04.Promise

「お久しぶりです」

「久しぶり。まさかこんな所で会うなんてね」

八番街のバーで働いていた時、たまにレノ達と一緒に客として来ていた女性。
襲撃事件の際に、彼女が使っていた武器がウータイのもの――ユフィと同じ大型手裏剣――だった事から、同郷の者である事は互いに知っている。

「その様子だと、タークスからは上手く逃げられてるみたいね」

「今のところは。俺みたいな小物の相手をしてる暇は無いみたいです。シスネさんは? タークスは辞めたんですか?」

「少し違うけど、状況としては似たようなものよ。あれから色々あって……タークスのシスネ≠ヘ死んだことになってるの。だから、過去の話は人前ではしないでね。私と貴方だけの秘密。いい?」

「分かりました。ちなみに、俺も今はバーテンダーのシノ≠カゃありませんので」

本職シノビに戻ったってこと?」

「はい。本当はシユウって名前なので、今後はそっちで呼んでください」

「分かったわ。――そうだ。貴方、料理上手だったわよね? 手伝って欲しいことがあるの」

そう言って、シスネはシユウを自宅に招いた。
家の中に入るなり、ソファーの上に寝そべっているユフィと目が合う。

「お嬢、自分家じゃ無いんですから」

「だって、寛いでいいって言ってくれてたじゃん。ねぇ?」

シスネは咎めることなく笑顔で頷いて、隣のキッチンへ。
シユウもその後に続くと、焼け焦げた臭いが漂ってくる。

臭いの出処は、火にかけられている鍋だった。
火事でしか見たことがないような黒い煙が立ち上っているのを見て、シユウは無言で火を止め、蓋を被せる。

「ええと……手伝って欲しいっていうのはコレの事ですか?」

「そうなの。ゴンガダケのスープを作りたいんだけど、上手くいかなくて……煮込んだ方が良い出汁が取れると思ったんだけど」

「限度があります」

換気の為に付近の窓を全開にしてから、シユウは再度蓋を開けて中を確認。
ドロドロに溶けた何かが、赤黒い海の中に点々と浮かんでいる。

「……これ、味見はしましたか?」

「ええ、勿論。今も悪くはないんだけど、イメージしてるものとは少し違うの。何かが足りないんだと思うけど……貴方も食べてみてくれない?」

これを食べるのか。
まあ、味見をしたというのなら、見た目や臭いほど味は悪くないのかもしれない。

そんな僅かな希望を抱いて、シユウはスプーンで一口分を掬って口に運んだが、舌に乗せた瞬間に後悔した。
およそスープとは言えないソレを無理矢理飲み下して、取り繕った笑顔で言う。

