04.Promise
「お客さん、これからどこ行きましょ?」今日もよく晴れたコレル地方の空の下。
軽快に進むバギーの運転席、そこでティファと一緒にハンドルを握っているケット・シーが、他の面々にそう尋ねる。
「南だ。南へ行くぞ」
答えたのはバレットだった。
席順は昨日と同じなので、彼の正面に座っているクラウドが、「何かあるのか」と問う。
「北はコレルだ。戻る気は無ぇ!」
進路を決める理由としては理に適っていない様に思えるが、かといって他に行く当てがある訳でもないので、異を唱える者は居なかった。
ケット・シーも了承して、南にハンドルを切る。
「おい、ケット・シー。当たり前みたいな顔して一緒に居るが、てめぇは何なんだ?」
「ボクは神羅カンパニーの子会社、神羅リゾートのくすぶり社員です。お陰様で、えらい長ぉ〜くすぶらせて貰ってます」
「神羅のイヌか」
「ネコですぅ〜」
「ネコですか〜」
まだ傷が癒えた訳では無いのだろうが、バレットは切り替えが上手い。
頭の中では色んな考えが犇めいているのかもしれないが、表面上は普段の調子に戻っている。
それでも、昨日の今日でまだ心配の抜けないシユウは、彼の隣でその様子を眺めていたが、不意に後頭部に何かが触れる感触がした。
振り向けば、そこにあったのはバレットの腕。
座席の背もたれに乗せている彼の左手が、風に靡くシユウの髪を弄んでいる。
コレは無意識にやっているのか、バレットは見向きもせずに、前方のメンバーと話を続けていた。
梳いたり、巻き付けたり、摘んだり。たまに指や毛先が首筋を掠めてくすぐったい。
言えばすぐに止めてくれるのだろうが、会話に割り込んでまで指摘することもないかと、シユウはそのまま放置。
向かいに座るエアリスが、それを見てニッコリと笑う。
「仲、良いね?」
「猫が猫じゃらしで遊んでるだけですよ」
「バレット、猫なの? じゃあ、シユウは飼い主?」
「違います。俺はその辺に自生してる雑草で、彼は野良です。そういう感じです」
「なるほど〜」
「だぁぁぁあ! 止めろ止めろ止めろ!!」
突然バレットがそう叫んで、何だ何だと二人が前を向くと、バギーに酔ったらしいユフィが、今にも吐きそうな様子で降りていくのが見えた。
そう言えば、彼女の為の酔い止めを何処かで買おうと思っていたのに、すっかり忘れていた。
シユウは他の皆と一緒にユフィの後を追う。
「うぇぇぇぇ……キモチワルイ……」
「だいじょうぶ?」
「む〜〜り〜〜」
「どうする? 黒マントの人達も見当たらないし、当てもなくバギーで彷徨くのは……」
「ム〜〜〜リ〜〜〜!」
地面に大の字になって倒れたユフィは、子供の駄々のように手足をばたつかせて抗議。
とは言え、ずっとここに留まっている訳にも行かない。悩む一行に、ケット・シーが占いを提案。
「占いなんて出来るんですか? 凄いですね」
「アテにすんなよ。かなり適当だからよ」
「ヒドイなぁ。あの時は、たまたま調子悪かっただけですって。見といてくださいよ!」
と意気込んで、ケット・シーは大きなモーグリを召喚した。ケット・シーの可愛らしい踊りと共に、モーグリの口から短冊が出てくる。
それを千切り取ったクラウドが、書かれている占いの結果を読み上げる。
「ラッキーフードはキノコ=v
「キノコ?」
「……進路を占ったのでは?」
「だから言っただろ」
「キノコを道標にしろってことなのかも」
「こんな荒野にキノコが生えるか……?」
諦めムードが漂う中、ケット・シーが閃く。
「バレットはん、確かコレル魔晄炉の話してませんでした? ウェポンがどうとか」
「お前にしたか? そんな話」
「実はこの辺りにも、稼働を停止した魔晄炉が1つ残っとるんですわ」
「……まこーろ? マテリア? ハイ、ハーイ! 魔晄炉目指すの大賛成〜!」
一瞬元気を取り戻したユフィは、立ち上がるなりフラついてまた倒れた。
介抱していたティファとエアリスがそれを受け止める。
「ま、確かに気にはなるな」
「ここからもうちょいかかりますけど、どないします?」
「行ってみよう」
「ほな、目指すは緑が生い茂る南の大陸。魔晄炉見学ツアーと行きましょか〜!」
という訳で進路は決まったが、問題はユフィがそこまで耐えられるのかという点。
女子二人に運ばれて、ユフィは再びバギーの助手席へ。
「お嬢、後ろで横になってた方がいいんじゃないですか?」
「ここでいい〜……どっちにしろ揺れるし、前向いてる方がマシ……うっぷ」
「クラウド、運転かわって?」
ティファから鍵を受け取ったクラウドがエンジンをかけて、バギーは再出発。
暫くすると、風景に少しずつ緑が混ざり始める。
「そろそろの筈なんやけどな〜」
「筈って何だよ」
「いや、魔晄炉の近くはこんもり森みたくなっとるんです。――ああほら、見えてきましたわ」
