちらには向かわずにヘリポートへ。

「ヘリで追跡するんですか?」

「いや、下へ降りるのに使うだけだ。今日は砂嵐が酷いらしい。飛んで向かえば巻き込まれる危険がある。だが心配は無用だ。こんなこともあろうかと、別の足を用意してある」

ディオと共にゴールドソーサーから荒野へと下りたシユウは、停めてあったバギーに案内された。
これが別の足≠轤オい。端末を操作しながらの運転は危ないとのことで、運転先に座ったディオが、助手席のシユウにナビゲートを頼む。

「さあ、どちらへ向かえばいい?」

「ええと……とりあえず真っ直ぐで」

移動するクラウド達の後を追って、二人を乗せたバギーは走り出す。
荒野には目印となるものが少なく、端末に表示されている簡易的な地図と、その上に点で表示されている発信機の位置情報だけでは、どう進めば合流出来るのか掴みにくい。

進路が合っているのか自信が持てないまま、追跡開始から十数分。突如通信が乱れ、位置情報の表示がおかしくなってしまった。
辛うじて聞こえている音声も、ノイズ塗れかつ途切れ途切れになっている。

『――に、あれ――』

『砂嵐――逃げ――』

『――まず――』

どうやら砂嵐に巻き込まれたらしい。
エアリス達の悲鳴と風の音と、何やら銃声も聞こえる。

『――い、こっち――』

『バレ――――』

「バレットさん?」

聞き間違えでなければ、今微かにバレットの声がした。
シユウは端末に耳を押し当てる。やはりバレットの声が聞こえる。

それから数分間は、吹き荒ぶ風の音だけが聞こえていた。
今近付けば自分達まで巻き込まれかねないと、ディオは一度車を止める。

暫くして嵐の音は止み、『えらい目に遭いましたわ』と嘆くケット・シーの声が聞こえてきたので、シユウはほっと息を吐いた。何とか凌いでくれたらしい。

『バレット……良かった。無事だったんだね』

『脱獄した?』

『んなワケねぇだろ! なんでお前らがここに……』

『ゴールドソーサーで起こった事件の犯人を追っている』

『犯人は、片腕が銃の男だって……』

『……なるほどな』

『あんたじゃないんだよな?』

クラウドの問いに、バレットが答えるまで少し間があった。

『全部、オレのせいなんだ』

「またそれですか」

シユウは思わずツッコんだ。
だがバレットがこう言うという事は、犯人はコレル村の人間かとシユウは察する。

『バレット、話して』

『……犯人の名前は、ダイン。オレの親友……だった』

――――親友。

脳裏にソノンの顔と彼の最期が浮かんで、今それは関係ないとシユウは頭を振った。
ディオも真犯人の情報を得ようと、バレットの話を清聴する。

『魔晄炉が爆発したあの日……オレとダインは、状況を確認する為に現場に行った。あれだけの爆発があったのに、神羅の連中は一人も居なかった。その時点で、何かおかしいとは思ってたが……村から火の手が上がっているのを見た時は、目を疑ったぜ』

帰ってきた二人に、辛うじて生き延びていた村長が、村が神羅兵に襲われていることを伝えた。
その直後、彼も狙撃されて亡くなり、二人は他に生き残りがいないか――何より自分達の妻子の無事を確かめる為に、銃撃の中を走り抜けようとした。

『その途中、オレは足を撃たれちまってよ。庇おうとしたダインが、弾みで崖の下に落ちそうになって……引き上げようとしたんだが……』

繋がれた二人の手を、スカーレットは容赦なく撃った。
何度も。何度も。その腕が使い物にならなくなるまで。

『結局、ダインはそのまま谷底へ落ちていった……エレノアとマリンの名を呼びながら……』

「『……マリン?』」

疑問の声がティファと被った。

エレノア、というのは、恐らくダインの妻の名前なのだろうが。死に際に他所の娘の名を口にするのは違和感がある。
バレットはその疑問には答えず、話を続ける。

『オレは出血で朦朧としながら、なんとか逃げた。で、倒れたところをシロン先生に拾われた。だから、こうして生きてる。そして……右腕を失ったオレは、義手じゃなく、この復讐の道具を選んだ』

『……ダインも同じか』

『そういうことらしい。まさか、生きてるなんてな。それを知っていりゃあ……』

『ダインも、神羅に復讐してるってこと?』

『わからねぇ。ダインが現場から立ち去るところを見たが、誰彼構わず巻き込むようなヤツじゃねぇ。復讐だってんなら尚更だ!』

バレットの言葉に、仲間たちは皆沈黙した。
自分達は、ダインの事は何も知らない。
だから、彼の無実を信じるバレットの言葉を、否定も肯定も出来ない。

『……とりあえず、会って話してえ。伝えたいことがあるんだ』

『じゃあ、早速行く?』

ユフィの明るい声が、重くなった場の空気を少しだけ和らげてくれた。
黙って話を聞いていたディオは、車のサイドブレーキを外す。

「状況は理解した。襲撃犯は別に居るようだな」

「……………………」

「彼らの現在地を教えて貰えるかね?」

シユウは端末を見て指示を出した。クラウド達が居るのとは別の方向へ。
何も知らないディオは、指示通りにバギーを走らせる。

『なあ、さっきから気になってたんだけどよ、一人足りなくねぇか?』

『シユウは今人質にされてるからね〜』

『は? 人質? なんの為にだよ』

『園長はあんたが犯人だと思ってる。だから、あんたが逃げないようにする為の保険らしい』

『ほ〜……にしては人選がおかしいだろ』

『わたし達じゃ色々とマズいから、消去法、なんだって』

『消去法かよ。適当だな』

『適当……なのかな。私は的確だと思ったけど』

「ティファさんは俺を過大評価し過ぎですよ」

「青年よ、先程から同じ場所をグルグルと回っている気がするのだが」

「気のせいです」

もしダインが犯人なら、ディオを連れて行けばその場で即逮捕、連行されるだろう。
罪は裁かれるべきだとは思うが、バレットと話くらいはさせてやりたい。

そんな思いで、シユウが時間稼ぎの為にひたすら適当な指示を出している間に、クラウド達は無事に指示されていた場所へ到着。

『ここにダインが居んのか』

『そのはずだ』

『……オレ一人で、話をさせてくれ』

『でも……』

『わかった』

と、そこまで聞いたところで、流石におかしいと思ったディオに端末を取り上げられてしまった。
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