03.IFeelYou
「全く違う方向に来ているが?」「その端末、さっきから調子がおかしくて」
「白々しい嘘は結構だ。やはり君達も事件に関与しているのか?」
「誤解です。ただ、彼らの話が終わるまでは待って貰えませんか? 今を逃したら、もう二度と会えないかもしれないでしょう。悔いが残らないようにしてあげたいんです」
「ふむ。良いだろう。私にもそれぐらいの度量はある。彼らの話の邪魔はしないと約束しよう。その代わり、こんな風に追跡の妨害をするのはやめてくれないか。君が仲間を想う気持ちは尊重するが、楽園に泥を塗られた私の気持ちも汲んで欲しい」
そう悔しそうに言うディオを見て、シユウは独り善がりな行動をしたことを恥じた。
ディオにとっては、ゴールドソーサーで働くスタッフ達が仲間のようなものなのだろう。それが理不尽に殺されたのだ。
穏やかに振舞ってはいるが、直々に犯人の追跡をするほど、彼は怒っている。
「…………すみませんでした」
「物分りが良くて助かる。さあ、気を取り直して出発だ!」
今度は真面目にやろうと、シユウは再度預かった端末を見ながら案内を再開。
が、目的地の近くまで来たところで、砂嵐に道を阻まれる。
端末からは銃声が聞こえてきていた。
クラウド達の会話からすると、どうやらバレットとダインが戦っているらしい。加勢しようとする仲間達を制するバレットの声も聞こえる。
砂嵐に突っ込んでいく訳にもいかないので、ディオは渋々バギーをUターンさせた。
どこか迂回できるルートがないか探している間にも、端末から聞こる銃撃戦の音は激しさを増していく。
『エレノア……マリン……ああ、真っ暗じゃねぇか……!』
『ダイン……! 絶対に、助けてやるからな!』
『バレットオオオ!!』
怒り憎しみを含んだダインの絶叫。
必死に呼びかけるバレットの声。
何故戦いになっているのかは分からないが、バレットはダインとの戦いを望んではいないのだろうことは分かる。
シユウは端末を握り締めた。
バレットが親友を手にかけるような事にだけはなって欲しくない。
無事に終わってくれと祈っていると、空からプロペラの回る音が聞こえてきた。
上を向くと、機械兵器を吊り下げた神羅のヘリが数機、自分達と同じ方角目指して飛んでいるのが見える。
「この環境でヘリ飛ばすなんて良い度胸ですね、あの人達」
「タークスだろう。彼らも犯人の居所を掴んだのかもしれん。先を越されれば、犯人だけでなく君の仲間達も危ないぞ」
ディオはアクセルのペダルを踏み込んでスピードを上げた。
向こうでは決着がついたのか、銃声は止み、バレットとダインの会話が聞こえる。
『ダイン、終わりだ』
『終わり? 終わりだと? 何も終わっちゃいねぇだろうが!』
『……だったら、オレを殺せ。それで終わりにしてくれ』
バレットの発言に、シユウは口をへの字に曲げて端末を睨んだ。
バレットは怒りに呑まれて復讐鬼になっている親友をどうやってでも止めたいのだろう。
己の命を差し出すことで、これ以上死人を増やさずに済むのなら。親友が手を汚さずに済むのなら。
或いは、それが己にできる唯一の贖罪であるとでも考えたのかもしれない。
気持ちは分かる。だが納得は出来なかった。それはただの自棄ではないか。
バレットを殺して、その後一人遺されるダインが救われるとは思えない。今よりもっと酷い地獄へ落ちるだけだ。
彼を親友だと思っているのなら、何故そんな簡単なことすら分からないのか。
ダインも呆れた様子で『なんだよそれ』と呟く。
『お前だけ死んで楽になろうってか? 俺を助けるんじゃなかったのかよ!』
『オレは…………』
『昔っから変わらねぇ……お前は、上手くいかねぇと、すぐ諦めるんだ』