ケット・シーが指した方角には、確かに鬱蒼とした森があった。
が、その手前には、幅の広い川がある。
「ここを超えたらゴンガガです〜」
「ゴンガガ……」
何か思うところがあるのか、エアリスが神妙な顔で呟いた。
クラウドは一旦川の前でバギーを止める。
「どうやって渡るんだ?」
「そのまま突っ込んだらええですよ。そこまで深い川や無いですし、このバギーやったら多分渡れます」
「そうか。分かった」
「えっ、ちょっ」
一人慌てるシユウを他所に、クラウドは躊躇いなくアクセルを踏み、バギーはざぶんと入水。大きなタイヤが水をかき分けて進む。
ケット・シーの言う通り、走行に問題は無さそうだが、シユウは不安げな顔で水面を凝視し、バレットの服の裾を掴む。
「ん? なんだよ」
「……………………」
「おいシユウ」
「何でもありません」
そうは言うが、明らかに様子がおかしい。
水中に何か危ないものでも見えたのかと、バレットも真似して覗き込んでみたが、そこには澄んだ水と流木があるだけ。
それでも、シユウはバギーが川を渡りきるまで、ずっとその調子だった。
陸地に戻ると、ほっと息を吐いて手を離す。
「お前、アンダージュノンの小舟に乗った時もそんな感じだったけどよ、もしかしてカナヅチか何かか?」
だとしても、今の川は大人が溺れるような深さではなかったと思うが。
シユウは苦い顔で「まあ、そんなところです」とだけ返して、車酔いから解放されたユフィを労る。
「こっからは歩きましょ。魔晄炉までそう遠無いんで。――せや、魔晄炉の近くに小さな村もあります。どうでしょ、魔晄炉は逃げませんし、まずは村で一休み〜なんて」
「うん、そうしよう」
「さんせ〜……」
「クラウド、どうしたの?」
「この森……知ってるような気がする」
「来たことあるの?」
ハッキリとは覚えていないのか、背の高い木々を見上げていたクラウドは、「どうだったかな……」と曖昧な返事。
ケット・シーの先導で森の中を進んでいくと、長い坂を登りきった先に、村の入り口らしきものが見えてくる。
それと同時に聞こえてくる、複数人の足音。
最初に気付いたのはレッドだった。
次いでクラウドが気付き、他のメンバーが気付いた時には、武装した男達に取り囲まれていた。
「この村に何の用?」
その集団の中に居た一人の女性が前に出て、警戒心を露わに問う。
その顔を見たシユウは目を丸くした。
「……シスネさん?」
「え?」
名を言い当てられた女性は、目の前に居るのが知った相手であることに気付き、更にその隣のクラウドを見て驚く。
「あなた……!」
「なんだ?」
「――――ごめん。ちょっと、知り合いに似てたから……」
今ここでその件について詳しく語るわけにもいかず、シスネは誤魔化して話を戻す。
「変わった御一行ね。こんな所に何の用? 魔晄炉の調査団では無さそうだし……」
「魔晄炉の見学です。せやから、見学団」
「……なるほど? ようこそ、ゴンガガ村へ。私は青年団長のシスネ。吃驚させてごめんなさいね。村の警備が仕事だから」
シスネの号令で、他の青年団の面々は武器を下ろし、持ち場へと散っていった。
クラウド達も警戒を解いて、彼女の傍に集まる。
「丘の上から魔晄炉の様子が見えるわ。こっちよ」
「おおきに」
「見ての通り静かな村だから、面倒は起こさないでね。自然が豊かでいいところよ。お客は殆ど来ないけどね」
シスネは道中に咲いている花を摘みながら、村内にある丘の上まで一行を案内。
丘は見晴らし台のようになっていた。中央には、花に囲まれた石碑が置いてある。
シスネは花をその石碑の前に供えて手を合わせ、皆もそれに倣う。
「これ、なに?」
「慰霊碑よ。事故で亡くなった人達の」
「3年前、ゴンガガの魔晄炉が爆発したんですわ。原因は、施設の老朽化です」
「点検と整備をちゃんとしていれば、事故は防げた筈だけどね」
「神羅の怠慢か〜」
「でも、この慰霊碑は神羅が建てたの」
「珍しいこともあるもんだ」
「ここの復興担当者が気張りはったんでしょうね」
「んなことで、罪が赦されるわけじゃねぇけどな」
得意気だったケット・シーは、バレットの言葉に項垂れた。
手厳しい意見だが、コレル魔晄炉の件を鑑みれば、バレットは納得いかないだろう。
「長旅で疲れたでしょ。魔晄炉見学の前に、一休みしていったら?」
「ええんですか?」
シスネの厚意で彼女の家の客間を貸して貰えることになり、ユフィは「んじゃんじゃ、エンリョなく〜!」と真っ先に駆けて行った。
あれだけの元気があれば休息は必要ない気もするが、エアリスも寄りたい場所があるとのことで、数時間ほど自由行動を取ることに。
シユウは特に村に用は無いので、その場に留まっているシスネに話し掛けた。