「シスネさん、この料理は……なんと言うか、絵の具で言うと黒の状態なので、ここから別の味に変えるのは難しいと思いますよ」

「そんな……じゃあどうすれば……」

「納得がいかないのなら、1から作り直しましょう。俺も手伝いますから」

「……わかったわ。やるからには妥協したくないもの」

「出汁を取るのなら、生のゴンガダケを煮詰めるより、干したものを使った方がいいかもしれません。まあ、せっかくですから生も使いたいですけど……」

ゴンガダケはミッドガルでは高級品だ。
流通しているのは殆ど干した状態のもので、生のものを食べられる機会は滅多にない。

「塩振って焼くだけでも絶対美味しいと思うんですよね……ソテーにしてもいいな……」

「スープの他にも作りたいものがあれば、作ってくれていいわよ」

「え、いいんですか?」

「材料は余分に買ってあるの。スープにしても、必要なのは3人前だけだから、余った分は皆で食べて貰えると助かるわ」

「3人?」

「私と、フェアさんご夫婦の分。いつもご馳走になってるから、たまにはお返ししなくちゃと思って」

誰だろう。近所の人だろうか。
お礼の品だからこんなに気合いが入っているのかと、シユウは納得する。

「材料は好きに使って。ああでも、さっきので使い切ったものもあるから、足りない分は調達しないと」

「何をやってるんだ?」

タイミング良くやって来たクラウドに、シユウは必要な材料を書いたメモを渡した。

「なんでも屋さん、お使い頼まれてくれませんか?」

「急だな。報酬次第だ」

「美味しいゴンガダケのランチが食べられます」

「……それだけか?」

「美味しいゴンガダケのランチがタダで$Hべられます」

シユウは言い直して、「店で食べたら2000ギルはしますよ」と付け足す。
まあ、確かに腹は減っているし、今は他にやることもないかと、クラウドは渋々了承。

「ゴンガダケは俺が自分で買ってきますから、クラウド君は野菜や調味料をお願いしますね」

「野菜なら、トーガンさんが育ててるものがオススメよ。ちょうど村に売りに来ている頃だから、探してみて」

シスネのアドバイスを受けて、クラウドは買い出しメモを手に出て行った。
シユウもゴンガダケ――生のものと、干してあるもの――を探して、村を散策する。

自給自足の生活をしているのか、軒先にゴンガダケを吊るしている家や、小さな畑を持っている家が多かった。
同じように家々を観察しているティファを見つけて声をかける。

「ティファさん。お一人ですか?」

「シユウさんこそ。凄いですよね、ゴンガダケがこんなに……」

「ここに住めば、新鮮なゴンガダケが食べ放題ですね」

「羨ましい。ゴンガダケに限らず、スラムじゃ新鮮な食材はなかなか手に入らなかったですもんね。これだけあれば、色々作れるだろうなぁ」

「実は今、シスネさんとゴンガダケのスープを作ってるんですが、良ければティファさんも一緒にどうですか?」

ティファは快諾し、二人で店を回って目当てのものを買い、シスネの家に戻る。
同じタイミングで、エアリスが野菜を届けに来た。

「どうしてエアリスさんが?」

「偶然会って、頼まれたの。トーガンさんがね、スープ作るなら、良いお塩と、マゴンガダケも使った方がいいって。クラウド、それ、採りに行ってる。バレットとレッドも一緒に」

「成程。有難うございます。マゴンガダケっていうのは?」

「同じゴンガダケの一種ね。マゴンガダケの方がより原種に近くて、味と香りが良いの。形も、普通のゴンガダケは傘の部分が平たいけど、マゴンガダケは丸みがあるわ」

「へぇ……それなら肉詰めとかも出来そうですね」

「美味しそう! 食べたい!」

ならばそれで行こうと、作る品はスープとマゴンガダケの肉詰めに決まった。

まず干しゴンガダケをすりおろして粉末状にし、おろし切れずに残った部分を一口大に切った野菜類と一緒に鍋に入れ、煮込む。
具材が柔らかくなってきたところで、粉末状にしたものも2/3ほど入れて、しっかりと火が通ったら調味料を加えて味見。

「うん、美味しい!」

「本当は水で戻した方がいいんですけどね。今回は時間が無いのでこれで」

「これでも十分美味しいわ。同じ材料でこんなに違うなんて……」

「スープは、これで完成?」

「いえ。あとはトーガンさんのアドバイスに従って、塩とマゴンガダケも入れましょう」

クラウド達が戻ってくるのを待つ間に、肉だねの準備を始める。
挽き肉はシスネの家にあったものを有難く頂戴し、そこに刻んだ玉ねぎと、残していた干しゴンガダケの粉末を加えて混ぜる。

「この玉ねぎが難敵なのよね……目を閉じてると上手く切れないし、気付いたらどこかへ消えてるし……」

「わかる〜……」

そんな会話をしながら、危なっかしい手つきで包丁を操るエアリスとシスネを、ティファとシユウがフォローする。
そうこうしている内にクラウド達が帰ってきて、渡された岩塩とマゴンガダケも調理台に並べる。

「岩塩ちょっと大きすぎますね。ミルで挽くにしても、もう少し細かくないと……」

「なら、オレが撃って砕いてやろうか?」

「そんな器用なこと出来ます? それならクラウド君に斬って貰った方が早いんじゃ……まあ方法は任せますけど」

バレット達が岩塩を囲んであーだこーだと騒いでいる間に、シユウ達はマゴンガダケの調理を始める。

まず傘と軸を切り離して、軸は半量を薄切りにして鍋に。残った分はみじん切りにして、これも肉だねに混ぜる。
どうやったのかは知らないが、クラウド達が粉末状にしてくれた岩塩も加え、出来たものを片栗粉をまぶした傘に詰め、フライパンの上に並べて焼く。焼き目がついたら、調味料を合わせて作った照り焼き風のソースと絡める。

スープの方も岩塩で味を整えて、それぞれを器に盛りつける。仕上げに葉物野菜を添えて完成。
出来上がった料理をテーブルに運ぶと、匂いに釣られたユフィも寄ってくる。

「なにこれ、おいしそ〜! 食べていいの?」

「皆さんに感謝して食べて下さいね」

「みんな、ありがと〜! いやぁ、お腹ペコペコだったんだよねぇ」

全員席についたところで、揃って料理を口に運ぶ。
まず最初にバレットが、

「うめぇ!」

次にユフィとレッドが、

「ん〜! おいひー!」

「悪くない」

続いてクラウド、ティファ、エアリスが、

「美味いな」

「うん。やっぱり生だと、干したものよりもジューシーな感じ」

「苦労した甲斐があったね〜」

最後にシユウとシスネが、

「マゴンガダケ、確かに普通のと全然違いますね」

「良かった。これならフェアさんも喜んでくれそう」

そんな感想を零した。

シユウは自分のものを食べつつ、向かいの席でガツガツと食べているバレットを見る。
傷心で食欲不振になっているかもしれないと思っていたが、大丈夫そうだ。

「何ジロジロ見てんだよ」

「いえ。美味しそうに食べてくれてるなぁって」

いつもの事だが、今日は特に嬉しい。
シユウがニコニコと機嫌良くしている理由はバレットには伝わらず、

「……なんか変なモン入れてねぇだろうな?」

そんな疑心を抱かせただけだった。
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