『許してくれダイン。オレがバカだった。もっと他に道はあった筈だ。それなのに……金に目が眩んだ』
『代償はデカかったよなぁ……でもよ、頭の中で、声が響くんだよな……エレノアの声がよ。あんた、バレットを憎んじゃダメ。あの人に罪は無い=c…じゃあ誰が償ってくれるんだ? ――神羅か! 神羅しかねぇよなぁ!?』
「………………っ」
シユウは息を呑んだ。ダインの悲痛な声に、胸が締め付けられる。
似ている。最初からずっと思っていたが、似ている。
まるでソノンを見ているようだ。
何よりも大切なものを奪われて、抱えきれない怒りや悲しみをどうすればいいのかも分からず、ただ神羅への復讐の為だけに生き続けて。
そして自分は――バレットは、その様をただ見ていることしか出来ない。
彼をその暗闇の中へ追いやったのは自分なのに。
再び銃声が鳴り響いた。
またバレットとやり合い始めたのかと思ったが、違う。
『神羅兵!?』
『いつの間に……!』
『俺達で片付けるぞ』
どうやら邪魔が入ったようだ。
シユウは上を向いた。真上を飛んでいたヘリは遥か先に居る。
「もうちょっと速く出来ませんか」
「この悪路でこれ以上スピードを出すとなると、安全運転の保証は出来ないが」
「構いません」
シユウは座席から立ち上がって、進行方向に見える岩などの障害物を忍術で強引に排除していった。避ける時間も惜しい。
端末から聞こえてくるのは、交戦する音。複数人の足音。バレットとダインの声はそれらに掻き消される。
お陰で、今向こうがどうなっているのか、状況が全く分からなくなってしまった。
更に追い討ちをかけるように、ヘリが運んでいた機械兵器をパージするのも見える。もう滅茶苦茶だ。対応を迫られているクラウド達も悪態を吐いている。
それに紛れて、バレットの絶叫が聞こえた気がした。
端末が示すクラウド達の居場所まであと少し。
「――見えたな。あそこか」
「だと思います」
やっと肉眼で、先ほどヘリから降ろされていた機械兵器らしきものが確認出来た。
ぴょんぴょん蛙のように跳ねているそれが――恐らくはクラウド達の攻撃によって――爆発してひっくり返ると、上空で旋回していたヘリも降りてくる。
ディオは負けじとバギーを走らせ、ヘリが着陸するよりも先に機械兵器の横を通過。
そのまま発信機が示していた場所――その周りを囲っているフェンスに頭から突っ込む。
「うわぁっ! なになに!?」
「お嬢! ご無事ですか?」
「え、シユウ? なんで?」
「私も一緒だ。若者達よ、これに乗って逃げなさい」
バギーから降りてきた二人を見て、武器を下ろしたクラウド達が集まる。
ディオはクラウドの手を掴み、着けていた腕輪型の発信機を外した。
「これは盗聴器にもなっていてね。すべて聞かせて貰った。――君は無実だ。疑ってすまなかった」
そう詫びるディオの視線の先には、地面に両膝を着いているバレットの姿があった。
俯いて動かないバレットの前に、血塗れで仰向けに倒れている、見知らぬ男の姿がある。
シユウは恐る恐るそちらへ近寄った。
男は既に息絶えていた。体のあちこちに銃創が出来ている。
「あのバギーは謝罪の気持ちだ、受け取りたまえ。彼は私が責任をもって埋葬しよう」
「助かる」
何も答えないバレットの代わりに、クラウドが礼を述べた。
ユフィが「そうと決まれば、だっしゅつ〜!」と、一番にバギーへ乗り込み、他の皆も続く。
「園長、こんなことしてええんですか?」
「ゲストの安全を守るのは園長の務めだ。君達がミッドガルで何をしたにしろ、ゴールドソーサーでは関係ない。またいつでも遊びに来たまえ」
園長と握手を交わしたクラウドは、地面に転がっていたバレットの
「バレット」
「……生きて、苦しめだとよ」
バレットが掠れた声で言った。
「全部、背負うんだろ」
差し出された武器をバレットは受け取り、右腕に嵌め直す。
「流石に押し潰されそうだぜ」
「俺達を頼れ」
バレットは驚いた顔でクラウドを見た。
そして、フッと小さく笑いを零す。
「今日はやけに優しいじゃねぇか」
「行くぞ」
すぐに元の無愛想に戻ったクラウドは、皆の待つバギーへ歩いていく。
バレットは立ち上がった。もう二度と動かなくなってしまった親友に別れを告げる。
「……じゃあな、ダイン」
ダインの手には、バレットが肌身離さず持ち歩いているマリンの写真が握られていた。
バレットはそれを回収しないまま、ダインに背を向ける。
そして丁度振り向いた先に居たシユウと目が合った。
「おう。何だよ。おめーも居たのか」
「……………………」
「人質にされてたんじゃねーのかよ」
「解放されました」
「そうか。そりゃ良かったな」
バレットはシユウの肩を軽く叩いて、バギーの方へ向かう。
が、立ち尽くしたまま動かないシユウに気付いて踵を返した。
「おい」
「……………………」
「おいって」
「……………………」
じっと死体を見詰めているシユウを見て、バレットはその視界を掌で塞く。
「それはオレの荷物だ。お前のじゃねえ」
そのまま後ろに引っ張って、よろけたシユウの手をバレットが掴んで連れていく。
それでも、シユウは何度も振り返ってダインを見る。
分かっている。これは自分には関係ない。
あの死体は、面識の無い赤の他人のもので、それを見たからといって何か感じることもない。
いつもならそうだ。いつもなら。
シユウはバレットの手を握り締めた。
後部座席に二人が乗り込んだところで、ヘリから降りてきたルードが逃すまいと退路に立ち塞がる。
「若者よ、私の背中を見よ! 人生は戦いだ!」
クラウチングスタートの構えを取ったディオが、向かってきたルードに突進。
運転席に座っているティファが、ケット・シーと共にハンドルを握り、エンジンを吹かせる。
「行くよ!」
バギーは急発進し、戦う二人を置いてその場を離脱。
神羅兵のバイクと、タークスの操るヘリがそれを追う。
『全兵士に通達! アバランチはバギーにて逃走中。追跡を開始せよ! 繰り返す。アバランチはバギーで逃走中――』
拡声器越しに、聞いたことのある声が響く。
ミスリルマインでルードと一緒に居た女性だろう。シユウは忍術で撃ち落としてやろうと狙いを定めたが、同じく応戦しようとしていた他のメンバー共々、バレットに止められる。
「オレがやる。……やらせてくれ」
皆顔を見合せた後、彼の意思を尊重して、大人しくシートに座り直した。
一人銃を構え、神羅兵を撃ち始めるバレットを、シユウは仲間達と共に静かに見守る。
(……お嬢が初めて人を傷付けたのを見た時も、こんな気持ちだったな)
ただ徒に人を殺めている訳ではない。
本人の意思。誇り。皆それぞれの想いがあって戦場に立っている。
自分もそうだ。だから、それを邪魔することは出来ない。
けれど、出来ることなら、彼らが手を汚さずに済むようにしたかった。
ユフィの手裏剣が、バレットの銃が、出番の無いただの飾りのまま終わればいいと思っていた。
(……役立たず)
シユウは己の無力を感じながら、バレットが追手を倒し切るのを待った。
やがて仕事を終えたバレットが、隣に腰を下ろす。
「どうよ?」
「手こずってたな」
「うるせえ」
向かい合って座るクラウドとバレットのやり取りに、仲間達は笑いを零した。
傷ついた心を労わるような、温かい空気がそこにはある。
バレットには彼らがついている。
それだけで全てが何とかなる訳では無いのだろうが、シユウはほんの少しだけ安心した。